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特集:海外の持続可能な畜産における取り組み〜環境への配慮、規制の取り組みや課題〜 畜産の情報 2020年2月号

持続可能な開発目標(SDGs)と農林水産業・食品産業について

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農林水産省 大臣官房政策課 企画官 鈴木 健太

 2015年9月の国連サミットにおいて、持続可能な開発のための2030アジェンダが採択され、誰一人取り残さないというコンセプトの下、2030年を期限とする17の持続可能な開発のための目標(SDGs:Sustainable Development Goals)と169のターゲットが定められた(図1)。
 

 
 このSDGsは、2030年にこのような世界を実現したいという未来に向けての共通言語とも言える。そのためには、経済だけでなく、それを営む社会、支える環境がバラバラではなく、バランスよく統合的に維持・発展していく必要がある。
 3年ほど前まではSDGsという言葉すら知らないという人が多かったが、2017年に一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が「企業行動憲章」を掲げ、多くの企業がSDGsを意識した企業活動に取り組んでいる。また、地方自治体もSDGsを自治体運営の基本的な理念に取り込んでいる。なぜ多くの企業や自治体がSDGsを意識し、経営の中に取り込み始めたのだろうか。
 国内は、人口減少時代に入り、超高齢化が進み、マーケットの縮小や農業従事者のさらなる高齢化・減少が予想される。他方、世界に目を向けると、人口はますます増大し、マーケット規模は拡大していくと見込まれる一方で、エネルギーや食料といった資源の需給がひっ迫する可能性もある。また、地球規模でみると、このまま地球温暖化が進めば、「産業革命以前と比較して1.5度の温度上昇」に早くも達し、さまざまな被害が顕在化する可能性が気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書で警告されており、世界が経験したことのないような社会変化や環境問題に直面すると考えられる。
 こうした中、企業や自治体が社会変化や環境問題に適切に対応し、消費者などから選ばれ続けるためには、社会から自らが何を求められているかを考え、行動に移していく必要がある。評価が高まることにより、取引先や消費者などから信頼が得られれば、人材が集まり、より大きな課題に取り組んでいくことも可能となる。
 この時に考えるべき要素が、経済だけでなく、社会、環境の三つの要素を統合的に発展させていくということはSDGsの基本的な理念につながっている。
 SDGsおよびターゲットは統合され不可分のものである。例えば、食品ロスの削減というターゲットは、「飢餓の撲滅」、「資源効率の改善」、「気候変動対策を国別の対策及び計画に盛り込むこと」、「パートナーシップ」などさまざまな目標、ターゲットと関係し、それらとの同時達成につながる可能性がある。目標同士がトレードオフの関係ということもしばしばあるが、バランスを欠いた場合は共倒れになるため、適切なバランスと判断の「ものさし」が重要となる。また、どれか一つの目標だけを達成すればよいというものでもない。例えば、食品の製造から消費に至るまでの一連のサプライチェーン間で食品ロス発生の可能性の押し付け合いになってしまうと、自社の廃棄量は減ったとしても、サプライチェーン全体で減らないという場合もあり、パートナーシップで解決するというゴール17を達成していないことになる。つまり、負荷を他者に押し付けても、社会問題は解決せず、社会全体での損失は増加するため、サプライチェーン全体での解決が必要となる。
 SDGsは国連が定めたものだが、法律で義務付けられたものではないので、法的拘束力や強制的なものではない。ただ、仮に海外の小麦の主産地で大干ばつが発生した場合や今後、地球温暖化によって食料生産に甚大なダメージがあった場合、日本の食品産業も大きな影響を受けることになる。そうした意味から、自国だけではなく他国の課題も対岸の火事ではなく世界共通の課題になる。また、「SDGsは役所や大企業が取り組んでいればいいのでは」という声も聞くが、実際に広範な課題に取り組むに当たっては、中小企業、学術機関、自治体、NPO、NGOなど全てのステークホルダーが課題を自分事化していくことが重要である。自らの持ちうる資源や能力を活かしていくことこそが、持続可能なビジネス・まちづくりにつながっていく。
 これまでの企業価値は株価や決算など、財務情報をベースに評価がされてきたが、地球規模の環境・社会問題への関心が高まり、その課題に適切に対応できているか、企業として起こりうるリスクにしっかり向き合っているかが、企業価値を高めるとともに持続的な成長を左右するといっても過言ではない。リスクは企業にとっての弱点である一方で、これを克服・回避していくことは新たなビジネスチャンスにもなる。そうした企業経営の方針が新たな評価軸となりつつある。それが環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の三つを考慮したESG投資である。
 小官が担当した食品リサイクル関係の業務では、平成28(2016)年1月に、食品廃棄物の不適正な転売事案が発生し、その再発防止策の取りまとめを行ったが、この事案での問題点として、食品関連事業者の排出者としての責任に関する認識が希薄であったことなどガバナンスに関する問題も指摘された。こうした重大なリスクに現場だけでなく経営陣が率先して対策を講じることが企業価値棄損のリスクを回避することになる。
 さて、農林水産業・食品産業とSDGsとの関わりについて触れていきたい。農林水産業は、農地、森、海といった自然環境を基盤に、食料の生産を担っており、SDGsの17のゴールそれぞれと結び付いている(図2)。例えば、ゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」であれば、農山漁村の資源を再生可能エネルギーとして活用したり、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」であれば、温室効果ガス削減技術の開発や、気候変動リスクに対応する品種や技術の開発などが挙げられる。
 


