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調査・報告 畜産の情報  2021年7月号

女性を中心とした若い働き手が酪農を支える新たな姿〜JGAP認証を取得した株式会社リジッドファームズの取り組み〜

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札幌事務所 小島 康斉

【要約】

 生乳生産量で全国一を誇る北海道別海町にある株式会社リジッドファームズでは、酪農経営が短期雇用者に支えられており、労働環境の充実により全国から若年層の就労希望者が絶えない。また、長年の短期雇用によるマニュアル化の積み重ねにより令和2年11月にはJGAP家畜・畜産物認証を取得した。
 こうした取り組みが、生産性の向上だけではなく、従業員の意識改革やより質の高い作業を可能にしている。

はじめに

 酪農現場における労働力不足は深刻な問題であるが、その一方で機械化の影響により規模拡大が進む企業的酪農経営では従業員の雇用が増加傾向にある。
 特に人材の雇用や定着においては、労働環境の整備が求められるとともに生産性を低下させないために、働き手に効率的かつ有効な作業方法で従事してもらう必要がある。
 また、農業生産活動の持続性を確保し、その実効性を検証するための取り組みとして、GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)が導入されており、一般財団法人日本GAP協会は、平成29年3月末に日本版畜産GAP(以下「JGAP」という)の基準書を策定した。
 令和3年4月現在において、全国225経営体(うち乳用牛(酪農)は31経営体)がJGAP認証を取得している(表1)。
 こうした中、本稿では、長年の短期雇用形態において、作業全般のマニュアル化とルールづくりを構築したことで、JGAP認証を取得した北海道別海町の株式会社リジッドファームズ(以下「リジッドファームズ」という)の取り組みを紹介する。
 

1 地域の概要

(1) 別海町の概況

 北海道東端部根室振興局管内中央部に位置する別海町は、起伏の緩やかな丘陵地帯の中に、原野を切り開いて造られた牧場が町内に広がる北海道有数の大酪農地域である(図1)。
 面積は、町としては日本で3番目に広い約1319平方キロメートルにも及び、東京23区の約2倍に相当する広大な面積を有する。周囲は、根室市、標津町、中標津町、標茶町、厚岸町、浜中町の6市町と隣接しており、東部には日本最大の砂嘴さし である野付半島、南部には風蓮湖が広がる風光明媚な地である。
 気候は、年間平均気温が6度以下、最暖月の平均気温でも20度以下など冷涼で、山岳地帯がないことから北海道内においても降雪が少なく、冬の最深積雪は60センチメートル程度である。冬は晴天の日が多いことが特徴であるが、最高気温が0度以下の真冬日が続く寒さの厳しい地域である(図2)。




 

(2) 別海町の酪農生産

 別海町の乳・肉用牛農家戸数は722戸(令和2年2月1日現在)であり、うち乳用牛飼養戸数は688戸となっている。乳・肉用牛飼養頭数は、11万6077頭であり、うち乳用牛は10万9110頭を誇り、一戸当たりの乳用牛飼養頭数は158頭である。
 令和元年の生乳生産量は、46万4426トンであり、根室振興局全体の約57%を占めている(表2)。全道の生乳生産量と比較しても、別海町は約11%を占めていることから、生乳生産において中枢を担っている町であることは言うまでもない。
 元年の農業産出額(推計)は、668億円で、そのうち乳用牛での産出額は639億円(生乳産出額は497億円)となっている(農林水産省「市町村別農業産出額」)。

