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調査・報告 畜産の情報 2020年10月号

経産牛の再肥育を考える〜地域振興の新しいツールとして〜

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東北大学大学院 農学研究科 教授 寺田 文典(現明治飼糧株式会社)

【要約】

 経産牛は適正な再肥育を行うことにより、その肉をテーブルミートとして十分利用できるポテンシャルを持っている。肥育もと牛としての資源量が豊富で、良質で低価格の牛肉を提供できる可能性があるにもかかわらず、新しい食資源として認知されていないのは、消費者のニーズに対応するその生産体系が未確立であるためと考えられる。そこで、経産牛肥育の先駆的な取り組みを始めている北海道(ホルスタイン種)と九州(黒毛和種)の事例を紹介し、その可能性と課題について考察する。

1 はじめに

 わが国における近年の牛肉消費量はほぼ120万トンを維持しているにもかかわらず、国産牛肉の生産量は平成6年度の61万トンをピークに、年々減少する傾向にある(図)。近年の減少要因の一つとして、繁殖農家戸数の減少による肥育もと牛資源の縮小とそれに伴う子牛価格の高止まりが挙げられる。

 
 牛が温室効果ガスの排出源として注目されていることから、牛肉の消費を差し控えようという考え方もあるが、一方で良質なたんぱく質供給源としての牛肉の重要性、食文化を支える素材としての牛肉の価値は今後も変わらない。さらに、繁殖・肥育産業の存在には、中山間地域を支える基幹産業としての多面的な役割があることも忘れてはならない。
 現在、肥育もと牛として用いられる品種は黒毛和種および交雑種が主流となっており、低価格の国産牛肉を賄っていたホルスタイン種が大幅に減少しているが、牛肉資源としては雄子牛だけでなく、廃用牛も一定のポテンシャルを有していることに注目したい。新たに成牛となった牛の数と同数の経産牛が廃用にされていると仮定すると、その頭数は乳用牛で年間22万頭、肉用牛で同6万頭となる(農林水産省「畜産統計」)。これを加工用ではなく、テーブルミートとして再肥育すれば、生産者、消費者の両者にメリットのある商品が生まれるはずである。
 本稿では、地域振興を視野に入れて経産牛肥育に先駆的な取り組みを行っている北海道と九州の事例を紹介することとしたい。

2 ホルスタイン種経産牛の再肥育の試み

(1)北海道での取り組み

 「平成30年度牛乳生産費統計」(農林水産省)によると、搾乳牛1頭当たりの副産物価額は費用合計の約20%に相当し、生乳販売収入以外の収益を確実に確保することは、酪農経営の持続的な発展を図る上で欠かせないことが明らかである。副産物収入としては子牛が最も大きいが、廃用牛を再肥育することで付加価値をつけることができると、安定的な副産物収入の二つ目の柱とすることができるものと考えられる。北海道における乳用雌牛のと畜頭数は年間8万頭前後で推移していることから(農林水産省「畜産物流通統計」)、廃用牛は地域資源としても十分なボリュームがある。
 株式会社ニチレイフレッシュ(以下「ニチレイフレッシュ」という)では、この大量に発生する北海道の乳用種廃用牛に注目し、これに不飽和脂肪酸を豊富に含む脂肪酸カルシウムを給与することにより、牛肉の脂質の性状をコントロールして付加価値を高め(おいしさを追求し)、テーブルミートとしての流通を目指した経産牛の再肥育事業に取り組んでいる(写真1)。ちなみに、乳牛に対する不飽和脂肪酸カルシウムの給与はメタン産生を抑制することが知られており、環境にも優しい肥育技術と言える。

 
 乳用牛の廃用牛再肥育技術を確立するための最初の関門は乾乳であり、また2番目の壁は、粗飼料多給から濃厚飼料多給への急激な給与飼料の切り替えと、短い肥育期間で高い増体を得るための飼料摂取による消化障害の克服である。
 最初の課題の解決策は、確実な乾乳手順の順守である。また、2番目の課題の解決には、経産牛再肥育の飼養形態が群飼であることも考え合わせると、TMRの利用が有効であろう。実際、肥育牛用TMRの開発は各地で取り組みが始まっていることから、その可能性は大きいものと考えられる。
 

(2)地域振興策としての視点

 北海道における経産牛再肥育の取り組みはテーブルミートとしての牛肉増産だけでなく、地域振興策としても有意義である。北海道の豊富な草資源をはじめとする飼料資源をTMRとして有効に活用することができると、酪農業と肥育産業の地域連携が成立する。さらに、地域で発生する各種副産物を活用して地域の物語を紡ぐことで、地域ブランドの形成も可能になるのではないだろうか。

 

