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特集:海外の食肉需給の動向について〜新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて〜畜産の情報 2021年2月号

近年におけるブラジルの鶏肉需給動向について〜新型コロナウイルス感染症の影響を中心として〜

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 ブラジルの鶏肉産業は、世界有数の規模を誇り、国際市場においても重要な地位を占めている。今後も豊富な飼料穀物や安価な労働力を背景として継続的な拡大が見込まれる一方、飼料穀物価格の変動など市場動向の変化への対応など課題も多い。このような状況に加え、新型コロナウイルス感染症は、鶏肉生産や消費動向に大きな変化をもたらし、同国の鶏肉業界に大きな影響を及ぼしている。

1 はじめに

 南米大陸に位置するブラジルは、農業生産が盛んな国である。中でも、鶏肉の生産量は多く、米国農務省(USDA)によると、2019年の生産量は米国、中国に次ぐ世界第3位の1388万トンである。また、輸出量は、近年のレアル安の進行による輸出競争力の高まりなどを背景として、世界第1位の386万トンと国際市場への影響力が大きい。
 一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による需給への影響や、製品規格への対応など同国の有する優位性や課題について関心が高まっている。本稿では、2020年10月に実施した委託調査に基づき、近年におけるブラジルの鶏肉需給動向として、まず2019年までの概況を示し、続いて2020年の状況をCOVID-19による影響を中心に報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=105円(2020年12月末日TTS相場:104.50円)を使用した。

2 経済および農業の概況

(1)経済の概況

 ブラジルは、人口が世界第6位の2億人を超え、国土面積が日本の22.5倍、国内総生産(GDP、ドル建て)は世界第9位と南米最大の経済大国である。近年の経済状況は、2000年代後半の景気拡大期以降、景気が下り坂となり、2011〜19年の平均実質GDP成長率は0.7%となった。特に2015、16年は、統計開始以降初めて2年連続でGDPがマイナスとなり、その後プラスを維持しているものの景気回復の足踏み状態が続いている。こうした状況に加え、2020年はCOVID-19拡大の影響によりGDPがマイナスで推移しており、同年の経済成長率はマイナス4.8%と予想されている(図1)。また、1人当たりのGDPは、2011年の1万3200米ドル(137万9400円)をピークに低下しており、2019年は8700米ドル(90万9150円)となった。

 

(2)農業の概況

 2019年のGDPに占める農畜産業の割合は4.4%となった。2020年はマイナス成長が見込まれる中、農畜産業は1.9%の成長が見込まれている。また、ブラジル農牧食糧供給省(MAPA)の2020年10月の統計によると、2020年の農業生産額に占める鶏肉の割合は、8.7%と見込まれている。

3 近年の鶏肉需給動向

 ブラジルの鶏肉産業は、豊富な飼料穀物や安価な労働力を背景として2000年代以降、急速に成長した。2019年のブロイラー飼養羽数は14億6700万羽、年間処理羽数は58億500万羽で、2010年からの10年間で、それぞれ18.4%、16.4%増加した。
 

(1)鶏肉生産の動向

 ブラジル地理統計院(IBGE)によると、2019年の鶏肉生産量(と体換算)は1352万トンで、2010年から直近10年間で26.4%増加した。ブラジルの鶏肉は、トウモロコシや大豆といった飼料穀物の主産地でもある南部3州(パラナ州、サンタカタリーナ州、リオグランデドスル州)を中心に生産されている。パラナ州が最大の生産地で全体の32.0%を占め、サンタカタリーナ州(14.3%)、リオグランデドスル州(12.3%)と南部州が続き、南部3州合わせて全体の58.6%を占める。直近10年間の州別の生産量を見ると、パラナ州、南東部のミナスジェライス州、中西部のゴイアス州が大幅に増加する一方、サンタカタリーナ州は減少している(図2、3)。
 




 
 鶏肉の生産・流通においては、ひなの供給、食鳥の生産、処理・加工、流通のほか、場合によっては飼料の生産・供給を含めた川上から川下までの部門を垂直統合した体系(インテグレーション)が増加している。この体系は、組合組織により形成されているものと民間パッカーによるものがある。このほか、減少傾向にあるが、独立系の生産者がいる。
 

