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調査・報告 畜産の情報 2020年5月号 

はっ酵乳・乳飲料などの生産実態調査の結果

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酪農乳業部 乳製品課

【要約】

 当機構では、乳製品の生産動向を的確に把握するため、毎年度、乳業メーカーなどを対象に「はっ酵乳・乳飲料などの生産実態調査」を実施している。
 はっ酵乳は、平成27年4月から始まった機能性表示食品制度をきっかけに機能性ヨーグルトが注目され、新しいユーザーを獲得し、市場拡大につながったという経緯がある。しかしながら、30年度のはっ酵乳の生産量は前年度を下回り、「成長の踊り場」が続くという結果となった。また、乳飲料は、プロテイン製品といった一部の分野を除いて厳しい状況が続き、令和元年度は横ばいまたは減少傾向で推移するものとみられる。加工乳については、年々減少傾向であったが、低脂肪タイプの普及やアイテム数の増加を背景に、30年度は前年度から増加に転じた。

1 調査概要

(1)調査対象

 本調査は、「はっ酵乳(注1)」「乳飲料(注2)」「加工乳(注3)」の三つの品目ごとに生産量、成分、乳原材料使用割合などを調査したものである。
 平成30年度における調査対象は対象品目を生産している全国160企業(乳業者と非乳業者を対象)であり、有効回答は124企業(注4)、有効回答率は77.5%(124/160)であった(表1)。今回の本調査では、中小企業を中心に調査対象企業数を拡大したため、特に加工乳の生産量のカバー率が前年度から大幅に上昇した。
 
 
 本調査結果記載のデータは、いずれも各年度の回答を取りまとめたものであり、全国の統計を表すものではない。また、本調査結果のデータは、各年度の回答率や、大規模企業の回答の有無に影響されることに留意が必要である。
(注1) 生乳および乳製品を原料として、これを乳酸菌または酵母ではっ酵させ、のり状または液状にしたもの。
(注2) 生乳、牛乳、特別牛乳およびこれらを原料として製造した乳製品を主要原料とした飲料で、乳および乳製品以外のもの(ビタミン、カルシウム、果汁、コーヒーなど)を加えたもの。なお、本調査では、風味にかかわらず、色のついているものを「色物乳飲料」、白いものを「白物乳飲料」に分類した。
色物乳飲料:「乳飲料」のうち、乳成分に果汁、コーヒーなどを加えたもの
白物乳飲料:「乳飲料」のうち、乳成分にカルシウムやビタミン、レシチンなどを加えたもの
(注3) 生乳、牛乳もしくは特別牛乳、またはこれらを原料として製造した食品を加工したもの(成分調整牛乳、低脂肪牛乳、はっ酵乳および乳酸菌飲料を除く。)
(注4) 前回調査の調査対象企業数は121社、有効回答数は98社であった。

(2)全国生産量のカバー率

 本調査の全国生産量に対するカバー率は、はっ酵乳が77.2%、乳飲料が70.3%、加工乳が54.2%となった(表2)。
 
 

2 平成30年度調査結果の特徴

(1)はっ酵乳は、成長が鈍化し減少傾向

 平成30年度のはっ酵乳の全国生産量は、前年度から1.3%減少した。本調査で回答のあった企業のはっ酵乳の生産量も、前年度よりも0.1%減少した。減少要因としては、機能性ヨーグルトの成長鈍化、需要の減少などの回答があった。

(2)色物乳飲料、白物乳飲料ともに減少

 回答のあった企業の乳飲料のうち、30年度の色物乳飲料の生産量は前年度から減少しており、品目別にみると「コーヒー」が減少した。色物乳飲料の減少要因としては、無糖製品への嗜好の変化、人手不足により、回収の手間が必要なビンから使い捨て可能な紙容器への移行に伴うビン入り製品の出荷量の減少による、需要・受注量の減少などの回答があった。
 また、同年度の白物乳飲料の生産量も、前年度よりも減少している。減少要因としては、需要の減少に加え、他社との競争、生産ラインの減少、販売先の減少、自然災害による生産減などの回答があった。

