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海外情報 畜産の情報 2021年9月号

パラグアイにおける肉用牛生産の概要と家畜衛生管理への取り組み

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独立行政法人国際協力機構 パラグアイ専門家 林 政益

1 はじめに

 パラグアイ共和国(以下「パラグアイ」という)の牛肉の輸出は、世界有数の規模を誇り、国際市場における輸出シェアにおいても一定の地位を占めている。今後も農牧業に適した風土、豊富な飼料作物の生産、安価な労働力を背景に牛肉生産は継続的な拡大が見込まれる。一方、輸出に軸足を置く産業構造は国際需給の影響を受けやすく、国を挙げて産業の多角化、輸出促進に取り組んでいるが、輸出先国の要請に基づく家畜および畜産物の安全性確保への対応など課題も多い。このため、国の家畜衛生管理を担う国立家畜品質・衛生機構(以下「SENACSA」という)による口蹄疫などの重要疾病の清浄性維持はもとより、輸出先の多様化を踏まえた家畜衛生管理に対する、なお一層の取り組みが求められている。

2 パラグアイの概況

(1) 国土、人口、気候など

 パラグアイは、南米大陸のほぼ中央部に位置する内陸国であり、国土面積は40万6752平方キロメートル(日本の約1.1倍)である。ブラジル、アルゼンチンおよびボリビアと国境を接するが、ボリビアと北東部のブラジル国境の一部地域を除き、パラグアイ川、パラナ川、ピルコマジョ川などの河川や一部丘陵などの自然の地理的障壁を有する。気候的には亜熱帯から温帯に属するが、国土はパラグアイ川により大きく東西に区分され、それぞれ気候風土も異なり、東部の降水量は比較的多いが、西部の一部地域ではほとんど雨が降らない。首都のアスンシオンは温暖湿潤気候と熱帯気候の境界にあり、高温多湿な夏、そして「一日に四季がある」とされる冬に特徴がある。年間平均気温は23℃、年間平均降水量は1400ミリメートルである(図1)。
 元首は、マリオ・アブド・ベニテス大統領(任期は5年間(2018〜23年)・再選禁止)である。人口は約715万人であるが、うち約97%が東部地域に居住している。
 行政区分としては、全国には17の県と首都アスンシオン市があるが、国を縦断するパラグアイ川により東部地域に首都および14県、西部地域3県に区分される(図2)。
 


 

(2) 経済、農業

〈経済〉
 パラグアイの経済は、政府の堅実なマクロ経済運営、建設・インフラ整備部門の好調な進展などにより、2013年以降安定した成長を記録している。域内の資源・穀物など一次産品の国際価格の変動などの影響を受け、中南米地域全体の経済成長の失速が懸念された中においても経済的には比較的安定していた。世界銀行によるとインフレ率はおおむね3〜4%で推移し(図3)、2019年のGDPは381億4530万米ドル(4兆1959億8300万円:1米ドル=110円)であった(図4)。過去5年間の平均経済成長率は4.3%であり、同年の国民一人当たりのGDPは5414.8米ドル(59万5628円)であった。
 

 
 
 
〈農業〉
 パラグアイの主要産業は、大豆、トウモロコシ、小麦などの生産を中心とする第一次産業であり、GDPに占める農畜産業の割合は、近年は、おおむね10%前後で推移している(図5)。近年、各地で洪水や干ばつなどの異常気象が続き、気候変動(ラ・ニーニャ現象など)に伴う大豆などの農業生産に与える影響も大きいため、政府は経済の脆弱ぜいじゃく性を解消するためにも積極的に外国企業誘致を行い自動車部品生産など産業構造の多角化を重視している。なお、2021年は大豆およびその副産物の輸出は好調に推移しており、大豆国際価格の高騰もあり、これらの輸出額は前年度比約45%増の約14億7300万ドル(1620億3000万円)と大幅な増加が見込まれている。
 

3 パラグアイの肉用牛産業

(1) 肉用牛生産

 パラグアイは、広大かつ豊かな草地(約17万平方キロメートル)を有するが、特に西部地域は降雨量が少なく大豆をはじめとした耕種農業には適さないため、牧畜生産は東部から西部地域に移ってきている(図6)。
 