(2)ブロイラー生産者出荷価格

 パラナ州における近年のブロイラー生産者出荷価格は、2017年に下落後、2年連続で上昇している。2011年以降のブロイラー生産者出荷価格は、2012年を除き生産コストを上回っている(図4)。

 

 (3)輸出の動向

 ブラジル経済省貿易局(SECEX)によると、2019年の鶏肉輸出量(カット品、丸鶏、加工品)は、米ドル高レアル安が続き、ブラジル産鶏肉の価格競争力が高まっていることから、前年比3.9%増の417万5000トン(製品重量ベース)となった(図5、6)。
 




 
 輸出先別に見ると、中国向けは同国で発生したアフリカ豚熱に伴う代替需要の増加を背景に同34.4%増の59万トンと大幅に増加した。
 直近10年間(2010〜19年)の実績を見ると、2016年までは、おおむね前年を上回って推移したが、2017年に起きた一部の食肉加工場における衛生上の食肉不正問題(注1)の影響により、2017、18年は前年割れに転じた。輸出先別では、イスラム諸国向けでは最大で丸鶏を中心に輸出しているサウジアラビア向けが、10年間で13.4%減少し47万3000トンとなった。一方、中国向けは、この間で5倍近く増加し、同国向けシェアは3.3%から14.3%の59万トンとなり最大の輸出先となった。また、日本向けについては、10年間で11.4%増加し、2019年に42万9000トンとなり、中国、サウジアラビアに次ぐ3番目の輸出先となっている。

(注1) 食肉不正問題については、以下の情報を参照されたい。
・『畜産の情報』2017年7月号 「AI未発生国のブラジル産への引き合い強まる」(https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2017/jul/broi-br.htm
・『畜産の情報』2018年1月号「ブラジルの鶏肉生産・輸出動向 〜AIフリーという強みを生かした 輸出の優位性と今後の見通し〜」(https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2018/jan/wrepo02.htm

 

(4)国内価格、消費の動向

ア 国内価格
 サンパウロ州における近年の鶏肉卸売価格(丸鶏)は、2017年に下落後、2年連続で上昇している。2019年は、前年比20.7%増と大幅に上昇した(図7)。
 

 
 

イ 消費の動向
 ブラジルでは、生産される鶏肉のうち約7割は国内で消費されている。鶏肉は、安価でかつ宗教上の制限のない食肉として広く消費される一方、近年では健康意識の高まりから、牛肉および豚肉に取って代わるヘルシーな食肉として消費されている。2019年の年間1人当たり鶏肉消費量は47.0キログラムと、2007年に牛肉を上回って以降、最も多く消費される食肉となった(図8)。
 

 

コラム1 ブラジルでの鶏肉の消費スタイル

 ブラジルでは、テーブルミートとして以前は丸鶏(グリラー)を買って一家で食べるという習慣があったが、特に都市部では核家族化が進み、丸鶏は家族全員が集う時のごちそうとしての需要がある程度となり、最近ではパーツでの流通が増えている。スーパーマーケットなどの食肉売り場でも、ほとんどがパーツ販売となっており、バックヤードで丸鶏をカットやトレイパックをする店が多い(コラム1−写真(1))。
 ブラジルでは鶏肉料理の種類が多く、サンパウロ州北部に位置する内陸のミナスジェライス州では、オクラとともにトマト味で煮込むものや、鶏の血を混ぜて煮込んだものもある。リオデジャネイロでは、小ぶりの丸鶏を炭火で焼くガレット(Galeto)が有名で、味付けは塩だけであっさりしている。(コラム1−写真(2))。また、全国のバール(居酒屋)では、唐揚げ(Frango Passarinho)がツマミとして定着している。どの切片にも、必ず骨が残るようにカットされてニンニクをきかせて揚げたもので、日本の唐揚げのように衣は厚くない(コラム1−写真(3))。また、心臓(ハツ)は、シュラスコを食べるときの前菜として人気で、串に刺して塩だけの味付けで、炭火焼きで提供される。パダリア(パン屋)の多くは週末、店頭に大型グリルを出して、鶏の丸焼き(Frango Assado)を焼いている。さらに牛肉の代わりにムネ肉を使ったチキンストロガノフ(Strogonoff de frango)があり、子供や女性に人気がある。
 加工品としては、安価なチキンソーセージが(コラム1−写真(4))、安価なホットドッグや家庭料理の食材として広く普及しており、薄切りにしてトマトソースで煮込んだものは、ホテルの朝食の定番メニューである。他に最近では、ナゲットやハンバーグ(コラム1−写真(5))、味付け品などが増えてきている。

