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調査・報告(学術調査) 畜産の情報 2020年1月号

搾乳ロボット管理下の牛群における乳汁、腸内および環境細菌叢の関係

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国立大学法人岡山大学大学院 環境生命科学研究科 教授 西野 直樹

【要約】

 搾乳ロボットで乳牛を管理する農場を訪問して、乳汁、腸内容物および牛舎環境の細菌叢を次世代シーケンサ―で調査した。第1の課題として、乳汁のサンプリング手法について検討した。自動搾乳と手搾りでは細菌叢に違いがあることを明らかにし、乳汁のサンプルは分房乳を手搾りで採取することに決定した。第2の課題では、飼料、ルーメン液、ふん便、乳汁、牛床、水および空気粉じんをサンプリングし、それらの細菌叢と相互の関連について調査した。統計解析の結果、乳汁の細菌叢は飼料、ルーメン液、ふん便および水のそれらとは関連が乏しく、空気粉じんおよび牛床の細菌叢と強く関係することが示された。第3の課題では、乳汁、ふん便、空気粉じんおよび牛床のサンプリングを夏季および冬季に計15回行った。ふん便の細菌叢は季節に関わらず安定していたが、空気粉じんと牛床の細菌叢は夏季と冬季で多くの違いがあった。乳汁の細菌叢も夏季と冬季で違いが認められたが、上位菌種はおおよそ安定しており、Corynebacteriaceae を除き、空気粉じんおよび牛床の細菌叢と季節による差異が一致するものはなかった。少数の農場における調査ではあるが、搾乳ロボットを導入した農場における乳汁、腸内容物および牛舎環境の細菌叢を明らかにし、牛舎の衛生管理が乳質改善と乳房炎予防に重要であることを確認した。

1 はじめに

 搾乳ロボットが導入されてから25年が経過し、日本国内の稼働数はおよそ700台にまで増加した。普及の速度はこれまで必ずしも速くなかったが、現有パーラーの更新や生産者の世代交代が進めば、搾乳ロボットの導入は着実に増加すると予想されている。1日当たりの搾乳回数は3回以上になり、乳量もおよそ1割増加するというのが期待されるメリットである。人が乳房に触れることがないので、伝染性乳房炎が減少することも期待されているが、搾乳回数が増えることで乳腺の回復が遅れる、乳房炎の疑いがあっても搾乳順序を最後にすることができず、伝染性乳房炎はかえって予防が困難になるなど、搾乳ロボットによる乳房炎の増加を懸念する声もある。
 乳房炎の予防を目的とした細菌叢調査は数多く行われているが、搾乳ロボット管理下の牛群を対象としたものは全くない。また、次世代シーケンサー(注1)による解析が普及し、データ解析の手法も高度化しているが、乳汁細菌叢を変動させる要因およびその制御技術は明らかになっていない。大腸菌や腸球菌といったふん便細菌が主な汚染菌と指摘する声が少なくないが、牛床の細菌叢と腸内のそれは同じでない。搾乳ロボットによる乳房洗浄が、これまでの慣行法に比べて、細菌汚染を低減しているという保証もない。
 本調査では、搾乳ロボット(Lely Astronout)での管理経験が十分ある岡山県および広島県の農場でサンプリングを行い、乳汁および牛舎環境の細菌叢がどのようなものか、それらがどのように関係しているかを調べた。三つの課題に取り組んだが、第1の課題は乳汁のサンプリング手法についてである。乳汁細菌叢の正しい理解には、手搾りで分房乳を採取することが望ましいが、搾乳ロボットには個々の乳牛から乳汁を自動採取する機能がある。手搾りと自動採取の乳汁細菌叢を比較し、その後のサンプリングを手搾りで行うことに決定した。第2の課題は、乳汁、混合飼料(発酵TMR)、ルーメン液、ふん便、牛床、水および空気粉じんの細菌叢調査である。次世代シーケンサーのデータを統計解析したところ、乳汁の細菌叢は空気粉じんおよび牛床のそれらと関連が深いことが明らかとなった。第3の課題は、乳汁、ふん便、牛床および空気粉じん細菌叢の、サンプリング月および季節による変動調査である。第2の課題は岡山県および広島県で1回調査しただけであり、得られた知見が再現性のあるものかを確認する必要があった。牛床の細菌叢を次世代シーケンサーで調べた研究は、数は限られているもののゼロではない。しかし、空気粉じんに関する情報は全くなく、季節による差異あるいは変動の有無も分かっていなかった。夏季に6回、冬季に9回のサンプリングを行って調べたところ、乳汁と空気粉じんおよび牛床の細菌叢はやはり関連があると判断された。
 本調査で採取した乳汁サンプルは、搾乳中すなわち乳房炎非感染牛のものである。実際の体細胞数は最大で約130万/mLだったため、体細胞数だけでみると乳房炎という個体も存在した。しかし、臨床症状を示した個体はなく、以下に述べる知見は、基本的に非感染牛における乳汁、腸内および環境細菌叢の関係である。乳房炎の予防には感染牛を含めた調査を行う必要があるが、乳汁と牛舎環境の細菌叢がどのように関連するかについては、感染牛、非感染牛に共通したことであろう。限られた数の調査事例ではあるが、搾乳ロボットで管理された乳牛に関する、有用な情報になり得ると考えている。
注1:細菌叢解析では、ゲノム配列を明らかにして遺伝情報に基づいた系統分類が行われる。次世代シーケンサーは、一度に大量の遺伝情報を解析できる機器であり、数百種以上の細菌群について、その関与を調べることを可能にする。

