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調査・報告 畜産の情報 2020年7月号 

搾乳ロボットの導入と持続的な酪農経営の展開

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岡山大学大学院 環境生命科学研究科 教授 横溝 功

【要約】

 岡山県は、中国・四国地域で乳用牛の飼養頭数が最も多い酪農県であるが、酪農家戸数は最近10年間で大きく減少している。この背景の一つとして、搾乳作業が毎日の労働で、かつ労働負担も厳しいことが挙げられる。今回、同県において搾乳ロボットを導入した2戸の事例から、搾乳ロボットの導入が酪農経営にもたらす効果を明らかにした。その結果、できるだけ既存の設備を活用することによる投資額の抑制や牛のスムーズな移行、導入後の維持・管理も考慮した機器選定などが重要であることが明らかになった。

1 はじめに

 近年、酪農家戸数は急速に減少している。図1は、都府県における乳用牛の飼養頭数規模別飼養戸数の推移を見たものである。平成22〜31年の10年間で、総戸数が年率5.22%の割合で減少している。100頭以上規模層のみ、年率0.22%とわずかに増加している。
 
 
 岡山県は、31年2月1日時点で、乳用牛の飼養頭数が全国で10位、中国・四国地域で1位の酪農県である。図2は、同県における乳用牛の飼養頭数規模別飼養戸数の推移を見たものである。22〜31年の10年間で、総戸数が年率5.97%の割合で減少しており、都府県の減少率を上回っていることが分かる。また、100頭以上規模層(年率1.24%減)を含む全階層で減少している。
 


 
 他方、北海道の状況は都府県や岡山県とはやや異なっている。図3は、北海道の乳用牛の規模別飼養戸数の推移を見たものである。22〜31年の10年間で、総戸数が年率2.71%の割合で減少しているものの、減少率が都府県の半分にとどまっている。100頭以上規模層のみが増加している点は都府県と同じであるが、年率1.67%と都府県を大きく上回る増加率である。
 以上のことから、岡山県の酪農家戸数は、北海道はもとより都府県の中でもより減少傾向が大きいことが分かる。
 28年2月に策定された『岡山県酪農・肉用牛生産近代化計画書』の、
T  酪農及び肉用牛生産の近代化に関する方針
 2 担い手の育成と労働負担の軽減
 (4) ロボット等の省力化機械の導入推進
では、ロボット等の省力化機械の導入推進を挙げている。
 具体的には、以下の記述がある。「高齢化や人口減少が進む農村では、労働力の確保が一層困難になっている。こうした中、搾乳、哺乳、給餌、発情発見、分娩等の労働負担の軽減に資する省力化機械が普及・定着しつつあるため、必要性を十分検討した上で、これらの計画的な導入を推進する」
 そこで、本稿では、岡山県でも早期に搾乳ロボット(以下「ロボット」という)を導入した事例、また、最近になってロボットを導入した事例を取り上げることにする。そして、ロボットの導入が、担い手の育成と労働負担の軽減にどのように貢献しているか、また導入効果について、明らかにしたいと考えている。

2 早期にロボットを導入した事例(徳山牧場)

(1)経営の概略

 早期にロボットを導入した事例として、徳山氏の経営を取り上げる。徳山牧場は、岡山県井原市にある。岡山市内から約50キロメートル離れた吉備高原に立地し、車での移動により片道約1時間30分を要する。
 ヒアリング調査をさせていただいた徳山彰氏の年齢は、34歳(令和2年6月現在)と若い(写真1)。彰氏の父親は66歳である。経営形態は個人経営で、酪農部門の労働力は親子2人である。乳用牛の飼養頭数は、搾乳牛60頭、乾乳牛14頭、未経産牛45頭である。図2の縦棒グラフでは、上から3番目の階層になり、岡山県では比較的規模が大きい経営体であることが分かる。
 なお、徳山牧場ではアイス工房も運営しており、6次産業化に乗り出している。家族労働力の役割分担が明確にできている。
 