  亜熱帯に属する西部地域では、従前から耐暑性の強いゼブー種(いわゆるコブ牛)が多く飼養されていたが、近年は輸出促進を念頭に枝肉歩留まりや肉質の向上に資するため、ヨーロッパ系肉用種(アンガス種やヘレフォード種)と耐暑性のある熱帯系ゼブー種(ブラーマン種、ネローレ種など)を交配させるなど、気候、自然条件に適応させた輸出志向の牧畜業が営まれている。
 全国の牛飼養頭数は約1400万頭(うち約98%が肉用牛、約2%が乳用牛)で、農家戸数は約13万5000〜14万弱である(図7、表1)。飼養形態は放牧を主体とし、一部では飼養規模100頭以上の大規模家畜生産者による肉用牛の集約的飼養の推進(フィードロット、セミフィードロット化)により大量かつ高品質の食肉生産を可能としている。一方、飼養頭数100頭以下の中小規模家畜生産者の割合が圧倒的に多数であり、地方では家の周辺や道端で牛をけい養するいわゆる庭先畜産も多く見られる(図8)。
 





 

(2) 牛肉生産

 肉牛の基本的な生産は、繁殖・育成農家で生体重が280〜300キログラムとなったのち肥育農家に移動し、400〜450キログラムになるまで肥育された段階で出荷されるのが通常である。なお、一部生産者は460〜500キログラムまで肥育した牛を出荷するが、その場合1.5〜2.0%の価格プレミアムがあるとされている(表2)。
 
 

(3) 牛肉輸出

ア 牛肉輸出量、輸出額の推移
 パラグアイは南アメリカにおいて、牛肉の生産および輸出が最も増加している国の一つであり、過去10年間で17倍以上に成長している。一方、経済協力開発機構-国際連合食糧農業機関(OECD-FAO)の調査によると、パラグアイは、今後10年間で世界最大の成長の可能性を秘めている国として生産で46%、輸出で52%の成長率が予測されている。
 2020年の牛肉の輸出額は11億1553万米ドル(1238億2383万円)であり2019年の10億2300万米ドル(1125億3000万円)と比較すると約9%増加、平均取引価格は1トン当たり4114米ドル(45万2540円)であった。また、同年の牛内臓の輸出額は8276万米ドル(91億360万円)、輸出量5万831トンであった(図9)。
 

イ 主要な輸出先別輸出量およびヒルトン枠
 SENACSAによると、2020年の主要輸出は、チリ(10万3319トン)、ロシア(6万115トン)、台湾(2万5303トン)、ブラジル(2万747トン)、イスラエル(1万7677トン)であり、計51カ国に27万1310トンが輸出された(図10)。
 

 このほか、パラグアイに対して年間1000トンのヒルトン枠(EUにおける高級牛肉の低関税輸入枠)が設けられ、低関税による価格優位性からEU加盟国(ドイツ、オランダ、デンマークなど)へ同枠を活用した輸出もされており、同枠の近年の利用率は、以下の通りである(表3)。
 

 なお、南米の主要輸出国であるブラジル、アルゼンチン、ウルグアイが中国向けの輸出を進展させる一方、パラグアイは、中国との牛肉輸出交渉を行っているものの、南米で唯一台湾と国交を結んでいることもあってか、実際にはまだ中国向け輸出は実現していない。

ウ 牛肉の消費および価格
(ア) 一人当たり年間消費量
 統計により順位の変動はあるが、パラグアイは、ウルグアイとアルゼンチンに次ぎ、一人当たりの年間牛肉消費量が多い国と言われている。SENACSAによると、国内消費用牛肉の流通量は、2019年が約18万6000トン、2020年は18万4000トン、一人当たり消費量はそれぞれ26.0キログラム、25.4キログラムであり、ウルグアイやアルゼンチンの40〜50キログラムに比較すれば少ないが、鶏肉は17キログラム、豚肉は6キログラムと牛肉以外の食肉消費も多いのも特徴である。

①卸売価格と小売価格
 卸売価格は、部位によるが牛肉が1キログラム当たり約2.55米ドル(281円)である。なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で外食産業などの需要が減少して価格が下がり、同約2米ドル(220円)にまで下がった。豚肉は同1.5米ドル(165円)、鶏肉は同約2.3米ドル(253円)、羊肉は同約3米ドル(330円)である。
 小売価格は部位にもよるが、牛肉1キログラム当たり約3万グアラニー(4.2米ドル、462円)、豚肉は同約1万7000グアラニー(2.4米ドル、264円)、鶏肉は同約2万4643グアラニー(3.5米ドル、385円)である。

