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調査・報告(専門調査) 畜産の情報 2019年11月号

新しい酪農経営のかたち〜ジャージー牛のミルクと肉を丸ごと楽しむ経営 安原氏の挑戦〜

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鹿児島大学 学術研究院・農水産獣医学域 農学系 教授(九州大学客員教授) 後藤 貴文

【要約】

 近代畜産では、生乳生産と肉牛生産は、経営として区別されることが多い。その中で、生乳生産の副産物とされる乳用種(特にホルスタイン種の去勢牛)の牛肉は、安価な牛肉として消費に貢献してきた。昨今、これまでの筆者の報告でもあるように、日本でも赤身肉の嗜好が高まっている。青森県鯵ヶ沢あじがさわ町の安原やすはら栄蔵えいぞう氏は、日本やカナダでの経験を通じて、ジャージー種による酪農業を営み、その中で生まれた雄子牛を独自のシステムで、無理なく省力的に肉用牛として生産している。本稿では、生乳生産と肉牛生産の両方を楽しみながら経営する安原氏の取り組みを紹介する。

1 はじめに

 近年、牛肉の志向は、脂肪交雑の高い霜降り肉から多様な肉質の肉へと変化している。薄切りの肉によるすき焼きやしゃぶしゃぶ、小片の肉を焼きながら食べる焼き肉から、少し大きめの肉を楽しむステーキ、あるいは肉の塊をあぶるローストビーフといった食べ方が人気を得てきた。その中で、乳用種の去勢牛は、高価な和牛肉と異なり、市場では安価で取引されることが多い。
 一方で、赤身肉がブームとなる中で、肉の愛好家の間では、ジャージー種の肉が注目されており、その肉質は比較的良好であるという。これについては、先に本誌でも取り上げた井信行氏(2017年10月号)も、中屋敷氏(2018年10月号)も、それぞれ独自の手法で仕上げられていることからも想像できる。
 ジャージー種は、イギリス領ジャージー島の原産であり、産乳量はホルスタイン種に比べて少ないが、世界に広く分布している。他品種と比べ、体格は小さいものの、乳質が濃厚であり、乳脂率が5%以上を示し、一般的に脂肪球が大きいことからバターをつくりやすい。
 本来、ジャージー種の産肉性は一般的に低く、体脂肪も黄色みがかっているため、市場価値は低くなることが多い。第二次世界大戦前までは、日本では多くのジャージー種が北海道、東北地方を中心に飼養されており、その後1960年代以降には岡山県、宮崎県や熊本県でも導入された。現在、日本には133万頭の乳牛が飼養されており、その内約1%の1万2700頭がジャージー種となっている(2016年)。このジャージー種をどのように扱っていくのかを安原栄蔵氏の経営を見ながら考えていく。
 

2 アビタニアジャージーファームの概要

 青森県における肉用牛の飼養頭数は5万3500頭で、乳用牛は1万1700頭である(平成31年)。産出額は、肉用牛が159億円、乳用牛が78億円となっている(平成29年)。近年、乳用牛の飼養戸数は186戸であり、減少の一途をたどるが、一戸当たりの飼養頭数は徐々に増加している。青森県は冬の寒さに加え、特に津軽地方では多雪となる。今回、取材した安原氏は、このような環境の中で、独自の概念を取り入れた畜産経営を実践している。
 安原氏は、昭和28年1月生まれの66歳である。取材時もゆったりと落ち着いた物腰で、笑顔が素敵な酪農家である。労働力は、安原氏のほかに妻のなえ氏、息子のだい氏に加え、販売担当のパート従業員が2名である。食肉加工ができる乳製品製造施設を設置しており、六次産業化に積極的に取り組むだけでなく、搾乳体験なども受け入れており、地域を代表する酪農家である(写真1)。
 

