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海外の需給動向【牛乳・乳製品/EU】 畜産の情報 2019年9月号

2019年、2020年のEUの生乳出荷量はわずかに増加見込み

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生乳出荷量の見通しは上方修正
 欧州委員会は2019年7月3日、農畜産物の短期的需給見通しを公表した。このうち酪農・乳製品の需給見通しの中で2019年の生乳出荷量の見込みが、4月の公表から上方修正された。
 この春、EUの主要な生乳生産地域は降雨に恵まれ、牧草の生育状況が順調であったこと、飼料価格が比較的安価であったため、酪農家でより多くの配合飼料を使用することが可能となり、冬季の飼料不足を補うことができ たことの二つの要因により、2019年第1四半期は予想を上回る水準となった。7月に公表された見通しでは、世界的に乳製品の需要が安定していること、良好な気象条件、好調な生乳取引価格などに支えられ、EUの生乳出荷量は、2019年は前年比0.9%増、2020年も同程度の増加となると予想されている(図12)。また、国ごとに見ると、アイルランド、ポーランド、デンマーク、英国では増 加、フランスやドイツは前年並みの生産が見込まれている。
 

 しかしながら、この夏、欧州は熱波に見舞われており、その影響はどの程度になるか不明であるが、今後の気象状況によっては、生乳生産に影響が出る可能性も考えられる。欧州委員会は、熱波の襲来を受け、7月25日に、昨年に続き、干ばつ被害に対する支援措置を発表している。具体的には、CAP(Common Agricultural Policy:共通農業政策)の下での既存の支援に加えて、二つの具体的な支援措置を決定した。一つ目は、農業経営のキ ャッシュフロー改善のため、生産者に対する 直接支払い(Direct Payments)の最大 70%、農村振興政策による補助金(Rural development payments)の最大85%が、 12月から10月中旬に前倒しされて支払われ るというものである。二つ目は、緑化支払い(注) の要件である「作物の多様化」「生態系保全用地の維持」を免除することにより、休耕地などでの家畜飼料生産を可能にするというものである。

注 : 直接支払い(Direct Payments)の受給権を付与された生産者は、基礎支払い(Basic Payment)に加えて、義務と して「作物の多様化」、「永年草地の維持」、「生態系保全用地の維持」を実施することで緑化支払い(Greening : Green direct payment)を受けることができる。なお、今回の支援措置の対象となる生産者も、「永年草地の維持」は遵守する義務がある。

FFMPの生産量は増加傾向で推移
 EUの生乳出荷量の増加に伴い、主要な乳製品の生産量も増加している。増加している乳製品の一つに、植物性油脂添加粉乳(FMP:Fat Filled Milk Powder)(注)がある。 FFMPは、乳タンパク質(脱脂粉乳)に植物性油脂(パーム油など)を加えた粉乳である。  
 欧州委員会によると、FFMPの最大の生産地域はEU(世界のシェアは最大で65%程度)、次いで、東南アジア(同30%程度)となっている(図13)。
 

 FMPは、HSコードで19019099に分類 されるが、当該コードにはFFMP以外の製品も含まれることから、EUの正確なFFMPの 輸出量を貿易統計から示すことはできない。
 一方、欧州委員会の資料では、EUのFFMPの主な輸出先はアフリカ地域であり、世界最大の輸入地域であるサブサハラ・アフ リカ(サハラ砂漠より南に位置するアフリカ の地域)では、人口増加や経済発展に伴い、 輸入量が今後、年間6.6%までの割合で増加 すると予想されることから、EUの輸出量も 増加していくことが期待されている(図 14)。

注 : FFMPは、アフリカでは主に家庭で消費されるが、アジアで は、製パン、アイスクリーム、ヨーグルトなど食品への利用 が多い。
 
 
(調査情報部 前田 絵梨)