コラム1 パラグアイのお肉事情

・牛肉の主な消費スタイル、好まれる部位
 最も大きな消費形態は、家庭消費である。肉がなければ食事をした気がしないというほどで、実際、パラグアイの伝統的な料理にも肉を使うものが多く、代表的なものは以下の通り(コラム1写真1〜5)。
 

  一般的に好まれる部位としてはリブロース、バラ、ロースおよび骨付きカルビなどが代表的である。主な消費スタイルとしてはアサード(焼肉)、プチェロ(肉スープ)、ギソ(米か麺類と野菜や肉)、ステーキなどがある。スペイン語で「焼いた」という意味のアサードは、パラグアイの国民食と言っても過言ではない。もともとはガウチョ(牛飼い)の食文化だったが、味付けは岩塩または塩こしょうのみのシンプルなものであり、金網に置かれた牛肉を熾火おきびでじっくりと焼くのが基本。また、「ミラノ風」という意味を持つミラネッサも南米各地で食べることができる料理で、パラグアイでも一般的。薄く作られたカツであり、牛肉を使ったミラネッサはたいていの食堂ではオーダー可能(鶏肉もある)。作り方は、薄く切った肉をパセリ入りの溶き卵にサッとくぐらせ、パン粉を付けて揚げる。

4 肉用牛産業の発展に向けた取り組み(家畜衛生を中心として)

(1) SENASCAの概要

 SENACSAは、パラグアイの獣医行政当局として2004年に設立された独立行政法人である。
 設置目的は、家畜疾病の管理、撲滅、予防対策の維持、強化により家畜の生産性向上を図るとともに、動物由来産品の品質と安全性確保により同国の農牧産業の競争力、持続性、公正性の向上に寄与することである。
 首都アスンシオンの近郊のサン・ロレンソ市に本部を設置し、総裁のもと業務運営上の要である五つの総局を備えるとともに、総裁の業務補佐を担うユニットや各種委員会などが組織されている。また、全国を行政区分とは異なる家畜衛生区域に区分し、地域調整事務所や地方ユニットなどを設置し業務運営上の拠点としている。職員は約1600名、うち約360名が獣医師である(図11、12)。
 
 
 業務運営上の要である五つの総局の主な業務、所掌は、以下の通りである(写真1、2)。
①動物衛生・個体識別トレサビリティ総局
(DIGESIT;General Directorate of Animal Health, Identity and Traceability)

 DIGESITは、家畜疾病の防除計画や監視対象プログラム疾病の発生の予防、まん延の防止、また根絶のための業務活動を企画、立案、管理する責任を負う。
②技術サービス総局(DIGESETEC:General Directorate of Technical Services)
 DIGESETECは、動物用医薬品の製造、供給、販売の許可、また、動物用飼料に適用される措置の企画、立案、管理を行うとともに、生産農家の登録などに係る地方業務管理システム(SIGOR)自体の運営、管理やSENACSAとして公表する統計の集計、作成のサポートを行う。
③畜産物品質・安全総局
(DIGECIPOA:General Directorate of Quality and Safety of Products of Animal Origin)
 DIGECIPOAは、畜産物(食用・非食用製品、副産物、動物由来の派生物)の品質・安全プログラムの企画、立案、管理を行う。
④検査・診断総局(DIGELAB:General Directorate of Laboratories)
 DIGELABは、家畜疾病の検査診断、畜産物の安全性およびワクチンなどの生物学的製剤や動物用医薬品の品質管理のために必要な検査手順の企画、立案、管理を行う。
⑤財務・経営総局(DIGEAF:General Directorate of Administration and Finance)
 機関に割り当てられた物的・財政的資源の管理を行う。
 





 

(2) 口蹄疫などの衛生管理および撲滅プログラム

 パラグアイでは、口蹄疫をはじめ9疾病を監視プログラム対象疾病に指定し、定期的なモニタリング調査により疾病の発生動向を把握している。9疾病とは、①口蹄疫、②牛ブルセラ病、③牛伝達性海綿状脳症、④鳥インフルエンザ、⑤豚熱、⑥狂犬病、⑦牛結核病、⑧ニューカッスル病、⑨馬伝染性貧血である。

