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海外情報 畜産の情報 2021年4月号

「次世代」に向かうEU農畜産業の2030年展望〜EU農業アウトルック会議から〜(後編)

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【要約】

  欧州委員会は、「次世代のEU農業〜COVID-19危機からグリーンリカバリーへ〜」と題し、EU農業アウトルック会議を開催した。会議では、COVID-19危機が消費者の健康、環境志向を加速させ、持続可能な農業や地元産などの需要を高めたことの他、次世代に向けたグリーンリカバリーの方向性や2030年までに乳製品および家きん肉の需要が高まる見込みなどが報告された。
 後編では、畜産物の2030年展望および業界関係者にインタビューした現地情報を中心に報告する。
 

1 EU畜産業の現状および2030年までの展望

(1)酪農をめぐる情勢

ア 生乳生産・価格などの動向
 (ア)生乳生産・飼養頭数など
 2020年の生乳生産量は、前年比1.3%増の1億5400万トンと見込まれる(表1、図1)。欧州グリーン・ディールや社会的ニーズが、放牧、遺伝子組み換え原材料不使用(GMフリー)飼料、有機、アニマルウェルフェアなどを推し進め、GHG排出量削減や持続可能な農業への移行には貢献するも、従前の成長速度を緩め、2030年は2020年比5.5%増の1億6246万トンになると見込まれる。なお、生乳生産量全体に占める有機生乳の割合は2018年の3.5%から2030年には10%になるとみられる。




 
 2020年の乳用経産牛飼養頭数は前年比0.4%減の2044万頭と見込まれる一方、経産牛1頭当たり生乳生産量は同1.6%増の7411キログラムが見込まれる(図2)。生産性の向上は今後も進展し、2030年の同頭数は2020年比5.9%減の1922万頭になる一方、同生産量は同12.0%増の8302キログラムになると見込まれる。

 
 (イ)価格
 2020年の平均生乳取引価格は、前年比6.6%安の1トン当たり321.1ユーロ(4万2064円:1ユーロ=131円)と見込まれる(図3)。2017〜18年の国際的なバター需要は落ち着く一方、アジア、アフリカなどの乳製品需要に支えられて乳価は安定的に推移し、2030年は2020年比19.0%高の同382.1ユーロ(5万55円)と見込まれる(図4)。



 
イ 乳製品の生産・貿易動向
 乳製品の国際需要は、人口・所得増加、都市化拡大などにより増加が続き、2030年のチーズ生産量は2020年比6.7%増、バター生産量は同4.2%増、脱脂粉乳は同20.7%増と見込まれる(表2)。
 

 
 生乳増産分の大半は需要の高いチーズに仕向けられ、投資による外食・加工向け生産能力拡大もあり、2030年のチーズ輸出量は、日本、中国、中東向けを中心に2020年比25.3%増、世界の全チーズ貿易量の49%を占めると見込まれる(図5)。バターは外食から小売に需要がシフトする中、2030年の輸出量は2020年比16.1%増、脱脂粉乳は、高付加価値の機能性製品と一般製品双方の需要と価格競争力から、2030年輸出量は2020年比20.6%増の100万トン超になると見込まれる。

 
 なお、EUの牛乳・乳製品貿易量は、2030年も世界最大の28%を占めると見込まれる。なお、生乳の増産速度は緩まるも、育種改良や飼料の質的改善による乳脂肪分および無脂乳固形分の増加が見込まれる。

ウ 消費動向
 チーズは、栄養面や健康的なイメージから需要増が続き、2030年の1人当たり年間消費量は2020年から1キログラム増の21.8 キログラムと見込まれる(図6)。2030年の飲用乳の同消費量は2020年より3.6キログラム減少するものの、COVID-19の影響下で家庭調理や栄養面で再評価され、近年の減少傾向の鈍化が見込まれる。
 

