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海外情報 畜産の情報 2021年9月号

豪州の牛肉需給展望〜持続可能な牛肉生産を踏まえて〜

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 豪州では2018〜19年にかけて発生した干ばつによる影響で、2020年6月の牛飼養頭数は過去25年間で最低となったものの、その後の適度な降雨により、飼料穀物や牧草の生育が順調となったことで、と畜頭数が大幅に減少し、牛群の再構築が進展している。牛の需給がひっ迫し、価格も高騰を続けていることから、枝肉重量が増加基調にある中、牛肉生産量および輸出量は低水準で推移している。今後は牛の飼養頭数の増加が見込まれており、2023年には牛群再構築が完了するとされている。
 また、牛の増頭を図る中での持続可能な牛肉生産への取り組みとして、温室効果ガス排出削減やアニマルウェルフェアなどのさまざまな取り組みが、業界関係者間で連携して行われている。

1 はじめに

 世界的に牛肉需給がひっ迫している中、牛肉の主要輸出国である豪州では、先の干ばつで減少した牛肉供給について、現在牛群再構築によりその回復を図っている。他方で、肉牛や環境に配慮した牛肉生産が促進されており、生産から加工・流通までの各ステークホルダーが一体となって持続可能性を追求し、さまざまな取り組みと情報発信が行われている。
 本稿では、豪州の牛肉生産と現状の見通しについて、豪州農業資源経済科学局(ABARES)が6月に公表した見通しを基に、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)などへの取材を含めて報告するとともに、持続可能な豪州牛肉生産の取組状況を取りまとめた。
 なお、本稿中特に断りのない限り、豪州の年度は7月〜翌6月であり、為替レートは、1豪ドル=83円(2021年7月末日TTS相場:82.86円)を使用した。

2 豪州の牛肉生産の現状と見通し

(1) 産出額

 ABARESが6月に公表した見通しによると、豪州の2020/21年度の農業産出額は、過去最高の663億豪ドル(5兆5029億円)と予測され、このうち畜産部門では前年度比6.3%減の308億豪ドル(2兆5564億円)とされている(図1)。畜産部門の減少は牛肉価格が高い水準で推移しているものの、羊肉と羊毛の生産額が2019/20年度の水準からそれぞれ18%減、19%減と大幅に減少することが要因であるとされている。
 
 

(2) と畜頭数と牛群の規模

 2020/21年度に入ってからの良好な天候を受け、肉牛主産地の一つであるクイーンズランド州ダーリング・ダウンズ地域の飼料穀物取引価格は2020年後半から低い水準で推移しており、肉牛生産者の増頭意欲を促している状況にある(図2)。
 

 また、豪州統計局(ABS)によると、2021年1〜3月の成牛と畜頭数に占める雌牛の割合は45.5%と前年同期の55.0%から9.5ポイント低下しており、牛群の再構築が進展していることが分かる(図3)。
 

 ABARESによると、2020/21年度の牛と畜頭数は過去36年間で最も低い640万頭と見込まれている(図4)。また、MLAによると、過去に平均的な降雨量を記録した年の牛と畜頭数は700〜790万頭の水準にあるが、牛と畜頭数が700万頭を超えるのは2023年になると予測されており、この時点で、牛群再構築が完了すると考えられている。なお、豪州食肉加工協会(AMPC)によると、年間のと畜頭数が760万頭を下回ると、加工業者の利益率はマイナスになるとされている。
 MLAは今後の牛群の規模の見通しとして、2021年に前年比5.3%増の2592万頭となり、2023年には2796万頭になると予測している(図5)。
 





 分娩率も牛群再構築のペースを左右する重要な要素であるが、過去の干ばつ発生時には子牛生産が抑制され、気象条件が回復し、牧草の生育や飼料生産の状況が好転すると、分娩率が高くなる傾向となっている(図6)。
 

 

