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調査・報告(学術調査) 畜産の情報 2019年12月号

イネSGS(ソフトグレインサイレージ)の給与水準が黒毛和種繁殖雌牛の生産性に及ぼす影響について

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宮崎県畜産試験場 家畜バイテク部 部長 須ア 哲也
                       技師 松尾 麻未

【要約】

 暑熱期におけるイネSGSの品質低下防止を目的に、保存容器の違いによる品質への影響を調査した結果、プラスティックサイロを使用した場合が最も保存性に優れ、カビの発生もほとんど認められなかった。また、保存性を高めるためにも、開封後はできる限り空気と接触させない利用方法が重要であることが分かった。
 また、イネSGSを配合飼料の代替として一定期間(60日間)、黒毛和種繁殖雌牛に給与した結果、イネSGSをもみ米で乾物摂取量の30%程度給与しても、健康性や繁殖性に問題がないことが栄養度の推移や血液性状、採卵成績などから示された。またイネSGSを黒毛和種繁殖雌牛に給与することは飼料自給率向上につながることも示された。

1 はじめに

 全国的に水田で家畜用の餌を生産する飼料用イネの栽培は年々拡大している。宮崎県における飼料稲WCSの作付けは6614ヘクタール(平成29年)と全国2位の面積を誇り、その大部分が肉用牛繁殖雌牛の飼料として利用されている。しかしながら濃厚飼料の代替となる飼料用米の作付面積は528ヘクタール(29年)にとどまり、牛での利用も限定的である。
 わが国の飼料自給率(畜産・酪農をめぐる情勢:農林水産省畜産局畜産部 平成30年4月)をみると、粗飼料では78%とやや高いが、濃厚飼料では14%といまだに低い状況であり、飼料自給率向上のためには濃厚飼料の代替となる飼料用米の利用拡大が重要となっている。
 このような中、本県のイネSGSを給与している生産現場では、暑熱期のイネSGSの品質低下が大きな問題となっており、暑熱期における保存性の確保も緊急の課題となっている。
 そこで、飼料自給率の向上に資するよう暑熱期におけるイネSGSの品質を調査し、あわせてイネSGSの給与水準が黒毛和種繁殖雌牛の生産性に及ぼす影響を明らかにし、イネSGSの給与水準を高めた給与設計を実証した。

2 イネSGSの暑熱期における保存性調査

(1)目的

 イネSGSは調製の過程で乳酸発酵によりpHが低下しているため、機密性の高い容器に入れている間はその品質は維持されている。
 しかしながら、一度開封すると容器内に空気が流入し、好気性発酵、いわゆる腐敗が進み、特に暑熱期は気温や湿度が高くなるため品質の低下が起きやすい。実際、生産現場においても、暑熱期に開封すると腐敗やカビの発生という品質の劣化が起き、大きな問題となっている。
 そこで、暑熱期において、保存容器の違いによるイネSGSの品質調査を行った。
 

(2)試験方法

 イネSGSの調製は、平成29年に収穫した宮崎県都城市産ミズホチカラのもみ米を破砕機で5ミリメートル程度に破砕した破砕もみ米に加水(乳酸菌0.5%添加)し、水分率30%程度になるようにした。
 保存容器はフレコンバック大(388キログラム)、プラスティックサイロ大(452キログラム,0.85立方メートル)、フレコンバック小(175キログラム)、プラスティックサイロ小(173キログラム、0.25立方メートル)を用いた。なお、フレコンバックの内袋として厚さ0.1ミリメートルのビニール袋を使用した(図1および2)。
 
 
 

 
  破砕もみ米を投入後、フレコンバックは掃除機でできる限り空気を吸引し、封をした後保存した。プラスティックサイロは容器の上部まで原料を投入し、ビニールをかぶせ容器の周縁部を封印した。
 調製、調査に使用した大の容器は30年7月17日から29日間、小の容器は13日間行った。
 生産現場での給与を想定し、毎日10キログラムずつ容器の上部から取り出し、開封、取り出しは短時間(10分程度)で済ませ、速やかに封をした(図3)。
 
 

(3)結果

 容器内の温度は容量の大小にかかわらず、フレコンバック、プラスティックサイロとも同様に推移した(図4、5)。プラスティックサイロ大の容器内温度変化は±3℃(25℃〜28℃)であったのに対し、フレコンバック大では±5.5℃(24℃〜29.5℃)と温度変化が大きく、日数が経過し内容量が減るに従い温度の上昇がみられた。カビについてはプラスティックサイロではほぼ見られなかったが、フレコンバックにおいては所々カビの発生がみられた。
 
 
 

 