2 リジッドファームズの生産体制

(1) リジッドファームズ設立までの軌跡

 リジッドファームズは、昭和4年(1929年)に代表取締役社長森田哲司氏(以下「森田社長」という)の曽祖父母が現在の別海町中春別地区で酪農業を始め、平成18年(2006年)に森田社長が31歳で4代目を承継した(表3)。森田社長が経営承継をした当初の飼養頭数は150頭ほどであったが、令和3年(2021年)4月末時点で360頭まで経営規模を拡大した。この原点は、森田社長が第2の故郷と語る米国ウィスコンシン州で経験した米国酪農がモデルとなっている。
 森田社長は、幼い頃から両親の手伝いを通じて、「酪農 Dairy farming」を一生涯の職業として考え、人とは違う経営を目指すようになり、最先端であった米国の大規模酪農の技術や経営感覚を学ぶため、高校卒業後の平成6年(1994年)に単身で1年間ウィスコンシン州へ渡った。
 ウィスコンシン州の酪農研修先は、飼養頭数1110頭、経営耕地面積1200ヘクタールの大規模家族経営でありつつも、作業工程に応じて雇用労働者や外国人研修生を受け入れるなど、外部からの労働力を豊富に取り入れる手法であった。
 一方、90年代の日本の酪農は、両親と子世代の外部労働力を取り入れない家族経営が主流であり、今日における大規模化、機械化、外部の労働力および酪農ヘルパー員などの普及が十分に進んでいなかった。そのため、森田社長は当時から、将来的には米国で経験した外部の労働力を取り入れ、足腰の強い大規模酪農を目指したいと考えていた。
 こうした考えの下、29年(2017年)に法人化を行い、フリーストール牛舎を新設するとともに畜産クラスター事業を活用して、総工費約1億8000万円をかけて搾乳舎(ミルキングパーラー)を新設した。
 



 

(2) 概要

 リジッドファームズの「RIGID」とは、英語で「1.固い硬直した、2.厳密厳格であるさま、3.固定して動かせないさま、4.流されない、ブレない」を意味しており、人に流されることなく独自の道を進んでいくという願いが込められており、同社の不変の経営理念である。
 現在の牧場スタッフは、地域の学生などのアルバイトを含めて総勢15名在籍し、その組織体制は、主に搾乳を行うミルキング班、子牛の管理を行う哺育班および粗飼料生産や牛舎の管理を担当する草地・土木班に区分される。ミルキング班と哺育班は主に短期労働者(以下「短期スタッフ」という)を中心とした女性が担当し、搾乳牛の誘引は男性スタッフが行う。その他の牛舎管理や粗飼料生産などは、正規男性社員などで構成される草地・土木班が担当している。
 令和2年12月から、国際交流や多様な人材による今後の牧場発展を目指して、ベトナム人技能実習生2名(女性)を受け入れ、ミルキング班のサポート役として搾乳技術を学んでいる。リジットファームズでは、海外から実習生を受け入れるのは初めてだが、休日などを使ってスタッフと実習生が自主的に母国語を学び合うなど、意思疎通が図られており、海外研修生とも良好な関係が築かれている。
 現在は、搾乳牛(ホルスタイン)230頭を含む360頭を飼養しており、1頭当たりの年間搾乳量は約9800キロ、年間2000トンの生乳を生産している(表4、写真2)。
 施設は、300頭が収容できるフリーストール牛舎、従来からの乾乳舎、育成舎などのほか、搾乳舎には一度に32頭(16W)の搾乳が可能なミルキングパーラーなどが存在する(表5、図3、写真3)。









 
 飼料は1日1頭当たり60キログラムの設計で給餌しており、自動餌寄せロボット「ジュノー」が24時間体制で餌寄せを行っている。
 粗飼料は、自給で賄い、起伏などの土地条件や品種選定は主に農業改良普及員からの助言を受けながら、220ヘクタールもの広大な牧草地で計画的に生産を行っている。
 濃厚飼料は、TMRセンターなどを利用せず、デントコーンなどを自家生産の上、配合を行っている。
 後継牛は、雌雄判別液を用いてすべて自家生産・育成しており、それ以外は、交雑種として種付けを行い、生後約40日齢まで哺育し出荷している。交雑種は、1カ月当たり20頭ほどを出荷しており、一頭当たり約30万円で取引されていることが多いことから貴重な副産物収入となっている。
 敷料は、搾乳牛は牧草ロールや熱処理加工してある輸入おが粉を使用しており、週一回の頻度で入れ替えを行っている。育成牛や乾乳牛の敷料には、牛の体調が回復したことなどの経験から一部砂を敷いている。
 ふん尿は、併設するスラリータンクに集め、牧草地にスラリー散布している。
 