(3)  枝肉重量

 2020年の成牛の枝肉重量は、降雨に恵まれ、飼料(牧草および穀物)が入手しやすい状況であることを背景に増加している(図7)。肉牛の取引相場が上昇している中、生産者の間では出荷頭数を増やすより、1頭当たりの出荷時体重を1キログラムでも増やして高く販売しようとする傾向が見られる。このような枝肉重量の増加は、と畜頭数の大幅な減少を一部相殺しているが、過去20年間、肉牛の体重は年平均1.8キログラムずつ着実に増加してきたものの、最近のように雨の多い時期には増加し、干ばつの時期には減少するなど、気象状況を反映した出荷体重の変動が見られる。
 また、牛群を再構築するために生産者がより多くの雌牛を保留するようになっており、と畜頭数に占める雄牛の割合が増加していることも、全体の枝肉平均重量が増加している一因となっている。
 2021年の枝肉重量についてMLAは、前年比2%(6.5キログラム)増の1頭当たり301.3キログラムになり、2023年には同297キログラムとわずかな減少を見込んでいる。豪州気象庁(BOM)の予測でも、今後平年以上の降雨が続くと見込まれることから、当面の間、枝肉重量も大きな変動はないとしている。
 
 

(4)  肉牛の価格

 肉牛取引価格の指標の一つである東部地区若齢牛指標(EYCI)価格の推移を見ると、2021/22年度は需給がひっ迫していることから干ばつ後のピーク状態にあり、記録的な水準を維持している(図8)。
 現地報道によると、肉牛価格の高騰を受け生産者は肉牛を売却して収入を得るか、肉牛を保留して牛群の再構築を行うかを迷っているとされている。一方でMLAによると、牛群再構築の進捗は、干ばつにより発生した生産者の負債の程度に左右されるが、2020年は飼料生産にとって良好な天候が続いたため、潤沢な飼料による肥育が順調であったことから、肉牛生産者の収入が増加して負債額が大幅に減少している状況にあるとされている。このため、肉牛を売却するよりも保留する意欲が高まっていることから、牛群再構築は予想よりも早く進んでいるとされている(図9)。
 



 

(5)  輸出動向

 ABARESによると、牛群再構築の進展による牛肉生産量の減少により、2020/21年度の牛肉輸出額は81億豪ドル(6723億円)と前年度から落ち込むが、2021/22年度は生産量の増加予測に伴う輸出量の増加から92億豪ドル(7636億円)まで回復すると見込まれている(図10)。肉牛の飼養頭数は増加傾向にあるとしつつも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの経済回復に伴う世界的な牛肉需要の高まりや英国とのFTA合意、中東などの非関税障壁の緩和などから、国際的な牛肉需要の見通しは良好とされている。
 なお、2020年5月以降、中国は豪州の一部の食肉処理施設に対して輸入停止措置を講じているが、この措置は2021年7月現在でも依然として解除されておらず、目途も立っていないが、豪州政府は同月、タイ、ベトナム、サウジアラビアの新興市場における輸出拡大を図るための専門家の配置などについて、MLAに対し152万豪ドル(1億2616万円)の助成金を支出し、輸出市場の多様化を図っている。
 

 

(6)  小売価格

 豪州国内の量販店の牛肉小売価格は、ここ数カ月で急騰している。豪州牛肉産業の情報発信サイトであるビーフセントラルによると、と畜頭数の減少により、小売大手のコールスとウールワースの両社は2021年6月現在、仕様に合った肉牛の仕入れを確保するために枝肉1キログラム当たり800豪セント(664円)以上を支払っており、これは昨年の同時期よりも同約1豪ドル(83円)高くなっているとされている。また、オランダの農協系金融機関ラボバンクの試算によると、2021年第1四半期の牛肉の平均小売価格は1キログラム当たり23.87豪ドル(1981円)であったが、これは、前年同期比で8.4%高、2019年同期比で17.9%高になったとされている。牛肉生産量が増加するまで、小売価格の高値も維持されるとみられる。

コラム1 牛内臓肉の取引状況

 と畜頭数減少の影響により、牛の内臓肉の流通にも影響が生じている。MLAによると、牛の内臓肉価格は軒並み上昇しており、日本向けに多く輸出されている部位の中で、タン(舌)の2021年5月のFOB(本船渡し)価格は1キログラム当たり17.23豪ドル(1430円)となり、前月から2.65豪ドル(220円)、前年同月から8.60豪ドル(714円)上昇している。また、ルーメンピラー(第一胃柱)は同13.30豪ドル(1104円)と、前月から2.10豪ドル(174円)、前年同月から53豪セント(44円)上昇している(コラム1−表)。これらのうち、タンについては、近年の価格推移を見ても、これまで同10豪ドル(830円)前後であったものが、ここ数カ月で特に急騰している(コラム1−図)。
 