 現在、地域内に酪農ヘルパーがほとんどいないので、家族3名一緒に家を留守にすることはできない。近隣には、後継者がいる酪農家がもう一軒ある程度となっている。息子の大陸氏は、地域活性化のため、近隣に農家を増やしたいと考えている。
 安原氏が営むアビタニアジャージーファーム(以下「アビタニア牧場」という)は、搾乳牛38頭、育成牛20頭、肥育牛(選定中を含む)15頭を飼養しており、これらは全てジャージー種である(30年3月時点)。生乳生産量は1頭当たり約4500キログラム、肥育牛は年間数頭の出荷となっている。生乳は、生乳として出荷されるもののほか、乳製品製造施設で牛乳やチーズ、バターやヨーグルトなどに加工、販売されている。牧場の管理は安原氏と息子の大陸氏が、乳製品の加工は妻の千苗氏が、また食肉の加工は安原氏が担当する。
 まずは、安原氏が現在の経営に至るまでを紹介したい。
 

(1)国内での経験

 安原氏は、元来ウシ飼いになりたいという願望を持っており、両親の反対を押し切って北海道に行った。19歳の時、テレビで、脱サラして北海道にわたり酪農家になった方の奥さん同士の対談番組を見て、すぐに番組のデイレクターに手紙を書き、酪農家について問い合わせた。そのデイレクターは、番組に出演していた酪農家にも連絡してくれて、酪農家からも歓迎する手紙をもらった。その酪農家のもとに1週間滞在し、酪農の仕事を手伝った。これが安原氏のウシ飼いのはじまりであった。  その後、その酪農家を2回訪問した。さらに、畜産について勉強するため、大学にも入学した。夏は実習に明け暮れ、冬は座学にふけった。そして、当時のメガファームといわれる100頭規模の牛舎、パイプラインのミルカー(8台)を整備した中標津の牧場で3年間実習した。
 その後、安原氏は、さらに修行を積むために、卒業間際で大学を退学して、群馬県の神津牧場へ行った。神津牧場は、1880年代に洋式の牧場を開設し、1900年代初頭からジャージー種を導入して、牛乳の生産やバターやチーズの加工品の生産を行っている日本では最も古い老舗の牧場である。安原氏は、このとき、酪農業における一通りの仕事はできるようになっていたので、“仕事のできる若者がきた”ということで、即戦力として勤務することになる。これが、本格的なジャージー種との出会いであった。安原氏は、神津牧場の加工品を本当においしいと感じた。それが、働くモチベーションにつながった。
 神津牧場は観光地としても人気があったので、安原氏は雄牛を肥育し、焼き肉として販売しようと提案した。そのために、安原氏は仕事の合間を縫って、町の精肉店で枝肉の解体法を習った。安原氏は、神津牧場で13年間働く中で、ジャージー種の肉としての魅力に出会い、牧場経営の基礎を学んだ。
 

(2)カナダでの経験

 安原氏が、神津牧場で勤務していた時にジャージー種の世界的なイベントがあり、カナダ人のジャージー種のブリーダーと出会った。安原氏は、海外のジャージー種を用いた酪農経営に興味を抱き、すぐに手紙を送り、夫人とともにカナダへ行った。
 カナダの牧場では、ウシ飼いの原点、牧場経営の気構えと覚悟を教えられた。日々の仕事は、従業員2名で150頭の搾乳と給餌、牧草地150ヘクタールの収穫であった。すでにカナダでは作業の機械化が進んでいたが、それでも仕事量は膨大であった。それまでは、酪農の労働の厳しさは十分に体に教え込まれていたと思っていたが、カナダへ渡った後の最初の1カ月間で体重は12キログラムも痩せた。
 その中で、カナダの酪農業は、職業としてのけじめをつけて、メリハリをもって営まれていた。日中に集中して合理的に働き、18時ごろには仕事を終了し、家族で食事を楽しみ、時にはダンスにも行く。さらに、2週間に3日は休暇があり、日曜日は必ず休みがとれた。その代わり、時には、トラクターに乗ったまま昼食を食べるほど、日中は時間を惜しんで集中して働いた。安原氏は、日本とカナダの酪農労働における集中力の違いを感じた。牧草の収穫においても、無駄な動きがなく、“この仕事が今日中に済ませられるのか”と思うような仕事も、合理性と集中力でこなしていた。カナダでは、やるべき仕事を長時間の作業でこなすのではなく、いかに短縮するのかという時間の大切さを学んだ。
 日本で経験してきた労働スタイルとは全く異なるカナダの経営に携われたことが、安原氏の牧場経営のあるべき姿の基礎を形成した。
 日本では、現在、働き方改革ということで、労働時間の変革を進めている。安原氏がカナダで学んだように、すべての職業でこのような合理性と哲学を現場で感じる必要があるだろう。