(3) 日本初導入のミルキングパーラー設備

 リジッドファームズでは、平成29年に先進的なミルキングパーラーを導入した(写真4)。
 このミルキングパーラーは、森田社長自らが現地まで視察に赴き選定したイタリアTDM社製であり、日本への導入第一号の搾乳設備である。特筆すべき点として、専用ブラシ(スクラバー)で乳頭の洗浄、消毒マッサージを同時に行えるほか、ティートカップのバックフラッシュ・システム(自動洗浄)機能が付いており、衛生面への配慮を徹底している(写真5)。また、パーラーに備え付けられた乳量計と飼養管理システムによって効率的な牛群管理を行っている(写真6)。
 





 搾乳された生乳は、配管を通じて1万2000リットルが集乳可能なバルククーラーで保管される仕組みとなっている。
 リジッドファームズでは、毎朝夕の搾乳後にはパーラー舎内を丁寧に水洗いしており、ステンレス製の設備が黒光りするほど清潔な状態が常に保たれている。

3 女性を中心とした短期スタッフが酪農を支えるノウハウ

 リジッドファームズはこれまで多くの短期スタッフに支えられてきたが、労働環境の整備や作業手順のマニュアル化など独自の取り組みによって、質の高い労働力を確保し続けている。
 

(1) 経緯

 森田社長が継承した当初は、インターネットなどを通じて求人を募っても、その応募者はおおむね2〜3カ月を希望する短期スタッフであり、長期で働いてくれる人を満足に確保できなかった。
 当時は、通常60頭の搾乳牛が収容できる旧牛舎(つなぎ牛舎)で搾乳を行っていたが、経営が思わしくなかったことから増頭を行い、最盛期には140頭の搾乳牛を当該牛舎で管理するなど、経営を回復させるために必死に働き、さらには米国酪農をモデルに近付けるべく牧場の環境整備を行った。
 森田社長は、短期スタッフでも働きやすい環境で効率的な生産体制を築くためには、作業の慣例化(ルール化)に取り組む必要があると考え、作業手順などを目に見える形にマニュアル化することで、短期スタッフでもいち早く仕事を覚え、未経験者でも高水準の作業が行える体制作りを確立した。
 また、酪農現場のイメージを払拭ふっしょくするために、求人募集には実際に働いているスタッフ、牧場の風景の写真を掲載するなどPR活動を強化することで、酪農現場で働く安心感につなげるなど工夫を凝らした。
 こうした取り組みによって、友人の紹介や口コミなどを通じて徐々に応募者は増えていき、今では多くの若年層が集う活気あふれる牧場となっている。
 