 
 豪州国内の量販店では、牛内臓肉の商品を見かけることは少ないが、アジア系の食材店や精肉店では、焼肉などで消費するアジア系顧客向けにそろえている店舗もある(コラム1−写真1)。
 2021年6月、シドニー市内で日本食専門の輸入販売業などを営んでいる会社(Sushi Factory Pty Ltd)を訪問して話を伺った。同社の長島社長によると、経営する日本食レストランで仕入れている焼肉用のタンの仕入値が、昨年は1キログラム当たり10〜13豪ドル(830〜1079円)だったものが、現在は同25豪ドル(2075円)と約2.5倍に上昇したとされる。また、仕入先からは500キログラム以上のまとまった注文以外は取引に応じないとされるなど、供給状況はひっ迫しているとの話があった。その他の食肉関連企業や精肉卸売会社からも同様に、ここ数カ月でタンの価格が急騰しているとの話を聞く。
 焼肉を提供するレストランなどでは、タンは定番商品であるため、早期の供給増が望まれている。
 



3 持続可能な豪州牛肉生産の取り組み

 豪州政府は、パリ協定(注1)に加盟しているほか、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(注2)にも署名しており、豪州食肉業界も、国連の持続可能な開発目標であるSDGsなどに対する政府の貢献を支持している。
 

(注1)2015年に仏パリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」で採択された、気候変動に関する国際条約。今世紀後半に、世界全体の人為的な温室効果ガス(GHG)排出量について、人為的な吸収量の範囲に収めるという目標を掲げている。

(注2)2015年に米国ニューヨークで開かれた「国連持続開発サミット」で、193の加盟国により合意された。2030年以降の持続可能な開発に向けたロードマップである「17の持続可能な開発目標(SDGs)」と、持続可能な開発目標に必要な資金を調達するための世界的な計画である「開発のための資金調達に関するアディスアベバ行動アジェンダ」で構成されている。

 

 また、主要食肉生産国の関係者で構成する「持続可能な牛肉のための国際円卓会議(GRSB:The Global Roundtable for Sustainable Beef)」(注3)は2021年6月29日、以下の三つの項目の持続可能な牛肉生産に関する目標を発表している。
・牛肉生産による地球温暖化の影響を2030年までに30%削減する
・牛肉のバリューチェーンが自然環境にプラスの影響を与えるようにする
・アニマルウェルフェアの向上により、牛の能力を高めるベストプラクティスの導入を促進する
 このGRSBには、MLAのほか、NZの食肉生産者団体であるビーフ・アンド・ラム・ニュージーランド(BLNZ)なども参画している。
 

(注3)2012年に肉用牛・牛肉産業の持続可能性関連の研究活動への投資などを行う国際組織として創設され、豪州、米国、カナダ、南米、欧州、ニュージーランド(NZ)などの生産者、加工・流通業者、小売企業、業界関連団体、国や地域の円卓会議などにより構成されている。
 

 豪州では牛群再構築により牛の増頭を図っている中で、持続可能な牛肉生産のため、MLAをはじめ、業界の関係者がそれぞれの立場で取り組みを行っており、以下にその内容を紹介する。

(1) 全豪農業者連盟
(NFF:The National Farmers’ Federation)

 NFFが2018年に発表した「産業成長のための2030年ロードマップ」は、持続可能性に重点を置き、生産性と収益性を向上させる国家的なアプローチの一環として、農家が持続可能な農法を採用し続けることを目指しており、環境への配慮を評価し、それに見合った報酬を得ることができるとしている。また、NFFは、豪州農業界が2050年までにカーボンニュートラル(GHGの排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする)にするという目標を掲げている。

(2) レッドミート諮問委員会
 (RMAC:Red Meat Advisory Council)