(3)「加工乳」は増加

 加工乳の生産量は、23年度以降、原料となる乳製品の価格が上昇傾向で推移していることや、大手乳業を中心に、機能性での価値訴求を行いやすい白物乳飲料の生産にシフトしたことから年々減少傾向で推移したが、30年度は前年度から増加に転じた。この要因としては、健康志向に注目した低脂肪タイプの投入やアイテム数の増加などの回答があった。

3 生産動向

(1)はっ酵乳

 平成30年度のはっ酵乳の全国生産量は、前年度よりも1.3%減少し、129万9416キロリットルとなった(図1)。
 
 
 本調査で回答のあった企業のはっ酵乳の生産量は、前年度よりも0.1%減少し、100万3784キロリットル、カバー率は77.2%となった。
 はっ酵乳の生産割合を商品タイプ別(注5)でみると、「プレーン」は27.1%(2.1ポイント増)となった一方で、「ハード」は20.9%(2.2ポイント減)となった。「ソフト」と「ドリンク」は、前年度とほぼ同じ割合となった(図2)。

(注5) はっ酵乳の商品タイプを次の通り分類した。
(1)プレーン:糖類や果実などの乳成分以外のものを一切含まないもの
(2)ハード:糖類やペクチンなどの安定剤を添加したもの
(3)ソフト:果肉や果物を含むもの
(4)ドリンク:液状で飲料タイプのもの
(5)フローズンなど:冷凍されたもの、その他のもの

 
 
 生産割合を乳業区分別にみると、構成比は乳業系が約8割半、非乳業系が約1割半となっており、前年度とほぼ同じ結果となった(図3)。
 
 

(2)乳飲料

 30年度の乳飲料の全国生産量は、前年度よりも3.8%減少し、112万0176キロリットルとなった(図4)。
 
 
 本調査で回答のあった企業の乳飲料の生産量は、前年度よりも4.0%減少し、78万7493キロリットル、カバー率は70.3%となった。

ア 色物乳飲料
 回答のあった企業の30年度の色物乳飲料生産割合を商品タイプ別にみると、「コーヒー」は85.3%(前年度比0.3ポイント減)、「フルーツ」は5.9%(同0.2ポイント増)、「その他」は8.8%(同0.1ポイント増)となっており、前年度の構成比とほぼ同じとなった(図5)。
 
 
 生産割合を乳業類型別にみると、大手3社が64.7%(同0.5ポイント増)、農協プラント系が14.6%(同2.1ポイント増)、中小系が20.7%(同2.6ポイント減)となり、中小系がシェアを落とした(図6)。
 
 
イ 白物乳飲料
 回答のあった企業の30年度の白物乳飲料生産割合を乳業類型別にみると、構成比は大手3社が55.0%(0.6ポイント減)、農協プラント系が13.6%(1.0ポイント増)、中小系が31.4%(0.4ポイント減)となっており、前年度の構成比とほぼ同じとなった(図7)。

 

(3)加工乳

 30年度の加工乳の全国生産量は、9万9927キロリットルと前年度から7.5%の増加に転じた(図8)。
 
 
 本調査で回答のあった企業の加工乳の生産量は、前年調査より調査対象サンプルを拡大したことから、前年度よりも79.3%増加し5万4210キロリットル、カバー率は54.2%となった。
 加工乳の生産割合を商品タイプ(注6)別にみると、「低脂肪」が50.4%(同17.3ポイント増)、「普通脂肪」が21.8%(同0.5ポイント減)、「濃厚」が27.8%(同16.8ポイント減)となった(図9)。「低脂肪」と「濃厚」の構成比が昨年度より大きく変化した結果となったのは、調査対象サンプルを拡大したことによるものと考えられる。

(注6) 加工乳の商品タイプを乳脂肪率により次の通り分類した。
(1)低脂肪:1.5%以下
(2)普通脂肪:1.5%〜3.8%未満
(3)濃厚:3.8%以上

 
 
