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海外情報 畜産の情報 2020年12月号

中国の養豚業におけるアフリカ豚熱の影響

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中国農業大学経済管理学院 王子権(Wang Ziquan)、劉玉梅(Liu Yumei)
中国人民大学附属中学 辛浩然(Xin Haoran)

【要約】

 中国は世界で最も多く豚肉を生産・消費している国である。2018年8月に発生したアフリカ豚熱の防疫対策では、地域をまたいだ豚肉などの移動が制限されたため、発生初期には地域間の需給ギャップが拡大した。その後のアフリカ豚熱のまん延により全国ほぼ全域にわたり豚肉供給が不足し、地域間ギャップは解消したものの、すべての地域で豚肉価格が高騰した。需要が維持される中で、国内の供給不足を補うために、豚肉輸入量・輸入額ともに大幅に増加したが、今後もこの傾向は継続するものと予測される。
 このような情勢の中、中国国内における豚肉の安定供給には、国内養豚産業の底上げが必要である。

1 はじめに

 豚肉は中国国民にとって最も重要な食肉であり、養豚業の安定した発展は、国民の食料安全保障にとってとりわけ重要な課題の一つである。しかし、2018年に中国で起こったアフリカ豚熱の大流行は、養豚業に大きな問題として立ちはだかった。2018年8月3日に遼寧りょうねいしんよう地区で第1例目の発生が確認されて以降、政府は発生地域内で飼養されていたすべての豚を殺処分し、無害化処理(注1)を施したにもかかわらず、アフリカ豚熱は中国全土に急速に拡大した。2019年8月31日時点で、全国の32省・自治区・直轄市で合計153件の発生が確認されている(注2)。これにより、中国の豚総飼養頭数は大幅に減少し、豚肉の安定供給に深刻な脅威をもたらした。
 このような状況が示す通り、中国養豚産業の安定的な発展および国民への豚肉供給を保障するためには、養豚業および豚肉市場へのアフリカ豚熱の影響を理解することが重要である。本稿ではマクロ統計データと関連資料に基づき、(1)養豚経営(2)と畜・加工(3)豚肉消費と価格(4)豚肉輸出入―の四つの観点から、アフリカ豚熱が中国養豚業にもたらす影響を分析した。本稿中の為替レートは、1元=15.9円(2020年10月末TTS相場:15.91円)および1米ドル=106円(同105.6円)を使用した。なお、本稿は、2020年2月に執筆されたものである。

(注1) 中国では、アフリカ豚熱などの疾病発生時における、疾病発生農場の飼養家畜の殺処分とこれら家畜の埋却もしくは焼却処分、畜舎の消毒、飼料など資材や排せつ物の焼却処分もしくは消毒などの措置の防疫措置を、「無害化処理」と称している。
(注2) 最新の発生状況は日本の農林水産省消費・安全局の「アジアにおけるASFの発生状況」(https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/asf.html)を参照されたい。

2 養豚業の歴史

 中国の養豚業の歴史は古く、新石器時代(同国では紀元前8000年〜)の中国では早くも豚を家畜として飼養していたという記録があり、世界で最も早くイノシシを家畜として飼いならした国家の一つに数えられる。1949年に中華人民共和国が成立すると、封建制度が覆され、農民にも土地が分け与えられ、これをきっかけに養豚業は急速に回復・発展した。1959年、毛沢東主席が国民に対し『養豚業に関する一通の手紙』という声明において、「豚」は「六畜」(注3)の筆頭であるべきとの考えを提起すると、その後中国では、養豚業は国家の重要事業と位置付けられるようになった。1978年の改革開放後は、中国国民の消費が豊かになるにつれて、国民の豚肉需要が大幅に増加したほか、海外の先進的な養豚技術の導入も手伝い、中国養豚業は急速な発展を見せた。
 2017年末時点の中国の豚総飼養頭数は4億3325万頭、出荷頭数は6億8861万頭であり、中国の豚肉生産量が世界に占める割合は1980年代初めの20%前後から2017年の49.1%にまで上昇した。同時に、豚肉は中国の食肉消費市場の中でも巨大なシェアを占めており、2000年以降、同国の食肉消費に占める豚肉消費の割合は60%以上を維持し、2017年の中国の豚肉消費量は5487万トンに達した。現在、中国は、豚肉生産量および消費量ともに世界第1位である(総飼養頭数、出荷頭数、豚肉生産量および消費量のデータは、いずれも中国統計年鑑)。

