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海外の需給動向【牛乳・乳製品/EU】 畜産の情報  2021年1月号

第1〜3四半期の生乳出荷量は前年同月比1.3%増

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9月の生乳出荷量は前年同月比1.4%増
 欧州委員会によると、2020年9月の生乳出荷量(EU27カ国)は、前年同月をわずかに上回る1148万5560トン(前年同月比1.4%増)となった(図22、表10)。2020年の生乳出荷量は5月を除いて前年同月を上回って推移しており、第1〜3四半期の累計は、前年同期比1.3%増の1億1031万9290トンとなった。EU最大の生乳生産国であるドイツ、第2位のフランス、第3位のオランダでは、それぞれ同0.7%増(2475万8270トン)、同0.8%増(1866万3500トン)、同1.3%増(1052万2700トン)となり、主要生乳生産国の多くは増加したものの、第5位のイタリア(同1.8%減)は減少した。
 


 

 


乳脂肪および乳たんぱく質含有率は前年同期比増
 欧州委員会によると、2020年8月に出荷された生乳の乳脂肪含有率は、前年同月を0.01ポイント下回る3.95%、乳たんぱく質含有率も前年同月を0.01ポイント下回る3.34%となった。
 なお、欧州委員会が10月に公表した農畜産物の短期的需給見通し(注1)によると、本年1〜7月の乳脂肪含有率が前年よりも0.07ポイント、乳たんぱく質含有率が同0.06ポイント上昇したとしている。乳固形分の前年同期からの上昇分の80%は、ドイツ、フランス、アイルランド、オランダ、ポーランドで乳固形分の上昇が顕著であったためとしている。特にアイルランドは牧草の品質が良かったため、乳脂肪分の上昇が顕著であった。

(注1) 海外情報「欧州委員会、生乳・乳製品の短期的需給見通しを公表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002795.html)を参照されたい。

1〜9月の乳製品輸出量、脱脂粉乳を除き増加
 欧州委員会によると、2020年1〜9月の乳製品の輸出量(英国を除く)は、脱脂粉乳を除き前年同期を上回った(表11)。最も増加率が大きかったのは、バター(16万3820トン)で前年同期比36.2%増、次いで全粉乳(24万7500トン)が同15.6%増、チーズ(67万3617トン)が同8.2%増となった。一方、脱脂粉乳(62万5957トン)は同14.2%減となった。同見通しの中で、脱脂粉乳については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴う外食需要の低下などにより価格が低迷していることから、国際市場では競争力を有しているとしている。従って、通年では過去最高を記録した前年と比べて10.0%の減少が見込まれているものの、前年に次ぐ高い水準になると予測されている。
 

  
 また、英国向けの輸出量は、同年1〜8月の累計ではあるが、脱脂粉乳を除いて、軒並み前年同期を下回っている。現地報道によると、英国からの乳製品の輸出量も、移行期間(注2)終了が近づくに連れて減少傾向にあるとのことである。
 なお、英国のEU離脱に向けた移行期間は2020年12月31日に終了することから、12月7日現在、離脱後の通商条件に関する交渉などを行っている最中にあるが、合意に至らない場合は、英国との貿易に最恵国税率(WTO加盟国すべてに適用される関税率)が適用されて実質的な関税率の引き上げになる。また、何らかの合意が得られたとしても、牛乳・乳製品の通関に衛生証明が必要になるなどして通関の際に現状よりも長い時間を要するようになり、生鮮乳製品の輸出入が困難になることも懸念されている。このため、現在は生乳処理のために北アイルランド(英国領)とアイルランドの間を自由に往来している生乳の輸送が困難になることや、英国からEU域内にクリームとして輸出されていた生乳を、日持ちするバターに転換する必要が生じるなどの可能性もあり、英国を含めたEU域内の中で均衡していた需給バランスが崩れるなどの貿易面での混乱が予想されている。

(注2) 英国は2020年1月31日にEUを離脱したものの、現在はEU法の適用下の「移行期間」にある。移行期間は同年12月31日に終了予定。EUと英国は移行期間終了後に向けた通商交渉などを行っている最中にある。

 

(調査情報部 小林 智也)