 
 イネSGSを18リットルのバケツに入れ、封をしないままその温度変化を調べたところ、1日目に急激な温度上昇を起こし、その後はいったん温度が低下するものの、6日目から再度温度の上昇がみられ、カビの発生も認められた(図6)。プラスティックサイロ、フレコンバックとも封をしないと3日程度でカビが発生し、6日程度で表面の大部分にカビの発生を認めた(図7)。
 
 
 
 

3 イネSGSの給与調査

 

(1)目的

 本県の肉用牛繁殖雌牛の飼料自給率向上のためには、濃厚飼料の代替となるイネSGSの利用は非常に有効である。しかしながら、イネSGSの給与水準を高めた場合の、黒毛和種繁殖雌牛への影響は不明な点も多い。そこで黒毛和種繁殖雌牛にイネSGSを一定期間、高水準で給与することによる影響を血液代謝プロファイルテストやルーメン液の性状、採卵成績等で検証し、その影響について明らかにし、イネSGSのさらなる利用推進を図った。
 

(2)試験方法

 給与したイネSGSと飼料稲WCSの飼料成分を表1、2に、サイレージ品質を表3、4に示した。イネSGSのサイレージ品質はV-score86点と高く、また飼料稲WCSのV-scoreも89点と高かった。この数値を基に、乾物摂取量(DM)、TDN(可消化養分総量)、CP(粗タンパク質)が同等になるよう給与設定した(表5)。なお、粗飼料は飼料稲WCSをメインに、配合飼料の代替としてイネSGSを用い、表6に示す通り、イネSGS区では1日当たりイネSGSをもみ米で3.6キログラム給与した。
 
 









 
 供試牛は当場繋養の黒毛和種繁殖雌牛8頭を用いた。試験区分はイネSGS区と対照区の2区とし、各区4頭を反転法で実施した(表7)。
 
 
 試験開始20日前から馴致じゅんち期間として通常の給与メニューを給与した。
 1回の給与期間は60日間とし、1回目給与終了後、再度馴致期間として20日間、通常の給与メニューを給与した後、2回目の給与を開始した。
 給与は、1日2回(9時、15時)に分け、他の飼料と混合し給与した。
 イネSGSはTの保存性調査において有効であったプラスティックサイロと同一ロットのものを給与した(図8、9)。
 
  

 過剰排卵処理に伴う処置は、表8に示すスケジュールに準じて行った。
 
 
 発情後の黄体を確認し、CIDR(膣内留置型プロジェステロン製剤)を膣内挿入(day0)しPGF2α3ml(クロプロステノール750μg)を筋肉内投与、7日目にGnRH1.25ml(酢酸ブセレリン5μg)筋肉内投与、10日目に卵胞刺激ホルモンFSH30AUを皮下内1回投与、12日目にCIDRを抜去し、PGF2α(クロプロステノール750μg)を筋肉内投与した。13日目にGnRH2.5ml(酢酸ブセレリン10μg)筋肉内投与、14日目の午後にAI(人工授精)し、21日目に常法により採卵した。
 採血とルーメン液の回収日は給与期間中の給与前(0日目)、給与中(30日目)、給与後(60日目)で、給与開始の5時間後(14時ごろ)に行った。ルーメン液の回収は経口から直接第1胃に胃汁採取器を挿入し行った(図10)。
 
 

(3)結果

ア 嗜好性・飼料摂取量
 イネSGSは他の飼料と混合し給与した。(配合飼料も同様)。嗜好性は非常に良好であり、残餌は発生しなかった(図11)。残餌がなかったことから、給与量=飼料摂取量とし、その乾物量から飼料自給率を計算した(表9)。
 


 
イ 栄養度指数
 栄養度指数(体重kg÷体高cm)を図12に示した。
 
 
 体重並びに体高の測定は給与開始(0日目)、給与中(30日目)、給与後(60日目)で行った。イネSGS区は対照区とも同様に推移し、イネSGSを給与することによる栄養度指数への影響はみられなかった。

ウ 繁殖性
 過剰排卵処置後の採卵成績を表10、図13に示した。
 


 
 イネSGS区は対照区と比べ、回収卵数(20.8±4.9個vs13.9±3.9個)、正常胚数(10.4±4.4個vs6.8±2.7個)とも同様な成績であった。また正常胚率(45.9±10.3%vs47.9±7.6%)、分割率(70.0±12.0%vs77.2±10.5%)も同様な成績であった。
 過剰排卵に伴うイネSGS給与の卵巣動態の一例を図14に示した。
 
 
 過剰排卵処理前の卵巣のサイズは4×3×2センチメートル程度であったが、採卵時(過剰排卵処理後)には右卵巣においては8×6×4センチメートル程度と約2倍のサイズになり、左右卵巣とも多数の黄体が確認でき、ホルモンの反応性に問題はないと考えられた。