〈監視プログラム対象疾病の状況〉
(○疾病は現段階で清浄化または発生なし、●疾病は発生継続中)
①:〇 口蹄疫
 口蹄疫の撲滅対策は、古くは1976年にさかのぼる。1996年の「国家口蹄疫根絶プログラム」の施行により1997年にはいったん清浄化が達成されたが、2002年(カニンデジュ県)、2003年(ボケロン県)に再発生し、その後、ワクチンの全土接種により2005年にはワクチン接種清浄国と認定されるなどの幾多の変遷を経ることとなる。現在は、2011年末から2012年初めの再発生(サン・ペドロ県)から5年経過後の2017年にOIEの「口蹄疫ワクチン接種清浄国」のステータスを獲得し、以降はそのステータスを維持している。
 2011、2012年の口蹄疫再発生では、義務であるはずの口蹄疫ワクチン接種の不備が疑われた事態を政府は重く受けとめ、改めて国家口蹄疫根絶プログラム(PNEFA)による予防接種、免疫獲得させるための体系的かつ義務的な予防接種を徹底する重要性が再認識された。その結果、ワクチン接種はSENACSA(DIGESIT)の技術的な指導と監督のもと円滑かつ確実な遂行とするための半官半民の団体である家畜衛生サービス協会(FUNDASSA)が設立、認可され、体系的に実施されることとなった。
 その後、口蹄疫のワクチン接種プログラムは、近隣諸国での口蹄疫の発生状況を踏まえて改正された。さらに毎年約2〜3万頭規模のアクティブサーベイランスが実施されているが、2012年の最終発生以降、ウイルスの循環はないことが証明されている(図13)。
 

②:● 牛ブルセラ病
 パラグアイでは約30%程度の農家が本病の汚染農場とされており、ワクチン接種の義務化を柱とする一連の国家撲滅プログラムが2017年から開始されている。具体的には口蹄疫同様、ワクチン接種が年2回実施されている。なお、感受性動物に対するアクティブサーベイランスが実施されている(2020年実績:約10万検体を検査し、陽性は3649検体)。
③:〇 牛海綿状脳症
 農場での死亡牛、と畜場や食肉処理施設において採材された脳材料を用いてモニタリング検査(免疫酵素抗体法:ELISA)が実施(2020年実績:農場263検体、と畜場・食肉処理施設440検体)されているが感染例が確認されたことはなく、OIEの国際的認証ステータスは日本と同じく最も清浄性の高い「無視できるリスク」の状況である。
④:● 狂犬病
 各地で散発している(2020年実績:パッシブサーベイランスとして393検体を検査。畜種別確認事例は、牛47、馬4、羊1、コウモリ3、犬2件)。牛に対するワクチンはブラジル、アルゼンチン、ウルグアイなどから輸入され、SENACSAにて検定が実施されている。
⑤:〇 豚熱
 かつてはワクチンが国内で製造され防疫措置として接種もされていたが、より清浄性を高めるために2010年にワクチンを用いない防疫体制に移行した。その後、2015年から全国モニタリング調査が行われた結果、2017年にOIEから豚熱清浄国の認定を受けている。
⑥:● 牛結核病
 牛結核病の診断薬であるツベルクリンの製造がSENACSAで行われており、無作為に抽出された農場に対するアクティブサーベイランスが実施されている(2020年検査実績:9185検体の検査のうち、陽性30検体)。なお、共進会、展示会などに出展する際には、ツベルクリン検査陰性の証明が必要とされている。
⑦:〇 鳥インフルエンザ
 防疫措置としてワクチン接種はしていない。モニタリング調査が実施されているが、今のところ発生事例は認められてない。
⑧:〇 ニューカッスル病
 大規模農家ではワクチン接種(2020年:574戸、約4000万羽)による防疫措置が講じられているほか、定期的に養鶏場の検査が実施され、赤血球凝集抑制反応(HI)、ELISAなどによるモニタリング検査の結果、自国での清浄性を宣言している。
⑨:● 馬伝染性貧血
 アクティブサーベイランスが実施されているが発生事例も多い(2020年実績:2万1724検体のうち陽性2049検体)。馬伝染性貧血の診断薬であるゲル内沈降反応用抗原をSENACSAで製造しており、同反応試験結果陰性にて、馬の農場間の移動や展示会への出展などが可能となる。

