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海外情報 畜産の情報 2021年1月号

ポーランドにおける牛乳・乳製品の生産および輸出動向について

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 ポーランドは、EU(27カ国)における主要生乳生産国の一つである。同国では、EUによる2015年の生乳クオータ制度の廃止を受け、酪農家の規模拡大などが進み、生乳出荷量は増加傾向で推移している。一方で、同制度の廃止以降、小規模農家の廃業などもあり、農家の生産性向上や競争力強化に向けた支援が行われている。また、同国で生産された牛乳・乳製品の約30%が輸出向けとなっているが、近年、欧州から中国への鉄道網の発達などもあり、中国向けの輸出量が増えている。今後も中国をはじめアジア向けの輸出に力を入れていくなど、同国の生産および輸出動向が注目される。

1 はじめに

 ポーランドは、2004年に欧州連合(EU)に加盟した東欧の農業大国である。同国は、酪農に適した気候条件から、EU(27カ国)内の主要生乳生産国の一つであり、2019年の生乳出荷量はEU加盟国の中で第4位である。また、同国の農業産出額に占める生乳部門の割合は最も高く、酪農分野は主要な産業である。
 同国の農業の特徴は、小規模農家が多く存在することであるが、酪農分野においてもそれが当てはまる。しかし、近年、他のEU諸国同様、大規模農家への集約化や適地生産化が進み、市場構造が変わりつつある。また、EUの生乳生産割当制度(以下「生乳クオータ制度」という)(注1)が2015年に廃止されたことで、この傾向はさらに顕著となった。実際に、同制度の廃止は、同国における酪農分野の規模拡大や集約化を引き起こし、その結果として、同国の生乳出荷量は増加している。しかし、集約化などが進展する一方で、小規模農家が大きな影響を受けている。
 同国の農家支援の取り組みも他の農業大国と同様、EUの共通農業政策(CAP)の下で実施されているが、上述の背景から、各加盟国に与えられた裁量の範囲で、環境面や持続可能な農業に向けた取り組みよりも農家の生産性向上や競争力強化に重点を置いたものとなっている。
 また、同国は、生産した牛乳・乳製品の約30%(生乳換算)を輸出している。主要な輸出製品であるホエイや飲用乳、生クリームの主な輸出先の一つが中国であり、欧州と中国をつなぐ鉄道の発達や中国国内での乳製品の需要拡大への期待もあり、近年の輸出動向が注目されている。
 こうした状況から、同国は、世界にとって重要な牛乳・乳製品の供給国となっているとともに、気候条件の優位性や生産コストの低さから、今後さらに成長を続けていくものとみられる。そこで、本稿では、同国の牛乳・乳製品の生産や輸出動向、酪農・乳業に対する支援策などを報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=126円(11月末日TTS相場:125.88円)を使用した。

(注1) EUでは、1984年以降、国ごとに生乳生産量の枠を割り当て、枠を超過した場合、一定額の課徴金を課すとともに、加盟国内の農家間での売買などを認める生産割当制度を実施していた。

2 ポーランドの酪農について

(1)酪農分野の概要

 ポーランドの国土面積は約31万平方キロメートルと日本の約5分の4程度となっている。また、国土の47%が農地、31%が森林であり、農業環境にも恵まれている。総人口(約3797万人:2019年)の約3分の1が農村部に暮らしており、農家の規模は比較的小さい。
 同国の2019年の農業産出額を部門別に見ると、生乳部門は16%と最も高く、酪農は主要産業となっている(図1)。
 

 
 同国の2016年の酪農家戸数は約37万3000戸、乳牛飼養頭数は約225万頭であり、1戸当たり飼養頭数は極めて少ない。同国の生乳出荷量は年々増加傾向で推移し、2019年はEU加盟国の中で第4位であることから、欧州において重要な酪農国となっている(表1、図2、3)。
 




 
 また、米国農務省(USDA)によると、同国では北東部にあるヴァルミア・マズールィ県、ボドラシェ県、マゾフシェ県で酪農が盛んである(図4)。
 

 
 同国で飼養されている乳用牛(牛群検定参加牛)は、ホルスタイン(305日平均乳量8055キログラム)が97%とほとんどを占めるが、小規模農家においては、伝統的なレッドポリッシュ(同3523キログラム、0.29%)やシンメンタール(同6146キログラム、0.88%)も飼われている。同国では前述の通り飼養規模が極めて小さいものの、近年、徐々に規模拡大が進展している。2005〜13年の農地面積別の飼養頭数を見ると、30〜99.9ヘクタール層で増加している一方で、2ヘクタール未満〜29.9ヘクタール層で減少している(表2)。なお、2015年のEUの生乳クオータ制度の廃止により、さらなる集約化や適地生産化が進んでいることから、現在、この傾向はさらに進んでいると考えられる。