コラム1 COVID-19と向き合う生産者たち(1):オランダの酪農家

 COVID-19の影響が続く中、EUの生産者がどのようにCOVID-19と向き合っているのか、オランダで酪農経営を営むチプケ・ニューランド(Tjipke Nieuwland)氏、亜輝氏ご夫妻にリモートで話を伺った(コラム1−写真1)。

 
 農場は、酪農が盛んなオランダ北部のフリースランド州に位置し、1976年にチプケ氏の両親が70頭で創業した。現在では育成牛、子牛を含め約270頭、農地は95ヘクタール(うち飼料用トウモロコシ18ヘクタール)で、粗飼料の100%を自給している(コラム1−写真2)。乳牛1頭当たりの平均年間乳量は9540キログラムで、年間1500トンの生乳を出荷している。

 
 2020年春以降のCOVID-19の拡大は、国内外で外食産業の営業停止措置が取られるなどし、乳価を不安定な状況にしている。現在の乳価は、以前よりも1リットル当たり0.03〜0.04ユーロ(3.93〜5.24円)低く、生産コストとほぼ同程度とのこと。また、子牛の販売価格も低迷している他、COVID-19の第2波など不安定な状況は今もなお続き、乳価回復も見通せず、この影響が長期化すればするほど経営が受ける影響は大きい。
 このような極めて厳しい環境下にありながらも、チプケ氏は「ネガティブな状況はチャンスであり、より良い農家になるためのチャレンジができる時だ」と言う。また、世代交代など従来から抱える酪農業界の背景や昨今の乳製品離れなども踏まえ、「酪農経営を次の世代に魅力的なものと伝えるためにも、そういったチャレンジが必要だ」とした。同氏は今後、投資を最重要なものに絞る一方、飼料も含む日々の飼養管理の改善などによる乳質の維持・向上、1頭当たりの乳量増加などの生産性の向上を目指すとした。
 オランダはEUの中でも環境規制が厳しいことで知られている。同農場も過去には頭数拡大が視野にあったものの、環境規制によって阻まれた経緯がある。しかし、その時も、1頭1頭の牛を大切に飼養することで、与えられた環境の中で最大限の能力を発揮し、安定した酪農経営の基盤をさらに強化させた(コラム1−写真3)。チプケ氏は酪農経営の魅力を「自分ですべてをやれるところ」と教えてくれた。同農場の経営力は、このような逆境下だからこそさらに強く発揮されるのではないのだろうか。そして、COVID-19の長いトンネルを抜けた後、チャレンジが実を結び、さらに強い酪農経営がここにあることは疑いようがない。

 
 なお、亜輝氏は、酪農経営の傍ら、日本からの酪農視察のコーディネートや通訳の他、オランダの酪農に関する情報を日本に発信する仕事も行っている。インタビューの最後、亜輝氏の目指す酪農家像について伺うと、「地に足の着いた酪農ウーマン」と回答があった。亜輝氏は、今後の展開として、日本とオンラインでつなぐバーチャル農場視察なども検討中とのこと。発信しているオランダ酪農情報も非常に内容が充実しており、亜輝氏のさらなる両国の架け橋としての活躍が今後も期待される。

コラム2 COVID-19を乗り越え、次世代に向かうイタリア老舗乳業

 COVID-19の影響などについて、イタリア北東部のヴェネト州にあるイタリア最古である1784年創業の乳業ブラッツァーレ社(Brazzale S. p. A.)のマルティナ・ブラッツァーレ(Martina Brazzale)氏にリモートで話を伺った。

 同社は、7代目のロベルト氏(ブラッツァーレグループ会長)、ジャンニ氏(ブラッツァーレ社社長)、ピエールクリスチアーノ氏(同副社長)3兄弟が経営の中核を担い、輸出マネージャーを務めるマルティナ氏他8代目がその脇を固める、グループ全体で従業員700名超の家族経営である(コラム2−写真1)。GIチーズであるプロヴォローネ・ヴァルパダーナやアジアーゴなどやバター(国内最大シェア)を、イタリア、チェコ、ブラジル、中国の六つの拠点で生産し、直営店などで販売する他、世界60カ国に輸出する(コラム2−写真2、3)。また、環境問題にも積極的に取り組んでおり、植林などにより2019年にカーボンニュートラルを達成している。






