[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ
検索
alic 独立行政法人農畜産業振興機構
畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 米国の肉用牛・牛肉産業における持続可能性(サステナビリティ)〜持続可能な牛肉のための円卓会議(USRSB)における取組状況〜

特集:海外の持続可能な畜産における取り組み〜環境への配慮、規制の取り組みや課題〜 畜産の情報 2020年2月号

米国の肉用牛・牛肉産業における持続可能性(サステナビリティ)〜持続可能な牛肉のための円卓会議(USRSB)における取組状況〜

印刷ページ

調査情報部 藤原 琢也、小林 誠

【要約】

 米国では肉用牛・牛肉産業における持続可能性(サステナビリティ)への関心が高まりつつある。
 2015年、全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)が事務局を兼ね、生産者(肉用牛繁殖農家、フィードロット)、パッカー・加工業者、小売業者が参画する「持続可能な牛肉のための円卓会議(USRSB)」が設立された。
 USRSBは、優先度の高い六つの重要指標:①水資源②土地資源③大気・温室効果ガス④効率化・収穫(算出)⑤アニマルウェルフェア⑥従業員の安全・健康−に関し、部門ごとに測定基準を設定し、サプライチェーン全体で持続可能性への取り組みを開始している。
 しかし、生産部門の各基準には政府の規制のように当然順守しなければならないものは含まれず、生産者の自主性が尊重され、義務付けなどは行われていない。

1 はじめに

 持続可能性(サステナビリティ)とは、元来、国際機関で環境問題を論じる際などに用いられてきた用語であるが、その概念が広く認知されつつある最近では、日常のさまざまな場面で耳にする機会も増えている。畜産分野に目を向けると、2050年には人口増加に対する食料需要が70%増加すると言われている中で、主要畜産国である米国に対する、動物性たんぱく質の継続的かつ安定供給への期待が増大している。一方で、環境問題が世界各国の懸念材料となる中、パリ協定(注)では温室効果ガス排出削減目標について取り決められ、米国は同協定から離脱したとはいえ、畜産分野から発出されるメタンガス抑制の必要性は課題の一つとなっている。
 こうした現状を踏まえ、本稿では、世界の牛肉生産量の約2割のシェアを誇り、世界最大の牛肉生産国である米国の肉用牛・牛肉産業における持続可能性についての取り組みを、ヒアリングなど現地調査の結果を踏まえ紹介することとしたい。
 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=111円(2019年12月末日TTS相場:110.56円)を使用した。また、本稿における数値データについては、特段の断りのない限り、「U.S. Roundtable For Sustainable Beef 2018 Annual Report」(USRSB)、「U.S. Beef Industry Sustainability Framework」(USRSB)、「2017 Cattlemen’s Stewardship」(NCBA)」に記載されている数値を利用した。

(注)  パリ協定とは、2015年にパリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で採択された気候変動に関する国際条約。今世紀後半に、世界全体の人為的温室効果ガス排出量を、人為的な吸収量の範囲に収めるという目標を掲げている。なお、米国は2019年11月4日、同協定からの離脱を正式に国連に通告した。

2 米国の牛肉サプライチェーンにおける持続可能性への取り組み

(1)米国円卓会議(USRSB)の概要

 米国の肉用牛・牛肉産業では、2015年に牛肉サプライチェーンの上流から下流までの関係者が参画する米国円卓会議(U.S. Roundtable for Sustainable Beef。以下「USRSB」という)という業界団体が発足し、米国における肉用牛・牛肉産業の持続可能性に関する検討が始まった。
 USRSBは、全米肉牛生産者・牛肉協会(National Cattlemen’s Beef Association。以下「NCBA」という)が事務局を務めており、生産者団体が業界をリードする形となった。また、NCBAは、肉用牛・牛肉産業の持続可能性関連活動を目標として2012年に創設された「持続可能な牛肉のための国際円卓会議(GRSB:The Global Roundtable for Sustainable Beef)」の理事会メンバーでもある。
 なお、NCBAは、国際的な牛肉マーケティング、ビジネス環境改善、組織の効率向上を目的に、牛肉の販売促進活動、市場調査、広報などの経済活動を行っている生産者団体であり、約2万8000人の生産者と複数の業界団体が加盟している。
 USRSBには生産者(肉用牛繁殖農家、フィードロット)のほか、牛肉サプライチェーンの各段階における利害関係者であるパッカー(食肉処理場含む)および加工業者、小売業者、研究機関・NGO並びにこれらの関連団体が参画しており、2018年時点で111社・団体が会員となっている(表1)。全ての会員は会費の納入義務があり、その額は企業規模や収益に応じて年間1000ドル(11万1000円)〜1万5000ドル(166万5000円)である。
 
