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調査・報告 畜産の情報 2020年8月号

新たな家畜及び鶏の改良増殖目標について

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農林水産省 生産局 畜産部 畜産振興課 石戸谷 和季

【要約】

 家畜改良増殖目標は、おおむね5年ごとに家畜の能力、体型及び頭数に関して10年後の目標を定めたものであり、本年3月末に第11次目標を公表した。本稿では畜種別に特に重点を置いて改良増殖を推進していく事項や、前回の目標から大きく変更があった事項について、その背景となっている情勢とともに説明する。具体的には、①乳用牛については、強健性と繁殖性に重点を置いて改良を進めることや、近年普及が進んでいる搾乳ロボットへの適合性の高い体型へ改良を進めること②肉用牛については、国内外からの需要の増加に対応するべく、産肉性の向上に加え飼養頭数を大幅に増加させることや、不飽和脂肪酸を始め食味に関する科学的知見のさらなる蓄積や新たな改良形質の検討を推進すること③豚については、繁殖性の向上により1頭当たりの年間離乳頭数を増やすことや、産肉性の向上について、特にロース芯への脂肪交雑の向上を図ること④鶏については、増体性の改良により出荷日齢を早めることや、始原生殖細胞(PGCs)の保存技術の活用を推進していくこと⑤馬・めん羊・山羊については、優良な種畜の選抜のための家畜人工授精や受精卵移植技術の改善と普及を進めることがポイントである。

1 はじめに

 家畜改良増殖目標は、家畜の改良増殖を計画的に行うことを通じ、畜産の振興を図ることを目的として、家畜改良増殖法(昭和25年法律第209号)第3条の2に基づき、おおむね5年ごとに家畜(牛、豚、馬、めん羊、山羊)(注1)の能力、体型及び頭数に関して10年後の目標を定めたものであり、本年3月末に公表された第11次目標では、令和12年度の目標を定めている。

(注1) 鶏の改良増殖目標については、家畜改良増殖法に規定されていないが、家畜改良増殖目標と同様に、「食料・農業・農村政策審議会」に諮問し、家畜改良増殖目標に準じて定めた。

 家畜の改良増殖は、家畜による畜産物の生産性の向上を図るため、乳量、肉量や乳質、肉質等の遺伝的能力の高い家畜を選抜して、その交配を繰り返すことにより、より能力の高い家畜を増殖させていこうとするものであり、その成果を得るまでには、一定の時間を要する。このような中、これまで国及び独立行政法人家畜改良センターを始め、都道府県、関係畜産団体及び生産者が協力し家畜改良増殖目標の達成に向けて改良を推進してきた結果、我が国の畜産物の生産性や品質は大幅に向上してきた。
 これまでの成果の例を挙げると、
・乳用牛については、第1次家畜改良増殖目標が公表された昭和37年度当時の乳用雌牛(ホルスタイン種)1頭当たりの平均搾乳量は約4200キログラムであったが、雌牛の能力測定を行う乳用牛群能力検定と優良な種雄牛を選抜するための後代検定を活用した泌乳能力の改良努力の結果、平成30年度の平均搾乳量は約8600キログラムまで増加しており(図1)、
・肉用牛については、平成3年度の牛肉輸入自由化以降、輸入牛肉との差別化を図るため、枝肉重量や脂肪交雑といった肉量や肉質の向上を目指す改良が進められた。近年においても、24年度では枝肉重量481キログラム、脂肪交雑6.0であったものが、29年度では枝肉重量500キログラム、脂肪交雑7.2まで増加している(図2)。
 
 

 
 こうした成果は、畜産物の生産性の向上を通じて畜産の振興や農業経営の改善、ひいては国民への食料の安定的な供給にも資するものである。
 農林水産省では第11次の家畜改良増殖目標の検討に際し 、家畜改良の専門家をはじめ、畜産経営や畜産物の流通・販売・消費に関する有識者による畜種別の研究会を設置し、さまざまな視点からの意見を聞いて検討を重ねた後、食料・農業・農村政策審議会の意見を聞いて、 目標を定めた。

2 畜種別のポイント

 家畜改良増殖目標は、畜種別に「(1)能力に関する改良目標(2)体型に関する改良目標(3)能力向上に資する取組」に分類される改良目標と、需要動向に合わせて家畜の飼養頭羽数を定める増殖目標を示している。本稿では、畜種別に特に重点を置いて改良増殖を推進していく事項や、前回の目標から大きく変更があった事項について、その背景となっている情勢とともに説明する。

(1)乳用牛

 乳用牛の種雄牛について泌乳能力、繁殖性などの要素を加味した我が国独自の総合指数(NTP)を公表することにより、酪農家に複数の能力についてバランスの良い種雄牛の利用を促し、経済性の高い乳用牛への改良を推進してきた。しかしながら、近年、供用期間の短縮傾向が続いているという課題がある(図3)ため、強健性と繁殖性に優れた牛づくりを目指すこととした。その際、強健性や繁殖性の改良スピードを高めるに当たり、泌乳能力の改良スピードが緩むことも考慮し、乳用雌牛の乳量に関する育種価目標については、前回の目標量(+74.2kg/年)から、現状値の増加量(+58.6kg/年)を維持するよう見直した。
 