4 COVID-19発生後の生産、消費、輸出の動向

(1)COVID-19の発生状況

 ブラジル保健省発表によると、ブラジル初の新型コロナウイルス感染者は、欧米や日本より1カ月程度遅い2月末に発生した。4月になってからサンパウロ市などを中心に感染が急速に拡大し、冬を迎えた7月末の1日当たり感染者数は6万9000人に達し、その後、減少傾向となっているものの、10月末時点で同感染者数は1万9000人となっている。10月末時点の累計感染者数は554万人、死亡者数は16万人となっている(図9)。
 

 
 ボルソナロ大統領は、COVID-19の発生当初から経済活動優先の立場を見せ、自粛や経済活動制限に反対したため、安全対策を重視する各州の州知事と対立した。ブラジルは連邦制のため、その対策は基本的に各地方自治体(州、市)に対応が委ねられており、各地では自粛、経済活動制限などの措置が講じられた。サンパウロやリオデジャネイロ州などでは4〜5月に外出制限措置が講じられたが、6月以降段階的に解除された。なお、製造業や物流、生活必需セクターについては、企業活動が継続された。
 

(2)鶏肉生産の動向

ア 鶏処理羽数、鶏肉生産の状況
IBGEによると、2020年上半期(1〜6月)の鶏処理羽数は、前年同期比2.2%増と前年同期をわずかに上回った(図10)。5月は、COVID-19の拡大により市場の不透明感が強まったため減産措置が取られたとみられ前年同月を下回ったが、その後回復し、大幅な減少には至っていない。また、ブラジル鶏ひな生産者協会(APINCO)によると、同期間における鶏肉生産量は、同3.6%増の700万8400トンとなっている。
 

 
 現時点で生産者の生産意欲に大きな影響は見られないものの、従業員の感染拡大による一部パッカーの一時的な操業停止や、中国政府がブラジル産の製品から新型コロナウイルスが検出されたとして輸出認可を一時停止するなどの事態が発生し、そのたびに業界は緊張感が高まっている。
 また、Avisiteによると、2020年1〜8月のブロイラー用ヒナ生産羽数は、6、7月の急増で過去4年平均より6.8%の増加となっている(図11)。同協会では、飼料穀物価格高騰による生産コストの上昇で1羽当たりの平均出荷重量が減少するため、2020年の鶏肉生産量は、前年と比較してわずかに増加すると予想している。

 
イ 食鳥処理場などへの影響
 ブラジルの食鳥処理場は、比較的小規模(日平均処理羽数15〜25万羽程度)であるため、処理場における感染防止対策や処理羽数などの管理が比較的容易である。また、大手パッカーでは、一つの処理場で一時的な操業停止が発生した場合、グループ内の他の処理場で対応が可能であることから、農場で処理待ちの鶏が滞留するといった問題はあまり見られなかった。
 また、パラナ州にある業者からのヒアリングによると、食鳥処理場では、感染防止対策として、作業員間の距離を確保するなどの措置により生産性が10%程度落ちたが、労働時間の延長や作業員の補充により対応した結果、処理待ちの鶏の滞留といった問題は生じなかったとのことである。なお、鶏肉パッカーの関心は、「コロナコスト」と呼ばれる感染防止対策に要する掛かり増しコストにどのように対応していくかとのことであった。
 

