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話題 畜産の情報 2019年8月号

岡山県における和牛繁殖の担い手育成の取り組み〜和牛入門講座〜

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一般社団法人岡山県畜産協会 経営支援部経営対策班 副調査役 井上 睦恵

1 「和牛入門講座」の概要

 「和牛入門講座」(以下「入門講座」という)は、年々、担い手の高齢化や後継者不足が深刻化する中、和牛繁殖経営に興味を持ってもらうための取り組みとして、平成19年度から岡山県の単独事業として始まりました。
 受講対象者は、和牛の飼育に興味があり、将来岡山県で和牛繁殖経営を希望していることが条件で、無料で受講することができます。ただし、県外から受講される方は、岡山県へ移住後に受講していただいています。
 和牛の繁殖経営は、畜産経営の中でも比較的未経験者が取り組みやすいと考えられています。その理由としては、①経営開始時に設備投資にかかる費用が他畜種と比較して低いこと②肥育経営と比較して所得率が高いこと③他業種や他部門の農業との併用が行いやすいことなどが挙げられます。
 入門講座は、通常8月に開講式を行い、翌年1月の子牛市の日に修了となります。実際のカリキュラムは、座学と牧場体験実習から成っていて、座学は2回、牧場体験実習は2回以上と年間合計4回以上受講する必要があります(写真1)。
具体的には、8月に表1の通り和牛繁殖の基礎知識として三つの講座を受講します。また、会場となっている農林水産総合センター畜産研究所に整備されている監視カメラや牛恩恵、哺乳ロボットなどの最新技術や種雄牛の見学も行います(写真2)。







 続いて、9月から12月までの間に、県内の先進農家にご協力いただき、牧場体験実習を行います(写真3、4)。





 受講生は最低2戸以上のさまざまなタイプの経営体で、餌やりや牛舎掃除、電気柵の設置や発情の見分け方などを実習します。
 最後に、岡山県における子牛の流通を知るため、総合家畜市場を視察し、併せて閉講式となります。閉講式では、受講生の感想や今後の目標などを発表後、修了証の授与となります。その際に、受講生に関係するJAや県民局などの指導者にも参加してもらい、就農相談会も行います。
 受講生の募集については、関係機関への開催案内パンフレットの配布、新・農業人フェアでのPR、JAや市町村の広報誌や当畜産協会のホームページへの掲載などを行い、参加を呼びかけています。
 30年度までの受講者数は延べ108人で、受講生の職種は表2の通りで、年齢層も16歳から81歳までと幅広くなっています。 受講した動機は、①畜産の世界への憧れ②労力負担の軽減を求めて酪農家からの転業③もと牛の安定的確保を目指した一貫経営への転換④耕作放棄地の解消などが挙げられます。

2 成果と課題

 現在までに新たに繁殖経営に就農したのは24人で、他産業からの就農、牧場勤務からの独立、定年退職後に地元の仲間と放牧経営を始めるなどさまざまです。一から畜産を始めるには、初期投資が掛かることがハードルの一つとして挙げられますが、入門講座の受講生は、手作りで牛舎を建てたり、ALICの補助事業(肉用牛経営安定対策補完事業)を利用し、経営を開始しています。その結果、県内における雌牛の増頭数は503頭となっています。
 入門講座の中では、特に牧場体験実習が好評で、実際の農家の声は、勉強になるとともに就農へのモチベーションアップにもつながっています。また、入門講座を通じ、先輩農家や関係機関との人脈づくりを行うことができます。 一方で、せっかく繁殖経営に参入しても、経営不振により廃業したり、近隣とのトラブルなどで経営が停滞するなど、課題も残されており、就農後のきめ細やかなフォローが必要になります。
 

3 スキルアップ研修(和牛未来塾)の実施

 そこで、平成27年度から公益財団法人全国競馬・畜産振興会(以下「振興会」という)の助成事業「地域における担い手育成事業(和牛を育てよう!チャレンジ支援事業)」により、「和牛未来塾」を開講しています(写真5)。



 これは、入門講座の受講生を対象に、スキルアップのための研修を行うものです。それとともに、新規就農者のための「仲間づくり」も目的としています。
 内容は、主に宮城県の若手繁殖農家や大分県の繁殖農家(JA職員から繁殖農家経営への移行)による優良な取組事例の紹介や、飼養技術の研修などです。特に飼養技術については、受講生からの要望を基にテーマを決め、岡山県農業共済組合連合会生産獣医医療支援センター所長、岡山県畜産研究所飼養技術研究室および繁殖農家の協力を得て、分娩や母牛管理について研修を行いました。研修の効果としては、関係機関や受講生同士のつながりができたことや、飼養管理についての意見交換を行うことにより実際の管理に生かされていることなどが挙げられます。
 30年度からは、引き続き振興会の「和牛担い手高度化支援強化事業」(注)により、これらの研修と併せて、隣の広島県と連携し、視察研修や若手交流会(写真6)などを実施したほか、 当畜産協会の特性を生かし、経営診断や経営計画の作成支援を実施しています。
注 : 平成30年度から令和2年度までの3ヵ年事業


 

4 おわりに

 研修事業が始まってから今年で12年目を迎え、新規就農者も着実に畜産農家として歩み続けています。その一方、さまざまな課題により経営を離脱した受講生がいることも事実です。
 今後は、意欲ある受講生のさらなるフォローアップの充実を図り、生産基盤の強化につなげていきたいと思います。
 最後になりましたが、当事業を実施するに当たり、受講生の受け入れにご協力いただきました農家の皆さまをはじめ、関係機関の方々に厚く御礼申し上げますとともに、引き続きご支援の程よろしくお願いいたします。

(プロフィール)
平成4年 社団法人岡山県畜産協会(現一般社団法人岡山県畜産協会経営支援部)入会
現在に至る