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海外情報 畜産の情報 2020年9月号

ブラジルの大豆・トウモロコシをめぐる最近の情勢(後編)〜物流インフラ整備の進展により輸出が拡大する北部港〜

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調査情報部 山口 真功(現畜産経営対策部)、石井 清栄(現札幌事務所)

【要約】

 ブラジルの大豆・トウモロコシ輸出量は、生産拡大に伴い今後も増加する見通しである。一方、ブラジルは、長年の課題である高い輸送コストの引き下げに向けて、国を挙げて物流インフラの整備に取り組んできた。その結果、港湾の運営民営化や国道163号線の完全舗装など、徐々に物流インフラが整備されつつあり、北部港を利用した輸送ルートの輸送コストは、水路や鉄道が比較的発達している米国と肩を並べる程度まで低下してきている。こうしたことから、国際市場におけるブラジルの大豆・トウモロコシの競争力はますます高まっていくものとみられる。

1 はじめに

 前編(『畜産の情報』2020年8月号)では、最大生産州であるマットグロッソ州の作付面積の著しい増加がブラジルの大豆・トウモロコシ生産の拡大をけん引しており、さらに、大豆・トウモロコシ生産に転用可能な牧草地がまだ十分に残されていることから、マットグロッソ州の生産量は今後も拡大していく見通しであることを報告した。
 一方、ブラジルは国土が広いこともあり、一部の地域において物流インフラの整備がまだ不十分なことから、高い輸送コストが大きな課題となっており、「ブラジルコスト」とも呼ばれている。水路を利用した方法が最も輸送コストが安いことから、同国では、アマゾン川水系を活用し、北部港を輸出港とする水路輸送を振興するため、国を挙げて物流インフラの整備に力を入れている。
 そこで後編では、前編と同様、2020年3月に実施した現地調査に基づき、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響に関する情報も補足しながら、北部ルートの物流インフラ整備の現状や競合国である米国との輸送コストの比較などを中心に報告する。
 なお、単位の換算には、1ブラジル・レアル=20.3円、1米ドル=105.6円(ともに2020年7月末日TTS相場)を使用した。また、特段の記載がない限り、年度は10月〜翌9月である。

2 物流インフラ整備の進展による輸出の拡大

(1)輸出概況

 ブラジルの大豆・トウモロコシの輸出量は、年によって増減はあるものの、長期的には生産拡大を背景に増加傾向にある。
 大豆は中国向けが太宗を占めており、中国で搾油された後に残る大豆かすは飼料として中国国内での消費や日本などへの輸出に向けられている(図1)。2019年は、中国で発生したASF(アフリカ豚熱)に伴う飼養頭数の減少により、飼料の需要が減退したことから、ブラジルからの輸出量は減少したものとみられる。2020年は、ブラジルでのCOVID-19の拡大が3月ごろから本格化し、大豆の収穫・輸送時期と重なった。しかしCOVID-19による影響はほとんど見られず、むしろ急速に進行した米ドル高レアル安が価格競争力を高めたことから、4月に単月輸出量の過去最高記録を更新(注1)するなど堅調に推移している。
 

 
  また、トウモロコシはこれまでイラン向けが最も多かったが、2019年は日本が最大の輸出先となった(図2)。これは、多雨の影響により米国産の品質が低下したことから、ブラジル産にシフトしたためとみられる。2020年については、現在、主に輸出向けの第2作トウモロコシの収穫が行われているところであり、その動向が注目されている。


 
  今後の大豆・トウモロコシの輸出量に影響を与える要素としては、2020/21年度(9月〜翌8月)の米国の大豆・トウモロコシの作付面積や単収が前年を上回る見込みとなっていることや、米中貿易協議で第一段階の合意に至ったことから、米国から中国向けの大豆輸出が増加し、ブラジルからの輸出が減少することが挙げられる。また、世界中でまん延しているCOVID-19により、各国の畜産物生産に影響が及び、輸出が減少する可能性もある。
 一方、COVID-19の拡大に伴う経済の悪化などにより歴史的な水準で推移している米ドル高レアル安は、ブラジル産大豆・トウモロコシの価格競争力を高めている。また、アルゼンチンにおいて、2019年の政権交代以降、国内保護色の強いアルベルト・フェルナンデス大統領が農畜産物の輸出税の引き上げ(2020年8月現在、大豆は33%、トウモロコシは12%)を行ったことも、ブラジルにとって追い風になるとみられる(注2)
 このように、短期的な輸出量の変動要素はあるものの、2020年7月にブラジル農牧食糧供給省(MAPA)が公表した最新レポートにおいて、長期的には、生産拡大に伴い輸出量も増加していくと予測されている(図3)。