 生産割合を乳業類型別にみると、農協プラント系の割合が前年度より大幅に増加した(図10)。
 

4 乳原材料使用割合の動向

 各品目の乳原材料使用割合を調査した。ここでの使用割合とは、以下の算定式によって求められたものであって、乳製品以外の水分やフルーツなどを含め、原材料ベースの総重量で単純に算出したものである。
 乳原材料使用割合(%)=乳原材料使用量(トン)÷原材料総重量(トン)×100

(1)はっ酵乳

 はっ酵乳の乳原材料使用割合は、生乳(注7)の割合が18.5%で前年度よりも0.7ポイント増加した。脱脂濃縮乳の割合は12.2%、脱脂粉乳の割合は3.1%と、前年度と比較して大きな変化はない(図11)。
 
(注7) 「殺菌乳」「部分脱脂乳」などを含む現物ベース
 
 

 乳業類型別にみると、大手3社は生乳(15.6%)と脱脂濃縮乳(17.5%)を、農協プラント系と中小系は生乳(40.2%、20.7%)を使用する割合が高い(表3)。
 
 

(2)乳飲料

ア 色物乳飲料
 色物乳飲料の乳原材料使用割合をみると、生乳の割合が9.9%と前年度よりも1.5ポイント、脱脂濃縮乳の割合も3.7%と前年度よりも0.5ポイント、それぞれ増加している。また、脱脂粉乳、バター、ホエイ類の割合は、前年度とほぼ同水準となった(図12)。

 
 乳業類型別にみると、大手3社は脱脂濃縮乳(5.4%)を、農協プラント系と中小系は生乳(39.3%、16.6%)を使用する割合が高い(表4)。
 
 
イ 白物乳飲料
 白物乳飲料の乳原材料使用割合は、生乳が14.2%と前年度よりも0.7ポイント減少、脱脂濃縮乳も7.8%と前年度より0.5ポイント減少、脱脂粉乳も2.1%と前年度よりも0.2ポイント減少した(図13)。
 
 
 乳業類型別にみると、大手3社は脱脂濃縮乳(12.5%)と生乳(11.6%)を、農協プラント系と中小系は生乳(15.4%、18.3%)を使用する割合が高い(表5)。
 
 

(3)加工乳

 加工乳の乳原材料使用割合は、生乳の割合が14.7%と前年度よりも0.9ポイント減少し、27年度以降減少傾向にある。一方、脱脂濃縮乳の割合は21.0%と前年度よりも5.9ポイント増加し、脱脂粉乳は1.3%と前年度よりも1.3ポイント減少した。バターはほぼ横ばいであった。クリームは前年度よりも5.2ポイント増加した(図14)。調査対象サンプルを拡大したことで、脱脂濃縮乳とクリームの構成比が大きく変化したものと考えられる。
 
 
 乳業類型別にみると大手3社と農協プラント系は脱脂濃縮乳(24.0%、28.6%)を、中小系は生乳と脱脂濃縮乳(16.6%、15.4%)を使用する割合が高い(表6)。
 

5 過去10年間の生産動向

(1)生産量

 はっ酵乳の生産量は、消費者の健康志向の高まりなどを背景に増産傾向で推移してきたが、平成30年度は2年連続で前年度を下回る結果となった。一方、乳飲料は原料価格の高騰などを背景に26年度以降、一貫して減少傾向で推移している。加工乳は23年度以降、減少傾向で推移していたが、今年度は低脂肪タイプの白物乳飲料から低脂肪加工乳への切替、低脂肪タイプの投入などを要因に増加に転じた(図15)。

 

(2)乳原材料の使用割合の変化

 はっ酵乳、乳飲料および加工乳の原材料の使用割合をみると、24年度から27年度までは、国内の脱脂粉乳価格の上昇に伴い、無脂乳固形分に対する需要が脱脂粉乳から脱脂濃縮乳へシフトしたことなどから、脱脂濃縮乳が増加傾向で推移した。また、27年4月に機能性表示食品制度が開始され、機能性ヨーグルトが注目されたことも、脱脂濃縮乳の増加に影響を与えた可能性がある。
 29年度以降は、生産量の多いはっ酵乳および乳飲料では、各乳原材料の使用割合は大きな変動もなく推移しているが、加工乳については、脱脂濃縮乳の割合が増加している(表7)。
 