 イタリアは、パンデミックの中心といわれた欧州の中でも早い段階で感染が広がるなど被害が大きかった国の一つである。マルティナ氏はそのような中、外食向け販売の大幅な減少に見舞われるも、価格引き下げを決断し、利益率低下を招くも販売数量維持に努めた。同氏は、短期的な戦略を小売への販売強化とする他、中期的には精力的に活動していた国際展示会などの中止を補うため、より広範な市場調査や顧客調査を行うとした。一方、COVID-19の拡大状況に不確定要素は多く、柔軟な対応が必要だとした。

 8代続く老舗乳業は、このような危機の中にあっても、200年以上培ってきた家族を中心とした団結力で次世代を見据えている。環境問題の取り組みのように、同社は老舗としてのブランド力だけでなく、社会のニーズに積極的に応えてきたことが、消費者から高く評価されている。なお、2020年11月にピエールクリスチアーノ氏がIDF(国際酪農連盟)の会長に就任した。今後は、国際的な立場からも、世界の酪農業界を何代も続く一つの家族のようにまとめ、COVID-19危機からの脱却や、さらなる業界発展のための貢献が期待される。

1 EU畜産業の現状および2030年までの展望(続き)

(2)食肉をめぐる情勢

ア 需要動向
 2020年の総食肉生産量(枝肉重量ベース)は、前年比0.2%減の4394万トンと見込まれる(表3)。健康的なイメージと調理の利便性から家きん肉需要は高く、生産、消費、輸出で唯一成長する部門とみられる。2030年の同量は、育種改良などによる、より効率的な生産実現が想定されるものの、2020年比で1.9%減が見込まれる。なお、2030年までに1人当たりの消費量減、量は少ないものの生体家畜の輸出量減が高い確率で進む他、短期的には、アジアおよびドイツのアフリカ豚熱やCOVID-19による現在の世界的状況が域内および国際的な食肉需給に多くの不確実性をもたらすとした。

 
 一方、消費量は、菜食主義者(ベジタリアン)の定着、健康志向や環境、アニマルウェルフェアへの配慮などによる植物性たんぱく質への移行や高齢化などで、2018年をピークに減少傾向が進むと見込まれる。2020年に68.0キログラムであった1人当たり年間消費量は、家きん肉が増加するものの牛肉、豚肉が減少し、2030年には同67.6キログラムになると見込まれる(図7)。
 
 
 
イ 牛肉の動向
 (ア)生産および消費
 2020年の牛肉生産量(枝肉重量ベース)は、前年比1.4%減の688万トンと見込まれる(図8)。輸出需要や飼料価格安、育種改良によると畜重量増も、2018年をピークに牛群縮小を伴う減少傾向は続き、2030年は2020年比6.2%減の645万トンと見込まれる。1人当たり年間消費量は、2020年の10.4キログラムが2030年には9.7キログラムになると見込まれる。
 牛枝肉卸売価格は、ブラジル、米国、アルゼンチンの供給増で今後数年間、国際市場、EUともに下方圧力がかかる(図9)。一方、2025〜30年には世界的な減産により、2030年に1トン当たり3461ユーロ(45万3391円)まで回復すると見込まれる。

 

  (イ)貿易
 COVID-19によるロックダウンで減少した輸入量は、今後、関係国との自由貿易協定の発効に伴う関税割当の段階的引き上げに伴う増加が見込まれる。輸出量は、主に中東とフィリピンからの需要が増えるものの、牛群縮小による輸出余力の低下から成長は緩やかとなる。一方、量は多くないものの、生体輸出は、家畜輸送に対するアニマルウェルフェアに関する規制の強化などからさらに少なくなると見込まれる。