 

(2)USRSBの活動指針、方針

 USRSBの設立目的は、「複数の利害関係者の共同作業を通じて、牛肉サプライチェーン全体を教育し、自主的に関与することにより、米国の肉用牛・牛肉産業の持続可能性の継続的な改善、促進、支援、周知を行う」とされている。
 また、ビジョンとしては、「米国の牛肉サプライチェーンは、環境に配慮したものであり、(食料の安定供給および関連産業の維持、雇用という)社会的な責任を果たし、経済的に実行(再生産を確保)可能な産業であり、グローバルリーダーとしての自覚を持つ」と(うた)っており、近年、肉用牛・牛肉産業がメタンガス排出など環境破壊の元凶と非難されている米国内の風潮へ対抗する姿勢が表れている。
 さらに、USRSBは、「過去、米国の肉用牛・牛肉産業界で行われた持続可能性への取り組みにおいて、非効率的かつトップダウンによる「押しつけ」により失敗した反省」を踏まえ、①連邦政府への政治活動②生産者への義務付け③個々のメンバーの取り組み状況の検証−については行わないとしている。


 

(3)重要指標の特定、SAGの策定

 2015年3月に開催された、持続可能性の枠組み策定(フレームワーク)のための初会合では、前述の活動指針、方針に即し、作業グループが構成され、①水資源②土地資源③大気・温室効果ガス④効率化・収穫(算出⑤アニマルウェルフェア⑥従業員の安全・健康−の6項目が重要指標として選定された(表2)。
 

 
 なお、六つの指標の選定に当たっては、食品安全、収益性、透明性、消費者認知度など約160に及ぶ他の候補の中から議論、検討が行われた。検討段階では、例えば食品安全など、「連邦政府の規制を満たさない牛肉を流通させない」といった当然の義務に該当する指標や、収益性など、「肉用牛・牛肉産業の成立に欠かせない(再生産(収益性)が確保できない牛肉サプライチェーンは消滅する)」といった指標については選定から除外されている。
 その後、サプライチェーンの実態把握、会員間での枠組み策定の検討継続、進捗状況の確認、パブリックコメントの実施などが行われ、2018年には「米国の肉用牛・牛肉産業における持続可能性の枠組み」が最終決定された。これに基づき、各部門の持続可能性に対する理解を促し、実装の手引きとなる持続可能性評価ガイド(Sustainability Assessment Guides。以下「SAG」という)が策定されることとなった。
コラム1 飼料効率や環境問題に対する遺伝学的取り組み
 家畜の遺伝的改良は、畜産業の生産性向上を図る手段の一つとして世界的に認識され、研究・実用化が進んでいる。遺伝的改良は、①目標とする形質の測定②測定結果からの遺伝的能力推定③選抜による次世代の生産性向上−によって実現し、②でより早く、より正確に推定を行い、③を実施できるかどうかが改良速度や成否に影響する。近年わが国でも実用化が進んでいるゲノミック評価(注1)は、遺伝子配列の情報を使うことで、これを実現しようとする取り組みである。
 2019年6月に米国シンシナティで行われたインターブル(種雄牛の遺伝的能力の国際評価を行う機関、事務局はスウェーデンのウプサラ大学内にある)および米国酪農学会(ADSA)でもゲノミック評価の発表が多く行われ、推定能力向上のための研究成果が発表された。また、牛の飼料効率や温室効果ガスの排出量といった今まであまり研究されてこなかった形質を対象とした研究発表も行われた。
 遺伝的な改良だけでなく、近年盛んなビッグデータの活用においても、推定の正確性を支えているのは大量のデータ測定である。しかし、飼料効率や温室効果ガスの測定は、実験的な環境を整えなければ測定が難しく、信頼に足る大量の測定値を蓄積することが難しい。このため、先進国の研究機関では共同プロジェクトによって研究を進めている。
 測定上の困難を解決する方法として、目的形質を直接測定するだけでなく、乳量や体重といった従来測定されてきた形質、あるいは最近比較的簡単に測定できるようになった形質(例えば、乳汁中の脂肪酸組成)を使って間接的に、飼料効率や温室効果ガスの排出量といった形質を改良しようとする研究も行われている。
 大量の間接的に関係する形質の測定値と目的とする形質とのつながりを調べるには、最近あらゆる分野で活用が進む人工知能(AI)関連の技術が活用できる可能性がある。今回の学会では遺伝子配列の補完(注2)にAIを用いた発表があったものの、間接測定値の分析に用いた発表は見られなかった。環境問題や畜産の持続可能性の問題に対して、遺伝学的な新たなアプローチが生まれてくるか、今後の研究が注目される。
 