2 自動採取した乳汁と手搾りで採取した乳汁の細菌叢

 フリーストールおよび発酵TMRの給与で牛群を管理する岡山県の農場を訪問し、搾乳牛(ホルスタイン種)3頭から5月および7月に乳汁を採取した。選択した3頭は搾乳ロボットで7時〜10時に乳汁を採取された個体であり、手搾りでの分房乳採取時間(10時〜11時)と差が大きくないサンプルを得るようにした。細菌DNAは市販のキットを用いて精製し、16S rRNA遺伝子(注2)のV4領域(注3)を対象とするPCR(注4)を行って、MiSeq (Illumina)による次世代シーケンス解析を行った。得られたデータをOTU (Operational Taxonomic Unit)の系統情報(注5)とし、ヒートマップ(注6)、クラスター解析(注7)および分散分析を、統計解析ソフトPrimer 7 (version 7)およびJMP (version 11)で行った。
 乳汁採取日の乳量および体細胞数は、5月が1日当たり32.4〜49.6キログラムおよび8.2〜36.2万/mL、7月が同32.8〜53.6キログラムおよび5.0〜31.5万/mLであった。同じ3頭から5月および7月に乳汁を採取したが、手搾りの乳汁では採取月による違いが大きかった。
 5月の手搾り乳汁にみられた上位5菌種はMethylobacteriaceae(17.8%)、Sphingomonadaceae(14.9%)、Staphylococcaceae(12.4%)、Aerococcaceae(11.2%)および Bacteroidaceae(6.4%)であったが、7月の手搾り乳汁には Enterobacteriaceae(73.6%)が非常に高い割合で検出され、Aerococcaceae(5.3%)、Ruminococcaceae(3.8%)、Staphylococcaceae(2.3%)および Bacteroidaceae(1.2%)がいずれも低い割合で認められた(図1)。
 
 
 自動採取と手搾りの乳汁では細菌叢に大きな違いが認められた。5月の自動採取乳汁では Moraxellaceae(45.1%)、Pseudomonadaceae(22.5%)、Streptococcaceae(11.2%)、Enterobacteriaceae(4.3%)および Micrococcaceae(4.2%)が、7月の乳汁では Enterobacteriaceae(50.4%)、Moraxellaceae(34.1%)、Pseudomonadaceae(6.0%)、Enterococcaceae(4.8%)およびMicrococcaceae(2.2%)が上位5機種であり、7月サンプルの Enterobacteriaceae を除き、自動採取と手搾りの乳汁に共通するものは、上位5菌種には認められなかった。
 手搾りの乳汁にはMethylobacteriaceaeおよび Sphingomonadaceae が数多く検出された。乳汁にこれらの細菌を検出した報告は他にもあるが、乳房炎との関連は指摘されていない。代表的な乳房炎原因菌である黄色ブドウ球菌は Staphylococcaceae に含まれるが、本調査でサンプルを採取した乳牛は、いずれも乳房炎非感染牛である。手搾りの乳汁には10%以上のStaphylococcaceae が検出されたが、その割合だけで乳房炎になるということはないと判断した。なお現状では、次世代シーケンサーの細菌叢データを、種(species)あるいは属(genus)レベルで分類することは難しい。科(family)レベルでは十分な議論ができないという欠点はあるが、これまでにない情報が得られていることは間違いない。
 自動採取の乳汁で特徴的に認められたのは、低温細菌のMoraxellaceaeとPseudomonadaceaeである。自動採取後保存容器の中で増殖したという可能性もあるが、搾乳ロボットのホースやパイプラインに付着しているものかもしれない。それらの検証はできていないが、自動採取の機能があるとしても、乳汁の細菌叢解析は分房乳を手搾りで得ることが望ましいと結論した。
注2:rRNAはリボソームを構成するRNAであり、ウィルスを除く全生物に存在し、種のレベルにおいて高い相同性を示す。細菌の系統分類には16S rRNA遺伝子配列が用いられることが多い。
注3:16S RNA遺伝子には可変領域と呼ばれる部分断片があり、V1からV9まで九つあるどの領域を対象とするかによって、得られる系統分類の情報が若干異なる。ここでは、最も多くの情報が得られると期待されるV4領域を対象とした。
注4:ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)として知られるDNAを増幅する原理およびそれを用いた手技。
注5:16S rRNA遺伝子の配列を、一定以上の相同性(>97%が一般的)を基準として一つの細菌群のように扱う操作上の分類単位。次世代シーケンサーによる細菌叢解析では、通常OTUによる系統分類が行われる。
注6:細菌叢の類似性および分類された細菌群の存在割合を視覚的に表示する方法の一つ。細菌群の検出率を色およびその濃淡で視覚化するとともに、細菌群の類似度を樹形図で表現している。
注7:クラスターは房、集団、群れを意味し、多様な性質を持つ個体が混ざり合った集団から、互いに似た性質を持つ個体を集めてまとめる方法。各個体の距離を定義できるデータに基づいて、距離の大小により個体をまとめる。