 
 また、酪農経営における労働時間は、他の畜種や製造業に比べて長い状況にある中、担い手の高齢化が進む一方で後継者が不足していることから、飼養戸数は年々減少しており、全国的な生乳生産量も減少傾向で推移している。こうした課題に対応するため、農林水産省では搾乳ロボットの導入を働き方改革の一環として支援しており、その普及が進んでいることを踏まえ、搾乳ロボットに適合する体型を分析し、ロボット適合性の高い体型へ改良することを今回の目標とした(図4)。その他、ICT(情報通信技術)の活用については、全国版畜産クラウド(注2)への情報収集を推進し、生産者が取り組む飼養管理の改善や牛群整備 に役立つシステムの開発に努めることついても目標に盛り込んでいる。
 
(注2) 牛の個体識別情報及びその飼養管理等に関する生産情報を全国で一元的に集約したビックデータを構築しその全国的な利用により、家畜改良及び飼養管理の効率化・高度化を図るための事業。
 
 

(2)肉用牛

 肉用牛については、現在は新型コロナウイルス感染症の影響により、需要の減少が見られるが、近年、国内需要やインバウンド需要の高まりが見られたことに加え、日米貿易協定等の経済連携協定による輸出アクセスの改善やアジアにおける食肉需要の増加などによる輸出拡大が見込まれることを踏まえ、より一層の生産基盤の強化が重要である。
 このような中、昨年12月に「農林水産業地域の活力創造本部」において決定された「農業生産基盤強化プログラム」においては、2035年度までに和牛肉の生産量を30万トン(2018年14万9000トン)まで拡大させるという目標が定められている。
 このため、今回の目標では、脂肪交雑だけではなく、日齢枝肉重量や歩留基準値等の産肉性に関する能力を向上させ、効率的に良質な牛肉が生産できる牛づくりを目指すことに加え、飼養頭数も大幅に増加させ、牛肉の生産量を増加させる増殖目標を定めた(表1)。

 
 また、多様な消費者ニーズにも対応する観点から、食味の良い牛肉づくりの推進も目標に定めている。食味に関しては、以前から脂肪に含まれるオレイン酸等の一価不飽和脂肪酸(MUFA)に着目し、科学的知見の蓄積を進めてきたところである(写真)。しかし、全国和牛能力共進会(肉牛の部)において黒毛和牛のMUFAが測定された結果、2012年では57.6%、2017年では54.4%と、減少傾向にあることが分かっており、改良面と飼養管理面から、その向上を図ることとしている。なお、MUFAは融点が低いため口触りが滑らかになる等風味にも影響する一方、その割合が高くなりすぎると軟脂になる傾向があることから、他の脂肪酸とのバランスが重要であり、アミノ酸量や締まり・きめ等を含め食味に関する科学的知見のさらなる蓄積を進めるとともに、新たな改良形質の検討を推進していくこととした。
 

 
  また、冒頭でも述べたように、和牛については、長年の改良努力の結果、輸入牛肉との肉質面での差別化が図られており、和牛遺伝資源は我が国固有の貴重な財産といえるが、そうした中、平成30年6月に和牛遺伝資源が不正に中国へ持ち出されようとした事案が発生したため、和牛の改良成果を損なわないようにするべきとの社会的要請が高まった。
 このため、今回は、「和牛に携わる関係者は、和牛遺伝資源の適正な流通管理とともに、和牛の知的財産的価値の保護に努めるものとする」との目標を定めた。なお、目標策定後の本年4月、和牛遺伝資源の流通管理の徹底と知的財産としての価値を保護することを目的とした「家畜改良増殖法の一部を改正する法律」及び「家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律」が成立し、和牛遺伝資源の不正な海外流出を防止する仕組みが構築された。

(3)豚

 豚については、国内需要が近年増加傾向で推移する中、国内生産は横ばい傾向で推移していることから豚肉の安定供給を図るため、国際化に対応した一層の生産コストの削減を進めるよう、種豚の繁殖能力や産肉能力の改良が必要である。また、多様化する消費者ニーズに応えるため、食味面で輸入豚肉と差別化が図れる豚肉生産が必要である。
 こうした現状を踏まえ、1頭の母豚からより多くの子豚が元気に育ち出荷されるよう、母豚の能力の向上を目標とした。具体的には、1腹当たりの年間離乳頭数については、海外の先進国であるデンマークの産子数は平均で33.3頭という中で、日本の年間離乳頭数は22.9頭であり、現状で10頭程度の差があるが、繁殖性の向上を図るために遺伝的能力評価も活用し、目標では年間離乳頭数を25.9頭とした。
 また、豚は経営コストの6割以上を飼料費が占めており、肉用牛や乳用牛と比較すると高い割合である(図5)。

