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話題 畜産の情報 2019年7月号

酪農教育ファーム活動20年のあゆみ 〜これまでの取り組みと今後の可能性について〜

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一般社団法人中央酪農会議 業務部 阿南 恵美香

1  酪農教育ファーム活動の始まり

  酪農教育ファーム活動とは、「酪農を通して食や仕事、いのちの学びを支援する」ことを目的に、「認証」を受けた酪農家などが、牧場や学校などで主に学校や教育現場と連携して行う、酪農に係る作業体験などを通じた教育活動である。
 元々、個々の酪農家においては、近隣の子どもたちの受け入れなどが行われていたが、平成2年ごろから国際化、国産牛乳乳製品の需要減少などの状況の中で、酪農家の中に酪農経営を続けていくことへの危機感と共に、「地域社会の中で酪農家の顔が見える消費者コミュニケーションの確立を目指そう」という思いが生まれてきた。一方、社会環境の変化と共に、子どもの社会性の不足や倫理観の低下が問題となる中、教育関係者の中に「酪農(牧場)が持つ教育力や癒しの力を教育現場に活用して、命や食について学ばせたい」という思いが生まれてきた。
 酪農家・教育関係者双方の思いが合致し、10年7月、本会議が中心となって「酪農教育ファーム推進委員会」(以下「推進委員会」という)を設立した。その後、活動の目的や認証の条件、規則などを定めた「酪農教育ファーム認証制度」を創設し、「教育を行うのに適切な牧場」として第一期の酪農教育ファーム認証牧場116牧場が誕生した。

2 年間40万人以上が体験する酪農教育ファーム活動

  認証を受けて活動を行う「場」を「酪農教育ファーム認証牧場(以下「認証牧場」という)」、認証を受けて活動を行う「人」を「酪農教育
ファームファシリテーター(以下「ファシリテーター」という)」と呼ぶ。平成31年3月末現在、全国で289の認証牧場と583人のファシリテーターが活動を行っている。
 活動の内容は①乳牛などの生き物と触れ合う②乳牛の世話や搾乳を体験する③牛乳や乳製品の原料である「生乳」の生産過程を知る④酪農家の生き方を学ぶなど多岐にわたる。諸感覚を通じて食、仕事、いのちを感じ取り、思考力、判断力、表現力の育成につながる授業に貢献する活動として評価されており、体験後の子どもへのアンケートから、牛乳の好感度が上昇し飲用量が増える、攻撃性が低下し思いやりが向上するなどの教育効果があることも分かっている。平成29年度の実績では3000カ所以上の学校で15万人、学校以外も含めると40万人以上が体験を行った。

3 酪農教育ファーム活動の多様化と拡大

 平成30年7月、推進委員会を設立し組織的な酪農教育ファーム活動が始まって20年目を迎えた。この間、活動は、酪農や教育をめぐる情勢などを踏まえながらその形を変化させてきた。はじめは牧場における子どもの体験受け入れが中心であったが、今では学校に乳牛を連れて行く「モーモースクール」や、酪農家のみが学校に行く出前授業、イベント会場における消費者対象の活動なども行われている。また、牧場や酪農家だけでなく学校や教員、大学生、酪農関係団体の職員などにも認証取得の動きが広がっている。その中でも年々増加しているのが農業高校で、現在全国で13の高校が牧場認証を取得し、ファシリテーター認証を受けた教員の指導の下、生徒たちも「先生」となって近隣の小中学校などの受け入れや出前授業、消費者交流イベントへ参加している。

4 農業高校での取り組み

 ここで、認証を取得し活動を行う大阪府立農芸高等学校(以下「大阪農芸」という)の事例を紹介する。
 大阪農芸は府内の高校で唯一乳牛を飼養しており、平成31年4月に創立102年目を迎えた伝統ある農業高校である。30年度には文部科学省より「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」に指定され、授業を活用した酪農教育ファーム活動が展開されている。
 大阪農芸の酪農教育ファーム活動は、活動に取り組みたいという生徒たちの熱意から始まった。27年、当時の3年生が過去の酪農教育ファーム活動に関する卒業論文に興味を持ったのをきっかけに活動に取り組み始め、2年間独自に進めたのち、本格的な活動を目指すため地域の食育推進や府内酪農家へ活動を広げることを目的に据え、29年度に牧場認証を取得した。
 牧場の認証を取得するためには、地域の推進委員会による現地審査、認証審査委員会による書類審査をクリアし(主に安全・衛生面で体験に適した場かどうかを審査)、かつ1名以上が書類審査をクリア(主に活動への熱意を審査)した後認証研修会を受講してファシリテーターの認証を取得しなければならない。大阪農芸では資源動物科・酪農専攻の田中怜先生がファシリテーターとなったが、活動の主役はあくまで生徒であり、田中先生はファシリテーターとして活動の指導、アドバイスを実施し、活動のサポートを行っている。
 同校では、酪農教育ファーム活動が実習の一つとして授業に組み込まれており、生徒たちが近隣の小学生に食育を実践している。授業を通じて生徒自身が食育について学ぶ機会にもなっており、学ばせながら学ぶという相乗効果が生まれているそうだ。
 酪農教育ファーム活動に携わった生徒にアンケート調査を実施したところ、初めて活動を行ったときは、伝える難しさや反省が多い傾向にあったが、2回目以降は、成長を実感する生徒が増えた。その理由として、児童への説明や、運営、実施を通して反省点を改善し、2回目の実施に生かしたことなどが挙げられ、さらに、「もっといろいろな話をしてあげたかった」と、3回目の実施に向けた意見もみられ、活動に対する意欲の高さがうかがえた。

 

 

 酪農教育ファーム活動を通じて生徒は学びを積み重ねて成長し、酪農・畜産分野の大学や農業大学校への進学など希望の進路を実現している。大学、農業大学校などを卒業し、直接的または間接的にでもわが国の酪農業に貢献できる人材となることを期待していると田中先生は語った。

5 活動の今後の方向性

  牛乳・乳製品(生乳換算)はコメよりも需要量が多い基礎的な食料であり、その原料である生乳を作るのが酪農の仕事である。今、わが国の酪農は生乳生産基盤の縮小に歯止めがかからない状況にあるが、こうした酪農を取り巻く情勢について、消費者・国民の理解と支援なくして酪農産業の未来はないだろう。酪農教育ファーム活動は、生産者が消費者に直接思いを伝える絶好の機会であり、今後一層その重要度は増していくと考えられる。酪農家戸数が減少する中、活動を行う酪農家を大きく増やすのは難しいかもしれないが、それでも活動に携わる関係者が連携しながら、地道に活動の実践者を増やしていくことが重要である。
 この活動が、わが国の酪農産業そのものを未来につなげる役割の一端を担っていることに間違いはない。今後の酪農教育ファーム  活動においては、実践者・対象者の属性や活動の場を限定せず、多様性を確保しながら広げていくことが必要不可欠であろう。

(プロフィール)
平成16年9月  社団法人中央酪農会議入会、総務経理課
   23年4月  管理課
   25年4月より現職
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-4398  Fax:03-3584-1246