(2) 雇用状況など

 リジッドファームズでは、派遣業者に外部委託することで短期スタッフの紹介を受けており、最終選考は森田社長が行う手法で、これまでの15年間で100人弱の雇用実績がある。応募者の多くは、北海道外からの若年層に集中しており、その応募理由は、北海道の生活に憧れを抱いてくる人もいれば、ワーキングホリデーの合間に働く人、教員になる前に牛に触れて食育を学ぶ人など千差万別である。
 多くの短期スタッフの雇用期間はおおむね3カ月であり、その中には全国各地から実習に訪れる学生も含まれている。新規採用後には必ず歓迎会を開催するなど、定期的に全員で食卓を囲みコミュケーションを図るよう意識することで、任期中は投げ出さずに楽しみながら熱心に働いてくれるという。
 賃金体系は、基本的に固定給が20万円〜、アルバイトは時給900円〜と定めている。
 住居は、牧場から車で2〜3分の同社宿舎で共同生活を行うシェアハウススタイルを取っており、生活に必要なものはすべてそろっていることから、体一つで働けるというのも大きな魅力である。シェアハウスは、男女それぞれ最大8人が居住可能な一軒家をシェアするもので、個室完備の上で、酪農未経験者や異郷の地に来たという人の不安も共同生活をすることで即座に解消されるという利点がある。その他、敷地内には、外国人技能実習生や社員のための住居なども存在する(写真7)。
 家賃は徴収しておらず、無償で車を貸与するなど生活には不自由しないよう配慮されており、短期スタッフでも休日に道東観光など北海道の自然を楽しみながら働くことができる。このスタイルは、森田社長が米国滞在時に経験したものを再現しており、自身もさまざまな国から研修に訪れていたシェアメイトと有意義な時間を過ごしながら酪農に従事したことが根底にある。
 リジッドファームズで働く短期スタッフは、こうした環境整備や共同生活の住み心地の良さに魅了され、中には短期雇用予定だったスタッフの期限延長の申し入れや正社員として登用し長期的に働くケースも珍しくなく、また、長期休みを利用して訪れるリピーターなども多数存在する。
 今日でも求人への応募は好調で、コロナ禍になってからも、より一層問い合わせが増えるなど衰えを見せない。


 

(3) 勤務時間

 スタッフは、2週間ごとのシフト制で勤務予定を立てており、全員の予定が一目で分かるよう事務所内に掲示の上、管理している(写真8)。
 ミルキング班および哺育班の基本的な勤務時間は、朝6時30分〜10時、16時30分〜19時30分の6時間半となっている(図4)。
 休日は自己申告制で自由に選択可能であることから、適正なワーク・ライフ・バランスが実現できる。なお、スタッフ全体の休暇取得平均は1週間当たり1.5日となっている。



 

(4) 搾乳作業の「マニュアル化」

 短期スタッフの多くが未経験者であり、さらに、期間満了による人の入れ替えも頻繁であることから、効率的かつ機能的な搾乳体制を均一的に維持できるよう作業マニュアルが徹底されている。
 作業マニュアルは、森田社長が短期スタッフや学生などに「次の人のために何か一つでも良いから功績を残しておいてほしい」と伝え、それに応えるようにこれまでのスタッフが作業手順のマニュアルを作り、改良を続けてきたものである(写真9、10)。手作りであるため、絵や表などはもちろんのこと、実作業者でしか気付かない些細な点まで記載されている。これらは「見える化」を意識し搾乳舎の壁面に掲示するなど作業中でも常にチェックできるような体制にある。
 こうしたマニュアルの蓄積の恩恵により、多くの人は3日もすればある程度の仕事を理解することができる。




 

(5) 短時間での搾乳作業

 搾乳は、ミルキング班の女性スタッフ3人がパーラー舎で毎朝夕の2回行い、マニュアル化されている作業によってスタッフのシフトに影響されることなく、常時200〜230頭の搾乳牛を1日合計6時間半という短時間で搾り終える。搾乳牛の誘導は、男性スタッフが担当することで力仕事はなく、搾乳に専任できるよう配慮されている。また、搾乳に費やす時間が短いことから乳牛へのストレスが少ない。脚の負傷や乳房炎などの瑕疵かしを持つ個体への対応もすべてマニュアルの中で詳しく解説されており、きめ細やかな管理ができるよう徹底されている(写真11)。
 森田社長は、ミルキング班を女性スタッフで構成していることについて「女性ならではの丁寧な作業と大切に牛を扱う気配りなどが搾乳実績の向上につながっている」と話す。こうした状況は事故率にも表れており、乳房炎個体は常時200〜230頭の搾乳牛のうち2〜3頭余りと非常に少ない。


 