(注1) 前編の執筆時点で公表されていた統計値では5月の輸出量が過去最高だったが、その後、公表値が修正され、4月の輸出量が過去最高となった。
(注2) 詳細は、海外情報「アルベルト・フェルナンデス新政権、輸出税を引き上げ(アルゼンチン)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002589.html)を参照されたい。なお、大豆については、2020年3月に30%から33%に引き上げられた。
 

 

(2)マットグロッソ州からの主要輸送ルート

 ブラジルでは、今後も輸出拡大が見込まれている大豆・トウモロコシをいかに低コストで輸送するかが喫緊の課題である。ブラジルは物流インフラが十分発達しておらず、さらに国土が広いため輸送コストが高いことが大きな課題となっている。これは、米国やアルゼンチンでは生産地から輸出港まで主に水路や鉄道で輸送されているのに対し、ブラジルでは依然として陸送の割合が最も高いためである。
 輸出港は生産地域によって異なり、南部の主要生産州であるパラナ州やリオグランデドスル州で生産された大豆・トウモロコシはパラナグア港やリオグランデ港などに運ばれることが多い。
 一方、同国最大の生産地であり、今後も生産拡大が見込まれているマットグロッソ州は南米大陸のほぼ中央に位置しており、地理的に不利な条件にある。いずれの港からも遠い同州で生産された大豆・トウモロコシは、生産地域によって、主に以下の三つのルートに分かれて輸出港まで運ばれる(図4)。
 
(1)マットグロッソ州の南に位置するロンドノポリスまでトラックで運び、そこから鉄道でサントス港に輸送するルート   
 
このルートは、主に同州南部で生産された大豆・トウモロコシの輸送に利用される。

(2)国道163号線をトラックで北上し、ミリチトゥバ港やサンタレン港に輸送するルート(コラム1で詳述)
 
ミリチトゥバ港は大型船舶が入港できないため、バージ(はしけ)に積み替えて、アマゾン川水系を使ってヴィラドコンデ港やサンタナ港などまで運び、そこから各国へ輸出される。一方、サンタレン港は大型船舶も入港できることから、直接輸出される。このルートは、主にマットグロッソ州のシノップ以北やパラー州西部で生産された大豆・トウモロコシの輸送に利用される。

(3)国道364号線をトラックで北西に向かい、ポルトヴェーリョ港まで輸送するルート 
 
ポルトヴェーリョ港も大型船舶が入港できないことから、バージに積み替えてマナウス港やイタコアチアラ港などまで運び、輸出される。このルートは、主にマットグロッソ州西部で生産された大豆・トウモロコシの輸送に利用される。


 
 例えば、ヒドロヴィアス・ドゥ・ブラジル社(HBSA)はミリチトゥバ港とヴィラドコンデ港にターミナルを持っていることから、マットグロッソ州からミリチトゥバ港までトラックで約2日間かけて輸送された大豆・トウモロコシをバージに積み替えて、アマゾン川を下り、約3日間かけてヴィラドコンデ港まで運んでいる。そして、ヴィラドコンデ港でバルク船に再度積み替えて輸出している。
 ちなみに、HBSA社では帰りのバージに肥料を積んでアマゾン川を遡上そじょう している。ただし、肥料を積むとバージの金属部分が腐食しやすくなるため、巨大な掃除機のような機械で清掃したり、定期的にペンキを塗り直したりするなどの手間が必要となる。肥料はシノップの肥料工場に搬入し、そこから農家に輸送されるとのことである。
 なお、上述の3ルートは大まかな区分であり、各企業はそれぞれ各地に個別のターミナルを建設もしくは出資しているため、実際の輸送ルートは異なる場合もある。