(3)ブロイラー生産者出荷価格

 パラナ州におけるブロイラー生産者出荷価格は、2019年3月以降、2020年1月を除き比較的安定して推移したが、2020年4〜5月にはCOVID-19の影響による国内市場の不振のため一時やや値を下げ、その後上昇に転じ6月以降高値で推移している。一方、生産コストは、同年1月以降、飼料穀物輸出増を背景として国内の飼料穀物需給がひっ迫し価格高となるなど上昇傾向で推移している。このため、4、5月および8月には、生産コストが生産者出荷価格を上回る逆ザヤの状況となり、生産者にとって厳しい経営環境となった(図12)。
 

 

(4)輸出の動向

 2020年1〜10月の鶏肉輸出量は、前年同期比1.5%減の323万349トンと前年同期をわずかに下回った。同年前半は前年同月の実績を上回ることが多かったが、その後、前年同月割れの月が多くなり、10月には前年同月比11.7%減となった。年初から米ドルに対しレアル安が進み、その後も1米ドル当たり5.5レアル程度と輸出に有利な状況にある一方で、飼料価格高による生産コストの上昇やCOVID-19の影響による中国向け輸出の伸び悩みがみられる。この他、主要輸出先であるサウジアラビアなどのイスラム諸国において、COVID-19の影響でモスクが閉鎖され、ラマダン後の会食が行われなくなったことによる需要減も一因となり、輸出量が減少したものとみられる(図13)。
 

 
 ブラジルにとって最大の輸出先である中国向け輸出の状況は次の通りである。
 中国向けは、同国でのアフリカ豚熱の発生に伴う代替需要を背景に、引き続きブラジル産鶏肉への引き合いが強く、2020年1〜10月における輸出量は56万3728トン(前年同期比22.8%増)と大幅な増加となった。
 中国でアフリカ豚熱により豚肉不足が深刻化し始めた2019年初めころから、その代替需要としてのブラジル産鶏肉の対中輸出量増加とともに輸出価格の上昇が始まった。特に同年後半は、翌年1月の春節需要を見込んだ買付数量の増加が見られたが、年明けから中国においてCOVID-19が拡大し、移動禁止措置が講じられた結果、物流が滞り、春節需要が事実上消失したため、2020年に入ってから輸出価格は下落した。これは、米ドルに対するレアル安がさらに加速したことも影響している(図14)。


 

(5)国内価格、消費の動向

ア 国内価格
 ブラジルでは、COVID-19による国内消費への影響や食鳥処理場の一時的な操業停止への懸念があり、4月ごろブロイラー用ひなの減産が行われたとみられる。しかし、6月ごろから牛肉の価格上昇により、割安感のある鶏肉へ消費がシフトした結果、国内の鶏肉卸売り価格は上昇しているとみられる(図15)。

 

イ 消費への影響
 新型コロナウイルスの感染者が増加し感染防止対策の規制措置が講じられた2020年3月から、ブラジルでも多くの消費者の食生活に変化が見られた。外出自粛によりテレワークが一気に広まった結果、国民が自宅で過ごす時間が長くなったが、このような生活様式の変化は、11月現在でもホワイトカラーを中心に続いている。またCOVID-19収束後も、相当数の労働者がオフィスに戻らないのではないかとみられている。このためレストランでの食事を避ける傾向は長く続き、フードサービス業界は、デリバリーの比率を増やしながらも苦しい状態が続くとみられている。
 こうした状況の中、消費者の家庭での調理の機会は増えている。しかし、テレワークで自宅にいるとしても、すべての食事をその都度作ることは大変な負担となっており、ブラジルでいうComida Pronta(出来合いの食品)と呼ばれる総菜の需要が高まっている。しかし、バラエティに欠け、消費者の需要に十分応えているとは言えない。鶏肉も同様で、加工品の種類、質も十分ではないが、商品開発を続け国内に高品質な加工品を出していくことは、付加価値の低いコモディティの輸出に依存している状況から抜け出す契機になっていくことも考えられる。
 一方、COVID-19は、人々の健康意識、あるいは安全な食品を求める行動を促している。有機野菜の需要はこの期間に増大したと言われる。ブラジルでも以前からこうした傾向は見られたが、高所得者層に限られたものであった。しかし、こういった動きが中流層にまで食の安全への意識を高める契機になったとみられる。
 