〈監視プログラム対象以外の疾病〉
 DIGELAB内の動物用医薬品等検査・検定局で各種細菌、ウイルス、寄生虫疾病などの基本的な診断をしているが、監視プログラム疾病と比較しその診断能力には脆弱性が認められる(図14)。
 
 

(3) 個体識別制度(SIGOR、SITRAP)の概要

 牛の個体識別制度には、SIGORと称される農場単位、牛群単位で識別するものと、輸出向け牛の識別、原産地証明を保証するシステムとしてSITRAPと称される個体単位のものがある。前者は全土の牛飼養農家を対象とした国の義務的登録制度として国内の家畜移動証明(COTA)の根拠になるものであるが、後者は、トレサビリティを必要とする市場への輸出用食肉の認証を強化し、口蹄疫などの重篤疾病発生時や残留有害物質検出事案への対応を可能とするためSENACSAと生産者団体(パラグアイ農村協会(ARP)など)の官民協力により導入された。
 SITRAPは、2004年5月5日付け政令により創設、翌年8月から運用が開始された。同システムには、2020年で481の生産者、346農場が参加し、全飼養頭数の約1割に相当する148万1000頭の牛が登録されており、政府としては、耳標を電子チップが埋め込まれたボタン式にするなど同システムの拡充をさらに進めようとしている(写真3)。
 
 

(4)  輸出用牛肉の検査

〈輸出用牛肉の検査手順〉
①書類審査
 牛の荷降ろし前に移動証明書(COTA)、家畜輸送車の清掃・消毒証明書(CLD)、輸出向け食肉用牛検査証明書(COIBFE)、所有者の宣誓供述書などの書類審査を行う。
②ロット割り当て
 ロットは、同一農場から出荷され同日中にと畜され、農場からと畜施設に直接搬入されていることを要件に割り当てされる。なお、同日中のと畜ができなかった場合は別ロット番号を割り当てる。
③と畜前検査
 食肉処理施設内の家畜施設にロットごとに収容後、24時間以内にIVOのと畜前検査を受けるまでの間、動物福祉の観点から給水および休息が与えられ12時間以上の収容となる場合は給餌しなければならない。
④と畜後検査
・枝肉の目視検査および舌、肺、肝臓、脾臓ひぞうなどの触診および四肢蹄部の綿密な検査の実施。
・特定の臓器およびリンパ節の切開検査。必要に応じ各種検査(微生物や残留物質など)の採材。
・と畜後検査が終了まで、枝肉の処理、加工、搬出禁止。なお、輸出先の要請に基づき、と畜に際し、宗教上の特別な要件(ハラール、コシェル)が課される場合は、処理工程はもとより保管などについ ても別施設が整備されている。
⑤冷蔵施設での保管および熟成
 輸出用枝肉は、最低でも24時間、摂氏2度で熟成され、すべての枝肉を検査しpH6以下であることを確認する。
⑥表示、出荷確認など
 輸出業者はSENACSAの登録が必要であり、輸出ロットごとに製品、副産物、派生物の種類に応じた標識がなされ、SENACSA職員による最終検査の結果、問題がなければ検疫証明書が発行される。
 パラグアイでは12の食肉処理施設が、輸出用施設として認定を受けている(図15)。
 
 

(5) メルコスールにおける家畜衛生の連携した取り組み

 南米南部常設獣医委員会(CVP)は、2003年5月の加盟国農業大臣による農業評議会(CAS)で設立され、メルコスール(アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイ)本部内に事務局を常設し各国からの拠出金により運営されている。各国獣医衛生当局の最高責任者により構成されており、設置目的は、域内の家畜・畜産物の生産および貿易に影響を与える衛生上のリスクを管理し、円滑な貿易(アクセス)を可能とすることである。各国持ち回りで毎年会議が開催されるが、CVPの下には各国動物衛生局長、メルコスール農村協会連盟(FARM)および汎米口蹄疫センター(PANAFTOSA)の代表による家畜衛生部会(CSA)のほか、口蹄疫、インフルエンザ、牛海綿状脳症、食品および飼料安全などの特定の目的を持つグループが設置され、各グループで連携した活動が実施されている。CVPは、PANAFTOSAにより5年ごとに策定される「半球(主に南米)口蹄疫撲滅計画(PHEFA)」にも積極的に関与しており、特に、域内の牛肉輸出における重要課題である口蹄疫ワクチン非接種清浄化への各国の進捗しんちょく状況などの確認の場ともなっている。