 
(注1) ゲノミック評価とは、各個体のDNA型を検査し、その情報を経済形質の測定結果や血統情報に加えて、遺伝的能力を推定する方法。
(注2) DNA型の欠測を推定して補足すること。

(4)SAGの概要

 SAGでは、会員の理解の促進と持続可能性の促進、実効性の担保のため、①肉用牛繁殖・子牛生産部門②家畜市場部門③フィードロット(肥育場)部門④パッカー・加工業者部門⑤小売・食品サービス部門−の5部門ごとに評価基準が定められることとなった。これはすなわち、前述の6項目の重要指標 × 5部門 = 計30に及ぶ評価基準が設定されたことを意味する。また、それぞれの測定項目と評価基準については、重複する部分があり、影響し合う項目もあることから相関関係を有している。
 本稿では、生産部門(肉用牛繁殖・子牛生産部門、フィードロット部門)における環境関連の重要指標(水資源、土地資源、大気・温室効果ガス)に関する事項について紹介する。
 

3 生産部門における環境関連項目への取り組み

(1)肉用牛生産部門の概況とSAGにおける評価基準

 米国には70万以上の肉用牛繁殖農家、育成農家、フィードロットが存在しており、飼養頭数は約9300万頭にも及ぶ。一方、肉牛用繁殖農家の生産者の約9割が多世代に渡る小規模家族経営で、平均飼養頭数は40頭に過ぎない。フィードロットの約8割も家族経営で、その多くが収容能力1000頭未満だが、残りの約2割の同1000頭以上の層で全米の飼養頭数の8割を飼養するなど、大規模化、寡占化が進行している。
 肉用牛繁殖農家、育成農家数は、近年の大規模干ばつや新規就農者数の減少を受け減少傾向にある。農場の維持管理には多額の設備投資が必要であり、飼料代、肥料代、人件費、借地料といった生産コストが上昇していることも、農家数の減少に拍車をかけている。
 肉用牛・牛肉産業は他の畜種のように垂直統合されていないことも特徴の一つである。豚肉・鶏肉産業では生産からと畜、加工、販売まで同一事業者が監督できる場合が多いのに対し、肉用牛・牛肉産業では、多数の小規模生産者、フィードロット、パッカーのそれぞれが協力して最終製品を消費市場に供給している。よって、持続可能性を実践するには、各分野の利害関係者が一丸となって取り組む必要がある。
 米国の国土は広大で、50州のそれぞれで気候は大きく異なり、利用可能な天然資源も多種多様であることも大きな特徴である。地域ごとに、降水量、土壌、牧草、品種、血統、飼養施設の形態も異なるため、これら多様な経営形態、気象条件、地理的要因の全てが生産者の独自性と多面性に影響すると同時に、持続可能性に取り組むに当たって考慮すべき事項でもある。言い換えれば、持続可能性のために定量的かつ統一・画一的な評価基準を設定した場合、生産現場の実情を踏まえたものにならない恐れが生じる。
 このような状況を踏まえ、SAGでは、次のような評価基準が設定された(表3、4)。
 