3 乳汁、飼料、ルーメン液、ふん便、牛床、空気粉じんおよび水の細菌叢

 岡山県(4月)および広島県(9月)の農場を訪問し、それぞれ搾乳牛3頭から乳汁、ルーメン液およびふん便(直腸ふん)を採取した。岡山県の農場は上記2の調査農場と同じであり、広島県の農場もフリーストールおよび発酵TMRの給与で牛群を管理していた。飼料、牛床、空気粉じんおよび水のサンプルはランダムに選んだ3カ所から採取し、それらを混合して代表サンプルとした。空気粉じんは、約1.0 mの高さに三つのシャーレを5分間静置して採取した。細菌DNAの精製、次世代シーケンス解析の実施およびデータ解析、統計処理の方法は、先述の調査研究とほぼ同一である。以下では岡山県の農場を1、広島県の農場を2と表記している。
 乳汁細菌叢における上位5菌種は、農場1ではAerococcaceae(24.3%)、Staphylococcaceae(12.3%)、Ruminococcaceae(11.4%)、Corynebacteriaceae(5.9%)およびLachnospiraceae(5.1%)であり、農場2ではStaphylococcaceae(21.0%)、Lactobacillaceae(10.8%)、Ruminococcaceae(6.3%)、 Corynebacteriaceae(6.1%)およびEnterobacteriaceae(5.6%)であった(図2)。いずれの農場でもRuminococcaceaeが3番目に多い菌種であったが、これは3頭のうち1頭で Ruminococcaceae が最も多かったからである。
 