(6)食肉処理場での対策

ア 食肉処理場の閉鎖
 ブラジル農牧食糧供給省農牧防疫局動物製品検査部(DIPOA/SDA/MAPA)の月次報告書(注2)によると、COVID-19に関連して一時的に操業停止の措置が取られた食鳥処理場数は、7月までに20カ所となった。この大部分は、労働公安局(MPT- Ministério Público de Trabalho)が、当該食鳥処理場における従業員の安全のための対策が不十分であるとして地方裁判所に告訴し、その決定により操業停止命令が出されたものである。操業停止期間はそれぞれのケースにより異なるが、14日間程度の場合が多い。食鳥処理場では、指摘事項を改善し、当局検査官の確認を得た上で再開が許可される(表)。

(注2) MAPA, Relatório de Atividades do Serviço de Inspeção Federal, 各号
 

 
イ 対策
 ブラジル農牧食糧供給省(MAPA)、経済省(ME)ならびに保健省(MS)は共同で2020年6月19日、食肉処理場や乳製品工場などにおいてCOVID-19を防止・管理・抑制するためのガイドラインを定めた省令を発令した。このガイドラインには、COVID-19対策として食肉処理場などが取るべき70項目が定められている。主なものは次の通りである。

・感染確認者などの従業員を対象に14日間の出勤停止。
・作業間の距離は最低でも1メートル以上を確保。これが難しい場合は勤務時間のシフト変更などの対策を実施。
・可能な限りテレワークを推進。
・空気の再循環を避け、新鮮な外気を取り入れるよう対策。

 テレーザ・クリスティーナ農牧食糧供給大臣は、「この省令により、COVID-19が拡大している中で、食肉処理場の従業員の安全性を高め、通常業務および生産の継続、ひいてはブラジル国内や海外に向けて食料供給を可能にする、調和のとれた活動がもたらされるだろう」と述べている。
 また、ブラジル動物性タンパク質協会(ABPA)は、COVID-19まん延の初期から処理場の防疫対策を徹底し、オリエンテーションを行った。具体的な対策としては、過密を避けるため工場への労働者送迎バスの増便、工場到着後の検温、手洗い、アルコール消毒の徹底、マスク、フェイスガードなどの衛生用具の支給、工場内での作業員間の距離の維持、ビニールシートの設置、体調不良者の自宅待機、従業員食堂でのパネル設置などが実施されている(写真)。

 

5 今後の見通し

 MAPAが2019年9月に公表した鶏肉需給見通し(2020〜29年)によると、2029年の鶏肉の生産量は1744万トンと、今後10年間で26.9%増加すると予想している(図16)。また、国内消費量は24.1%増加すると予想している。直近10年間(2010〜19年)で生産量は26.4%増加していることから、今後10年間も同程度の増加率を見込んでいる。一方、輸出量は直近10年での14.5%増に対し、今後10年は34.6%増と高い増加率が見込まれている。これは、今後、穀物生産、気候条件など鶏肉生産国としての優位性を生かし、さらに輸出志向が強めることが見込まれているためとしている。

コラム2 鶏肉の輸出見通し(ABPA)

 ブラジルの鶏肉・豚肉・鶏卵業界を代表するブラジル動物性タンパク質協会(ABPA)の新理事長に就任したRicardo Santin氏(写真)は2020年8月、鶏肉の輸出見通しを次のように述べている。