 

(2)SAGの特徴

 SAGの評価基準において注目すべきポイントは、「利用水量の●●%削減」、「水質の●●%改善」といった、定量的な目標、効果測定は設定されず、生産者の自主性を重んじた内容となっている点にある。前述の通り、所在地域や経営形態がそれぞれ異なる生産者に対し、統一・画一的な目標設定を行ったとしても、その実効性を担保することは不可能に近い。 
 「放牧管理計画」、「水資源管理戦略」などについても、米国農務省(USDA)や各州政府は、輪換放牧の推奨や排せつ物の河川への流出防止に係る防護柵の設置など、標準的なプログラムを提供しているものの、それは強制力を持つものでない。
 また、例えば水資源に関しては、連邦政府が定める「水質保全法」(Clean Water Act)において、汚染物質を含んだ汚染水の河川や領海への排出規制や水質の基準が規定されている。肉牛の場合、飼養頭数が1000頭を超える経営体は大規模「集中家畜飼養施設」(CAFO:Concentrated Animal Feeding Operation)と定義され、汚水・ふん尿排出の認可取得が義務付けられている(注)
 しかし、こうした関連法令の順守といった当然実施しなければならない事項については評価基準として設定されておらず、「●●法に基づき、●●を改善、達成させた生産者数が●●%増加」などの定量的なものではなく、「各戦略またはそれと同等の措置を講じた生産者の増加率」というシンプルな基準が採用されている。
 さらに、生産コスト削減に伴う収益性の向上と、相応のコストが発生する環境負荷への対応はトレードオフの関係にあるが、そのどちらも重要であり、それぞれが置かれた状況を考慮した最善の達成目標を設定する必要があるとしている。
 もちろん、実際の生産現場では、各生産者は収益性を考慮しつつ、表5のような環境負荷削減への対応について責任を持った経営を行っている現状にあるとされる。「生産者の自主性を重んじる」とは、こうした状況を前提にした上で成り立つものであろう。


 
 なお、「温室効果ガスの排出には、畜産業、特に牛由来のメタンガスが大きな影響を与えている」との声もあるが、USRSBやNCBAは、USDAのデータを利用し、「直近150年間の地球における温室効果ガスの増加は人類の経済活動によるものであり、米国においては、発電、発熱、輸送のための化石燃料の燃焼が最大の要因である。米国の牛肉生産による直接排出は、米国全体の温室効果ガス排出量の1.9%に過ぎない。さらに1970年代以降、牛肉1ポンド(0.4536キログラム)当たりの温室効果ガス排出量は(家畜改良や生産の効率化などにより)9〜16%減少している。環境科学の進歩により、将来も温室効果ガス排出量は減少する見通しにある」との見解を示しており、こうした事実の周知も行っている。

(注) 「水質保全法」(Clean Water Act)は、米国の河川や領海への汚染物質を含んだ水の排出を規制し、水質の基準を設定する目的で制定された法律。同法の下、米国環境保護庁(EPA)は、健康保護や水質改善を目的に産業施設からの汚染物質排出(窒素、リン等)を規制するための基準が定められている。畜産分野の場合、家畜の飼育過程で発生した汚染物質(発生源はふん尿、飼料、肥料、死骸等)は、各農場の規模を基に定められた基準によって制限される。事故や雨水による突発的な排水や土壌整備に使われた水の排出も規制の対象となる。さらに、大規模「集中家畜飼養施設」(CAFO)の場合は、汚水・ふん尿排出の認可取得が義務付けられている。(大規模CAFOの指定家畜数は、肉用牛は1000頭以上、乳用牛は700頭以上、養豚は2500頭(55ポンド超)・1万頭以上(55ポンド以下))

事例紹介1 循環経営を実践する肉用牛繁殖兼肥育農家(ワイオミング州シャイアン近郊)


  今回の現地調査では、コロラド州の州都デンバーから車で約3時間、ワイオミング州の州都シャイアン郊外に位置する家族経営の肉用牛繁殖兼肥育農家(フィードロット)を訪問した。