 

(3)「脱脂濃縮乳」の使用割合変化の要因

 「脱脂濃縮乳」の使用割合が増加した要因は各社によって見解が分かれるが、脱脂粉乳と比べ生産効率や風味の向上を図る点で優れているとの共通認識があり、生産・消費が拡大したとされる。
 はっ酵乳については、大手3社では最新の工場設備や高い商品開発力を生かし、商品の風味や生産効率を高めるために、脱脂粉乳から脱脂濃縮乳へシフトしてきた。脱脂濃縮乳を使用することで、製品の風味を高めつつ、相対的に乳価の高い生乳の比率を抑えることで、原料コストを抑えることが可能となったことが考えられる。また、牛乳から生クリームを製造する工程で脱脂濃縮乳や脱脂粉乳が得られるが、これらを自社向けのはっ酵乳や乳飲料などに使用できることも脱脂濃縮乳の使用割合が増加した要因の一つである。これらの状況から、特に24年度〜27年度にかけては、脱脂濃縮乳の使用割合が増加した。
 なお、大手3社の30年度の脱脂濃縮乳におけるはっ酵乳についての使用割合は17.5%であり、28年度以降では最低となった。これは、脱脂粉乳の在庫が右肩上がりで推移する中、在庫の消化を優先したことが背景にあると考えられる。

6 はっ酵乳および乳飲料の生産見通し

 乳業大手3社に、①平成30年度の生産動向および市場動向②令和元年度の見通しについてのヒアリングを行った。

(1)30年度の生産動向および市場動向

 はっ酵乳の生産量は、28年度をピークに、29年度以降は前年度を下回り、「成長の踊り場」が続いている。
 こうした中、乳業メーカー各社はさまざまな機能性(整腸作用、血圧・血糖値・中性脂肪の改善、尿酸値の上昇抑制などをうたった)ヨーグルトを発売しているが、限られた市場の中でシェアを奪い合う競合環境も懸念材料となっている。
 機能性ヨーグルトに鈍化傾向がみられる一方、プレーンタイプのヨーグルトなど定番商品は比較的好調である。口当たりや優しい甘さ、良質のたんぱく質やカルシウム・ビタミンB2が豊富といった、はっ酵乳の本来の良さが再確認されたものとみられている。ヒアリングでは、「プレーンタイプのヨーグルトは、フルーツと一緒に食べる」「味わい志向のフルーツヨーグルトは安定した人気」との見解が示された。このような消費行動の変化がみられる中、新しい食べ方の提案や新商品開発につなげることで、踊り場からの脱出が期待されている。
 乳飲料に関しては、長期にわたる減少傾向が続いており、今後も回復が見込みづらい状況となっている。牛乳消費が比較的堅調に推移する中、乳業メーカー各社は、コーヒー牛乳を使用したデザートの新製品開発や、外食産業とのコラボレーションによる期間限定販売を展開するなど、さまざまな方法により乳飲料の底上げを図っている。

(2)今後の見通し

 乳業メーカー各社の見解では、令和元年度のはっ酵乳市場は横ばいで推移するものとみられている。今後、はっ酵乳市場が成長拡大していくためには、新たな健康課題へ対応した機能性ヨーグルトの開発の他に、「ヨーグルトとフルーツを一緒に食べる」「たんぱく質やビタミンB2などが豊富であり、ヨーグルト一つで1食賄える」といった新しい切り口での提案も考えられるとの指摘もあった。
 乳飲料は、プロテイン製品といった一部の分野を除いて厳しい状況が続き、元年度は横ばいから減少傾向で推移するものとみられている。乳業メーカー各社は、今後、生乳生産の増加が見込まれる中、これまでのような堅調な牛乳需要が継続するのかどうか、こうしたさまざまな要因をにらみながら、新たな商品アイテムや乳原材料の構成などに関する戦略を模索していくものと考えられる。