 豪州の牛、豚、羊肉生産を行う赤身肉業界を代表し、政策提言や諮問を行うRMACは、2030年までに赤身肉の販売額を2倍にし、最高品質のタンパク質を提供する信頼される産業になるための戦略的計画として、2019年に「レッドミート2030」を発表した。業界全体の利益と進歩のための活動の指針となる六つの業界優先事項と実現に向けた指標を定めている(表1)。
 


 

(3) MLAなどの肉牛関連団体

 「レッドミート2030」の公表に合わせて、MLAは「戦略プラン2025」を公表しており、これにより、持続可能な食肉・家畜産業を実現するための生産者などへの支援を継続する旨を表明している。この六つの優先事項における具体的な取り組みについて、以下に紹介する。
 

ア 人材育成
 MLAでは、生産者が効率的な生産方法への変更や研究成果の採用に円滑に組み込めるよう、収益性の高い放牧システムや経営改善、遺伝的繁殖能力向上などに関するワークショップなどでの普及活動への支援を行っている。
 またMLAでは、比較的生産性が劣る豪州北部地域の牛群への支援として、ノーザンブリーディングビジネス(Northern Breeding Business:NB2)を公表しており、これにより、2027年までに北部の肉牛生産農家約250戸に対し、少なくとも年間2000万豪ドル(約17億円)の純利益をもたらすことを目指している。この計画では、繁殖率の向上、死亡率の低減、出荷時体重の増加、遺伝的能力の向上などに取り組むとしている。
 

イ 消費者や地域社会への対応
 MLAは豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)との共同研究により、消費者に対して健康的でバランスの取れた食事における牛肉の摂取のためのガイドラインを提供しているほか、需要拡大に向けた市場調査などを行っている。
 また、RMACが中心となり業界関係機関とともに2017年に発足した「牛肉持続性に関する枠組み(ABSF)」(注4)では、消費者などの期待の変化に対応するため持続可能な牛肉生産を定義し、動物福祉、経済的強靭(きょうじん)性、環境への責務、人と地域社会の四つの指標を設定している。豪州小売大手のウールワースでも、自社のサステナビリティ活動にこのABSFを活用している。
 

(注4)『畜産の情報』2020年2月号「豪州肉用牛産業における環境対策について〜持続可能性の確保に向けて〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000969.html)を参照されたい。
 

 豪州フィードロット協会(ALFA)では、MLAと連携し、フィードロットなどにおける抗菌剤の適正使用のための枠組みとして、「抗菌薬スチュワードシップガイドライン(Antimicrobial Stewardship Guidelines)」を策定している。このガイドラインは、穀物肥育牛肉産業の品質保証スキームである全国肥育場認定制度(NFAS)に組み込まれており、薬剤耐性対策のための適切な保管やラベリング手法、投与方法などが規定されている。
 

ウ 家畜の管理
 生産現場における持続可能性と収益性を確保するためには、牧草地の利用や疾病対策、飼育管理における最善の方法を実践することが重要である。
 2016年に各州政府間で承認された豪州の牛肉業界におけるアニマルウェルフェアとガイドラインは、州ごとに法律に基づく規制状況が異なるものの、主に以下の項目について定められている。
 − 飼料と水の給与
 − 異常気象時のリスク管理
 − 疾病、けがなどの適切な処置
 − 施設や家畜の適切な管理
 − 繁殖管理
 − 適切なと畜処理
 

 また、2009年に設立され、MLAやAMPCをはじめとする畜産関係団体、連邦・各州政府、大学などの研究機関が参画している全国動物福祉研究開発拡張戦略(National Animal Welfare Research Development and Extension Strategy)では、アニマルウェルフェアの研究開発について、産学官連携の下で取り組まれている。

 MLAでは、アニマルウェルフェア分野において、家畜の適切な飼育・繁殖方法による疾病、けが、事故率などの低減のための生産者などへの支援を行っており、現在以下のプロジェクトが進行している。
 − 除角のための遺伝学的研究の実施
 − 痛みを伴う家畜の処置への鎮痛剤の投与
 − ダニによる各種疾病、伝染性角結膜炎(ピンクアイ)、ヨーネ病のための単回投与ワクチンや局所投与ワクチンの開発
 − 家畜の健康状態を測定・記録する新しい方法の開発とベンチマークの実施
 