(1)経営体の概要
 約50年前、経営者のペッチ氏一族は、標高1800メートル、年間降水量300ミリというこの地で肉用牛繁殖農場を開設した。その後、米国の牛肉産業の発展に伴うように肥育部門にも進出し、フィードロットも開設した。現在の労働力は3世代5人の家族労働に加え、4人の労働者を雇用している。
 飼料畑も含む総敷地面積は1万9000エーカー(7700ヘクタール)と広大で、800頭の繁殖雌牛を飼養している。フィードロットの収容可能頭数は5800頭、外部農家からの預託牛を含めた肥育牛の年間出荷頭数は1万頭の規模を誇る。自家用飼料として牧草、麦類、トウモロコシを栽培しているが、トウモロコシについては外部からも購入している。
 

 
 飼養品種は全て肉質の優れたアンガス種で、15カ月齢程度でフィードロットに導入し、250〜260日程度穀物肥育を行った後、23カ月齢程度でカーギル社、JBS社といった大手牛肉パッカーに出荷している。なお、出荷先はロットごとの入札金額によって決定している。
 
  
 
(2)環境面をはじめとする持続可能性への取り組み
 環境面では、周辺には同氏の家族および従業員以外の住居が存在しないため、臭気については全く問題となっていない。
 ふん尿については、まず、繁殖部門については完全放牧のため、特段の措置は講じられていない。泥濘(でいねい)化や排せつ物による水系汚染が懸念されるフィードロットについては、降水量が少なく乾燥した気候のため、液状部分は蒸発する量も多いが、流出分はフィードロット下方に簡易的なラグーンを設置し、ここに集めた上で灌漑(かんがい)用水として利用している。固形分については、ペン(フィードロット内の特定の区域)単位で牛群の入れ替えを行う際に()()()集め、飼料畑に散布している。



  
 
 フィードロットの設計自体にも工夫を施しており、貴重な降雨、降雪(およびふん尿)を有効活用すべく、敷地内の傾斜を利用し、簡易的な灌漑用ラグーンに自動的に集まるように設計されている。これらは、周辺のクリーク(小川)の水と混合し、スプリンクラーで飼料畑に散布している。
 牛の管理(逃亡防止、水源への接近防止など)のために有刺鉄線や鉄パイプでの柵が設けられており、事故を未然に防ぐ体制になっていることは言うまでもない。
「水質保全法」(Clean Water Act)に基づく措置および飼料畑の栄養状態の検査のために、定期的に農場内の水サンプルについて、ワイオミング州の試験機関を通じて米国環境保護庁(EPA)に提出しており、リン、カリウムの過剰蓄積を防止するなど、法令を遵守した対応を行っている。
 持続可能性については、「牛肉生産に携わるものとして、非常に重要であり、近年、その機運が高まっていることは認識している。自己完結型の循環経営を保持することで、環境面でも問題がないと考えている。(家族間の)後継者にも恵まれており、今後も生産、経営が継続していくことが何よりもサステナビリティだと思う」と語ってくれた。
 
 



 
 

事例紹介2 循環経営を実践するフィードロット(ネブラスカ州オマハ近郊)

 
 ネブラスカ州最大の都市オマハ(州都はリンカーン)郊外に位置する家族経営の肥育農家(フィードロット)、「J & S Feedlot」を訪問した。

(1)経営体の概要 
 約100年前、経営者のラスカンプ氏の祖父は、年間降水量600〜800ミリという丘陵地にフィードロットを開設した。その後、徐々に規模を拡大し、現在の労働力はラスカンプ氏夫妻を含めた3人のフルタイム労働者、4人のパートタイム労働者という構成となっている。
 総敷地面積は400エーカー(160ヘクタール)、うち100エーカー(40ヘクタール)のフィードロット、300エーカー(120ヘクタール)の飼料畑で、フィードロットの収容可能頭数は3500頭、肥育牛の年間出荷頭数は7500頭の規模である。自家用飼料として牧草、麦類(ライ麦)、トウモロコシを栽培しているが、トウモロコシ(不足分)、DDGS(Distiller's Dried Grains with Solubles。トウモロコシからエタノールを生産した際の副産物)、栄養補助剤(ペレット状のサプリメント)については外部からも購入している。
 飼養品種は全て肉質の優れたアンガス種で、550〜700ポンド(250〜320キログラム)程度で購入したもと牛を200日程度穀物肥育した後、カーギル社、JBS社、グレーターオマハ社(地場のパッカー)に出荷している。生体重、肥育期間から推測した場合、10〜12カ月齢程度で購入し、20カ月齢前後で出荷していると思われる。
 