 給与飼料が発酵TMRだったこともあり、飼料の細菌叢は95%以上が Lactobacillaceaeで、続く Leuconostocaceae は3%にも満たなかった。これを採食した乳牛が口を付ける水槽にも、Lactobacillaceaeが高い割合で(38.8〜55.7%)検出された。Lactobacillaceae 以外の割合は<10%であり、農場1の水には Comamonadaceae(6.8%)、Moraxellaceae(5.7%)、Pseudomonadaceae(5.1%)およびStaphylococcaceae(3.6%)が、農場2の水にはMoraxellaceae(9.5%)、Aeromonadaceae(4.3%)、Neisseriaceae(4.2%)およびWeeksellaceae(3.8%)が検出された。
 ルーメン液の細菌叢で最も多かったのはPrevotellaceae であり(25.5~31.9%)、これに加えて農場1では Ruminococcaceae(11.2%)、Lachnospiraceae(9.3%)、Paraprevotellaceae(2.9%)およびVeillonellaceae(1.7%)が、農場2ではSuccinivibrionaceae(13.3%)、Ruminococcaceae(10.8%)、Lachnospiraceae(5.2%)およびVeillonellaceae(4.4%)がそれに続いた。ふん便では Ruminococcaceae が最も多く(38.5〜39.2%)、農場1ではLachnospiraceae(7.8%)、Clostridiaceae (6.6%)、Bacteroidaceae(6.1%)およびPeptostreptcoccaceae(3.0%)が、農場2ではBacteroidaceae(11.5%)、Lachnospiraceae(5.1%)、Clostridiaceae(4.5%)およびRikenellaceae(3.5%)が上位5菌種として認められた。
 牛床細菌叢の最上位菌種はふん便と共通しており、いずれの農場においてもRuminococcaceaeであった(38.5〜39.2%)。他の上位菌種は農場による違いがあり、農場1では Aerococcaceae(15.0%)、Staphylococcaceae(9.7%)、Corynebacteriaceae(8.8%)および Lachnospiraceae(6.4%)が、農場2ではMoraxellaceae(10.4%)、Idiomarinaceae(8.5%)、Halomonadaceae(8.2%)およびCorynebacteriaceae(7.0%)が検出された。空気粉じんにも農場による違いが認められ、農場1ではAerococcaceae(25.2%)、Ruminococcaceae(12.0%)、Staphylococcaceae(10.3%)、Lachnospiraceae(5.8%)およびCorynebacteriaceae(5.7%)が、農場2ではLactobacillaceae(64.5%)、Staphylococcaceae(5.6%)、Ruminococcaceae(3.1%)、Pseudomonadaceae(2.2%)およびAerococcaceae(1.8%)が上位5菌種として検出された。
 ヒートマップの分類から、最上位菌種(Ruminococcaceae)は共通していたものの、ふん便と牛床の細菌叢は明確に異なると判断された。農場1と2は100キロメートル以上離れていたが、飼養管理が似かよっていたためか、ルーメン液とふん便の細菌叢は同じグループに分類された。
 農場1の乳汁細菌叢は、空気粉じんおよび牛床の細菌叢と同じグループに分類された。農場2における2頭の乳汁は、牛床と細菌叢が類似すると判断され、残る1頭の乳汁は空気粉じんおよび水の細菌叢と類似していた。乳汁、空気粉じん、牛床の細菌叢を特徴付けるのは Aerococcaceae であり、空気粉じんでは農場2の Lactobacillaceae も特徴的な細菌群であった。
 これらの細菌叢データで起源解析を行ったところ、いずれの農場においても空気粉じんの細菌叢が乳汁の細菌叢に強く影響する(37.9~53.0%)と判断された(図3)。農場1ではふん便(13.8%)、牛床(13.7%)および水(4.3%)が、農場2では牛床(9.7%)、ふん便(8.0%)およびルーメン液(6.4%)が続く因子であり、飼料(発酵TMR)との関連はないと判断された。
 
 
 乳房炎の原因となる微生物は、ほとんどが細菌と考えられている。伝染性乳房炎であれば、黄色ブドウ球菌 (Staphylococcaceae)、無乳性連鎖球菌(Streptococcaceae)、コリネバクテリウム・ボビス(Corynebacteriaceae)、マイコプラズマ属(Mycoplasmataceae)などが環境性乳房炎であれば、大腸菌群(Enterobacteriaceae)、環境性ブドウ球菌(Staphylococcaceae)、環境性連鎖球菌(Streptococcaceae)などが主な原因菌とされている。Staphylococcaceae および Corynebacteriaceae は多様な環境中に広く生息しているし、腸球菌(Enterococcaceae)や Enterobacteriaceae は、少数ではあるがふん便や牛床にも見出される。そのため、乳房炎の防除では環境、特に牛床(敷料)の管理が重視されるが、起源解析で明らかになったのは、汚染源としての空気粉じんであった。牛舎内の空気粉じんを次世代シーケンサーで調べたという報告は他に見当たらないが、腸内細菌の Ruminonoccaceaeが上位菌種として検出されることは、われわれヒトの生活環境ではまず考えられない。すなわち、空気粉じんが汚染源として示されたといっても、牛床と合わせた牛舎環境の管理が重要と考えるべきであろう。結論は従来の知見を追認するものになるが、乳汁の細菌叢がAerococcaceae や Lactobacillaceae といった、これまで意識されなかった空気粉じんの細菌群と関連することを示した意義は大きい。