コラム1 完全舗装された国道163号線の現状と課題

 今回の調査においてマットグロッソ州のシノップからパラー州のミリチトゥバまで国道163号線を実際に車で走行してきたので、その現状と課題について紹介する。国道163号線は南北に長く続くブラジルを代表する道路である。大豆やトウモロコシを輸送する重要な道路であるにもかかわらず、数十年もの歳月を経て、ようやく2019年11月に完全舗装された。なお、最後まで未舗装であった51キロメートルについては、ボルソナーロ大統領が就任直後に工事を強く推し進めたことにより、急速に舗装が進んだとされている。この完全舗装された国道163号線に対して、トラック運転手をはじめ、大豆・トウモロコシ輸出関係者は期待を寄せているものの、実際には多くの課題が残されているのが現状である。
 例えば、国道163号線は補修工事があまり行われていないため、道路には多数の陥没が見られ、ひどい場合には1車線全体が陥没しているところもある。陥没した穴の上を走行すると車体の故障や事故につながるため、運転手は速度を落としてその穴を避けるように運転するものの、走行速度の低下を引き起こしたり、避けられない事故が発生してしまうことから輸送時間が増加し、輸送コストの上昇につながっている。
 また、国道163号線は、そのほとんどが片側1車線のため、比較的速度の遅いトラックを追い抜くために一時的に対向車線を通らなければならず、追い越し車線がないことも事故が多発する大きな要因となっている。筆者が実際に車で走行した際にも、トラックの事故現場を複数回目撃した。その中で最大の事故では、トラックが2車線にまたがって横転していたため両方向で通行止めとなってしまい、他に逃げ道もないため車内で数時間待機しなければならなかった(コラム1−写真)。事故車両を処理する体制も整っていないため、このように通行再開に非常に時間がかかってしまうことも大きな課題の一つである。
 
 
 ブラジル政府の関係当局は、こうした課題を解決するために、国道163号線の運営を民間に委託する入札を行うとしている。現地関係者によれば、民間委託によって、通行料を徴収する代わりに道路の陥没の補修や車線の増幅工事などを行っていくとのことである。なお、現在でもクイアバからシノップまでは通行料を徴収しているが、民営化後はシノップ以北の道路も通行料を徴収することを目指している。こうした取り組みにより、通行料分の輸送コストは上乗せされるものの、輸送時間の短縮やスケジュール通りの輸送が可能となることから、全体としては輸送コストが下がると予想する関係者が多かった。
 また、シノップとミリチトゥバをつなぐフェログロン鉄道(EF-170)の建設計画も進んでいる。今後マットグロッソ州の東部および北部、パラー州西部でもさらなる生産拡大が見込まれていることから、マットグロッソ州からミリチトゥバ港やサンタレン港に輸送するルートが大豆・トウモロコシ輸出の大動脈となっていく可能性が高いと考えられる。

コラム2 アリソン・パオリネリ元MAPA大臣インタビュー

 今回の調査においてMAPAの元大臣であるアリソン・パオリネリ氏にインタビューすることができたので、彼の功績とブラジルが目指す方向について紹介する(コラム2−写真)。
 
 
 アリソン・パオリネリ氏は、エルネスト・ガイゼル政権下で1974〜79年の間、MAPA大臣を務めた人物である。同氏は、大学で見いだした優秀な人材を留学させ、帰国後任用するなどしてブラジル農牧研究公社(Embrapa)の近代化を図った。そして、酸性土で農業に向かないセラード地域でも栽培可能な品種や新たな栽培方法の開発をEmbrapaが主導的に進めることで、特にマットグロッソ州などの中西部の穀物生産が飛躍的に拡大したと言われている。こうした功績により、2006年には農業界のノーベル賞とも言われる「世界食糧賞(World Food Prize)」を受賞し、穀物関係者などから現在も高い評価を受けている。
 なお、現在、同氏はトウモロコシ生産者協会(ABRAMILHO)の会長を務めており、現MAPA大臣であるテレーザ・クリスティーナ氏の出張などにも同行するほど、いまだに影響力のある人物である。
 インタビューの中で同氏は、「世界的に人口が増え続ける中で、ブラジルは世界の食料安全保障に貢献する必要があり、トウモロコシ、大豆、動物性たんぱく質、綿花、オレンジなどの農畜産物を中心にその役割を担っていかなければならない。この責務に対して、ブラジルは絶対に貢献できるだろう。なぜならば、ブラジルには、農産物の生育に適した気候条件や、豊富な天然資源および水資源、多くの農地があるからである。もちろん問題もあり、その一つが輸送コストである。これからも鉄道、道路、水路などのインフラ整備は続けなくてはならない。しかしながら、ブラジルはこれからも発展し続けることができるので、食料安全保障に貢献し、この使命を果たすことができると確信している」と語った。

2 物流インフラ整備の進展による輸出の拡大(続き)