(2)家畜の飼養管理

 経産牛1頭当たり搾乳量は、年間約9000キログラムである。また、初産分娩から廃用までの平均産次数は3産とのことであった。
 敷料は、おがくずと戻し堆肥を1:1の割合で用いている。おがくずは2カ所から調達している。1カ所からは、8トンダンプで月に1回供給され、輸送コストは1回当たり5万6000円である。もう1カ所からは、8トンダンプで月に2回供給され、輸送コストは同4万5000円である。従って、購入敷料費は年間175万2000円になる。経産牛1頭当たりに換算すると2万3676円/頭(=175万2000円÷74頭)になる。ちなみに、平成30年度の中国地域における平均購入敷料費は、搾乳牛通年換算(=経産牛)1頭当たり1万8206円(農林水産省「畜産物生産費統計」)であることから、中国地域の平均的な購入敷料費と比べるとコストがかかっていることが分かる。
 飼養管理のポイントは、コンピュータを用いて正確なデータ管理を行うことであると、徳山氏は強調している。そして、後継牛として残したい乳用雌牛にはホルスタインの精液を、それ以外の乳用牛には和牛の精液を人工授精しており、副産物の比率は乳用牛:交雑種=1:1になっている。なお、後継牛の初産では性判別精液を用いていたが、現在は後継牛を確保できているので使用割合を減らしている。

(3)粗飼料の調達

 飼料畑はほぼ借地で、井原市の大倉財産区から借りている。地方公共団体には、都道府県や市町村などの「普通地方公共団体」と、政策的に作り出された特殊な地方公共団体である「特別地方公共団体」がある。後者には、「特別区」「地方公共団体の組合」「財産区」「地方開発事業団」の四つがある。つまり、大倉財産区は「特別地方公共団体」である。「財産区」の財産には、山林、原野、ため池などがあるが、徳山牧場は、同財産区の所有する原野40ヘクタールを、10アール当たり約3000円で、他の酪農家1戸および肉用牛の繁殖肥育一貫経営の1戸の3戸共同で、飼料畑として借りている。
 同牧場の栽培面積は、イタリアンライグラス12ヘクタール、デントコーン6ヘクタールである。
 また、牛舎から500メートル離れた場所に放牧地50アールを確保しており、18〜20頭の未経産牛を周年放牧している。
 単収は、生草で、イタリアンライグラスが10アール当たり1.2トン、デントコーンが同3トンで、イタリアンライグラスの収穫量が少ない。収穫調製作業は、ハーベスターからワゴンへ、ワゴンからコンビラップへという流れになっている。調製した粗飼料の分析は、飼料会社に依頼している。
 購入乾草は、アルファルファを1日当たり240キログラム、スーダンを同180キログラム、チモシーを同180キログラム、それぞれ給与している。粗飼料を輸入乾草だけで賄うとすると、以下の計算の通り、同1トン近い量が必要になる。しかし、実際に給与している輸入乾草は同600キログラムであり、残りの同400キログラム分は自給飼料で賄われていることになる。

 74頭×10キログラム/頭/日 +45頭×5キログラム/頭/日 =965キログラム/日

 なお、上の式では、経産牛に粗飼料として乾草だけを給与した場合に、必要な乾草を1日1頭当たり10キログラムとし、45頭の未経産牛は経産牛の半分の輸入乾草を給与すると仮定している。
 
 

(4)堆肥の投入

 2〜3年前から本格的に堆肥を投入しており、その投入量は飼料畑10アール当たり10トンである。また、化成肥料は投入していない。表は、徳山牧場における堆肥の需給について見たものである。脚注の通り、敷料に戻し堆肥とおがくずを用いていることから、その年の家畜ふん尿の排せつ量と、おがくずの購入量の合計を、その年の堆肥供給量と仮定する。そうすると、堆肥の供給量は約1800トンになる。他方、飼料畑に必要な堆肥の需要量も1800トンで、おおむね両者のバランスが取れていることが分かる。
 
 

(5)ロボット導入の動機

 ロボット導入の動機は、徳山牧場の場合、搾乳作業時の労働負担の軽減にあった。導入機種は、他社と比較して搾乳のスピードとメンテナンスのサービスが優れているという理由から、オランダのレリー社(以下「レリー」という)製の「アストロノート」を選定した(写真3)。
 