(6) 技術チェックシートおよび成長評価シートを用いた人材育成

 作業配置は、本人の能力、人柄および得意分野などの適性を見極めて森田社長が行うが、リジッドファームズでは採用時に、1カ月で仕事を覚えるための技術チェックシートと、1週間ごとに振り返りを行う成長評価シートを提示し人材育成を行っている。このような2種類の評価基準を設けて、スタッフ教育を行うことで労働意欲や作業技術の向上はもとより、若年層に人間的な成長を促している。
 具体的には、評価の主体は、技術チェックシートによって行っている(写真12)。その内容は、各種作業を項目ごとに分け、各項目で、説明−実施−合格判定の実施日を記入することで先輩スタッフの説明漏れを防ぐとともに確実に仕事を引き継ぎ、本人が作業を十分に行うことができるようになるまで相互にチェックできる仕組みである。さらに、本人の段階(初級、中級、上級)に応じた作業項目を用意することで、おのずとPDCAサイクルを実践できる。


  一方、成長評価シートは、あいさつや報告、連絡、相談など社会通念上の基本姿勢を盛り込んだ勤務態度や各種作業の総合的な熟練度を定量的に評価するものである(写真13)。スタッフは、各項目の業績を自己評価した上で、森田社長との面談で結果情報の伝達(フィードバック)を行う。一方的な評価とならないよう、面談で相互理解をした上で最終評価を決定するよう配慮されており、スタッフの不満や問題は生じない。

 
 リジッドファームズでは、こうした独自評価制度を基準にインセンティブを与えることで意欲向上につなげており、短期スタッフでも即戦力の一員として、作業に取り組めるよう工夫されている。
 森田社長は、短期雇用のメリットとして、人が循環することで、常に外部の目が新たな発見や気付きを生み出し、牧場の活性化につながっていくものと考えている。ただし、一通りの仕事を習得した3カ月時点で任期満了となるので、名残惜しさに駆られるとも話している。

4 JGAP認証の取得

(1) 取得に至るまでの経緯と取り組み

 リジッドファームズは、令和2年11月13日にJGAP認証を取得した。取得を目指すきっかけは、法人化に伴う施設投資による規模拡大によって、短期スタッフや学生などを受け入れる機会も増えたことから、作業全般のマニュアル化やルール作りをより強く意識したことにあった。加えて、普段の作業で取り組んでいる事項の延長線上にJGAPがあったからである。
 さらに、森田社長は、認証取得することによって牧場の広告・宣伝の効果が期待され、外部の人から客観的に評価してもらう良いきっかけになると考えた。
 取得には専門コンサルタントを入れて2年を費やしたが、自分たちで日ごろの作業一つ一つを見直しながら、これまでのスタッフによって蓄積された作業マニュアルをJGAP認証に必要な113項目に適合するようブラッシュアップした。認証取得に向けて、書類作成や作業内容の記録など事務作業が増えることになるため、全スタッフの意識付けが認証取得の大前提であった。このため、外部コンサルタントを招いて定期的な勉強会やメンタルヘルスケアなどスタッフのフォロー体制を強化し意識改革やモチベーションの向上に努めた(写真14)。
 
 
 

(2) 取得後の効果

 認証取得の効果は、マニュアルの見直しにより、リスクの細分化、スタッフの意識改革をもたらし、労働災害や安全性などに一層配慮するようになったことは、仕事に取り組む姿勢に変化が表れている。
 具体的には、JGAP認証取得に必要な113項目をスタッフ自身が見直したことにより、器具や備品の整理整頓はもとより、生乳を生産しているという意識改革につながり、より細分化したルール(マニュアル)に沿って作業を行うことで、経験の有無にかかわらず個人の裁量による作業が減少するなどリスクの軽減が図られた(写真15、16)。また、牛へのより丁寧な取り扱いやスタッフ同士のスムーズな連携作業がもたらされ、アニマルウェルフェアの観点からも牛への負担軽減につながり、搾乳実績が向上するなどより効率的な生乳生産体制の構築に結び付いている。