(3)肉量、肉質

 ニチレイフレッシュと筆者らが調査した乳用種の経産肥育牛の枝肉調査成績(表1)を紹介する。肥育期間約5カ月の平均日増体量(以下「DG」という)は1.25キログラム、枝肉重量は367キログラム、歩留まりは51.9%であった。また、脂質に関して調べたところ、リブロースの脂肪含量は4%、近年うまみ成分として注目されているオレイン酸を主体とする一価不飽和脂肪酸は48%であった。


 
  北海道の観光名所の一つであるサッポロビール園のレストラン「ガーデングリル」では、前述の経産牛再肥育事業で、亜麻仁油を主原料とする脂肪酸カルシウムを含む飼料を給与して生産している牛肉の、サーロインをディナー(道産亜麻仁牛のおつまみカットステーキ)に、リブロースをランチ(道産亜麻仁牛のステーキランチ)に使用している(写真3)。ガーデングリルの阿武あんの努調理長に、経産牛肉の評価を聞いたところ、「脂肪が黄色くて硬いといった、想像していた『経産牛』の特徴とは異なり、脂肪の色は問題なく、肉の味も濃かった(うまみが強かった)。経産牛特有の硬さはやや感じられるものの、調理法で対応できる。国産牛肉としてのお客様の商品イメージと実際の味との間にはギャップがないと判断している」とのことであった。

 
 同店の主な客層は国内の観光客だが、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)が世界的に拡大する以前は、インバウンド関連の客も全体の1〜2割と多かった。そうしたこともあり、阿武氏は、メニューにおいては「道産」のイメージ、ストーリーが大事であり、さまざまな素材の中でその特徴を明確にすることが必要と感じており、経産牛肉についてはその味に加えて「道産」、「亜麻仁」といった安心感を与える素材である点も評価している。
 今後の普及に向けた課題は、価格とさまざまな調理法への汎用性を高めることであろうとのことであった。特に調理法の提案は消費者に経産牛肉のおいしさをアピールする手段として重要であり、普及促進の重要なポイントとなるものと考えられる。

3 黒毛和種経産牛の再肥育の試み

(1)試験成績の紹介

 黒毛和種雌牛の体系的な試験成績として、地方独立行政法人北海道立総合研究機構の杉本氏ら(2012)による報告がある。0〜7産の雌牛16頭を用いた同氏らの報告によると、肥育期間が9カ月ごろまではDGは1.0〜1.2キログラム程度が期待できるが、費用対効果を考えると6カ月程度が適当と結論付けている。
 また、筆者ら(未発表)は1〜9産の12頭の経産牛を用いて、2回の肥育試験(1年次の肥育期間は176日間、2年次は155日間)を行ったところ、全体の平均DGは0.91キログラム(0.75〜1.10キログラム)であり、産次が進むにつれてやや増体が低下するものの、その度合いはそれほど大きなものではなかった(表2)。さらに肉質について見ると、ばらの厚さを除いて違いは認められていなかったが、胸最長筋の脂肪含量は高産次牛群18%、低産次牛群24%と、低産次牛群の方が多い傾向にあった。

 

(2)黒毛和種経産牛の再肥育の取り組み

 宮崎県で創業50年の歴史を持つOkazaki Food株式会社が肉牛の繁殖・肥育事業を開始したのは平成24年ごろで、22年の口蹄疫の流行をきっかけに低迷していた、同県の畜産業の活性化を目指す動きに賛同したことが背景にあるとのことである。令和2年1月現在、同社の子会社であるオカザキファーム株式会社(以下「オカザキファーム」という)が宮崎県新富町の牧場で肥育牛258頭を(写真4)、木城町の牧場で繁殖牛・子牛337頭を飼養している。牧場開設当初、肥育は未経産牛および経産牛を対象としていたが、6年ほど前から、経産牛のみに切り替えている。この切り替えは、子牛価格の高騰を受けて自家保留を増やすためだけでなく、地域の資源循環にも着目した方向転換であった。母牛としての役割を終えた後、廃用牛としての行く末が一般的であった経産牛の赤身肉の良さに注目し、その良さをさらに引き出すため、飼料を工夫して再肥育を行っているとのことであり、現在の出荷頭数は毎月25頭程度、年間では300〜350頭程度だが、今後は500頭まで増やすことを目標としている。


 