 
 EUの教育助成プログラムである「ERASMUS+」によると、同国の酪農分野の長所と短所は表3の通りである。

 

(2)飼養方法

 ポーランド乳業協会(以下「ZPPM」という)によると、一般に夏は放牧し、他の季節は舎飼いされているという。しかしながら、欧州草地連盟(European Grassland Federation)によると、ポーランドの放牧率は20%と比較的低く、また、放牧率は急速に低下しているとのことである。
 

(3)生乳の出荷先

 ZPPMによると、酪農家が生産する生乳の70%は酪農協に、30%は乳業メーカーに出荷されている。なお、酪農家の直売は極めて少ないとのことである。
 同国の制度においては、酪農家は出荷先を決めることができるものの、多くの農家が既存の出荷先に出し続けるとの選択をしているようである。
 農家が出荷先を決めるに当たり、表4の要素を検討すると言われている。

 
 ポーランドには約160カ所の生乳処理施設があるとされており、一つの地域の中にも、酪農協および乳業メーカーの両方がある場合がほとんどである。
 

(4)生乳出荷契約

 ポーランドでは国内法の規定に基づき、収穫物などを販売する農家は、取引先と書面契約を締結しなければならないとされている。しかし、酪農協と組合員の取引は同規定の例外とされているため、一般に書面契約はなされていない。なお、酪農協は定款において、衛生条件を満たさない場合などを除いて、組合員(酪農家)が出荷する生乳はすべて買い取らなければならないと定めている。酪農協が組合員以外の酪農家から生乳を買い取る場合には書面契約が必要だが、こうした例は極めて少なく、この規定に基づいて書面契約を締結しているのは、乳業メーカーに生乳を販売している酪農家(全体の30%)のみと思われる。
 しかし、酪農協でも承諾を確認するものとして、組合員である酪農家との間で生乳価格の計算法や特定の行為に対する罰金、支払いに関する取り決めに合意する文書を締結することはある。
 

(5)乳価の決定方法

 生産者乳価は生乳の集乳量、乳脂肪やたんぱく質含有量、衛生品質要件や輸送コストに基づいて決定される。また、有機認証を取得している生乳に対してはプレミアムが上乗せされる。なお、ポーランドの生乳取引価格の推移は図5の通りである。また、同国の牛乳・乳製品の30%が輸出されているため、同国の乳価は欧州をはじめ諸外国の相場の影響を受けている。
 
 

(6)生産コスト

 欧州委員会が2016年に公表した生産コストに関する報告書によると、生乳生産コストのうち飼料費が生産コストの約50%を占める。飼料費のうち、70%は購入飼料費、30%は自給飼料費となっている。その他の構成要素では、エネルギー、機械・建物の維持費および労働費がそれぞれ生産コストの10%を占めている。同国の生産費は低いため、粗利益(注2)はEU13(注3)のうち3番目に高く、1トン当たり109ユーロ(1万3734円)である(図6)。

 
 また近年の推移を見ると、ポーランドの粗利益は、EU全体の生乳価格の変動に伴い推移していた。2009年に生乳価格が底を打って以降、粗利益は持ち直し、2014年にピークに達している(図7)。その後、2015年から2016年は低下した。なお、2015年から2016年にかけての低下は、2015年の生乳クオータ制度の廃止に伴う生産量増加が背景にある可能性がある。

(注2) 酪農部門の収益から生産コスト(労働、土地、資本に関するコストは除く)を差し引いた収益。
(注3) 同報告書内では、EU加盟国を2004年以前に加入していた15カ国(EU15)および同年以降に加入した13カ国(EU13)に分けている。

 

コラム1 EUの生乳クオータ制度廃止による生産構造の変化

 ポーランドでは、生乳クオータ制度の廃止後、大規模農家が生乳生産量を増やした一方で、乳価の下落により小規模農家は大きな打撃を受けたと言われている。
 生乳クオータ制度廃止後の同国の酪農分野の構造変化については、以下のような意見がある。