 森田社長は、自身や一部スタッフもJGAP指導員資格を習得するなど、JGAPの重要性を実感しており、認証取得後の効果については「自分自身を律し、労働災害や安全性の確保など経営者として違う角度から物事を見ることができたきっかけとなり、労働者の働きやすい環境づくりを絶えず追い求めていくよう、より強く意識するようになった」と話す。
 

(3) 取得後の目標

 リジッドファームズでは、JGAP認証取得したことに満足することなく、113の作業項目を全員で継続して取り組んでいくことが最も重要と捉えている。このため、同社ではJGAP基準書における定期点検・管理点(写真17)を定めるなど、定期的な自己点検を実行していくことを定めている。

 
 さらに、「外部の関係者や一般消費者に向けて、JGAP認証取得をアピールしていき、それと同時に酪農業界の相乗的な発展のためには、多くの酪農家がJGAPの認証取得に向けて取り組んで欲しい」と話す。そうすることで、JGAP認証という評価がさらに高まり、ひいてはより多くの人に酪農の現場を知ってもらう機会につながると考えている。

5 今後に向けて

 リジッドファームズは、「地域のロールモデルを目指して」ということを目標に掲げている。森田社長は、地域社会の発展のため、酪農の魅力を次世代に向けて伝えられるような存在でありたいとしている。そのために、他人の経営を模倣するのではなく、すべて自分で考え決断することで、酪農が夢のある仕事であるということを実体験に基づいて伝えていく必要があると考えている。
 短期雇用については、「牧場の労働力以外においても、短期的でも人が地域に滞在することによって、買い物や観光などで地域経済を回すことに貢献し恩恵をもたらしている」と話し、根釧地域を知ってもらうという意味でも地域社会に良い影響を与えていると感じている。
 森田社長は、こうした考え方や取り組みについて「担い手育成対策というよりも、リジッドファームズでの経験をさまざまな業種に生かして、将来のために活用してほしい」と願っている。
森田社長自身は、酪農家として「大学教授並みの知識」と「獣医師並みの牛を診る力」、そして「スポーツ選手並みの忍耐力」を備え、経営者として牛の育成方法や管理技術を絶えず追及していくことが必要と説いている。
 今後の展望については、「まだまだ道半ば」と現状には満足しておらず、フリーストール牛舎の増築や一般消費者向けに酪農体験可能な宿泊施設の建設など、さらなる規模拡大や新たなことに取り組む計画を立てている。

6 おわりに

 これまで述べてきた通り、リジッドファームズは、多くの短期スタッフによって支えられてきた。
 リジッドファームズに集まる若者は、酪農はもとより、シェアハウスでの生活による人と人との出会いやどこまでも続く道東の大自然を求めて訪れる。女性でも安心して働ける環境は、福利厚生面の環境的な要素もあるが、迎え入れる森田社長の穏やかで優しい人柄が多くの安心感や充実感を与える要素にもなっていることがうかがい知れる。
 また、JGAP認証取得は、誰が作業したとしても高水準の衛生管理を可能とし、かつ安心安全に作業ができるような仕組みを堅実なものにし、持続的な酪農経営やより高品質の生乳生産基盤を築くための礎となった。
 森田社長は、現在46歳と若く、今後も自身が経験した米国酪農に近付けるため、牧場の発展に向けてさまざまなことにチャレンジしていくと話し、これからの取り組みについても注目していきたい。

謝辞
 本稿の執筆に当たり、本調査に甚大なご協力いただいた株式会社リジッドファームズ代表取締役森田哲司様、現地スタッフの方々に、この場を借りて深く御礼申し上げます。

参考文献
根室生産農業協同組合連合会、根室農業改良普及センター
 「令和3年(2021年)営農改善資料 作ってみよう!農場マニュアル」