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話題 畜産の情報 2021年6月号

パキスタンにおける畜産職業訓練学校牛肉コース開設への取り組み

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公益社団法人全国食肉学校 常務理事 小原 和仁

1 はじめに

 1973年に設立された職業能力開発校である公益社団法人全国食肉学校は、2020年9月、国連工業開発機関UNIDO(本部オーストリア・ウィーン)との間で「パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という)のハイバル・パフトゥンハーKhyber Pakhtunkhwa州(以下「KP州」という)の牛肉バリューチェーン近代化に向けて、州都ペシャワールにある畜産職業訓練学校AHITI(写真1)の牛肉コース開設とカリキュラム作成に協力する」契約を締結しました。
 そもそも、なぜ本校がUNIDOと契約を結ぶことになったかについて説明します。2015年10月、内閣府の認定を受けて本校の定款第4条「事業」に次の文言を追加しました。
 「海外における和食文化と日本式食肉処理・加工技術の普及」
 「事業は日本全国及び海外において行うものとする」
 このことにより、和牛輸出の拡大を背景とした「海外での和牛セミナー」と「本校への海外シェフの招聘しょうへいセミナー」が実施できることとなりました。それに伴い、本校の概要を英文で紹介する機会が増え、2019年12月に英文の学校ガイダンスをホームページにアップしたところ、年が明けてからUNIDOの目に留まったというわけです。
 
 
 折しも世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、UNIDO本部のあるオーストリアやパキスタンとの往来が一切できなくなったため、3カ国を結んでの打ち合わせはすべてウェブ会議で行っており、時差の関係で打ち合わせはいつも日本時間の16時から開始しています。ちなみにオーストリアは朝8時、パキスタンは昼の12時です。

2 パキスタンおよびKP 州

 パキスタンは紀元前のインダス文明にさかのぼる大変古い歴史があります。同国北西部KP州の州都ペシャワールは古代にはガンダーラが栄えました。地理的にはイラン高原に位置し、ハイバル峠がアフガニスタンに通じ、南アジアと中央ユーラシアを結ぶ文明の交差点となってきました(図2)。北部山岳地帯は風光明媚な地域としても知られ、同州第3の都市ミンゴラは2014年にノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイの出身地でもあります。
 パキスタンの人口は2億800万人と日本の1.7倍、国土面積は79万6000平方キロメートルと日本の約2.1倍であり、知る人ぞ知る牛の飼養大国で頭数(乳牛を含み水牛を含まない)は4780万頭と日本の12.6倍で世界7位となっています。同国の畜産セクターがGDPに占める割合は11.2%、農業産出額に占める割合は60.5%で一大産業となっていますが、実は多くの課題を抱えています。
 UNIDO傘下のパキスタン農業食料開発援助プロジェクトPAFAIDの調査によると、KP州の精肉店のうち23%は電気、32%は水道がそれぞれなく、47%は冷蔵庫がありません。州内の家畜の30〜40%は遊牧民が保有していますが、1頭当たり平均枝肉重量が120キログラムと小さく、場当たり的な出荷などにより価格も安く、貧困の原因の一つとされています。また、州の住民のうち41%がトキソプラズマ症で感染症などが多いのに加えて、州都ペシャワールの食品のうち23.5%から食中毒菌が検出されるなど、公衆衛生上の大きな問題を抱えています。
 一方で近年は牛の飼養頭数の拡大が続き、牛肉の国内消費も拡大、アフガニスタンなど近隣諸国への輸出も増加しています。
   




3 プロジェクトの目的、カリキュラム内容および枠組み

 当プロジェクトが目指すものは、牛肉バリューチェーンの近代化および付加価値づくりです。AHITI牛肉コースは、と畜場作業者向け、精肉店向け、付加価値製造者向けの三つのカリキュラムを予定しており、その内容は以下の通りです。
(1) と畜場の施設と人の衛生管理
(2) 食肉の科学
(3) ハラル処理、剝皮、腹出し
(4) 枝肉の格付、脱骨、整形、部分肉規格、精肉加工
(5) 食肉の衛生管理、HACCP
(6) 冷却、包装、輸送
(7) 牛肉加工品の製造理論、製造方法
(8) 副産物の処理、加工
 また、プロジェクトの枠組みは図3の通りとなっています。
 

4 これまでの取り組み状況

 これら牛肉カリキュラムはテキスト、ビデオおよび写真の3種類で2021年8月末までに提出することを求められており、現在精力的に作業が進められています。まずテキストについては、本校学生向けテキストなどをベースに新たな内容を加え、英訳を進めています。先方からの要望もあり、特にと畜場の衛生管理、脱骨、整形、精肉の各製造工程と、日本の格付・部分肉・小割部分肉規格・筋肉名、そして牛肉加工品製造などについては詳しく記述しています。作成に当たっては、共に本校の理事でもある麻布大学獣医学部の森田幸雄教授、公益社団法人日本食肉格付協会の芳野陽一郎専務理事のご協力をいただいております。同時並行で獣医生命科学大学UVAS(パキスタン・ラホーレ)のドクター・ハヤットが作成したテキストと、本校作成のテキストとの相互確認も行っています。
 映像関係については、隣接する株式会社群馬県食肉卸売市場および群馬県食肉衛生検査所のご協力をいただき、わが国トップレベルの衛生的なと畜処理、部分肉加工などを撮影し、英語・ウルドゥ語のコメントを挿入するなどの編集を行っています。
 また、本校実習室で本校講師が牛枝肉から部分肉、小割部分肉、精肉、加工品まで製造する各工程と製品を撮影し編集しています(写真3)。特にビデオや写真ではどうしても平面的に見えてしまうため、立体的に見える工夫を凝らしています。
 

5 おわりに〜今後の取り組みについて〜

 近い将来、COVID-19が収束し往来が可能になれば、本校講師がAHITIを訪問して実習指導を行ったり、逆にAHITIの指導者たちが来校し、指導方法を学ぶなど実地の国際貢献ができるようになると期待しています。
 このプロジェクトを通してパキスタンKP州の牛肉産業の近代化、付加価値の向上、そして人々の公衆衛生に役立つことができれば、本校の役職員の何よりの励みになるので、全力を尽くしたいと考えております。
 また、薄切りなど日本独特の食肉処理・加工方法を通して同国の人々に和食文化に触れてもらう一方、本校講師が同国の食文化を学び、新たな牛肉加工品の開発に挑戦するなど、相互理解につながれば望外の喜びです。
 実はこのプロジェクトにはもう一つの大きな目標があります。国際労働機関ILOによると、パキスタンは世界でもジェンダー格差が最も大きい国の一つです。女性にとって、就労の機会や責任ある仕事を任されることは少なく、賃金は男性の3分の2しかないそうです。伝統社会のジェンダー格差をなくし、女性の社会進出を推し進めることが国連の一機関としてのUNIDOの使命でもあります。SDGsの観点からも、本校は全面的にプロジェクトに協力してまいります。

(プロフィール)
1984年 東北大学経済学部卒業
 〃    全国農業協同組合連合会入会
1988年 社団法人全国食肉学校卒業
1992年 オーストラリア組合貿易出向
2006年 JA全農ミートフーズ株式会社出向
2011年 公益社団法人全国食肉学校教務部長
2018年  〃 常務理事
     現在に至る



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