(3)民営化などにより整備が進む北部港

 輸送コストを引き下げるためには、輸送コストの安い水路での輸送をより多く活用することが最も有効である。ブラジルは世界最大の流域面積を持つアマゾン川を有していることから、ブラジル政府は国を挙げてアマゾン川水系を使った北部地域からの輸出拡大を振興している。なお、ブラジルにおける北部港とは、南緯16度線よりも北にある港のことであり、穀物輸出港として重要な北部港は、パラー州のヴィラドコンデ港(バルカレナ市)およびサンタレン港(サンタレン市)、アマゾナス州のマナウス港(マナウス市)、マラニョン州のイタキ港(サンルイス市)(注3)などがある。
 北部地域からの輸出拡大に向けて、コラム1で紹介した国道163号線の完全舗装やフェログロン鉄道の建設計画など、輸出港までの物流インフラ整備は少しずつ進んでいる。
 一方、港湾のインフラ整備については、港湾運営の民営化などに取り組んでいる。民営化に当たっては、新規の場合は入札で運営業者を決定し、継続の場合は現在の港湾運営企業と協議し、今後も継続的な投資を行う予定があるかなどの判断材料を勘案した上で、契約を延長するかどうか決定する。これは、継続的な投資により、港湾の処理能力が向上し続けることが民営化の一番のメリットと考えられているためである。港湾庁(ANTAQ)の担当者によれば、今後も可能な限り民営化を進めていく方針であるとのことである。
 また、港湾の拡張も行われており、例えばサンタレン市では第2の港湾施設を建設する計画もあり、大型船舶が寄港できる複数の土地を検討している。なお、同市の場合、こうした港湾施設の建設は市の拡張計画に基づいて行われている。
 さらに、サンタレン港では新たな動きも進んでいる。最近までサンタレン港からの大豆・トウモロコシの輸出は大手穀物企業であるカーギル社によるものがほとんどであったが、大豆・トウモロコシ生産が年々拡大していることから、公共埠頭ふとうを利用した大豆・トウモロコシの輸出業務が期間限定で行われている。例えば、2012年に創業したメガ社は、公共埠頭を一時的に使用できる許可証を有し、2018年から大手穀物企業であるルイ・ドレフュス社の大豆・トウモロコシの輸出業務を行っている。なお、同社はサイロを保有していないため、バージからバルク船に直接積み込みをしている。
 こうした港湾の運営民営化や拡張などの取り組みにより、輸送コストが引き下げられるとともに、港湾の処理・輸送能力は向上している。
 なお、現時点では、ブラジルの最大港であるサンパウロ州のサントス港が、穀物についても依然として最大の輸出港であり、大豆・トウモロコシの生産拡大を受けて取扱量はいまだ増加傾向にある。しかしながら、それを上回る勢いで北部港からの輸出が拡大している。北部港のうち穀物輸出量の多いバルカレナ、サンタレン、マナウス、サンルイスの輸出量を合計するとサントス港との差は年々縮小し、大豆は2019年にサントス港を上回った(図5、6)。南緯16度線以北で生産された農産物は北部港から輸出した方が輸送コストが安いと言われており、長期的に見るとマットグロッソ州の生産は東部や北部を中心に今後も拡大が続く見通しであることや、ブラジル全体でも大豆・トウモロコシの生産地域が北部に広がっていることから、今後も北部港からの輸出は増加していくと考えられる。

(注3) サンルイスにあるイタキ港は、マトピバ地域(マラニョン州(MA)南部、トカンチンス州(TO)東部、ピアウイ州(PI)南部、バーイア州(BA)西部の4地区からなる新興農業開発地域のことで、その頭文字を取って「マトピバ」と呼ばれている)で生産された大豆・トウモロコシの輸出量が多いとされる主要輸出港の一つ。


 

コラム3 アマゾン川の支流タパジョス川に浮かぶリバーサイドターミナル

 今回の調査においてミリチトゥバ港のあるタパジョス川に浮かぶリバーサイドターミナルを訪問したので、その概要について紹介する。
 アマゾン川流域にある北部港から輸出される大豆・トウモロコシの一般的な輸送の流れは、以下の通りである。
 まず農家で生産された大豆・トウモロコシが生産地近くにある集荷ターミナルに集められる。そして大豆やトウモロコシを積み込んだトラックは、経由港もしくは輸出港の川岸にあるリバーサイドターミナル近くの待機場に向かい、そこで一時待機する。その後、リバーサイドターミナルで品質検査を受け、サイロに一時保管された後、バージやバルク船に積載され輸送または輸出される。そのため、一般的なリバーサイドターミナルは川岸のある程度広い土地に建設され、輸送された大豆・トウモロコシを保管するサイロを保有している。
 しかしながら、今回訪問したベルトリーニ社が運営するリバーサイドターミナルは、土地もサイロも保有していない、川に浮かぶターミナルである。敷地面積は1レーン当たり約3150平方メートルで、総建設費は約1億レアル(20億3000万円)である。1日に50トントラックを約160台受け入れることができる。このターミナルのメリットは、移動が可能なことであり、実際にマナウス港からヴィラドコンデ港まで移動したことがあるとのことである。トラックがこのターミナルに入るための傾斜を川岸に作ることができれば、どこでも接岸可能である。また、施設全体がコンパクトであるため比較的少ない従業員で運営ができること(1チーム13名、1シフト12時間、全4チーム)、土地を所有していないため税金が安いことなどのメリットもある。なお、ミリチトゥバ港では雨季と乾季で川の水位が変動するが、この水位の変動にも対応できる仕組みになっている。以下に、このターミナルの概要や大豆の搬入の流れを写真で紹介する(コラム3−写真1〜5)。