(注3) 「六畜」とは、豚、牛、羊、馬、鶏、犬を指す。

3 養豚業に対するアフリカ豚熱の影響

(1)豚飼養頭数の変化

 中国では、大規模な集約化養豚モデルの普及に伴い、養豚業は順調に発展してきた。この20年間において、年末時点の豚飼養頭数(注4)は4億1000万頭〜4億4900万頭の間で安定している。このうち、1999〜2007年の年末時点の豚飼養頭数の平均は4億2346万3000頭だったが、2008〜2014年の飼養頭数は増加して4億4680万4000頭に達した。しかし、2015〜2018年の飼養頭数は若干減少傾向となり4億4247万頭としている(図1)。

 
 過去20年間における出荷頭数(注5)の推移を見ると、前半は増加、後半は減少しており、その変動状況は次の三つの段階に区分することができる。
 第1段階は、1999〜2006年の継続的に増加した時期である。出荷頭数は5億1977万2000頭から6億1209万3000頭まで伸びた。
 第2段階は、2007〜2014年の反落後に急速に増加した時期である。2006年の繁殖雌豚頭数の減少と豚肉消費量の減少により、翌2007年の出荷頭数は5億6640万9000頭まで落ち込んだ。その後、増減を繰り返しながらも、2014年には7億4951万5000頭まで増加した。
 第3段階は、2015〜2018年の継続的に減少した時期である。2015年以降出荷頭数が継続的に減少し、2018年には出荷頭数が6億9382万頭まで減少した。
 中国農業農村部により全国400県で実施されたモニタリング調査によると、アフリカ豚熱発生(2018年8月、以下同じ)前は、豚飼養頭数と繁殖雌豚頭数が共に安定的な水準を維持していた(図2)。しかし、アフリカ豚熱発生以降、いずれも大幅に減少している。繁殖雌豚頭数は2018年10月に前年同月比5.9%減とかなり減少し、その後アフリカ豚熱の流行拡大に伴い、翌2019年8月まで減少の一途をたどった。この動きに対し、中国国外のさまざまな研究機関により飼養頭数が予測され、数%〜50%の幅は生じているものの、いずれも2019年および2020年の飼養頭数は減少するとされている。
 

 
(注4) 豚飼養頭数には、種豚、繁殖雌豚、肥育豚、子豚が含まれる。
(注5) 出荷頭数は、飼養農場から出荷された頭数。大半がそのままと畜されるが、別農場に移送される豚も含まれる。なお、市場を通していない取引は含まれない。

 

(2)肥育豚の供給

 アフリカ豚熱発生以降、生体豚(注6)および豚肉製品(注7)(以下「豚等」という)の移動制限が、疾病のまん延を抑制する重要な手段の一つとなった(注8)が、同時に、国内の需給不均衡をもたらした。2019年2月18日、農業農村部が『全国アフリカ豚熱等重大動物疫病地域的予防方案(意見募集稿)』および『全国アフリカ豚熱予防工作方案(2019年)(意見募集稿)』を公布したが、その付録に、各省の肥育豚の年間出荷頭数ならびに純入荷頭数と純出荷頭数が掲載されている。以下に、中国の地理区分方式に基づき、各省を七つの地域に区分(注9)して需給動向を分析した(図3)。

