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話題 畜産の情報 2020年10月号

JAきたみらいにおける家畜輸送業務の取り組み

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きたみらい農業協同組合 畜産部 畜産相談グループ マネージャー 西岡 宏行

1 JAきたみらいの概要

 きたみらい農業協同組合(以下「JAきたみらい」という)は、北海道のオホーツク管内の旧8JA(温根湯おんねゆ留辺蘂るべしべ置戸おけと訓子府くんねっぷ相内あいのないかみ常呂ところ・北見・端野たんの)が平成15年2月1日に合併して誕生した農業協同組合です。旧8JA組合員の基盤たる北見盆地の輝かしい未来を祈念し、「北見(きたみ)」と「未来(みらい)」をあわせ、「きたみらい」と名付けられました。西方には、大雪山国立公園旭岳、南方には、阿寒国立公園雄阿寒岳を主峰に仰ぐ北見盆地の中にあって、大雪山系を源とする常呂川と、その支流の無加川が横断する肥沃ひよくな大地を生産基盤としております。そのため、北海道における農畜産物の大半が生産されており、とりわけ「たまねぎ」は、全国一の産地としての地位を確立しています(図)。

2 JAきたみらいの畜産部門

 JAきたみらい管内は酪農業がメインの産業で、和牛繁殖、交雑牛肥育、乳牛育成を行っている農家もいます。酪農家戸数は年々減少しており、令和元年度の酪農家戸数については137戸と合併当初と比べると4割程度減少していますが、生乳生産量については大きな変動はなくやや減少している一方、1戸当たり生乳生産量は大幅に増加しています(表1)。また、管内には哺育育成センター(構成員48戸、飼養頭数860頭)の他に七つのTMRセンターがあり、1センター当たり6〜7戸で組織され、合計で45戸が加入しています。TMRセンターは、大型センターではなく気心が知れた人同士で構成し、運営を行っております。

 
 昨年度は年間を通して気温と降雨量が安定していたことから、牧草・デントコーンの品質・収量ともに高水準だったため、今後の生乳生産に期待が持てます。また、年間を通じて個体価格・乳価の高値安定に支えられたため、良好な経営環境で推移しており、これまでTMRセンターの新設や個別経営規模の拡大など補助事業を活用した経営基盤の整備を積極的に支援しております。

3 家畜輸送業務の実施

 近年の運送業界は、長時間労働の改善対応やドライバーの高齢化など慢性的なドライバー不足により、円滑な業務の遂行が難しい状況の中で、委託先の民間業者から家畜輸送料金の改定を求められるなど、安定的な家畜輸送業務を行っていく上で大変厳しい状況が続き、家畜市場における前日搬入や土曜・日曜・祝日に家畜輸送を行うなどの状況が続いていました。平成15年2月のJA合併を機に既存の家畜運搬車(以下「運搬車」という)4台は全て売却し、家畜輸送業務は全て民間業者3社への委託により、当JAの統一料金を設定し、コストの低減を進めてきました。しかしながら、輸送業者の収益性を考慮し、20年に価格改定により料金を引き上げたものの、21年に民間業者1社が撤退し、さらに25年にも1社が撤退しました。それ以降は1社のみで輸送業務を行い、26年には原油価格の高騰、31年2月にも人件費の高騰により価格改定を行いながら対応してきました。こうした中で近隣の民間輸送業者を巡回し、業務委託の協力要請を行ったものの、いずれの輸送業者も人員の確保は難しく、また、牛などの生き物を扱うことの不慣れさもあり、常時運搬車を準備することは困難であるとの結論に達しました。
 当JAは合併後の輸送エリアが広く東端の酪農家から西端の酪農家まで約70キロメートルと、牛の集荷だけでかなりの時間を要することもある点が、委託先が見つからない原因の一つでもありました。また、廃用牛を移動させるなどといった組合員の急な要望に対応しきれないことが増えてきました。そこで、今後の家畜輸送を見据えた場合、ホクレントラック事業(注1)に参入するか、または当JAで運搬車を調達し、かつドライバーを雇用して家畜輸送を行うのか協議した結果、令和2年4月から前者による「ホクレントラック訓子府事業所」を設立し、新たに家畜輸送業務を行うこととなりました。
 実際に業務を開始するに当たっては輸送に関する知識も少なく、事業所登録に至るまでさまざまな要件を満たさなければならないことから、事務所、駐車場、要領、車両管理、運行管理などの設定について、ホクレン農業協同組合連合会や関係業者の協力を得ながら準備を進め、訓子府事業所を開設しました。
 同事業所では月1回の乳牛、肉牛それぞれの専門市場への輸送や、毎週火曜日には子牛や育成牛、経産牛、廃用牛とさまざまタイプの牛がセリにかけられるための輸送が必要となります。また、週2〜3回ほどある廃用牛や農家間の牛の移動なども担っています。さらに、北見市、訓子府市、置戸町には公共牧場が5カ所あり、それぞれの生産者の該当市町村の牧場に5〜10月の間預託することができるため、今年5月下旬には1000頭を超える牛の入牧が行われました。これらの運搬業務について、事業所内のドライバー調整で輸送計画を立てられることから、以前より効率的に輸送業務を行うことが可能となりました。
 ドライバーはJAきたみらいの準職員であり、勤務時間は午前5時〜午後9時のうちの7時間(休憩時間1時間)となります。家畜市場開催日は、牛の集荷後に市場へ向かうので、早朝からの仕事とならざるを得ません。しかし、市場開催日以外は庭先移動が主なので、極端に始業が早くなることはありません。業務開始当初は運転経験の豊富なドライバーが必要だったので、青果物取引先の運送会社から2名に出向してもらい、2名のJA準職員と合わせて現在4名のドライバーによって輸送業務が行われています。なお、当JA内で7名の職員が大型運転免許を取得していることから、不測の事態が起こった場合に対応できる体制をとっています(表2)。