(3)肥育方式

 もと牛の導入先は自場を含む県内、沖縄県、鹿児島県の順に多く、導入時の体重は500キログラム程度であるが、ばらつきも大きく、小さいものは300キログラム台、年齢も2歳から15歳とこちらもばらつきが大きいようである。もと牛の選定基準は、価格はもちろんであるが、血統と体型(骨格が大きく脚のしっかりした牛)を重視しているとのことであった。導入1カ月程度は粗飼料主体で飼養し、その後、肥育用TMRを飽食させて6〜7カ月程度の再肥育を行う。出荷時体重は平均700キログラム程度だが、大きいものだと800キログラムを超える場合もあるとのことなので、DGは1キログラム前後と考えられる。事故率は1割弱で、発情事故や群飼によるけんかなどに起因するけがが気になっているとのことであった。食滞もあるとのことであったが、それほど問題視していないようであり、TMRによる事故率低減効果が上がっているものとみられる。
 ちなみに、肥育用TMRはワラ、肥育用配合飼料、米ぬか、麦ぬか、トウモロコシ、圧ぺん大麦、大豆かす、焼酎かす、バガス、パイナップルかす、アーモンドかす、青汁製造かすなど多様な地域資源を活用して製造している(写真5)。また、以前は稲ホールクロップサイレージの利用も検討したが、肉色が濃くなったことから、使用を見合わせたとのことであった。

 

(4)肉質

 生産された牛肉について、オカザキファームによると「赤身本来の味わい深い牛肉で脂身はさっぱりしている」とのことであり、地産地消の安心感があることや赤身肉への注目が集まっていることと相まって、消費者の反応が良いとの手応えを感じている。
 オカザキファームの牛肉が販売されているスーパーマーケットで経産牛肉に対する評価を聞いたところ、「枝肉を選べば味は特に問題はないが、課題としては肉色が濃い点と入荷が不安定な点、また、肉質のばらつきが大きい点である。また、色が浅くサシの強い肉がよく売れる」とのことであった(写真6)。

 
 やはり、安定的に出荷でき、商品としての斉一性を担保できる生産流通システムを構築することが、経産牛肉の普及に向けた最大の課題と言えそうである。
 

(5)黒毛和種経産牛の再肥育の課題と今後の展開に向けての期待

 肉用牛の肥育に詳しい宮崎大学地域資源創成学部のなで年浩教授に、黒毛和種経産牛の再肥育における今後の課題と期待について聞いた(写真7)。「課題は、出荷される牛のサイズのばらつきが大きく、地域による違いもあることから、商品として扱い難い点である。逆に言えば、飼養管理方式がマニュアル化され、販売ルートが確立できれば、サイズや味の均一性が担保できるものと考えられる。ただし、未経産牛に比べてロース芯が小さく、ばらが薄い点は、育成方法の違いもあり、やむを得ないものと思う。硬さはさまざまであるが、黒毛和種の経産牛は赤身と脂身のバランスが良く、うま味もあることから、使い方(調理法)によっては良い肉となる。脂が硬い(融点が高い)とされる飽和脂肪酸の多い牛肉もあり、肉質の改善を意識した飼養管理技術の確立が望まれる」

4 おわりに

 廃用牛の再肥育は、これまで散発的な事業としては行われており、その有用性が一部では認知されているものの、いまだ体系的な取り組みには至っていない。その原因について考えてみると、肥育もと牛の多様性が極めて大きく、その選定基準が確立されておらず、通常の肥育様式にマッチングしていないこと、廃用牛の肥育能力と肉質が明確ではなく、栄養学的な飼料給与基準が策定されていないことが挙げられる。従って、資源として一定量が期待できる経産牛肉の生産を拡大し、国産牛肉の一つのカテゴリーとして消費者に認知してもらうためには、
(1)肥育もと牛の選定基準の明確化
(2)ルーメンに対する負荷の少ない飼養管理技術の体系化(TMRの活用など)
(3)肉質の斉一化と消費者への調理法の周知
などが重要である。また、資源循環さらには地域振興の視点から、地域の特徴的な飼料資源の開発に積極的に取り組んでいくことも有用であると考えられる。
 経産牛肉の新たな展開を期待したい。

謝 辞
 取材に際しては、新しい経産牛肥育の開発・利用に取り組む多くの方々にご協力いただき、貴重なご意見を頂きました。また、北海道内での取材では株式会社ニチレイフレッシュ 松原夏月氏、和田卓北海道支店長にお世話いただきました。株式会社新星苑 田澤宏之札幌支社長、阿武努調理長、Okazaki Food株式会社 幸野喜一郎社長、オカザキファーム株式会社 日高新吾取締役には、業務内容に関する詳細な説明と貴重なご意見を頂きました。記して感謝の意を表します。

参考資料
 Masahito SUGIMOTO, Waka SAITO, Motoki OOI and Manabu OIKAWA. Effects of days on feed, roughage sources and inclusion levels of grain in concentrate on finishing performance and carcass characteristics in cull beef cows. Animal Science Journal 83, 460–468 (2012).



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