(注6) 生体豚には、種雄豚、繁殖雌豚、肥育豚、子豚が含まれる。子豚の多くは肥育もと豚である。
(注7) 豚肉製品とは、と畜・加工後の製品を指し、豚肉、内臓、骨、皮などを指す。
(注8) 主なアフリカ豚熱対策については、海外情報「アフリカ豚コレラ続発も豚肉価格の変動は小さく、輸入量は減少」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000523.html)を参照されたい。
(注9) 各7地域に含まれる省・自治区・直轄市は、以下の通り。統計によって地域区分が異なるが、本稿では後述の区分に統一して分析した。
    東北地域(遼寧、吉林、黒竜江)
    華北地域(北京、天津、河北、山西、内モンゴル)
    華中地域(湖北、湖南、河南、江西)
    華東地域(上海、江蘇、浙江、山東、安徽)
    華南地域(広東、広西チワン族、福建、海南)
    西南地域(四川、重慶、貴州、雲南、チベット)
    西北地域(陝西、新疆、甘粛、寧夏、青海)

 
 
 分析に当たり、地域内の肥育豚および豚肉製品(以下「肥育豚等」という)の生産頭数が需要頭数を満たせるか否かを基準ラインとして、肥育豚等の生産地域を出荷地域と入荷地域に区分すると、出荷地域(供給超過地域)は東北地域、華北地域と華中地域となる(表1)。これら3地域の余剰頭数および余剰頭数の需要頭数に対する割合(充足率)はそれぞれ751万7000頭(13.3%)、221万3000頭(3.8%)、4123万4000頭(26.0%)と、供給過多となっている。一方、入荷地域(需要超過地域)は華東地域、華南地域、西北地域、西南地域であり、これら3地域の不足頭数および不足率はそれぞれ1852万8000頭(13.3%)、605万1000頭(6.2%)、230万8000頭(8.3%)、1814万2000頭(11.5%)と、かなりの供給不足となっている。このことから、仮にアフリカ豚熱が発生せず、2019年の各地域の肥育豚等の需給に変化がなかった場合、全国には総出荷頭数0.9%に当たる593万5000頭の余剰生産能力があったはずであり、各地域の肥育豚等の需要を基本的に満たすことができた。しかし、アフリカ豚熱が発生し、豚等の移動が制限されたことにより、地域間の需給ギャップを埋めることは困難となった。
 

 

(3)生体豚の価格

 農業農村部により全国500カ所の集貿市場(地方で定期的に行われる市)で実施されたモニタリング調査によると、アフリカ豚熱発生前は、子豚の農家販売価格の全国平均価格は下降傾向にあった(図4)。これは、この時期の中国の養豚産業が盛んで子豚の出荷が旺盛だったことを示している。その後2019年2月までは、一時的な上昇は見られたものの、下降傾向は続いていた。しかしながら、同年3月以降、アフリカ豚熱の影響が表れ、肥育豚および子豚価格に顕著かつ継続的な上昇が見られ、2020年2月にはいずれも2010年以降の最高値に達している。
 
 
 地域ごとに見ると、アフリカ豚熱発生前は各地域の肥育豚価格に差はなく、すべて上昇傾向にあった。しかし、アフリカ豚熱発生後は、市や県などの行政区分をまたぐ豚等の移動が禁止され、各省で豚等の移動が地方政府の管理下に置かれた結果、肥育豚価格に大きな地域差が出現するようになった(図5)。その差は、拡大、縮小、再び拡大という三つの段階を経ている。
 