4 乳汁、空気粉じんおよび牛床細菌叢の季節変動

 岡山県の農場で、夏季(6〜8月)に6回および冬季(11〜1月)に9回のサンプリングを行った。乳汁、ふん便、牛床および空気粉じんの採取方法は、すでに述べたものと同じである。ここで夏季および冬季に複数回サンプリングを行ったのは、泌乳期1カ月および2カ月の乳汁を採取するとともに、牛床と空気粉じんの季節変動を調べたかったからである。前課題で2軒の農場の細菌叢を調査したが、ある日ある時の1サンプルを調べただけで、牛舎環境の細菌叢を明らかにしたとは言い難い。本調査で訪問したのは岡山県の農場1軒だけであるが、計15回のサンプリングを行うことで、牛舎環境細菌叢に関するさらに信頼性の高いデータを得ようとした。
 乳汁の細菌叢で、季節による違いが認められたのは、Bacillaceae(夏>冬)、Corynebacteriaceae(夏>冬)、Lactobacillaceae(夏<冬)およびStreptococcaceae(夏<冬)およびMicrobacteriaceae(夏<冬)であった(表1)。ふん便の細菌叢は季節を問わず安定しており、Bacteroidaceae(夏>冬)を除く上位5菌種に季節変動は認められなかった。
 

 ふん便の細菌叢が安定していたにも関わらず、牛床の細菌叢は夏季と冬季で多くの違いがあった(表2)。最上位菌種のAerococcaceae は、季節に関わらず13%程度であったが、Moraxellaceae、Planococcaceae、Tissierellaceae、Carnobacteriaceae、Micrococcaceae、Idiomarinaceae および Halomonadaceae は夏季の方が多く、Ruminococcaceae、Bacteroidaceae、Lachnospiraceae、Clostridiaceae、Peptostreptococcaceae、Rikenellaceae および Mogibacteriaceae は冬季の方が多かった。冬季の方が多い細菌種はふん便の上位菌種であり、冬季は牛床にふん便細菌が生残しやすいのかもしれない。
 

 空気粉じんの細菌叢にも季節による違いが数多く認められ、Staphylococcaceae、Moraxellaceae、Corynebacteriaceae、Pseudomonadaceae、Streptococcaceae、Tissierellaceae、Lactobacillaceae、Xanthomonadaceae、Micrococcaceae、Enterobacteriaceae、Propionibacteriaceae および Planococcaceae は夏季の方が多く、Ruminococcaceae、Lachnospiraceae、Bacteroidaceae、Clostridiaceae、Rikenellaceae、Paraprevotellaceae、Porphyromonadaceae、Erysipelotrichaceae、Spirochaetaceae は冬季の方が多かった(表3)。Staphylococcaceae、Corynebacteriaceae、Streptococcaceae といった、乳房炎の原因菌を含む細菌種が夏季に多かったことは、夏季に体細胞数が高い傾向にあることと関係しているかもしれない。冬季の方が多かったRuminococcaceae、Lachnospiraceae、Bacteroidaceae およびClostridiaceae は牛床でも冬季の方が多く、空気粉じんの細菌叢は夏季よりも冬季に牛床細菌叢の影響を受けやすいと考えられた。
 

 ふん便の細菌叢は乳汁、牛床および空気粉じんの細菌叢と明確に分かれるため、ヒートマップは乳汁、牛床および空気粉じんだけで作成した(図4)。空気粉じんの細菌叢は夏季と冬季で別のグループとなり、夏季の空気粉じんはさらに二つのグループに分かれた。牛床の細菌叢も夏季と冬季に分かれたが、冬季の牛床が空気粉じんと同じクラスターに分類されたのに対し、夏季の牛床と空気粉じんは冬季のそれらほど関連が強くないと判断された。また、夏季の空気粉じんサンプルの一部は、他と大きく異なるクラスターを形成した。
 

 乳汁の細菌叢と空気粉じんおよび牛床のそれらが関係することは確認できたが、空気粉じんと牛床の細菌叢が、乳汁の細菌叢とすべて同じグループに分類されたわけではない。空気粉じんと牛床は特に冬季に関係が深いということが示されたが、だからといって、冬季の乳汁細菌叢が夏季よりも空気粉じんと牛床の細菌叢に影響されたということはなかった。

5 おわりに

 乳汁の細菌叢を健全な状態に維持し、乳房炎の予防を図るには、牛舎環境の衛生管理が重要である。搾乳ロボット管理下の牛群にも、これまでと変わらない。
 これまでと変わらない指針(例えば牛床に清潔な敷料を利用して汚染菌を減らすなど)が適用されるという結論になるが、牛舎環境、特に空気粉じんと牛床の細菌叢を詳しく調べたという点で本調査は大きな意味がある。細菌汚染のリスクが同じであれば、乳房炎の発症には乳牛個々に内在する因子が環境よりも大きく関わっていることになる。それらの解明を進めるとともに、牛舎環境の衛生管理法改善に向けた細菌叢調査を継続したい。