(1)銀行のアナリストによる分析
 EU平均と比較して、2015年以降、生乳出荷が力強く推移していることから、同制度の廃止の恩恵を最も受けた国と言える一方で、依然として小規模農家が多いという課題がある。

(2)農業コンサルタントによる分析
 同制度の廃止によって、小規模農家は、生乳価格の低下や規模拡大による負債の増加などの農場経営悪化、購入飼料の増加による経営の不安定化などの大きな影響を受けた。
 他方、大規模な酪農業協同組合(以下「酪農協」という)は一時的な損失があったものの、集約化が進み、生乳生産量の増加によって経営が改善している。例えば、大手酪農協のMlekovitaやMlekpolは、新設備への大規模な投資をはじめ、他の農協との合併、有機分野への取り組みなどを通じて成長している。
 なお、同制度廃止に伴う2015年以降の生乳生産増大は、牧草地に恵まれ、乳業工場へのアクセスが良いことから北東部に集中している。
 同国の飼料価格や人件費、土地価格の安さも、酪農分野の成長を促す要因になるとみられており、今後も生乳生産量は年率4〜5%程度の成長を続け、2025年にはオランダを超えると見込んでいる。

3 ポーランドの乳業について

(1)乳製品の生産

 2018年に最も生産量が多かった乳製品は、飲用乳の178万トンで、次いでチーズの86万トン、ヨーグルト他の53万トン、生クリームの25万トン、バターの21万トンが続いている(表5)。

 

(2)乳製品の消費

 USDAによると、2018年のポーランドにおける年間1人当たりの牛乳・乳製品の平均消費量(生乳換算)は224リットルで、前年から3%の増加となった。生鮮乳製品や飲用乳の消費が減少傾向にある一方で、チーズの消費が増加しているとしている。また、バターに関しては、価格の安定および輸出量の減少が見られる中、消費量は安定している。
 

(3)乳製品の輸出

 ポーランドは、牛乳・乳製品の約30%(生乳換算)を輸出している。主な輸出品目は、飲用乳、生クリーム、れん乳類、チーズ、ホエイパウダーなどである(表6)。

 
 EU域内への輸出は、主に消費期限の短い製品である(表7)。一方、EU域外への輸出は、主に「飲用乳、生クリーム、無糖れん乳」、脱脂粉乳、ホエイパウダーである(表8)。10年前のEU域内外の合計の輸出量と比較すると、すべての品目において増加している。



 
 また、EU域外への輸出量の増加幅は大きく、2019年の輸出量は、「飲用乳、生クリーム、無糖れん乳」は2010年比で約28倍、脱脂粉乳は、同2.7倍となった。
 なお、日本向けの主な輸出品目は、脱脂粉乳およびホエイパウダーである。
 

(4)乳業メーカー

 ポーランドにおける2018年の乳業メーカーの売上高の順位は表9の通りである。同国の乳業メーカーは、酪農協、有限会社のいずれかの企業形態をとっているものの、企業形態による規模の大きさに違いはないということである。また、多くの乳業メーカーがEU域内外に製品を輸出していることから、売上高の差は、輸出の有無に左右されるものではないと考えられる。
 

4 今後の戦略

(1)生産に対する戦略

 EUの教育助成プログラムである「ERASMUS+」が作成したポーランドの酪農分野の発展・戦略・課題に関する2016年の調査によると、今後の戦略で最優先とされる項目を、「生産拡大/専門化」とする回答が61.7%と最多となった(表10)。次いで、「その他の農産品への多様化/他の仕事との兼業」が28.3%、「静観する」の8.3%が続いた。
 2011年の結果と比較すると、「その他の農産品への多様化/他の仕事との兼業」を最優先の戦略と回答した農家が23.4ポイント増加した以外は横ばいもしくは減少となった。

 

(2)輸出に関する戦略

 ZPPMは、牛乳・乳製品生産量の増加が国内消費の増加を上回っているため、今後のポーランドの酪農分野の成長にとっては、輸出を拡大することが必要であるとしている。さらに、ZPPMは、同国の酪農分野には価格競争力があり、生乳生産に適した気候条件があることが他のEU加盟国に比べて優位な点であるとしている。なお、今後の成長のためには、中国のみならずアジア全体、中東、北アフリカおよび南米への輸出拡大の可能性を探ることが必要であるとされている。
 一方、主要乳業メーカーは、中国向けを含むアジア向けの輸出拡大に注力しているようである。以下に、同国の中国向け輸出動向および主要なメーカーMlekpol酪農協の輸出に関する今後の戦略を紹介する。

