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海外の需給動向【牛肉/アルゼンチン】 畜産の情報 2020年4月号

輸出量は中国向けがけん引し、過去最高を更新

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輸出需要の高まりなどを受け、3年連続で生産拡大
 アルゼンチン工業生産・労働省によると、2019年の牛肉生産量は同2.2%増の313万4000トン(枝肉重量ベース)と共に3年連続で増加した(図4)。これは、中国向けなどの輸出需要の高まりから生産者が飼養頭数を拡大していることが背景にあるとみられる。また、干ばつの影響に伴い、経産牛の淘汰とうたが進んだことも要因の一つとされており、2019年におけると畜頭数に占める雌牛の割合は、1990年以降、最高水準の48.54%となり、特に4〜6月にかけては50%を超える高い水準となった(図5)。
 




 
 

 
輸出量は約76パーセントを中国が占める
 アルゼンチン国家統計院によると、2019年の牛肉輸出量は、前年比53.6%増の55万6462トン(製品重量ベース)と大幅に増加した(表4)。
 


 主要輸出先国では、ほぼ全ての国向けで輸出量が増加したが、特に中国向けの増加が顕著となった。中国は、経済発展に伴う所得の増加などにより、牛肉の需要が増加していることに加え、同国で発生したASF(アフリカ豚熱)に伴う代替需要から輸入を増やした。その結果、中国向けは全輸出量の76%を占めるまで増加した。一方、ロシア向けは、2017年12月から、それまでロシアにとって最大の輸入相手国だったブラジルからの輸入を、ロシア側が禁止している成長促進剤ラクトパミンが検出されたことを受けて停止していたが、2018年11月に輸入停止を解除した。このため、ブラジルのロシア向け牛肉輸出量が増加(注1)し、代替地の1つであったアルゼンチンのロシア向け牛肉輸出量は大幅に減少した。
 なお、アルゼンチンでは、2015年12月の政権交代以降、マウリシオ・マクリ政権が輸出拡大路線を進め、農畜産物の輸出規制が撤廃されるなど、輸出環境が改善していた。しかしながら、2019年12月に再び政権交代が起こり、国内保護色の強いアルベルト・フェルナンデス大統領が就任し、早々に輸出税の引き上げ(注2)が行われた。これにより、堅調に増加していた輸出にブレーキがかかる可能性もある。一方で、2018年以降、財政悪化に伴い米ドルに対してアルゼンチンペソ安が進み、さらに2019年8月に行われた大統領選の予備選挙でアルベルト・フェルナンデス大統領が圧勝したことを受け、急激にペソ安が進んだ(図6)。為替だけ見れば輸出環境が整い、アルゼンチン産牛肉に価格競争力があるとみられるが、上記のような新政権の方針もあり、今後の輸出量がどのように変化するのか注目される。
 

(注1)  ブラジルのロシア向け牛肉の輸出量の増加については、「畜産の情報」2020年2月号海外需給動向[牛肉/ブラジル]「10月以降に中国向け輸出量が急増し、国内相場にも大きく影響」を参照されたい。
(注2)  輸出税の引き上げについては、海外情報「アルベルト・フェルナンデス新政権、輸出税を引き上げ(アルゼンチン)」(2020年1月15日)(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002589.html)を参照されたい。

 
1人当たり牛肉消費量は減少が続く

 アルゼンチンは1人当たりの牛肉消費量が他の国と比べて多いことがよく知られているが、近年、その減少が続いている(図7)。アルゼンチン工業生産・労働省によると、2019年の1人当たりの牛肉消費量は前年比9.5%減の51.57キログラムとかなりの程度減少し、1990年の同78.23キログラムと比べて約25キログラム減少した。現地報道によると、牛肉消費量の減少は、経済の悪化に伴う購買力の低下や菜食主義者(ベジタリアンなど)の増加などによる食の変化が影響しているとされている。一方、鶏肉や豚肉の消費量は共に増加基調となっており、2019年の1人当たりの鶏肉消費量は43.36キログラム、豚肉は14.58キログラムとなっている。
 

 
去勢牛の出荷価格は高値で推移
 生産量は増加しているものの、輸出が大幅に増加していることや、物価上昇が続いていることなどから、同国内の去勢牛の出荷価格は上昇基調で推移している(図8)。肉用牛相対取引の指標となっているリニエルス家畜市場における2019年12月の出荷価格は、前年同月比90.9%高の1キログラム当たり82.88ペソ(約153円、1アルゼンチンペソ=1.84円)となった。国内相場がこのような状況のため、同国では2018年以降、ブラジルからの輸入が増加しているものの、2019年における全体の輸入数量は1万2617トンと、相場を落ち着かせるほどの数量とはなっていない。
 


 

(調査情報部 山口 真功)