ウ 豚肉の動向
 (ア)生産および消費
 2020年の豚肉生産量(枝肉重量ベース)は、国際需要はあるも投資環境が及ばず、前年比0.5%減の2288万トンと見込まれる(図10)。2030年は2020年比で90万トン減となる4.0%減が見込まれる。豚肉生産は、環境問題、アフリカ豚熱リスク、消費者の需要変化により制約を受ける可能性が高いとみられる。消費量は、家きん肉にシェアを奪われ、2020年の1人当たり年間消費量32.7キログラムは、2030年に同31.9キログラムと見込まれる。
  豚枝肉卸売価格は、中国需要で2019年に最高値となるも、COVID-19とドイツにおけるアフリカ豚熱発生が2020年に下落を招いた(図11)。国際競争によりさらに下落も、供給減により2030年には1トン当たり1600ユーロ(20万9600円)程度に回復するとみられる。


 

 (イ)貿易
 2020年の豚肉輸出量は、中国需要で前年比2.0%増が見込まれる。一方、2020年をピークに減少傾向となり、2030年輸出量は2020年比8.7%減と見込まれる。世界貿易量の4割程度のシェアは確保するも、中国やアジア諸国の自給率向上や、アフリカ豚熱リスクなどにより2019〜20年の記録的な水準までの回復は難しいとみられる。

エ 家きん肉の動向
 (ア)生産および消費
 2020年の家きん肉生産量は、健康的なイメージと調理の利便性や手頃な価格による需要で前年比1.0%増の1361万トンが見込まれる(図12)。食肉の中で2030年までの間で唯一成長する部門とされ、コスト面で有利な旧東欧諸国での大規模な投資などで、2030年は2020年比3.5%増の1408万トンが見込まれる。2030年の家きん肉卸売価格は1トン当たり2063ユーロ(27万253円)と見込まれる(図13)。
 

 
 (イ)貿易
 家きん肉輸出量は、アジアやアフリカ向け需要で2030年は2020年比9.8%増の257万トンと見込まれる。一方、輸入量は、ファストフードなど外食向け割合が高く、COVID-19で一時低迷も、2021年以降は回復に転じ、EUの関税割当数量 (2020年時点で約90万トン)に近づくとみられる。

コラム3 COVID-19と向き合う生産者たち(2):ベルギーの養豚生産者

 ベルギー西部の西フランダース州ゼデルヘム区で養豚経営を営むバルト・ヴェルホーテ(Bart Vergote)氏に、COVID-19の影響などについてリモートで話を伺った(コラム3−写真1)。

 
 同氏は、2010年の28歳の時に親から養豚経営を継承し、現在、母豚280頭、肥育豚2800頭を飼養する。民間品質保証である「Better for Everyone(すべてにとってより良い)」のルールに基づいて豚を飼養し、提携するベルギー最大手の小売チェーンに販売する(コラム3−写真2、3)。品質保証の取り組みは、家畜と消費者双方の健康向上と環境配慮を目的とし、生産者、加工事業者、消費者、研究者などのあらゆる関係者がルール作りに参加する。具体的には、非去勢、抗生物質の使用制限、必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸の含有量増および地域支援のための地元産亜麻仁の給餌などがある。生産者には対価が払われ、健康な食品を望む地元消費者に対し、地元生産者が供給するという助け合いの仕組みを構築している。




 同氏は所属組合を代表して2020年5月、COVID-19による外食営業停止などで豚肉市場は混乱し、経営リスクが高まっていると声明を発表した。当時、ベルギーはアフリカ豚熱発生国としてEU域外への輸出制限がかかっており状況は悪かった(現在は清浄化している)。
 そのような中、同氏の養豚経営は、COVID-19の影響下にあってさらに強まった健康や環境志向といった消費者ニーズに合致した生産と、その供給が提携先により確保されていることで、経営の安定を維持することができた。ブリュッセルの当該チェーンの食肉売り場を見ると、「Better for Everyone」ラベルの豚肉は、認知されており、売れ行きも好調なようである。なお、同氏は、地域社会への貢献を目指し、ゼデルヘム区の区議会議員も務めるなど活躍は多岐にわたる。自らを「心と魂の養豚農家」とする同氏は、2児の父親として、夫として、議員としても、「すべてにとってより良い」養豚農家を目指す。