 
 そこで、飼料費を低減する観点からも早く大きく育つ豚づくりを目指し、出荷日齢の短縮と出荷体重の増加を図り、出荷体重の目標値については、114キログラムから120キログラムに見直した(表2)。
 

 
 消費者ニーズに対応したおいしさに強みのある豚肉づくりを図るため、ロース芯における脂肪交雑(霜降り)については、その割合を高めて、海外産豚肉との差別化を図っていくべきだといった意見も踏まえ、主に止め雄として利用されるデュロック種におけるロース芯への脂肪交雑の向上を図ることとした。
 また、改良体制については、国内の純粋種豚生産農場の減少に伴い、純粋種豚の飼養頭数や多様性も減少傾向にあることから、優良な純粋種豚の遺伝資源を維持・確保し、海外種豚と差別化できる種豚づくりを推進するため、平成28年に設立した国産純粋種豚改良協議会も活用した各機関の連携により、精度の高い遺伝的能力の評価に向けた体制の構築を進めるとともに、優良種豚の効率的・効果的な利用を推進していくことについて新たに目標に盛り込んだ。
 なお、CSF(豚熱)やASF(アフリカ豚熱)を含めた各種疾病に対する衛生対策が一層重要となってきており、家畜疾病の発生及びまん延防止のため、生産者における飼養衛生管理基準の厳守の徹底について指導するとともに、さらなるバイオセキュリティの向上及び定期的な衛生検査による飼養豚の疾病の保有状況の把握を進めるためにも、HACCP、GAPの普及やオールイン ・オールアウトの導入等 の衛生対策を推進することについても目標とした。

(4)鶏

 養鶏については、現在、国内で流通している実用鶏の多くが海外で育種改良された鶏種から生産されたものである。そのため、海外で高病原性鳥インフルエンザ等の悪性伝染病が発生する等により長期間にわたり種鶏等の輸入停止措置がなされた場合、我が国の鶏卵・鶏肉の生産体制にさまざまな影響が及ぼされると考えられるため、我が国で鶏の改良増殖を進め、種鶏を生産し、鶏卵・鶏肉の安定供給を図っていくことが重要である。
 肉用鶏については、増体性の改良が進められてきたことにより、平成30年の飼料要求率は1.73と25年の2.0から大幅な改善が見られている。これにより、30年の出荷時体重は2970グラムと25年の2870グラムから増加傾向にあったが、研究会において「出荷体重が3キログラムを超えると食鳥処理場の施設改修などが必要」との意見が出されたことを踏まえ、今回は出荷時体重を目標数値から参考数値へと変更した上で、30年度の出荷時体重である2970グラムを維持することとした。その代わりに、前回まで参考数値としていた出荷日齢を目標数値とし、45日という目標を設定した(表3)。

 
 卵用鶏については、地域によって好まれる卵の大きさが違うなどの消費者ニーズを踏まえ、卵重量の目標に幅を持たせ、61〜65グラムを目標値として定めた。
 さらに、我が国での鶏卵・鶏肉の安定供給を図るための改良手法として、始原生殖細胞
 (PGCs)(注3)の保存技術(図6)を普及させることにより、国産種鶏の遺伝資源を安定的に確保していくことを目指す内容を新たに盛り込んだ。

(注3) 始原生殖細胞(PGCs)とは、受精卵の胚に出現する将来精子や卵子になる細胞(Primordial Germ Cells)のことである。
 
 
始原生殖細胞の保存技術を活用することにより、災害や伝染病のまん延から貴重な遺伝資源を守ることが可能になることに加え、世代間を超えた交配に用いることにより近交係数の上昇の抑制につながり、改良により作出した系統の維持コストの低減が図られ、ひいては国産種鶏の生産振興につながることが期待される。このため、農林水産省としても、令和2年度当初予算の「畜産生産力・生産体制強化対策事業」のうち、鶏の始原生殖細胞(PGCs)凍結保存等技術の普及に関して予算を確保したところである。 

(5)その他の畜種(馬、めん羊、山羊)

 上記のほか馬、めん羊、山羊についても、それぞれ能力や体型等について目標を定めている。これらの家畜は、多様な利活用が期待されるものの、生産を支える技術者や指導者などの不足が懸念されているため、優良な種畜の選抜のための家畜人工授精や受精卵移植技術の改善と普及を目指すことやそれぞれの畜種に特有のデータの収集、活用の体制の構築に努めることなどを目標とした。

3 おわりに

 中長期的な視点に立つと、家畜の改良増殖の推進は、生産基盤の強化を後押しするため重要である。改良増殖をより効率的に進めていくためには、改良関係機関と生産者が協力し、消費者ニーズを踏まえながら改良増殖を推進することが必要不可欠であるため、目標の達成に向け、畜産関係者の幅広い協力をお願い申し上げる。

(プロフィール)
令和2年 3月 岐阜大学応用生物科学部 共同獣医学科卒業
令和2年 4月 農林水産省入省、生産局畜産部畜産振興課に配属
総務班総括係として、生産局畜産部内での連絡調整業務を担当。

 



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