 
 さらに、農福連携(農業と福祉の連携)は、障害者が農業分野での活躍を通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組であり、近年各地で、農業経営体が障害者を雇用する取組や障害者就労施設が農業参入する取組など、さまざまな形での取組が見られ、こうした取組はゴール3「すべての人に健康と福祉を」やゴール8「働きがいも経済成長も」、ゴール10「人や国の不平等をなくそう」につながる(図3〜5)。
 






 
 日本では、28(2016)年5月に内閣総理大臣を本部長とするSDGs推進本部が設置され、基本的な方向性を示すSDGs実施指針や具体的な行動を示したアクションプランが策定され、取組を推進しているところである。これまで企業の取組を中心に紹介をしたが、これは行政にも同じことが言える。中長期を見通した持続可能なまちづくりに取り組むことが地方自治体の役割となっている。地方自治体によるSDGsの達成に向けた取組は、地方創生の実現にも資するものであり、その取組の推進に向け、地方創生分野における日本の「SDGsモデル」の構築が進められている。30(2018)年6月には、地方自治体によるSDGsの達成に向けた優れた取組を提案した29都市が、令和元(2019)年6月には30都市が「SDGs未来都市」として選定された。
 また、SDGs達成に向けた優れた取組を行う企業・団体などに対して表彰されるSDGsアワードが29(2017)年から行われており、30(2018)年度に行われた第2回のアワードでは、食品残さから良質な飼料を製造し、その資料を用いて飼養された豚肉をブランド化することで、養豚業者や食品関連事業者、消費者を巻き込んだ取組を実施している株式会社日本フードエコロジーセンターに推進本部長(内閣総理大臣)賞が授与された。この取組は畜産関係者やエコフィードに携わる方々の大いに励みになったことと思う(図6)。
 


 こうした取組以外にも、食品産業においてSDGsを経営にどのように取り込み、ビジネスとして展開しているか、さらにSDGsを意識した経営を進めることによる効果についてもインタビューをしているので、参照ありたい(図7)。
(参照URL:http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/index.html
 

 
 今回は概括的な形で紹介をさせていただいたが、エコフィード以外にも、家畜排せつ物対策や飼養環境の改善対策、酪農における働き方改革、アニマルウェルフェアなど、さまざまな課題があり、畜産・酪農経営者単独では解決が難しい問題も多いだけに、本誌の読者においても、多様なステークホルダーと連携して、課題解決に向けた取組を推進することを切に願い、本稿を閉じたい。
(プロフィール)
平成16年農林水産省入省。富山県への出向などコメ政策の現場経験や、食と農に関する政府の基本計画の策定を担当。この他、世界農業遺産や食品ロスを担当。
31年4月から大臣官房政策課に在籍し、再び食と農に関する政府の基本計画の策定を担当。趣味は温泉と美味しい食べ物をめぐる旅行。