 
 ロボットを導入したのは平成22年であり、導入費用は2500万円であった。ロボット導入に伴う関連機器の導入および施設改修のコストは、200万円に抑えた。これらの費用はすべて自己資金で調達した。
 通常、つなぎ飼い牛舎からフリーストール牛舎やフリーバーン牛舎に移行した場合、牛だけではなく人も慣れることが必要である。しかし徳山牧場の場合、フリーバーン牛舎で4頭複列のミルキングパーラー(以下「パーラー」という)を利用していたところからロボット搾乳に移行したので、その問題はあまりなかった(写真4)。また、すでにフィードステーションを設置していたのでロボットを導入しやすかった。それ故、不適合牛は1頭のみで済んでいる。当該牛は、ロボットに入って暴れることから、売却したとのことである。
 メンテナンス料およびランニングコストは、それぞれ年間120万円である。導入後の10年間で一度、コンプレッサーの交換に100万円を要したことがあるが、それ以外で大きなトラブルに見舞われたことはない。4〜5年前、台風による倒木で半日間停電になったことがあるが、当時も牛に影響はなかった。なお、こうした不測の停電時は、電力会社に迅速な復旧を依頼するほか対応策がなく、現在も課題となっている。
 ロボットの故障時は、総社市にあるレリーの代理店から、片道1時間程度でスタッフが来る。導入後10年を経過して、ある程度、徳山氏自身でも修理できるようになっているとのことであった。故障時などに備えてパーラーを残しているが、それを稼働させる必要が生じたこともない。

(6)ロボットの導入効果

 ロボット導入によって、搾乳量は1日1頭当たり2キログラム増加した。搾乳回数は、1日当たり3〜4回である。また、多回搾乳に伴う乳房の負担を軽減するために、最大搾乳回数を設定している。ロボット導入によって、牛の供用期間は延びている。
 さて、搾乳量の増加がもたらした経済効果について考察する。搾乳牛60頭で、以下の通り年間搾乳量が増加することになる。

 2キログラム/日/頭 × 60頭 × 365.25日 ≒ 4万キログラム
 
 平成21〜31年度の生乳農家販売価格の推移は、図4の通りである。徳山氏がロボットを導入した22〜31年度の同価格は全国平均で1キログラム当たり97円である。それ故、約4万キログラムの搾乳量の増加は、約388万円の売上増加につながる。
 
 
 搾乳量の増加に伴う飼料給与量の増加の有無は不明だが、ロボットのメンテナンス料とランニングコストの240万円を控除すると、経済効果は148万円になる。
 さらに、搾乳労働時間の短縮効果について考察する。30年度の全国の50〜80頭規模層における「搾乳及び牛乳処理・運搬」の平均労働時間は、搾乳牛通年換算(=経産牛)1頭当たり48.52時間である(農林水産省「畜産物生産費統計」)。ちなみに、30〜50頭規模層における同作業の平均労働時間は同60.13時間であり、50〜80頭規模層と約11時間の大きな差が生じている。これは、両階層間で、つなぎ飼い牛舎からフリーストール牛舎やフリーバーン牛舎へ搾乳方式が変わったためと推測される。
 次に、労働負担の軽減による経済効果を、時給1000円として評価する。

 48.52時間/頭 × 60頭 × 1000円/時 ≒ 290万円

 前述の搾乳量の増加による経済効果を加えると、約438万円になる。
 ロボットの更新時期の目安が導入後10年であることから、年間a万円の経済効果が10年間得られ、利子率0.2%(農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の金利)の融資制度を利用すると仮定すると、以下の総効果が得られる。

 S=a+a/1.002+a/1.0022+…+a/1.0029

 前述の通り、ロボット導入などに伴う投資額は2700万円であった。
 S = 2700万円として、aの値を計算すると、以下のようになる。

 a =0.002×2700万円×1.0029/(1.00210−1)≒272万円

 従って、438万円−272万円=164万円よりも飼料費のコストの増分が少なければ、投資効果があったといえるのである。
 徳山牧場は、22年にレリーの「アストロノート」A3を1台導入したが、当時はA3から後継機種A4への移行期だったことから、部品の交換が難しいことを問題として挙げていた。
 今後は、搾乳牛を現在の60頭から120頭に増頭し、それに伴い「アストロノート」のさらなる後継機種A5を2台導入することを計画している。1台は畜産クラスター事業で、1台は自己資金による導入を目指している。増頭するに当たって留意すべき点は、家畜排せつ物の処理である。表に示したように、現在の飼養頭数規模で堆肥の需給バランスは取れている。それ故、増頭を計画する場合には、堆肥の販売も含めた新たな対応が求められることになる。

3 最近ロボットを導入した事例(合同会社川上ファーム)