 
 第1段階(2018年8月〜2019年1月)においては、各地域の需給不均衡が深刻で、価格差が拡大した。華南および西南地域は全国でも肥育豚価格が上昇した地域で、とりわけ西南地域の肥育豚価格は1キログラム当たり17元(270円)以上に達した。主にこの2地域では1人当たりの豚肉消費が多く、他の地域から肥育豚等を入荷(注10)しなければ需要を満たせないため、供給が不足したことで肥育豚価格も上昇した。一方、東北および華北地域は、肥育豚価格が低迷した地域となった。このうち、東北地域では2019年始めの肥育豚価格が1キログラム当たり8元(127円)を割っている。これは、主にこの2地域では1人当たりの豚肉消費が少なく、地域内の肥育豚等の供給が需要を上回っていることによる。また、華東、華中および西北地域の価格も、下げ幅は小さいものの低下傾向にあった。これらの地域では、消費者のアフリカ豚熱に対する認識不足により、流通している肥育豚等の安全性に懸念があるとみなして豚肉消費を控えたことで、地域内の肥育豚等の供給が需要を上回ったためと考えられる。
 第2段階(2019年2〜5月)では、各地域の肥育豚価格は3月に高騰した後、安定して推移しているが、各地域の価格差が縮まっており、豚肉需給は比較的バランスが取れていたと言える。これは、アフリカ豚熱が収束せず全国的なまん延が続いたことで、全ての地域で豚の飼育頭数と繁殖雌豚頭数が減少し、肥育豚の供給が減少したためである。
 第3段階(2019年6〜8月)では、各地域の肥育豚価格は軒並み上昇し、地域差も再び拡大した。2019年6月、西南地域以外の6地域では急速な上昇傾向を示し、その後、同年7月には華南地域で肥育価格が高騰した。

(注10) 中国では、豚を生産した省内の食肉処理場でと畜し、豚肉製品を消費地の他省に運搬する場合と、肥育豚を生体のまま運搬し、他省でと畜する場合がある。
 

(4)養豚経営の収益

 肥育豚とトウモロコシの価格比(以下「豚飼料比」という)は、肥育豚価格を主要飼料原料であるトウモロコシ価格で除したもので、養豚経営の収益を評価する重要指標の一つである。国家発展改革委員会、財政部、農業部、商務部、工商局および国家質量監督検験検疫総局が2009年1月に合同で公布した「肥育豚価格の過度の下落防止調整対策(暫定)」の目標では、豚飼料比5.5以上を目指すとし、この豚飼料比を次の五つのゾーンに区分している(表2)。なお、一般的に、5.5が養豚経営の損益分岐点と見なされており、零細農家は豚飼料比 が5.5を下回ると繁殖雌豚を処分する一方、6.0を超えると繁殖雌豚を導入するとされる。
 
 
 アフリカ豚熱発生後は、2018年8月から2019年6月の間は全体的に上昇傾向にあり、2020年2月時点では17.5と、かなりの高利潤状態を呈している(図6)。
 
 
 また、損益分岐点を独自に設定している民間証券会社である東方財富のデータベースによると、アフリカ豚熱発生後、全国の豚飼料比の変動は次の3段階に区分することができる(図7)。
 
 
 第1段階(2018年8月〜9月26日)では、豚飼料比が5.5から5倍後半で変動した後4.8まで急落し、損益分岐点を下回った。
 第2段階(同年9月27日〜2019年1月30日)には、豚飼料比は5.0〜5.5の間を変動した後、1月30日に最低水準となり損益分岐点に達した。
 第3段階(同年2月1日〜7月31日)では、豚飼料比は変動しながら上昇傾向を示している。7月31日には7.9まで上昇し、損益分岐点との差も拡大した。

4 と畜・加工に対するアフリカ豚熱の影響

(1)と畜頭数

 養豚業の発展はと畜産業の発展を促し、食肉処理場の規模は拡大し続けている。全国の食肉処理場における年間2万頭以上規模の処理頭数に占めるシェアは、2016年は30.5%であったが、2019年は32%に上昇した。また当該規模の処理場におけると畜頭数は、2016年の2億900万頭から2018年は2億4200万頭まで増加している。その後、アフリカ豚熱の影響により2019年は前年比21.1%減の1億9100万頭まで減少し、直近7年間で最低となった(図8)。
 
 
 これらの食肉処理場での1カ月当たりの平均と畜頭数は、アフリカ豚熱発生前、1978万5600頭であったが、アフリカ豚熱発生後から2020年1月までの平均は1706万7300頭に落ち込んだ(図9)。
 
 