エ 血液性状
 採血は給与開始(0日目)、給与中(30日目)、給与後(60日目)で行った。
 グルコースはエネルギー代謝の指標となり、グルコースが基準値以下の牛群では一般的に繁殖性が悪いと言われる。今回、イネSGS区、対照区とも上限値をやや上回り推移した(図15)。
 
 
 総コレステロールはエネルギー代謝の指標となり、黒毛和種繁殖雌牛では乾物摂取量と正の相関がある。イネSGS区は適正値内で推移したが、対照区は給与中(30日目)で上限値を上回り有意に高くなった(図16:P < 0.01)。
 
 
 血中尿素態窒素はタンパク質代謝の指標となる。イネSGS区はほぼ適正値内で推したのに対し、対照区では給与中(30日目)で有意に高くなった(図17:P<0.05)。
 
 
 GGTはタンパク質分解酵素の一種で、肝細胞が破壊されると血中濃度が高まることから、肝臓障害の指標として用いられる。イネSGS区、対照区とも上限値をやや上回り推移し、対照区は給与後に適正値内に推移した(図18)。
 
 
 GOTは肝臓の実質障害の程度を知ることができ、急性肝疾患により上昇する。イネSGS区、対照区とも適正値内で推移した(図19)。
 
 
 ビタミンAの前駆体であるはベーターカロテンはサイレージ調製すると減少し、また血中のビタミンA欠乏は繁殖性の低下を招くことが知られている。イネSGS区は対照区に比べ給与後に有意に高くなった(図20:P<0.05)。
 
 
オ ルーメン液性状
 牛は反すう動物のため、第1胃(ルーメン)で微生物による発酵が盛んに行われ、そこで発生した揮発性脂肪酸をエネルギー源として利用している。そのため、ルーメン液性状はルーメン発酵の指標となる。イネSGS区、対照区ともルーメン発酵が良好に行われている目安となる酢酸の割合が高くなり(図21)、pHも適正範囲であるpH7.0前後で推移した(図22)。
 


   

4 考 察

 開封後はできる限り早く使い切り、取り出しにおいても速やかに行い、できる限り空気と接触させないことがサイレージの変敗を防ぐ大きなポイントである。
 暑熱期におけるイネSGSの保存性について、容量や材質の異なる4種類の保存容器(プラスティックサイロ大小とフレコンバック大小)を用い調査した結果より小容器(容量0.25立方メートル)の場合、保存容器の違いに関わらず、容器内の温度変化から開封後2週間程度であれば保存性に問題がないと考えられた。大容器(容量0.85立方メートル)の場合、容器内の温度変化はフレコンバックの方がプラスティックサイロより2.5℃高い値を示した。また、開封後約3週間経過すると、フレコンバックでは二次発酵とみられる容器内温度の上昇が見られ、カビも多く見受けられた。これらの結果から、生産現場において暑熱期はプラスティックサイロでイネSGSを調製保管したものを使用することが望ましいと考えられた。
 また、一般的にコメはルーメン内のデンプン分解速度が速いと言われており、給与に当たっては十分量の粗飼料との混合給与が重要であるとされている。そこでイネSGSを黒毛和種繁殖雌牛に給与した場合の影響について調査したところ、プラスティックサイロで調製したイネSGSをもみ米で1日3.6キログラム(乾物摂取量の約30%)、60日間給与した結果、栄養度については対照区と同様に推移し、イネSGS給与による体重の大きな変動はみられなかった。過剰排卵処置による卵巣の動態や採卵性においてもイネSGS区は対照区と同様な成績であり、イネSGSを給与することでの繁殖性への悪影響は認められなかった。血液性状については、総コレステロール値、血中尿素態窒素値、血中ビタミンA濃度の項目で対照区より有意に良好な成績となり、血液性状についても問題がなかった。ルーメン液性状についてもルーメン発酵が良好に行われている目安となる酢酸が優位であり、pHも7前後で推移した。以上の結果から、イネSGSをもみ米で乾物摂取量の30%程度給与しても、黒毛和種繁殖雌牛の健全性や繁殖性に問題がないと考えられた。
 なお、今回の調査では、粗飼料は飼料稲WCSを主体に給与したため、対照区の飼料自給率(乾物重量ベース)は70.8%と高く、濃厚飼料の一部をイネSGSで代替えしたイネSGS区の飼料自給率は90.2%とさらに約20%も高い結果となった。このことから、飼料自給率向上の面からも、イネSGSを黒毛和種繁殖雌牛に給与することは非常に有効であることが示された。
 ただし、カビなどの変敗が認められた飼料を用いた場合、本調査と同様な効果は期待できないので注意が必要である。


謝 辞
 本調査を実施するに当たり、ご指導いただいた国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構畜産研究部門の遠野雅徳主任研究員、小林寿美主任研究員に深謝いたします。