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特集:海外の持続可能な畜産における取り組み〜環境への配慮、規制の取り組みや課題〜 畜産の情報 2020年2月号

「持続可能な畜産」に対する世界的な動き

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調査情報部

 2015年9月の国連サミットにおいて「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、2030年を年限とする「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められた。詳細は農林水産省 大臣官房政策課 鈴木企画官に寄稿いただいた今号の巻頭言を参照されたいが、畜産部門においても、SDGsの達成に向けて、世界的な動きが見られる。
 2018年1月に開催されたベルリン農業大臣会合において、共同宣言「コミュニケ2018『畜産の未来形成‐持続可能性、責任、効率』」が採択された。同共同宣言は、序文で「持続可能な開発のための2030アジェンダと持続可能な開発目標(特にSDG2『飢餓をゼロに』)の達成のため、家畜生産をより持続可能にし、より責任あるものにし、より効率的にすることが重要」とし、(1)食料安全保障と栄養の確保(2)生計の改善(3)天然資源保全、環境保護及び気候変動への対応(4)動物衛生及び動物福祉の促進−といった行動が求められているとしている。

【共同宣言(英語)】
 https://www.gffa-berlin.de/wp-content/uploads/2018/01/GFFA_2018_Kommunique_EN.pdf
【共同宣言の概要(日本語)】
 https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kanren_sesaku/attach/pdf/180126-3.pdf

 また、同年10月には、国連食糧農業機関(FAO)が、「世界の畜産:持続可能な開発目標を通した家畜部門の転換(World Livestock: Transforming the livestock sector through the Sustainable Development Goals)」と題したレポートを公表した。ジョゼ・グラチアノ・ダ・シルバFAO事務局長(当時)は、同レポートの序文で、「何十年もの間、畜産をめぐる議論は、2050年に98億人に達する人口を養うために、いかに生産量を増加させるかに焦点が置かれていた」が、「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』により、畜産をめぐる議論の焦点は、持続可能な畜産物生産の推進それ自体から、畜産部門がいかにSDGsの達成に貢献できるかに移った」と述べ、畜産が特に発展途上国において、十分で安定した畜産物の供給、収入と雇用の増大、農村の女性のエンパワーメント(注)、天然資源のより効率的な利活用などを通じて、SDGsの達成に貢献し得るとしている。

【FAOレポート全文】
 http://www.fao.org/3/CA1201EN/ca1201en.pdf
(注) エンパワーメント:個人として、そして/あるいは社会集団として、意思決定過程に参画し、自律的な力をつけること(男女共同参画基本計画〈第2次〉)

 持続可能な畜産についての国際的な関心の高まりを受けて、2019年度の本誌「畜産の情報」の「海外情報」においても、「ニュージーランドの酪農業界における環境問題への取り組み(8月号)」「米国における食肉代替食品市場の現状(10月号)」「EUにおける有機(オーガニック)農業の現状〜高まる有機志向〜(11月号)」「オランダ酪農乳業の現状と持続可能性(サステナビリティ)への取り組み(1月号)」といった、持続可能性に関する記事を掲載してきた。
 さらに、今号では、こうした情勢を踏まえ、海外の持続可能な畜産における取り組みを報告することとした。一方、SDGsが広範な分野を対象としているように、「持続可能な畜産」という概念は、非常に幅が広いため、特に環境面における畜産関係者の取り組みに焦点を当て、米国の肉牛産業、オランダの養豚業界、豪州の肉牛産業、韓国の畜産業に関して調査した結果をまとめて報告する。各国が置かれている自然条件や畜産の歴史的・文化的背景の違いなどにより、それぞれの取り組みは異なるが、海外の状況把握の一助になれば幸いである。