コラム2  パラグアイに対する経済協力

 パラグアイのこれまでの発展を考えるとき、同国に対する援助国や国際機関による援助を無視することはできない。中でもわが国は、同国産業構造を踏まえた農牧業をはじめとした産業振興、通信・道路などのインフラ整備や保健医療、貧困対策など、また2016年に移住80周年を迎えた日系人社会への支援も相まって同国への最大の援助国と言える(コラム2−表1)。
 
 
 累計ODA実績は約2800億円(2017年度までの累計、外務省ODA国別データ集2018)に及び、一人当たりGNI(国民総所得)も5680米ドル(62万4800円、2018年、世界銀行)と成長した。しかし、今もなお存在する経済格差、貧困対策などの脆弱な分野を抽出し、持続的経済開発、社会開発を援助重点分野として技術協力、無償資金協力、有償資金協力の3スキームによる支援を継続している。JICAパラグアイ事務所では、農牧畜分野をパラグアイにおける最重要支援分野の一つと位置付け、「輸出振興のための持続可能な農牧業開発‐商業化および輸出」を基本方針に、農牧畜分野での専門家派遣をはじめとする協力に取り組んでいる(コラム2−表2)。
 なお、現在は、新型コロナウイルスの感染拡大により、一部協力は遠隔実施や延長を余儀なくされているものの、2018年には40周年を迎えた(青年)海外協力隊派遣事業、2019年には日本パラグアイ外交関係100周年および技術協力協定締結40周年を迎え、「ハードからソフト」へ、「援助から協働」へと新たな経済協力の在り方が問われていると思われる。
 

5 今後の課題、展望

 現政権では、産業の多角化に合わせ、基幹産業である農牧業の推進(輸出促進、小農支援など)を継続しており、SENACSAが引き続き国際的かつ国民の社会的な要請に応える存在として重要であることは論をまたない。
 SENACSAでは、自助努力はもとよりメルコスールをはじめ多くの援助国、国際機関の協力も得て近代的な検査棟の建設、最新かつ高度な検査機材などのハード面での整備を進め、また国際基準に合致した検査診断手法も導入しているが、なお組織間の連携、地方の業務体制の強化、検査診断分野での脆弱性克服のための中長期的な人材確保、育成などのソフト面での体制強化も求められている。さらに従前からの牛の口蹄疫一辺倒の家畜衛生管理から中小家畜、口蹄疫以外の疾病への対応、小規模畜産農家への飼養衛生管理の充実、AMR対策における動物用薬の適正使用、啓発など解決すべき課題は山積している。
 これら課題を解決すべく、パラグアイ政府からの要請に基づき「家畜衛生対策強化アドバイザー」としてJICA専門家の活動をSENACSAにおいて実施してきており、今後も感染症防除のための動物衛生、公衆衛生および環境保全分野が一体となった「Una Salud(One health)」の国際的な取り組みを原動力に、パラグアイの家畜衛生管理に対する包摂的な技術支援が、国際競争力の高い、高品質かつ安全な家畜・畜産物の安定的な生産、ひいては同国のさらなる発展の一助となるのであれば、望外の喜びと考えている。

6 まとめ

SENACSAでは今後の組織目標として、
①OIEによる疾病清浄ステータスの維持・向上
②PHEFAに基づく、口蹄疫ワクチン非接種清浄国達成に向けた戦略の進展
③ブルセラ病清浄化プログラムの深化、牛結核病の清浄化プログラムの強化
④「AMR(薬剤耐性)対策の国家統合モニタリングシステム」の効果的実施
⑤「畜産物における動物用薬剤、環境汚染物質、農薬の残留物質検査プログラム」の強化
⑥ 官民連携構造の機能および資金調達を持続可能とする適合化
を挙げている。
 肉用牛生産において、世界有数の規模を誇り国際市場においても一定の地位を占めるようになったパラグアイは、口蹄疫などの重要疾病の清浄性維持などの従来の取り組みを推進するとともに、新たな挑戦として、家畜・畜産物の衛生管理やその安全性に高い水準を求める日本をはじめ米国などとの輸出先開拓への検疫協議も継続しており、同国農牧業のさらなる発展のためには、国際的な取り組みや多様化に応える柔軟かつ強固な家畜衛生管理体制のなお一層の進展が求められている。