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話題 畜産の情報 2019年11月号

目標達成に挑む国産畜産物の輸出促進活動の現状

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日本畜産物輸出促進協議会 事務局長 強谷すねや雅彦

はじめに

 政府は「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」の下でその輸出額を2019年に1兆円規模に拡大するという目標を掲げ、本年はその最終年を迎えている。このうち、畜産物関係では牛肉の目標額250億円をはじめとして、豚肉12億円、鶏肉35億円、鶏卵26億円、牛乳・乳製品140億円と設定された。
 日本畜産物輸出促進協議会(公益社団法人中央畜産会が事務局、以下「協議会」という)では、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵および牛乳乳製品の五つの部会がそれぞれ統一マークを掲げ(図1)、目標達成に向けて輸出促進活動を展開しているところであり、本稿ではその取り組みについて紹介したい。
 

1 牛肉

(1)活動のコンセプト

 霜降りの芸術的な美しさ、独特な和牛香、柔らかい食感等の日本産和牛の魅力、試食を通して、これらをそれぞれ独自の食文化を持つ外国人の感性に訴えていくことが第一歩である。
 百年以上の歴史を誇る和牛の血統登録制度、法律に基づくトレーサビリティ制度、唯一の機関による食肉格付制度といった日本産和牛の信頼を支える取り組みが外国産WAGYUとの差別化の決定打であり、これらの情報提供をより強化していく必要がある。
 さらに和牛の魅力を最大限引き出し、堪能するためのカッティング技術や日本食文化に裏打ちされた繊細なメニューの紹介等もプロモーション活動には欠かせない。

(2)実践

 これを実践する場として、協議会は海外の名立たる国際食品見本市においてPRブースを設置し、米国や豪州等の一大牛肉産地と肩を並べ出展しているが、われわれのブースは試食を開始するや人だかりとなる。また、新たに輸出解禁された市場では、輸出業者の動向も見つつ、独自開催あるいは独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)と連携したお披露目を行っている。こうした場では農林水産大臣や政務官によるトップセールスで場を盛り上げていただくこともある(表)。
 

 
 また、カッティング技術の研修や生産から加工・販売までの現場視察、関係者との意見交換等を目的とした、協議会会員による牛肉取扱事業者の招へい・専門家の派遣への支援も実施している。

(3)成果

 協議会会員の精力的なビジネス展開と協議会活動の成果として、日本産牛肉の輸出実績は順調に拡大し、2018年は247億円と目標達成目前となっている(図2)。国・地域別輸出実績をみると、香港、台湾、シンガポール、タイといったアジア市場向けが大半を占めてはいるものの、EU、米国といった欧米市場向けも着実に実績を伸ばしている(図3)。また、1キログラム当たりの単価(FOB)ではハラール市場が上位3位を占めている。
 

 
 

(4)課題

 着実に輸出実績を積み上げてきた一方、さまざまな課題も浮上している。台湾・香港・シン ガポールなどのアジア市場ではそもそも日本の食品への信頼と理解は深いものの、日本産和牛の人気にあやかろうと和牛統一マークの不正使用や類似マークがみられている(図4)。
 

 
 また、欧米、ロシア、中東などの高級牛肉市場では、外国産WAGYUがすでにその市場を開拓していたため、神戸ビーフは知られているが、日本産和牛の認知度はまだ低い。食品展示やセミナーでわれわれが展示している牛肉でさえ本物かと問われることもある。欧州ではテロ ワール(注)の意識が高く、ミシュラン星付きのシェフからはトレーサビリティと品質について正確かつ詳細な情報を求める声が多く聞かれる。
注:食品の持つ生産地特有の性格・特徴
 

(5)情報提供の新たな取り組み

 以上の課題に対処するべく、今年の6月から 牛の個体識別番号を確認できるQRコードと和牛統一マークを一体化したシールを作成し、スマートフォンでQRコードをスキャンすること により、その場で個体識別、登録、格付等の品質情報を提供するシステムの運用をモデル事業 として開始した(図5)。このシステムには日本側供給業者から提供された独自情報も見ることができる機能も付加されている。オールジャ パンの統一マークの下で、各社の独自性もアピールできる、より進化したマーケティングツールを目指すものである。
 


 モデル事業段階では、店頭での表示例を紹介しつつ(図6)、仕向け国・地域に応じた多言語化(現在は英語のみ)やユーザーの情報提供をより自由な形でできる方法を工夫するなど、ユーザーの意見も取り入れ、必要な改修を施し、来年度の本格運用に備えていくこととしている。
 

 国別輸出戦略で今最も注目されているのは中国の牛肉輸入解禁の動きである。約13億人の人口を抱え世界第二の経済大国に上り詰めた今、この市場ポテンシャルは計り知れない。これまで政府は粘り強く中国政府と協議を続けてきているが、日本側のみならず中国の業界関係者の間でもその期待度が高まりつつある。さまざまな状況を想定し心しておく必要があろう。