(ア)中国向け輸出の動向
 ポーランドは多くの乳製品を中国向けに輸出している。中国向けで最も輸出量が多いのは「飲用乳、生クリーム、無糖れん乳」であり、2019年は8万5110トンとEU域外向け輸出量の52%を占めている(表11)。また、ホエイパウダーの中国向け輸出量も多く、全体の約30%を占めている。
 

 
(イ)主要乳業メーカーの中国向け輸出に対する戦略
 Mlekpol酪農協は、2018年の中国市場での売り上げが前年比で約4割増加したとし、さらなる市場開拓を進めたい意向を明らかにしている。この背景には、中国が進める「一帯一路」計画の下での、中国とポーランドをつなぐ陸路開発に向けた動きがある(注4)。こうした両国の緊密な連携が将来ますます強まるという見通しの下で、同社の中国向け輸出は増加している。

(注4) 中国とポーランドをつなぐ陸路開発に向けた動きは、海外情報「鉄道による冷凍食肉輸入ルートを拡大(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002786.html)を参照されたい。

 同社の担当者は、自社製品が中国市場で高く評価されているとし、さらに売り上げを伸ばしたいと述べた。また、現在、開発が急速に進められている中国と欧州をつなぐ鉄道網である中国エクスプレス鉄道(CHINA RAILWAY Express)にも言及し、これまで中国の消費者に届けることのできなかった生鮮乳製品などを輸送することができ、輸送の頻度や効率性が上がるだろう、と歓迎の意を示している。
 同酪農協が2019年第3四半期から稼働を開始した製造工場には、建設費として欧州投資銀行(EIB)から5000万ユーロ(63億円)の投資があり、同工場の建設により最大で1日当たり300万リットルの牛乳およびホエイを粉末状に加工することが可能となった。
 欧州委員会は、ポーランドにとって、中国は、特にホエイパウダーの最大の輸出先の一つであるとしている。EIBによる投資および同社の生産拠点の拡大は、中国向け輸出拡大に向けた動きと考えられる。

(ウ)中国以外のEU域外諸国への輸出概要
 ポーランドからのEU域外向け輸出は、中国向けのほかベトナム向けも増加している。2019年の脱脂粉乳の輸出先では、ベトナムは輸出量で第5位となっている。なお、2020年8月1日にEU・ベトナム自由貿易協定(FTA)が発効し、乳製品に対するベトナムの関税率は数年かけて撤廃されることとなっている。欧州乳製品貿易協会(EUCOLAIT)もEUの乳製品分野における重要なパートナー、市場としてのベトナムの地位がさらに高まることとなるとしている(注5)

(注5) 海外情報「EU・ベトナム自由貿易協定、8月1日に発効」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002758.html)を参照されたい。

コラム2 持続可能な開発目標(SDGs)への取り組み

 ポーランドでは一般的に、EU規則の下で要求されている要件以上に環境に配慮した取り組みは行われていないとされている。しかし、EU規則以上に環境に配慮した慣行的な取り組みとして、家畜ふん尿を貯蔵するためのコンクリートプレートの使用が挙げられる。EU規則では、家畜ふん尿を貯蔵する場所へのコンクリートプレートの使用は、特定の保護地域のみに義務付けられているが、同国では国内法の下で全酪農家に対して義務付けている。EU全体の要件を上回る内容であっても、酪農家や乳業メーカーは国内法に反対する姿勢は示しておらず、当該規定にのっとりながら、市場シェアを拡大することに注力している。
 ZPPMによると、いくつかの企業は酪農家に対し、有機酪農などのより環境に配慮した生産に転換するよう、金銭的なインセンティブを与える試みなどを行っている。しかし、EU法に沿った有機酪農への転換や認証取得には約2年の期間やコストがかかり、酪農家および企業にとってリスクとなることから、インセンティブのもたらす効果は低いとされている。そのため、有機乳製品などの環境に配慮した牛乳・乳製品を市場に投入したい同国の企業は、原料を他のEU加盟国(ドイツやリトアニア)から輸入している。
 また、同国民は、酪農部門に対し、追加的な環境面の取り組みを求めておらず、企業も、その取り組みによる競争上の優位性を見いださない限り、新たな取り組みは行わないとしている。実際に、同国では森林や永年草地の面積が広く、水質汚染や化学肥料の大量使用などの問題は起きにくいとされている。こうしたことから、酪農分野からの二酸化炭素やメタン排出量の削減を求める声はさほど上がっていない。