 
 (1) イスラム諸国向けについて
 イスラム諸国は輸出がやや停滞しているが、今でもブラジル鶏肉の最大の市場である。サウジアラビアは、国策として鶏肉需要の6割を国産、4割を輸入という方針を取っているが、生産コストを考慮するとブラジル産を輸入する方が有利である。
(2) 中国向けについて
 中国が、アフリカ豚熱から自国の豚肉生産を完全に回復させるのは2025年ごろといわれており、輸入食肉への依存はそれまで継続すると見ている。ブラジルでは、中国への過度な依存が懸念されているが、世界140カ国に輸出している鶏肉の中国向けのシェアは17%である。
(3) 新規輸出市場について
 インド、カナダ、メキシコ、インドネシアなど、新規市場開拓に向けた取り組みを行っている。
(4) 国内価格について
 国内価格上昇の理由は、飼料穀物価格の上昇とCOVID-19の安全対策コストなどで生産コストが上昇したためである。このため輸出重視によりブラジル国内市場価格が上昇しているという指摘は適当ではない。
(5) 付加価値製品の輸出について
 現在、ブラジルは、鶏肉と豚肉の輸出で年間約85億米ドル(8883億円)の外貨収入を得ている。これを飼料効率を考慮して穀物量に換算すると、わずか19億米ドル(1986億円)の輸出収入にしかならない。つまりわれわれは食肉という形で穀物に大きな付加価値をつけて輸出していると言える。
 今後は、カット品や加熱加工品の開発など、さらに付加価値をつけた商品の開発・輸出が重要となる。また、長年の課題である国内のロジスティックの改善や、ブラジル特有の各種税金・税制の改革も重要な課題である。

6 課題

 これまで記述したブラジルの鶏肉需給動向のほか、現地報道などの情報を踏まえたブラジル鶏肉産業の課題は次の通りである。
 

(1)生産面での課題

ア 生産性向上による競争力の強化
 鶏肉生産においては、生産性の向上、特に労働集約的作業が求められる商品への対応が重要である。鶏肉の場合、細かい手作業でのカット規格への対応力が、他の競合国と比べ劣るといわれている。また、ブラジルでは社会保険、年金、税金などの会社負担部分が他の南米諸国に比べて高く、名目賃金が安くても最終的に企業の負担は重い。さらに複雑な労働法があることから、労働裁判のリスクが非常に高く、コストを押し上げる要因の一つとなっている。

イ 穀物価格の変動への対応
 鶏肉生産コストの7割強を占める飼料穀物の相場変動への対応が重要である。飼料価格の急激な変化(上昇)に鶏肉価格が速やかに連動しうるかが養鶏農家、鶏肉パッカーの経営収支面で重要である。穀物価格は、天候や世界市場での需給により変動するため、政府による穀物在庫の充実など、政策による相場安定策も望まれている。

ウ 的確な生産調整実施に向けた業界コンセンサスの形成
 今回のCOVID-19拡大の中、鶏肉業界でも生産調整の必要性が議論された。業界の寡占化が進み大企業と中小企業の温度差によるあつれきも生じていることから、業界団体としては的確な生産調整実施に向けた業界コンセンサスの形成が必要である。
 

(2)輸出面での課題

 輸出面では、輸出先のニーズに対応した規格品を生産し、より付加価値の高い製品を作り、価格および品質面での競争力をつけていくことが課題である。政策面では、EUとの貿易協定の締結に障害となりつつある環境問題について、相手先国が納得のいく形で取り組むことも重要となっている。
 また、新しい市場の開拓も重要であり、官民一体となって農産物輸出戦略を進める必要があるとみられる。

7 まとめ

 ブラジルの鶏肉生産は、豊富な飼料穀物や安価な労働力を背景として拡大を続けてきた。また、国際市場においても、世界最大の鶏肉輸出国としてその重要性が増している。一方、近年では、異常気象、気候変動や経済動向への対応など従来からの課題に加え、特に中国でのアフリカ豚熱に起因する大量の動物たんぱく質需要や飼料穀物需要により国内外の需給が大きく変化している。こういった状況に加え、今年になってからは、世界的に猛威を振るっているCOVID-19が、鶏肉の生産だけでなく、食生活の様式に大きな変化をもたらしており、現在もなお先行き不透明感が増している状況にある。
 ブラジルの鶏肉生産は、前述の通り低コスト生産や鳥インフルエンザ未発生国という強みを生かし今後も国内外の市場において中心的な役割を担うとみられるが、一方で同国が抱える新旧の課題について、国内だけでなく中国、EU、中東および日本などの主要輸出先の状況の変化にどのように対応していくのか注目する必要がある。



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