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海外の需給動向【牛肉/豪州】 畜産の情報 2020年4月号

2020年の牛肉生産、輸出量とも大きく減少する見込み

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2019年12月雌牛と畜頭数、25カ月連続で前年同月を上回る
 豪州統計局(ABS)によると、2019年12月の成牛と畜頭数は、クイーンズランド州およびニューサウスウェールズ州で継続している干ばつにより雌牛を中心に淘汰が増加していることから、59万9400頭(前年同月比7.7%増)とかなりの程度増加した(図1)。と畜頭数の内訳を見ると、雄牛は26万8000頭(同0.6%増)と前年同月をわずかに上回った一方、雌牛は33万1800頭(同14.3%増)とかなり大きく25カ月連続で前年同月を上回った。と畜頭数全体に占める雌牛の割合は、55.4%と依然として50%を上回る高水準となった。
 
 
 1頭当たり枝肉重量は、比較的重量の軽い雌牛の増加に伴い286.1キログラム(同1.4%減)とわずかに減少したが、と畜頭数の増加により相殺されたため、同月の牛肉生産量(枝肉ベース)は、17万1517トン(同6.1%増)と、4カ月連続で前年同月を上回った。

2019年の雌牛と畜頭数割合は過去最高を記録
 2019年の成牛と畜頭数は、848万1900頭(前年比7.7%増)とかなりの程度増加し、4年ぶりに800万頭を超えた(図2)。特に2019年後半は、と畜頭数が直近5年の各月平均を5〜14%上回った。と畜頭数の内訳を見ると、雄牛は372万9400頭(同3.8%減)と2年連続で前年を下回る一方、雌牛は475万2500頭(同18.9%増)と2年連続で前年を大幅に上回った。と畜頭数全体に占める雌牛の割合は、56.0%と2年連続で50%を超える高水準となるとともに過去最高となった。
 
 
2020年の牛飼養頭数、1992年以来の低水準となる見込み
 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は2月4日、「Industry projections 2020」において、四半期に一度の牛肉生産量などの見通しを公表した(表3)。2020年の見通しは次のとおり。
 
 
 牛飼養頭数は、2019年が干ばつで最も気温が高く乾燥した年となり、牧草や水不足により牛の淘汰が継続して行われたこと、また、年初の洪水や年末の森林火災などもあり、2470万頭(前年比5.8%減)と1992年以来の低水準になると見込んでいる。
 と畜頭数は、2020年1月の降雨により生産者の牛群再構築、増産意欲の回復に向けた動きがみられるものの、前年から続く干ばつの影響により第1四半期は引き続き増加し、その後徐々にと畜仕向けが減少する。気象条件が平年並みに回復した場合、牛群再構築のため雌牛の保留が増えることから、720万頭(同15.3%減)とかなり大きく減少すると見込んでいる。
 このため、牛肉生産量は、210万トン(同12.8%減)とかなり大きく減少を見込んでいる。1頭当たり枝肉重量は、穀物肥育牛の生産比率の上昇および雌牛と畜比率の低下により、291.7キログラム(同2.9%増)とわずかに増加する。
 牛肉輸出量は、生産量の減少により102万8000トン(同16.4%減)と大幅な減少を見込んでいる。
 輸出先国でみると、中国向けは2019年、ASF(アフリカ豚熱)の発生と富裕層の消費者の増加により、輸出量ベースで最大となった。2020年も引き続き中国におけるたんぱく源は不足するが、豪州からの牛肉輸出量は、中国における豚肉生産の回復や経済状況と併せて、米中貿易関係、南米輸出国の牛肉生産や政策、中国の政策の影響を受けるとみている。
 日本にとって豪州は最大の牛肉供給国であるが、米国産牛肉の日本への市場アクセスが改善されることから、豪州からの牛肉の輸出は、米国との競合が激しくなるとみている。
 米国向けは、米国内における牛肉消費が経済状況により影響を受けるものの、ブレンド用の赤身率の高い冷凍加工用牛肉や米国内で供給量の限られる牧草肥育牛肉は、米国市場において依然として重要な地位を占めるとみている。
 韓国向けは、米国産牛肉との競合が高まるものの、韓国の消費者にとって牛肉の原産国は非常に重要な関心事項であり、豪州産牛肉が最も安全で家庭で親しまれる牛肉であることに変わりはないとみている。
 生体牛輸出は、豪州北部における牛飼養頭数の減少により90万頭(同30.7%減)と大幅に減少すると見込んでいる。今後の生体牛輸出は、気象条件や飼養頭数の回復状況によるが、今後4年間は100万頭を下回るとみている。

1、2月の降雨により肉用牛取引価格が上昇
 2020年1月の降雨に続き2月、東部州でまとまった降雨があり、これまで干ばつの続いている地域にとっては恵みの雨となった。このまとまった降雨を受けて、肥育業者による牛の需要が高まった。このため、肉牛取引の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格が、急激に上昇した。2020年1月まで1キログラム(枝肉重量ベース)当たり500豪セント前後で推移していたが、1月中旬から上昇傾向となり、2月24日には同706豪セント(522円、1豪ドル=74円)となった(図3)。これまで、干ばつによる牧草や水不足で市場に出荷されていた肥育もと牛が、降雨により地元で保留され、市場への供給量が絞られてきたためである。肥育牛価格が堅調に推移すると、この傾向が続くとみられる。
 

 

(調査情報部 井田 俊二)