5 ポーランドの酪農・乳業に関する政策

(1)CAPの下におけるポーランドの財政支援制度

 EU全体の2014〜20年のCAPの総予算は、4080億3100万ユーロ(51兆4119億600万円)であり、そのうち3080億7300万ユーロ(38兆8171億9800万円)が第1の柱である「直接支払い」に、990億5800万ユーロ(12兆4813億800万円)が第2の柱である「農村開発」にそれぞれ充てられている。
 そのうち、同期間の予算として、ポーランドには320億ユーロ(4兆320億円)が割り当てられている(第1の柱に234億ユーロ(2兆9484億円)、第2の柱に87億ユーロ(1兆962億円))。なお、ポーランドはCAPの下で最も恩恵を受ける加盟国の一つであり、予算割当額で見ると、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアに次ぐ第5位である。
 なお、CAPの下における優先取り組み事項として、EU全体では雇用や成長、持続可能性、近代化、技術革新、品質などが特定されているが、加盟国段階では、各国独自の農村開発プログラム(RDP)の下で、自国のニーズに合った予算配分を定めることができる。ポーランドは特に小規模農家、農村部における雇用創出を行う農家への支援を優先事項としており、そのため第2の柱「農村開発」から、第1の柱「直接支払い」に予算の25%を移行している。
 

(2)第1の柱:「直接支払い」

 前述の通り、CAPの第1の柱である「直接支払い」としてポーランドには234億ユーロ(2兆9484億円)が割り当てられている。なお、同国は、EUに近年加盟した国への特別措置の対象となっているため、2020年末までは簡素化された単一面積支払い制度が適用されている。
 また、直接支払いは、生産物の種類にかかわらず全農家に一律に支払われる「デカップリング支払い」および特定の生産物を生産する農家にのみ支払われる「カップリング支払い」に大きく分類される。さらに、デカップリング支払いは、加盟国の義務的支払いと任意的支払いに分類される(表12)。

 
 カップリング支払いに関しては、加盟国が経済的、社会的、環境的観点から重要であり、カップリング支払いがなければ生産維持が困難な品目を指定し、一定の補助金を割り当てることができる。ポーランドでは、牛乳・乳製品もカップリング支払いの対象となっており、乳牛1頭当たり年間70ユーロ(8820円)を受給することができる。
 なお、これらの第1の柱の下で支払われる補助金は、第2の柱の下で支払われるその他の補助金と併用することが可能である。
 

(3)第2の柱:「農村開発」

 ポーランドはCAPから予算割当の87億ユーロ(1兆962億円)のほか、結束基金(注6)から52億ユーロ(6552億円)の支援を受けている。さらに、国の予算から49億ユーロ(6174億円)が出資されている。ポーランドのRDPの主な目的は、(@)食農分野の競争力および生産性の向上(A)天然資源の持続可能な管理および気候対策(B)地域インフラの向上、教育・文化・公共サービスへの投資、雇用の創出および維持を通した全国における農村経済の発展―であり、具体的な取り組み例は表13の通りである。なお、第2の柱の予算の35%が農業分野の競争力強化に充てられている一方、30%が農業に関する水質管理や土壌管理など生態系に配慮した取り組みを行う農家に充てられている。
 
(注6) EU全域を対象とし、雇用創出、経済成長、持続可能な発展、生活の向上などを目的とした結束政策に基づき、15加盟国(一人当たりGNIがEU平均の90%以下)の持続的発展を図ることを目的として1994年に創設された基金。

6 終わりに

 ポーランドは、生乳クオータ制度の廃止を受け、規模拡大などを進めた結果、生乳出荷量は増加傾向で推移している。また、農家の生産性向上や競争力強化を図るための充実した支援の下、競争力のある価格および酪農に適した自然条件を生かし、EU域内外に積極的に輸出を行っていることが分かった。近年、アジアを中心とした輸出が増加傾向で推移している中で、特に中国向け輸出に関しては、現地の乳業メーカーも施設増強を行うなど力を入れていることがうかがえた。さらに、中国政府の一帯一路構想による欧州から中国への鉄道網などが以前と比較して発達しており、今後の輸送コストの削減なども期待されている。また、EU・ベトナムFTAの発効などもあり、今後もアジア向けを中心とした輸出増加が期待されている中、同国の今後の生産および輸出動向が注目される。