 







2 物流インフラ整備の進展による輸出の拡大(続き)

(4)輸送コスト比較

 前述の通り、マットグロッソ州から大豆・トウモロコシを輸出するルートはいくつかあり、それぞれのルートの輸送コストは今後の輸出量を左右する大きな要素の一つである。米国農務省(USDA)によると、2019年における生産地から中国までの大豆の輸送コストは表の通りである。
 

 
 マットグロッソ州からトラックでロンドノポリスまで輸送し、そこから鉄道を使ってサントス港まで輸送するルートでは、1トン当たり101.25米ドル(1万692円)となっている。一方、マットグロッソ州からトラックでサンタレン港まで輸送するルートでは同87.10米ドル(9198円)、マットグロッソ州からトラックでミリチトゥバ港まで運び、そこからバージでヴィラドコンデ港まで輸送するルートでは同100.45米ドル(1万608円)と、いずれも北部ルートの輸送コストの方が安くなっている。
 さらに、大豆・トウモロコシ生産の盛んな米国中西部から中国までの輸送コストと比較すると、サンタレン港経由の輸送コストは米国のガルフ経由、PNW経由よりも安くなっている。米ドル高レアル安の影響はあるものの、北部ルートの輸送コストは米国と遜色ない水準になっていることが分かる。
 なお、複数の現地関係者に話を聞いたところ、マットグロッソ州からの北部・南部ルートの輸送コスト比較はまだ意見の分かれるところであったものの、国道163号線の完全舗装などのインフラ整備の進展に伴い、今後は北部ルートの方が安くなるという認識は一致していた。また、輸入に頼っている肥料や農薬のコストも下がることになり、輸送コストの低下がもたらす効果は大きいと言えよう。

3 おわりに

 前編で報告した通り、ブラジルの大豆・トウモロコシ生産は、最大生産州であるマットグロッソ州の生産余力が十分にあることなどから、今後も拡大の一途をたどっていくと見込まれている。増産された大豆・トウモロコシは、輸出に向けられるだけでなく、ブラジル国内での畜産物生産の拡大やトウモロコシを使ったバイオエタノールの生産という新たな動きにより、国内向けも堅調に推移していくと考えられる。
 また、ブラジルコストと言われる高い輸送コストは、輸送ルートや港湾におけるインフラ整備の進展に伴い、今後も北部ルートを中心に着実に引き下げられていくものとみられる。さらに、北部ルートの開発に刺激され、サントス港でも引き続き民営化などの動きがあることから、ブラジル全体で輸送コストが引き下げられるとともに、輸送能力も向上していくであろう。
 一部の北部ルートでは、競合国である米国の輸送コストと肩を並べる程度まで低下しつつあることから、国際市場におけるブラジル産大豆・トウモロコシの競争力はますます高まっていくものと考えられる。これは米国産大豆・トウモロコシの輸入が多い日本市場においても同じことが言える。一部の日本の輸入業者によると、単収増加に伴う米国産の品質の低下により、ブラジル産の方が品質が高い場合が多いという声もあり、価格次第では同国産の方が優位になりうるとのことである。こうしたことから、長年2位に甘んじてきたブラジル産大豆・トウモロコシの輸入をめぐる状況に大きな変化が訪れる日も近いかもしれない。
 一方、COVID-19の拡大に伴う、畜産物や穀物の需給変化や歴史的水準で推移するレアル安、米国と中国の貿易協議の行方、中国でのASFの影響からの回復状況、アルゼンチンの輸出税の引き上げなど、今後も変動要素は多いことから、ブラジルの大豆・トウモロコシの需給動向やこれらの輸送に係るインフラ整備状況については、引き続き注視していく必要がある。