 
  

(2)環境面をはじめとする持続可能性への取り組み
 事例紹介1のフィードロットと同様に、丘陵地の地形(傾斜)を有効活用し、降雨水およびふん尿は、敷地内のクリークの流れと合わせ、2カ所の簡易的な灌漑用ラグーンに自動的に集まるように設計されている。その後、貯水池にてバクテリア処理で水質を浄化した後、飼料畑にスプリンクラーで散布している。
 
 
 また、こちらも同様に、「水質保全法」に基づく措置および飼料畑の栄養状態の検査のために、定期的に農場内の水サンプルについて、米国環境保護庁(EPA)に提出している。
 


  
 
 排せつ物のうち固形分については、ペン単位で牛群の入れ替えを行う際に()き集め、堆肥化の上、近隣農家に100キログラム当たり6ドル(666円)という価格で販売している。
 持続可能性について伺うと、「米国では、牛肉生産に対する消費者からの環境面でのプレッシャーは大きい。祖父の代では、ふん尿等汚染水はそのまま近隣河川に流していたが、私の代では自己完結型の循環経営体制を構築し、堆肥化や水の再利用など、環境面での対応に万全を期している。敷地内の貯水池は、『水質保全法』により25年に1度の規模の自然災害(洪水など)でも流出しないよう対策が義務付けられているが、『100年に1度の規模』と言われた2019年春先の暴風雨による洪水の際にも、丘陵地に立地した関係により周辺地域への汚染水の流出は起こらなかった。一方、日々の肥育牛管理では休日を取ることもままならず、5人の子供たちは都心部で就職し、後継者の目途が立っていない。私も60歳を超え高齢であり、生産・経営面での継続可能性について不安に思っているところだ」と語ってくれた。

4 おわりに

 今回の調査を通じて、持続可能性という要素を畜産・畜産物の生産に取り入れていくに当たって、生産者に参画してもらう難しさが各方面から聞かれた。持続可能性の確保に取り組む上では相応の手間やコストがかかる上に、特に環境面ではこれを達成することによる経済的な動機付けがあるわけではないためである。
 一方、NCBAは、環境負荷対策に加え、持続可能性が牛肉サプライチェーン維持のために経営上重要になった要因として、消費者の声の高まりにも言及している。IT技術の発展、ミレニアル世代(注)の台頭などにより、畜産の専門的知識を持たなくても、ウェブサイトから生産についての情報を得たり、ブランドに関する感想や評価などをソーシャルネットワーク上で瞬時に共有したりということが可能となった。
 このような情報化進展の一方で、消費者が生産現場に接する機会は減少しており、米国の市民団体やNGOなどからは、肉用牛・牛肉産業がメタンガスなど温室効果ガス排出による環境破壊の元凶であるとの非難もある。こうした背景もあり、生産者や企業の積極的な姿勢が求められるようになっており、関連情報を積極的に開示し、消費者の期待に応える運営をしていくことが、業界全体の価値を高めることにもつながると考えられる。
 本稿では、世界最大の牛肉生産国における、生産者主導による持続可能性への取り組みを紹介した。今回の事例が、日本の肉用牛・牛肉産業が直面する、または今後直面するであろう課題の解決の一助になれば幸いである。
(注) ミレニアル世代とは、米国において1980年代から1990年代中盤に生まれた世代のこと。幼少期から青年期にインターネットが普及しており、SNSやインターネットでの発信に抵抗がなく、情報リテラシーが高い傾向があるとされる。
 



このページのトップへ

Copyright 2016 Agriculture & Livestock Industries Corporation All rights Reserved.