(2)豚肉生産量

 養豚業の発展に伴い、中国の豚肉生産は2014年まではおおむね増加傾向で推移してきた(図10)。その後、わずかに減少傾向で推移し、2018年の豚肉生産量は5404万トンであった。
 
 
 アフリカ豚熱発生以降、飼養頭数と繁殖雌豚頭数の減少に伴い、豚肉生産量も深刻な影響を受けている。飼養頭数と同様にさまざまな研究機関が今後の豚肉生産量を予測していたが、いずれも減少するものであった。

5 豚肉消費と価格に対するアフリカ豚熱の影響

(1)豚肉消費

 国民の生活水準の向上や食生活の変化に伴い、中国国民の動物性タンパク質に対する消費需要もまた増加し、中国の1人当たりの豚肉家庭消費量は上昇傾向で推移している(図11)。近年は、農村の経済水準が向上してきたため、都市部と農村部の差が縮まってきている。
 
 
 中国は広大な国土面積と、多様な風習を持つ56の民族を擁し、自然条件にも地域的な差があることから、豚肉の消費形態はさまざまであるが、同国の豚肉消費量には「南多北少」の特徴があることがうかがえる(図12)。1人当たりの平均豚肉消費量を地域別に見ると、西南地域が最大で、そのうち、四川省、重慶じゅうけい市、貴州省および雲南省は特に多い。次に多いのが華南地域で、中でも広東省、広西チワン自治区、福建省、海南省が多い。一方、華中および華東地域は中程度、華北および東北地域はやや少なく、西北地域は最も少ない。
 
 
 また、豚肉消費の季節変動を見ると、中国国民の食習慣、生活水準ならびに中国の伝統的祝祭日の影響を受けていると言える。一般的に夏季は相対的に少ないが、9月には気温が下がり、各大学の新学期や国慶節などの祝祭日があるため、豚肉消費は増加する。春節(旧正月、毎年1月下旬〜2月上旬)期間中は、豚肉やハム・ソーセージなどの豚肉製品に対する需要のピークを迎え、その反動で2〜3月の豚肉需要は大幅に下降し、夏季が来る前にわずかに回復する状況にある。
 アフリカ豚熱発生以降、国民の豚肉消費量は減退している。これは、主に消費者の認識不足による豚肉の安全性に対する信頼の低下に加えて、豚肉価格が上昇したことにある。そのため、国民は、牛肉、羊肉および鶏肉などの他の肉類を代替消費している。しかしながら、先物取引所や投資コンサルタントである中信期貨によると、2019年の中国の豚肉消費量は、肥育豚頭数に換算すると前年比2.8%減の7億0340万頭と予測している(表3)。同予測では、中国ではすでに豚肉を消費する習慣が根付いており、豚肉価格の影響を受けにくいため、消費量の減少は比較的小幅であったとしている。同時に、2019年半ば時点ではアフリカ豚熱ウイルスが人体に影響を及ぼすものとはされておらず、また政府の前向きな宣伝も相まって、 豚肉消費に対するマイナス面の影響は大きくない。
 
 

(2)豚肉価格

 一般的に、豚肉価格は、最も需要の多い春節期間中に1年のピークを迎え、春節後は下降し、夏季直前が年間を通じて最低価格になる。アフリカ豚熱発生前の豚肉価格の変動には、このように明らかな季節性の特徴が見られた(図13)。
 
 
 しかし、アフリカ豚熱発生後の豚肉価格は、季節的な特徴とは関係ない変動が見られ、2019年2月までの春節期間の豚肉価格が年間を通じ最高値となる特徴とは相反し、低値で推移した。また、同年3〜10月における豚肉価格も、春節を過ぎると下落するというこれまでの特徴とは合致せず、顕著に上昇した。
 農業農村部による中国16省・直轄市(注11)の枝肉出荷価格のモニタリングデータを7地域に区分してみると、アフリカ豚熱発生前は、地域間の価格差はほとんど見られない(図14)。一方、アフリカ豚熱発生後は、地域間の価格差が見られ、以下の三つの段階に区分し説明することができる。
 