3 アビタニア牧場の設立と生乳生産

 カナダの牧場で2年間修行した後、28年前に、現在の土地にてジャージー種6頭を飼養し、アビタニア牧場を設立した。
 現在の飼養体系の基本は、カナダで学んだものと変わっていない。濃厚飼料はできるだけ減らしている。カナダの牧場では、飼料は基本的に自家生産であり、コーンサイレージやローストした大豆というような飼料が主体であった。また、アルファルファの乾草を用いていた。そのため、現在もアルファルファ乾草を主体とした飼養で牧場を営んでいる。
 ジャージー種の搾乳牛の体重は約450キログラムで、飼料はアルファルファ乾草を1日当たり約15キログラム給与している。生産される生乳の乳脂率は通常で約5.4%だが、夏季には暑熱ストレスで、4.5%まで下がる。現在の泌乳量は、1日当たり15キログラムであり、年間では約4500キログラムとなる。アルファルファ乾草飽食にすると、タンパク質摂取は非常に高くなる。泌乳量の多い搾乳牛に対しては、少量の濃厚飼料を補助飼料として与えている。アビタニア牧場全体としては、濃厚飼料は少なく、粗飼料主体で飼養している。
 関係者には、タンパク質摂取量が多すぎて問題はないのかと驚かれるが、現状問題はないという。以前は、増体のためにアルファルファと濃厚飼料をかなり与えていたが、乳房炎が多発した。そこで、粗飼料由来のタンパク質と濃厚飼料由来のタンパク質は異なるという経験的な認識から、濃厚飼料を減らすと乳房炎の状況が改善した。
 飼養牛のうち、最も高齢な搾乳牛は、14歳であり、10歳を超えた搾乳牛が2頭いる。ホルスタイン種を用いた通常の酪農経営におけるウシの供用年数が、近年2~3産と言われていることを考えると、かなり長い。乳房炎が少ないことも影響しているだろう。安原氏は、ジャージー種は晩熟型であり、4産を超えないと体型が乳牛らしくならず、泌乳量が増えないことを経験的に実感している。このことは、去勢雄の肥育をしていても、体格が格段に大きくなるのが4~5年ぐらいであることと共通している。
 搾乳は、5時と16時の2回で、1回当たり(38頭)45分程度かかる(写真2)。1頭の搾乳期間は約300日である。
 
 
 アビタニア牧場には採草地がないため、アルファルファ乾草は、輸入品を購入している。そのため、採草に関する業務がなく余暇が増えるが、飼料の輸入価格に経営が大きく左右される。現在単価が1キログラム当たり58円ということだった。輸入のチモシー乾草は同80円と高価であり、現状では最も安い輸入乾草がアルファルファ乾草ということだった。配合飼料は、同58円のものを使用している。
 生まれた子牛は2日で母子分離し、約2カ月後には離乳させる。哺乳期の子牛には、アルファルファを加工したスターターを手で口へ運び食べさせている。この方法は、アビタニア牧場では、成熟後もアルファルファ乾草を主体に飼養するので、ウシにとってなじみやすいと安原氏は考えている。
 育成期は、国産のリードキャナリーや野草が混ざった安価な乾草を用いて、濃厚飼料と稲ソフトグレインサイレージ(以下「SGS」という)を少量与えている。粗飼料と濃厚飼料の比率は、おおよそ9対1である。ジャージー種の出生時体重は20キログラム程度であり、10カ月齢で約170キログラムとなる。黒毛和種でも昨今は10カ月齢で300キログラム程度になることから、かなり小型である。10~20頭の育成群には、10カ月齢まで乾草(1個当たり30キログラム)を1日1〜2個給与する。
 雌牛は、搾乳の育成牛として、10〜17カ月齢まで乾乳牛と一緒に飼養する。通常ジャージー種だと17カ月齢が初回種付けの時期であるが、安原氏は体格を見ながら、約20カ月齢で初回種付けを行う。
 雄牛は10カ月齢程度で去勢され、17カ月齢から肥育用の配合飼料を1日当たり2キログラム程度補助飼料として与え始める。粗飼料は、リードキャナリーと野草の乾草を与える。粗飼料と濃厚飼料の割合は、やはり9対1程度である。17カ月齢以降、去勢された肥育牛は、搾乳牛と一緒に育てられる(写真3、4)。
 