コラム4 COVID-19と向き合う生産者たち(3):オランダの養鶏農家

 オランダで養鶏経営を営むヨハン・リーンダース(Johan Leenders)氏に、COVID-19の影響などについてリモートで話を伺った(コラム4−写真1)。


 
 同氏は、オランダ中部のフレヴォラント州にある1972年創業の農場の3代目として2013年に就農した。農地は約50ヘクタールで、3万5000羽のブロイラーを飼養する他、小麦、野菜を生産する。自家生産のビーツ、にんじんの他、ウコンやオレガノなどのハーブの給餌による特徴的なオレンジ色のオレンジチキン(Oranjehoen)を生産しており、(1)循環型農業、(2)有機、(3)品質、(4)アニマルウェルフェア、(5)健康について高い飼養基準を掲げ、「5つ星チキン」と名付けて販売している。
 有機生産の野菜の残さを鶏に給餌し、鶏の堆肥を野菜の生産に利用する循環型農業を実践する他、鶏の飼料には大豆を使用せず、自給もしくは地元産のみを給餌する。また、アニマルウェルフェアに対応した十分なスペースを有した鶏舎の他、さらなる持続可能性の観点から屋根に太陽光パネルを設置し、農場の電力の100%を賄う(コラム4−写真2)。さらに、ハーブを給餌することが抗生物質不要の鶏の健康と品質に貢献するとし、「人」と「鶏」と「環境」の健康に配慮した付加価値の高い鶏肉生産を実践する(コラム4−写真3)。
 



 同氏にCOVID-19の影響について伺うと、「ジェットコースターだね」と回答があった。具体的には、小売でも需要不振があった他、娯楽施設などで予定されていた大規模なケータリングサービスがすべてキャンセルとなり、ビジネス的に大打撃があったという。しかし、2020年末には、販売チャネルの変更などに注力した結果、年初に予定していたレベルまで回復できたという。同氏は、COVID-19を経験し、自分に「成長があった」とした。ジェットコースターは下降した分だけ上昇する。同氏の先にはさらなる上昇しかなさそうである。

2 業界関係者による2030年展望

(1)高品質な乳製品で国際需要に対応〜欧州乳製品貿易・販売業者連合(EUCOLAIT)リキタロ事務局長〜

 2030年までの中期的展望について業界はどう見ているのか、また日本との関係や期待について、EU最大の乳業団体である欧州乳製品貿易・販売業者連合(EUCOLAIT)のユッカ・リキタロ(Jukka Likitalo)事務局長にリモートで話を伺った(写真7)。
 
 
 同事務局長はまず、「2030年までの10年は畜産部門にとって厳しいものになる」とした上で、「EUは欧州グリーン・ディールに真摯に取り組んでいる」とした。そして、「課題は大きく、酪農部門も他産業同様に、その役割を果たす必要がある」との見解を示した。一方、「植物性由来の食事が増加傾向にあるものの、乳製品消費量は世界的に増加するであろう」とし、EUは「経済効率と持続可能性の両方の観点から、高品質な乳製品でその需要に対応できるであろう」とした。
 また、日本との関係や期待については、「日・EU経済連携協定(EPA)が第一歩となり、両者は協力関係(パートナーシップ)をさらに深めることができる」とした。そして、「良い食品への愛以上に、われわれを結び付けるものは沢山ある」とし、「予測不能で混沌とした世界では、特に同じ価値観を共有する国々の協力関係強化は必要である」とした。
 

(2)バランスの取れた食事に重要な食肉〜欧州家畜食肉貿易業者連合(UECBV)マイヤー事務局長〜

 同見解について、EU最大の食肉団体である欧州家畜食肉貿易業者連合(UECBV)のカーステン・マイヤー(Karsten Maier)事務局長にもリモートで話を伺った(写真8)。
 