 
 第1段階(2018年8月〜2019年4月)では、地域内の豚肉需給の均衡が崩れたため、豚肉価格の地域差が拡大した。西南地域が最も高く、東北地域が最も低くなっている。
 第2段階(同年4〜8月)では、需給ギャップが解消されたため、豚肉価格の地域差は縮小したものの、第3段階(同年8月以降)では、全国的に繁殖雌豚および肥育もと豚の供給不足が顕著になり、再び需給ギャップが拡大し、豚肉価格は急速に上昇した。従って、今後は当座の間、豚等の移動制限が段階的に緩和されたとしても、各地域の豚肉価格は依然として上昇傾向を保持している。

(注11) モニタリングを行う16省・直轄市は、黒竜江省、吉林省、遼寧省、北京市、天津市、河北省、河南省、湖北省、湖南省、山東省、江蘇省、安徽省、浙江省、福建省、四川省、広東省。

6 豚肉輸出入に対するアフリカ豚熱の影響

 2007年以降、中国は豚肉の純輸出国から純輸入国に転じたが、輸入量の増加は主に内外価格差の影響を受けた結果である。米国農務省(USDA)の「China’s Volatile Pork Industry(2012)」によると、2006年以降、中国の豚肉価格は米国の価格を大きく上回っている。このため、輸送費や関税が付加されても、輸入豚肉の方が安価となる。2016年には環境規制によって豚肉生産量が減少(注12) し、国内豚肉価格が高騰したため輸入量が増大した結果、豚肉消費に占める輸入肉の割合は2015年の1.7%から2016年は3.6%となった。しかしながら、その後は豚肉価格が落ち着いたため輸入量も減少し、2018年の輸入量は120万4600トンとなった。一方、直近10年の豚肉輸出量は比較的少なく、変動も大きくない(図15)。
 

(注12) 中国の養豚業に対する環境規制の影響については、『畜産の情報』2018年4月号「中国の養豚をめぐる動向と環境規制強化の影響」(https://www.alic.go.jp/content/000149048.pdf)を参照されたい。
 
 月ごとの純輸入量および金額の推移を見ると、アフリカ豚熱発生前12カ月間の平均純輸入量は16万8500トン、平均純輸入額は2億5300万米ドル(約268億1800万円)であった(図16)。アフリカ豚熱発生後12カ月間はそれぞれ、18万3100トン(発生前と比較して8.6%増)と2億8600万米ドル(同13.3%増)とかなり増加した。特に2019年3月以降の純輸入量および純輸入額は顕著に増加していることから、(1)アフリカ豚熱の影響が輸出入に表れるまでには一定のタイムラグが存在していること(2)国内の供給不足拡大に伴い、輸入が、この深刻な供給不足を解決する重要な手段となったこと―が分かる。
 
 
 アイオワ州立大学のダーモット・ヘイズ(Dermot Hayes)農業経済学教授は、中国が短期間内にアフリカ豚熱を根絶するのはかなり難しく、中国養豚業に対する影響は次第に表面化していくだろうとの考えを示し、2020年の中国の豚肉輸入量が400万〜600万トンに達すると推計した。

7 おわりに〜まとめと政策提言〜

 アフリカ豚熱は中国養豚産業に多大な影響をもたらしている。国内の豚飼養頭数は減少し、豚肉製品の供給不足を招き、需要がさほど減少しない状況の中で豚および豚肉価格は高騰し、供給不足は時間の経過とともにより顕著となっている。また、アフリカ豚熱の感染拡大防止のための移動制限により、豚および豚肉製品の地域を越えた流通が困難となったため、アフリカ豚熱発生初期には主要消費地域が供給不足、主要生産地域が供給過剰となり、各地域間の価格の差異が顕著となった。政府は2019年8月に増頭に向けた施策を実施しているものの、程度の差こそあれ、すべての地域で供給不足となっている。
 こうした中、中国における養豚農家の利益を保障することで養豚産業の安定的な発展を促し、国民の消費需要を満たすため、われわれは以下の政策を提言する(注13)
 