2 豚肉

(1)活動状況

 現在、国内での豚コレラ発生による輸出停止等により、輸出先国・地域は極めて限定されているが、昨年度は需要開拓に向けた課題検討のためのワーキングチームを設置するなど、市場調査の実施とともに、技術的な検討も進めてき た。日EU経済連携協定(EPA)の発効により豚肉の輸出解禁が見込まれる中でドイツとベルギーにおいて市場調査を実施した。

(2)成果

 海外プロモーション活動としては、現在香港での活動に限られているが(表)、国際見本市や独自出展、レストランフェアなどにより日本産豚肉の魅力を発信している。これまでの取り組みにより、一部の国・地域の輸出停止に見舞われながらも、輸出実績は2018年で約8億円となっている(図2)。このほか、図2の豚肉の輸出実績のカテゴリーには含まれていないが、豚関連の輸出として原皮、くず肉の実績もみられる(2018年で約68億円)。

(3)課題

 これまでの輸出プロモーションや課題検討の成果を、家畜衛生問題が改善し輸出が再開された場合にそれぞれの地域・国において活用できるよう継続的な取り組みを必要としている。

3 鶏肉

(1)活動状況

 鳥インフルエンザの影響などもあり、活動の中心はやはり香港中心となるが、可能な限り多種多様なツールを使ってプロモーション活動を展開している。

(2)成果

 レストランフェア、特別メニューでのPRイベント、契約した有力ブロガーからの情報発信、ラッピングバスの走行など香港での取り組みは多彩である(表)。市場調査結果を踏まえカンボジアでの試食・セミナーも実施した。輸出実績は2018年で約20億円となっている(図2)。

(3)課題

 今後の解禁をにらんでフィリピンでの市場調査を実施した結果、日本産鶏肉の期待感が大きいことが判明し、流通面での整備が望まれる。

4 鶏卵

(1)活動状況

 日本産鶏卵はその衛生水準の高さから、世界でもまれな生食が可能な流通を実現しており、これをアピールすることにより差別化を目指している。さすがにいきなり生食が難しい場合は半熟卵、温泉卵、煮卵あるいはふわとろオムレツの試食を提供している。

(2)成果

 香港を中心に現地スーパーマーケット、日本食店舗、外食大手店舗などでの日本の卵フェアを実施した(表)。さらに米国の輸出解禁を受 けてハワイ州での市場調査を実施するとともに、グアムに向け保冷ボックスによる空輸を開始した。シンガポールへは船便への切り替え試験輸送を実施し、商業ベースでの船便輸送が定着した。また、2018年10月に台湾向け輸出が再開した。その結果、輸出実績は2018年で約15億円となっている(図2)。

(3)課題

 台湾では日本風に半熟で卵を食べたいという ニーズがあり、安定的な需要を開拓するためにも、日本に鳥インフルエンザ(AI)が発生した際でも継続して輸出が可能になるよう地域主義の導入が是非とも望まれる。
 今般の日EU・EPAの発効に伴い、殺菌は不可とされる中で、日本産鶏卵を用いた加工品での市場開拓を検討しており、この一環として今年10月にドイツで開催された世界最大級の国際見本市「ANUGA 2019」にカステラを出品した。

5 牛乳・乳製品

(1)活動状況

 特に日本産牛乳・乳製品の人気が高い台湾・香港において、市場調査を実施し、多様な乳製品の輸出可能性を検討してきた。

(2)成果

 台湾および香港での食品見本市には継続的に出展し、認知度の向上に努めてきた(表)。輸出実績としては、ベトナム、台湾、香港などのアジア市場で大半を占めており、2018年で約153億円とすでに目標(140億円)を達成している(図2)。

(3)課題

 今般の日EU・EPAの発効により新たな市場開拓の取り組みも検討しており、この一環として「ANUGA 2019」にデザートチーズを出品した。

おわりに

 協議会としての輸出目標の総計は463億円であるが、2018年時点の輸出実績では443億円となっており、越えられないハードルではないとみられる。日本産畜産物は安全と信頼のイメージの上に、高級ブランドを確立しており、これをいかに持続的に力強いものへと育てていけるかが常に問われている。
 そのためには国境の防疫措置に万全を期し、海外悪性伝染病の侵入を阻止することや生産現場でも飼養衛生管理基準の徹底に加え、食肉処理施設でのHACCPの推進、さらに一段上の安全性を目指し、農場HACCP認証などの取り組みにより、安全で高品質な畜産物を生産することが最重要課題である。
 さらに、業界を挙げて作り上げたジャパンブランドを毀損きそんしようとする不正や偽装行為からどのように守っていくかも、市場開拓が進めば進むほどに重要な課題となってくるであろう。考えられる策は一つ一つ取り組んで参りたい。
 

(プロフィール)

昭和56年 農林水産省入省
平成25年 独立行政法人農畜産業振興機構 総括理事
平成27年 中国四国農政局 次長
平成29年 公益社団法人中央畜産会  専務理事
       日本畜産物輸出促進協議会 事務局長
現在に至る。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-4398  Fax:03-3584-1246