 
 同事務局長はまず、「日本は、若者を中心に食肉消費量が大きく増加している数少ない国の一つである」とした上で、「EUはその理由を理解し、その中から持続可能な条件で生産される高い栄養価で高品質な食肉の状況改善のための解決を見出さなくてはならない」とした。一方、「将来について多くは心配していない」として、「量こそ変わるものの、高い栄養価で高品質な食品によるバランスの取れた食事に移行するであろう」とし、品質の高いEUの食肉部門は引き続き重要な役割を担い続けることになるとした。
 また、日本については、「高い基準や歴史、経済に裏付けされた知識、地域や地球全体に対する共通の責任感が、われわれの距離を縮める」とし、日EU・EPAについても、「EUと日本には互いに信頼がある」とし、「発展の方向性は正しく向かっており、さらに進化させる必要がある」とした。

3 おわりに

 初のオンライン開催となったEU農業アウトルック会議初日は、農業・農村開発総局のブルチャー局長による総括で終了した。ブルチャー局長は、今なお続くCOVID-19から得た教訓として、「食料確保を当たり前と考えるべきでない」と強調した上で、これからの農業部門は「サプライチェーン短絡化」などが重要になっていくとした。また、生産者の多様性にも言及し、「多様な生産者すべてが環境に配慮し、安定した収入を得られるよう枠組みを整備すること」が重要であるとした。
 なお、今回の展望については、前述の通り、欧州グリーン・ディールに大きな貢献をするとみられる農業政策の核であるCAPについて、協議中のため現行制度のままとして試算するなど、かなりの不確定要素を含んでいることに改めて触れたい。実際、本展望によるGHG排出量の削減試算は、畜産部門の減少分を作物の増収による増加分が相殺するとし、「現状維持」と公表されている。GHG排出量削減を強く推し進める欧州グリーン・ディールの目標とはほど遠い結果に思う。
 一方、欧州委員会が示すCOVID-19を教訓とした消費者行動の変化に不確定要素は少ない。健康志向やアニマルウェルフェアのさらなる重視、環境や気候変動への配慮などは、社会的ニーズとして高まり続ける。農業界がこれらを無視して次世代に向かうことはもはや不可能にみえ、生産者や加盟国の動向などを見ると、国際社会の先陣をきって対応する必要性が生じてきている。オランダで農業視察のコーディネートや通訳を行うグリーンブリッジ・インターナショナル社の水城氏は、EUの農業者から、「早く進みたければ一人で行け。遠くまで進みたければみんなで行け」という言葉をよく聞くという。聞くところによれば、これはアフリカのことわざのようだが、多くのEU農業関係者が自らを例えて使っているようである。ことわざの通り、手前の利益よりも、COVID-19危機からのグリーンリカバリーや気候変動への対応なども含む次世代のEU農業のため、関係者が一丸となる姿勢は、これまでも国際社会をけん引してきた原動力となっているように思う。
最後に、日本もEU同様にCOVID―19からの脱却が至上命題となっているが、「次世代のEU農業」がテーマである今回の会議の紹介が、条件の違いは多くあるものの、「次世代の日本農業」をより良いものにするために動こうとする方々の参考になれば幸いである。
 
(大内田 一弘(JETROブリュッセル))

謝 辞
今回、COVID-19により大変な状況の中、欧州青年農業生産者協議会(CEJA)のヤネス・マース氏、オーストリアの農業法人フェッターホーフのシモン・フェッター氏、オランダの酪農家チプケ・ニューランド氏、亜輝氏、イタリアの乳業ブラッツァーレ社のマルティナ・ブラッツァーレ氏、ベルギーの養豚農家バルト・ヴェルホーテ氏、オランダの養鶏農家ヨハン・リーンダース氏、欧州乳製品輸出入・販売業者連合(EUCOLAIT)のユッカ・リキタロ氏、欧州家畜食肉貿易業者連合(UECBV)のカーステン・マイヤー氏、グリーンブリッジ・インターナショナル社の水城悠氏に、快く取材に応じていただきました。日頃の御礼とともに、ここに改めまして深く感謝の意を表します。
 



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