(1)経営の概要

 次に、比較的最近ロボットを導入した事例として、川上氏の経営を取り上げる。合同会社川上ファームは、岡山県高梁市の標高400メートルの山中に立地し、前述の徳山牧場からは、車で北へ約15分の距離である。酪農部門の労働力は、ヒアリングをさせていただいた川上拓郎氏と両親の3人である(写真5)。拓郎氏は38歳(令和2年6月現在)と若く、父親から経営継承する際に、法人化にこだわりを持っていたため、法人化しやすい経営形態として合同会社を選択した。また、現在は両親と、将来的には妻との家族経営を想定していたことも、合同会社の選択につながっている。平成29年4月に合同会社がスタートし、現在の飼養頭数は、搾乳牛75頭、乾乳牛17〜18頭、未経産牛45頭である。
 
 
 父親が所有する20アールの水田を同社が借り受けて、飼料作を行っている。水田の借地料は、10アール当たり数千円である。なお、同社は、拓郎氏の高校時代の同級生でもある顧問税理士のアドバイスにより、経産牛も含めた固定資産を父親から借り受ける形態を取っている。そのような方法をとったのは、法人として固定資産を登記するとかなりのコストを要するためでもある。なお、育成牛は、会社が買い取っている。

(2)家畜の飼養管理

 経産牛1頭当たり搾乳量は、年間約10000キログラムである。また、平均産次数は3〜4産とのことであった。
 敷料は、主として乾乳牛と育成牛におがくずを用い、経産牛には戻し堆肥を用いており、使用比率はおがくず:戻し堆肥=3:7である。おがくずは1カ所から調達しており、8トンダンプで週に1回供給され、輸送コストは1回当たり2万2000円である。従って、購入敷料費は年間114万8000円になる。経産牛1頭当たりに換算すると1万2344円/頭(=114万8000円÷93頭)になる。前述の通り、30年度の中国地域における平均購入敷料費は、搾乳牛通年換算(=経産牛)1頭当たり1万8206円であることから、中国地域の平均的な購入敷料費と比べるとコストを低減していることが分かる。
 飼養管理のポイントは、徳山牧場と同じく、コンピュータを用いて正確なデータ管理を行うことである。特に、搾乳牛の個体ごとの乳量および飼料給与量の減少に気をつけている。
 また、乳牛の肢蹄の管理に留意している。平成30年1月の搾乳ロボット導入に合わせてスクレーパーの導入を検討したが、牛も、川上氏自身も段階を踏んで機器に慣れる方が良いと判断し、スクレーパーは翌年2月に導入した。導入後、肢蹄の傷みも多少生じたが、丁寧に観察して対処している。
 性判別精液を用いた人工授精により安定的に乳用後継牛を確保できており、副産物は交雑種子牛:乳用雄子牛=3:2で販売している。美星町の開業獣医師に、人工授精や治療を依頼している。

(3)粗飼料生産

 飼料作面積は、前述の父親から借り受けている水田の20アールのみで、そこで栽培したイタリアンライグラスを、乾乳牛と育成牛に青刈りの状態で給与している。購入粗飼料は、アルファルファを1日当たり450キログラム、チモシーを同200キログラム、オーツヘイを同200キログラム、クレイングラスを同50〜60キログラム、それぞれ給与している(写真6)。粗飼料を輸入乾草だけで賄うとすると、以下の計算の通り同約1トンを超える量が必要になるが、実際に与えている輸入乾草は同900キログラム程度である。
 
 93頭×10キログラム/頭/日+45頭×5キログラム/頭/日=1155キログラム/日

 なお、上記の計算式では、徳山牧場の場合と同様、経産牛に粗飼料として乾草だけを給与した場合に、必要な乾草を1日1頭当たり10キログラムとし、45頭の未経産牛は経産牛の半分の輸入乾草を給与すると仮定している。
 川上ファームでは、通常のTMRの栄養濃度を低く、ロボットで給与するTMRの栄養濃度を高く調製するなどの工夫をして、搾乳牛がロボットに入ることを容易にしている。
 