(1)アフリカ豚熱防疫水準の向上

 養豚農家の疾病に対する防疫水準を引き上げる。また、と畜、輸送、売買取引など流通の重要なポイントでの政府による監視を強化する。これらのポイントにおいては、ICT(情報通信技術)を活用して、情報のビッグデータ化を行うなどの体制を整備することで、管理水準を向上させると同時に効率化を図る。

(2)豚肉消費の促進と市場価格の安定化

 政府は消費者に向けてアフリカ豚熱に関する知識の普及活動を継続的に実施する。これにより、豚肉製品の需要を安定化させることが可能である。
 また、短期間でのアフリカ豚熱の撲滅が不可能であることを踏まえ、豚肉の代替品である牛肉・羊肉・鶏卵産業の発展に積極的に取り組む。これら代替品の供給を増加させることで、豚肉価格の安定を図ることが可能である。

(3)豚肉生産能力の回復

 養豚農家に対してアフリカ豚熱防疫を技術面でも支援する。アフリカ豚熱発生農家には殺処分と補償を徹底し、融資の利息を補助するなどの助成制度を提供するシステムを確立し、これら政策の普及を促進する。養豚農家の経営継続に対する不安を払拭ふっしょく することで、豚飼養頭数を安定的な水準まで引き上げることが可能である。
 また、優良品種・系統の豚を導入・普及するための「豚遺伝子改良計画」を推進し、種豚など繁殖用豚の国内調達率を向上させることで、豚や豚肉の長期的かつ安定的な供給を保障する。
さらに、国内外の市場および資源を総合的に活用することで、国内供給をより有効に保障することが可能である。

(4)調達流通政策の一新

 全国の流通体制の合理化、効率化および衛生水準の向上を推進する。アフリカ豚熱の発生状況に応じて地域を細分化し、アフリカ豚熱の拡大を防止する。同時に、流通体制を必要に応じて見直し、可能な限り柔軟に対応することで、地域間で豚肉生産能力を相互扶助する手法を確立し、生産地域と消費地域のギャップを緩和する。
 また、生体取引市場を厳格に管理する。豚肉や豚肉製品の流通システムを確立し、地域間の流通を、生体での輸送体制から豚肉等での輸送体制に迅速に移行する。

(5)養豚産業の底上げ

 家族経営や小規模農場においては、オランダなどの小規模高効率化養豚モデルに倣って、環境に配慮した効率的な飼養管理技術、排せつ物処理技術、防疫技術を採用する。大規模農家においては、技術的に標準化された農場経営を維持するための取り組みに対して支援することで着実な規模拡大を推進する。
 また、繁殖、と畜、加工の技術革新を進め、信用度や影響力が大きいブランドを育成することで、養豚業を大規模かつ効率的で安定した産業へ転換するよう推進する。

(注13) 2020年2月に提言されたものである。

参考文献
張仲葛『中国養豚史の初歩的な研究[J]』農業考古、1993(1):210−213
韓磊『2018年中国豚肉市場情勢分析および展望[J]』農業展望、2019,15(05):4−7+13
李夢希・朱摎E『最近10年の我が国における豚肉輸出入状況および今後の貿易情勢[J]』中国豚業、2018,13(03):29−31+34
石守定『2019年中国豚肉生産量予測[J]』中国畜牧業、2019年15期
兪敦華・楊清『豚肉販売量予測における季節予測法の応用[J]』杭州商学院学報、1984,(04):40−43+49
張勇『オランダ養豚業の体験と思考[J]』豚業科学、2010,27(11):20−22
米国農務省経済調査局(USDA/ERS)『China’s Volatile Pork Industry』(2012)
Dermot Hayes『Hayes comments on China pork import』(https://www.econ.iastate.edu/hayes-comments-china-pork-imports




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