 
(注1) 農協の総合業務のうち、物流部門が組織的に独立した形態の事業。現在、全道では108JA中、34JAが事業に参入しており、家畜生体の輸送は生産者から家畜市場・畜産公社などへ輸送される。また家畜の運搬のほか生乳運搬と飼料配送も含まれる。なお、自動車共済はホクレントラックとして一括で加入し、共済掛金は業界一般と比較すると安価となるメリットがある。事業所の設立についても、JAで全てを行うのではなくホクレン支所からのノウハウが得られ、事業所をスムーズに開設することができる。

4 運行業務の開始と今後に向けて

 今年度の事業計画通り、令和2年4月から輸送業務が開始され、現在は各専門市場、廃用牛の対応、初生牛集荷、公共牧場への入退牧、酪農家間移動などを行っています。申込頭数によっては庸車ようしゃ(注2)を依頼する場合もありますが、不慣れながらも組合員の要望に応えるべく取り進めています。その中で、導入後のメリットとしては、今までは常に配車(運搬車の確保)が課題でしたが、当JA畜産部内の調整により家畜運搬が可能になったため、組合員の要望に対しても迅速な対応が可能となったことが挙げられます。一方、依然として全国的なドライバー不足が解消されないため常に一定のドライバーを確保できるのか、また、走行中の交通事故などのリスクを考えると常に不安を抱えています。
 訓子府事業所開設直前の3月に、1台につき初妊牛約10頭を運ぶことができる7トン運搬車4台の導入(写真1、2)と、JAからの公用車(バン中古)入れ替えにより事業所として基準台数となる最低5台以上所有することとなりました。しかし、事業所としての収支については、償却年数などから判断すると稼働年から数年間は厳しい収支状況が続くものとみられます。




 今後については、現状の体制で進めながら引き続き民間輸送業者と協議を行い、可能であれば民間業者に完全委託する方向性も視野に入れながら、可能な限り組合員の要望に応えることができる体制を整えてまいります。また、円滑に家畜輸送業務が行えるよう「安全運転」を心がけ、家畜輸送事業に取り組み、ひいては持続可能な畜産業を確立していきたいと考えています。

(注2) 自社の仕事を下請けの運送会社や個人事業主の業者に依頼をすること。

(プロフィール)
平成8年4月1日 旧置戸農業協同組合 入組(管理課)
   9年4月1日 畜産課
   15年2月1日 きたみらい農業協同組合畜産部
   31年4月から現職