(4)堆肥の処理

 家畜ふん尿は、自家処理または高梁市との境に立地する美星町の堆肥センターに委託して処理しており、その割合は8:2または7:3である。自家処理は攪拌式(水分含有量が多い排せつ物)とコンポスト式(水分含有量が少ない排せつ物)の2方式で行っており、その割合は1:1である。
 自家処理してできた堆肥は、主に前述の飼料作用水田への還元や牛舎のベッドに用いる戻し堆肥として処理し、残りを県内の耕種農家へ提供している。利用者が堆肥を引き取りに来る場合は無料で提供し、配達(散布は行わない)の場合は利用者から配達料(4トン車)を徴収している。両者の割合は2:8で、いずれも固定客が多い。配達料は、届け先が井原市美星町であれば1トン当たり1000円、倉敷市玉島町・倉敷市真備町であれば1トン当たり2000円である。なお、固定客の中には前述の徳山氏に紹介してもらったケースもあり、酪農家間の連携の重要性を物語っている。

(5)ロボット導入の動機

 川上ファームでは、人を雇用してパーラーを利用するか、それともロボットを導入するかの選択に直面した際に、現在の立地条件を考慮した。すなわち、標高400メートルの山間部に位置するので、労働力の確保が難しいと判断したのである。
 そこで、拓郎氏が父親から経営継承する際に、ロボットを導入した(写真7)。導入機種としてレリーの「アストロノート」A4を選択したが、その理由は、第一に、代理店へのアクセスが良く、前述の徳山氏を含め近隣の酪農家がレリーのロボットを導入していたことがある。レリーの代理店(総社市)から川上ファームまでは車で1時間の距離であり、また拓郎氏の中四国酪農大学校在籍時の先輩が所長を務めている。レリーを選択したもう一つの理由としては、繁殖・発情発見に効果があると聞いていたこともある。
 
 
 初期の投資額は、ロボットだけで3000万円であり、さらに施設の整備・改築、2.5トンのバルククーラーの追加に1000万円超を要した。
 メンテナンスは、レリーの代理店が提供する10年間のマスタープラン(費用148万5000円)に加入しており、拓郎氏は精神的に楽であると述べている。それ故、次回もレリーでの更新を考えている。以上のように、ロボットの選択に当たっては、メンテナンスサービスがいかに大切であるかが分かる。
 ランニングコストは年間180万円(1カ月当たり15万円)である。
 過去の台風による停電の際に、1〜2頭が乳房炎を発症しかけたとともに、バルククーラーの温度が上昇し生乳の廃棄につながったという苦い経験はあるが、これまでロボットに関するトラブルはない
 なお、川上ファームの場合は、ロボット導入に当たり、牛舎の整備は改築で対応した(写真8)。改築の場合、100点満点のレイアウトにはならないが、元の施設を活用しているので、搾乳牛が早くロボットに慣れるというメリットもあると拓郎氏は述べている。

 

(6)ロボットの導入効果

 川上ファームでは、ロボットの導入によって、搾乳量はロボット導入前と比べて10%増加し、搾乳牛1頭当たりに換算すると年間で約910キログラム増加した。しかし飼料費も、ロボット導入前と比べて5%増加した。
 ロボットを導入した平成30年は、図4の通り乳価が高い時期であった。29〜31年度の生乳農家販売価格は全国平均で1キログラム当たり103.8円なので、経産牛の飼養頭数が92頭とすると、約869万円の売り上げの増加になる。なお、搾乳回数は、春秋冬が1日当たり2.9〜3回、真夏が同2.5〜2.6回とのことであった。当地は、前述の通り標高400メートルであることから、真夏でも朝夕は涼しく、生乳生産にプラスに働いている。
 また、多回搾乳に伴う乳房の負担を軽減するため、レリーの推奨により搾乳回数を最大5回と制限している。
 ちなみに、30年度の中国地域における平均購入飼料費は、搾乳牛通年換算(=経産牛)1頭当たりの飼料費は、51万9427円と、約52万円である(農林水産省「畜産物生産費統計」)。前述の飼料費が5%増加した場合に、52万円×5%=2万6000円だけ増加すると考えると、経産牛の飼養頭数が92頭として、約239万円の飼料費の増加になる。
 生乳生産量の増加に伴う経済効果から、飼料費の増加に伴う経済効果を控除すると、約620万円のプラスの経済効果ということになる。
 ロボットのメンテナンス料とランニングコストの約329万円を控除すると、経済効果は約291万円になる。
 現在、ロボットで50頭、パーラーで25頭の搾乳を行っている。パーラーは母親が担当しており、乾乳前の牛や乳器の形がロボットに不適合な牛の搾乳を行っている。ロボット導入前は80頭の搾乳をパーラーのみで行っており、朝夕3時間ずつ要した。拓郎氏は、搾乳時間が2時間を超えると労働強度が高いとしている。
 同様に、搾乳労働時間の短縮効果について考察する。前述の通り、30年度の全国の50〜80頭規模層における「搾乳及び牛乳処理・運搬」の平均労働時間は、搾乳牛通年換算(=経産牛)1頭当たり48.52時間である。いま、労働負担の軽減による経済効果を、時給1000円として評価する。