 

4 ジャージー種の肉牛生産の取り組み

 肥育牛は、育成期に稲わらや少量のSGSを与え、搾乳牛と共にアルファルファ乾草を給与している。ここがアビタニア牧場のユニークなポイントである。肥育牛は、搾乳牛と一緒に飼養するので特別なことはほとんどせず、粗飼料主体の赤身重視の肉牛生産となっている。牧草のタンパク質含有率は気にせずに給与し、濃厚飼料のタンパク質を減少させた。すなわち濃厚飼料が完全な補助飼料となっている。
 一時期、濃厚飼料を多めに給与したところ、増体にはつながるが、脂肪がおいしくなくなった。安原氏の牛肉を食べて育った子供たちからも同様の意見があり、食べる量が減った。
 濃厚飼料を減らし、粗飼料主体で肥育して生産した牛肉、特に3年以上肥育したウシの肉を子供たちは好んで食べた。このことから、安原氏は、生産する肉牛のイメージを固め、4~5年間肥育するようになった。安原氏の牛肉の生産基準には、子供たちの嗜好が大きく影響している。
 肥育牛の出荷時期は、目安として4年以上肥育した50~60カ月齢と考えているが、ウシの状態を見て決める。年に一度、弘前市のホテルレストランで、ジャージー牛を食べる会を開催しており、そのために毎年2頭は準備して、仕上がりが良い方をホテルのイベントに提供している。枝肉の状態ではシェフがさばけないので、この枝肉の骨抜きは安原氏自身が行う。
 安原氏は、経験的に枝肉重量400キログラム以上がおいしくなると考えている。ジャージー種は、他の外国種に比較すると、粗飼料多給肥育でも、比較的脂肪交雑が入る。しかしながら、肉質、特に脂肪交雑の程度はさまざまであり、現在のところ、規格を統一するのは難しいと実感している。
 日本での牛肉に対する嗜好は、変わってきているといっても、未だ肉自体の味よりも軟らかさへの要求が強いと感じる。カナダでは、多少の硬さより、肉の味を重視していた。日本でも赤身が持つ肉そのものの味を楽しむ機会がさらに増えれば、ジャージー牛のニーズも高まるだろう。

5 アビタニア牧場で生産されるジャージー種の牛肉を味わう

 アビタニア牧場では、乳製品製造施設で牛乳のほか、チーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリームを製造、販売する。また、食肉の加工施設を整備している(写真5)。
 
 
 取材日に、48カ月齢まで肥育したジャージー牛の肩ロースのステーキを試食した(写真6)。本来、肩ロースは首側が少し硬く、リブ側は軟らかい。どちらも試食したが、少し歯ごたえがあるものの、筆者には全く気にならず、ほどよい歯ごたえであり、それよりも噛むごとに肉汁があふれ、濃い肉の味がした。総合的にとてもおいしかった。
 

6 おわりに

 安原氏が経営するアビタニア牧場は、酪農業が中心であるが、去勢牛の肥育に関しては、そのまま搾乳牛とともに粗飼料多給で飼養することで、省力化と効率化およびコスト削減が図られている。これは、晩熟型のジャージー種とマッチしており、飼養開始から4年目以降に体格が大きくなり泌乳量が増えること、また肥育牛としても体型が肥育体型になるのに4~5年かかることから、いわゆる“薄く長い”飼養が適しているように思えた。また、安原氏の北海道、群馬そしてカナダで積まれた酪農業と肉に関する経験が、スムーズに酪農業と肉牛生産を結び付けているように思われた。酪農業から生産される副産物である雄牛を、今回紹介した安原氏のように、独自の飼養で、長期的な視点で低コストで育てていくことは、酪農業の副収入にもなり、経営の支えのオプションになるかもしれない。雄に生まれたジャージー種の命を、大事につないでいる安原氏の経営は、新しい酪農システムになり得るのではないかと思う。