 48.52時間/頭 × 50頭 × 1000円/時 ≒ 243万円

 前述の搾乳量の増加による経済効果から諸経費を控除した経済効果を加えると、約534万円になる。
 毎年、534万円の経済効果が10年間得られるとすると、徳山牧場と同様に、0.2%の利子率で考慮すると、以下の総効果が得られる。

 S = 534万円+534万円/1.002 + 534万円/1.0022 + … + 534万円/1.0029 ≒ 5243万円

 前述の通り、ロボット導入に伴う投資額が約4000万円であったので、投資に伴う総効果が上回っていることになる。

4 おわりに

 岡山県は、乳用牛の飼養頭数が全国で10位、中国・四国地域で1位の酪農県である。しかし、酪農経営戸数は、最近10年間で都府県全体以上に減少している。このような流れの中、『岡山県酪農・肉用牛近代化計画』では、「ロボット等の省力化機械の導入推進」を明確に提示している。
 本稿では、ロボットの導入が、担い手の育成と労働負担の軽減にどのように貢献しているか、また導入効果について、明らかにしてきた。対象事例として、平成22年と早期に導入した徳山牧場と、30年と最近になって導入した川上ファームの2事例を取り上げた。両者とも岡山県の中山間に位置し、都市部からのアクセスは必ずしも良くない。すなわち、雇用労働力の確保が難しい立地条件にある。搾乳牛の飼養方式も、フリーバーンまたはフリーストール方式であったところからロボットを導入している。
 また、徳山牧場では、粗飼料の生産基盤があることから堆肥は圃場への還元で処理できており、川上ファームでも、堆肥のほとんどを飼料作用水田への還元および戻し堆肥として処理し、残りを耕種農家へ提供していた。
 一方、徳山牧場では、搾乳作業はロボットのみを利用していたのに対して、川上ファームでは、ロボットと既存のパーラーを併用していた。この点は対照的で、それぞれのケースのモデルになりうる。
 両者ともロボット導入の動機は、搾乳作業時の労働負担の軽減にあった。川上ファームでは、パーラーを利用しても、朝夕の搾乳作業が2時間を超えると厳しいと回答していた。それ故、ロボットの導入によって、搾乳作業から解放される効果は大きい。
 また、ロボットの導入に伴い多回搾乳が可能となり、両者とも経産牛1頭当たり搾乳量が増加していた。
 ロボットの投資額は、1台につき2500〜3000万円であるが、ロボット導入に伴う牛舎の改築や新築が必要な場合、それにプラスして投資がなされることになる。両者とも既存牛舎を生かすことにより、追加投資を抑制していた。また、既存牛舎を活用した場合や、パーラーからロボットへ移行した場合には、搾乳牛の馴致じゅんちが容易になる。
 いずれの事例も、労働の節約効果を時給1000円で評価して、搾乳量の増収効果にプラスすると、十分に投資に見合った経済効果があることが明らかになった。
 さらに、ロボットの機種選定に当たっては、代理店から牧場までのアクセス時間が大きな鍵となる。両者ともに、機械そのものに不具合はなかったが、もしもの場合のリスク対応が取れていることは、経営者に精神的なゆとりをもたらすことになる。
 両経営とも2世帯での家族経営であるが、ライフサイクルの変化で、夫婦2人での経営継承が容易な体制を構築していたといえる。このことは、岡山県のみならず、都府県で同様の状況にある酪農家にとっても、大いに参考になると思料される。

謝 辞
 本稿を作成するに当たり、岡山県井原市美星町の徳山彰氏、高梁市成羽町の川上拓郎氏とご母堂、一般社団法人岡山県畜産協会の藤原裕士氏には、多大なご協力を賜りました。ここに深甚なる謝意を表します。