エ 環境対策
(ア) CN30への取り組み
 豪州の食肉業界は、2030年までにカーボンニュートラルにするという目標「CN30」を掲げている。CSIROの試算によると、CN30は現在の家畜数で達成可能であり、2030年までに赤身肉の販売額を2倍にするという業界の目標にも影響しないとしていしないとしている。豪州政府が四半期ごとに大気中へのGHG放出量が測定し、公表している「全国温室効果ガスインベントリー(NGHGI)」により、CN30の進捗状況を確認するとしている(図11)。
 


 

 牛肉生産の過程で排出される主なGHGは、腸内メタン(CH4)、土壌や植生からの二酸化炭素(CO2)、一酸化二窒素(N2O)だが、生産性の向上や植生管理方法の変更などにより、2018年では基準年の2005年から53.2%と大幅に削減されており、豪州のGHG排出量に占める食肉業界の割合においても、2005年の22%から2018年は11.8%まで10.2ポイント低下している(表2)。
 


 

 メタンは家畜由来の主要なGHGであり、地球温暖化の一因となる可能性が指摘されている一方で、すべてのGHGの中で大気中における寿命が約12年と最も短いという特徴もある。GHG排出量の国際的な指標として地球温暖化係数があるが、MLAでは現在、GHGの大気中での寿命も考慮した100年間の地球温暖化係数(GWP100)の活用についても検討している。
 また豪州食肉業界では昨年、CN30達成のためのロードマップ(表3)を発表しており、企業レベルのGHG排出量を計算するツールも提供している。
 


 

(イ) 飼料添加物の開発
a アスパラゴプシス
 海藻の一種で、反すう動物のメタン排出量を80%以上削減する飼料添加物として、MLA、CSIRO、豪ジェームズクック大学が共同で商品化に向けた研究開発を行っている。またCSIROは、小売大手のウールワースなどから出資を受け、FutureFeed Pty Ltdを設立し、アスパラゴプシスの飼料添加物としての普及を促進しており、2023年までに豪州国内外に供給が開始される予定とされている。

b 3-NOP
 3-NOP(3-ニトロオキシプロパノール)は、反すう動物のメタン生成の最後の過程の反応を触媒するメチルコエンザイムM還元酵素(MCR)を阻害する有機化合物。飼料添加物として、MLAや豪ニューイングランド大学、DSM社や蘭ワーゲニンゲン大学などが共同で商品化に向けた研究開発を行っている。DSM社によると、3-NOPを用いた飼料添加物を牛1頭当たり1日に小さじ4分の1杯混ぜると、約30%のメタン排出量が削減されるとしているほか、豪ニューイングランド大学が昨年アンガス牛を用いて行った給与試験では、一日平均増体量および飼料要求率を低下させることなく、メタン排出量を最大90%削減することができたとしている。
 


 

オ 市場アクセスの改善
 MLAは豪州政府と連携しながら、輸出拡大に向けた市場アクセスの改善に関し、以下の取り組みを支援している。
 − 国際市場における豪州産牛肉のプレゼンスの維持
 − 経済的、技術的な市場アクセス改善の取り組み
 − 豪州肉用牛生産における疾病フリー状態を支えるシステム
 

カ 一貫性のある供給システムの管理
 豪州の赤身肉供給システムは、MLAの子会社であるISC社(Integrity Systems Company)により管理されており、以下により、アニマルウェルフェア、バイオセキュリティ、トレーサビリティなどに取り組んでいる。
 

(ア) 家畜生産保証プログラム
 (LPA:Livestock Production Assurance)
 アニマルウェルフェアやバイオセキュリティなどをカバーする、独立した監査機関による農場保証プログラム。生産者による家畜の取り扱いに関する責任の所在が記録される。
 

(イ) 全国家畜識別制度
 (NLIS:National Livestock Identification System)
 豪州の牛、羊、山羊のトレーサビリティシステム。過去の家畜個体ごとの移動履歴や農場での飼養管理状況を証明するもので、以下の三つにより担保されている。
 a.耳標の利用
 b.家畜の移動を識別するための各農場への8桁のコード(PIC:Property Identification Code)の割当て
 c.オンラインデータベースの運営
 

(ウ) 豪州家畜販売者業者宣言
 (NVDs:National Vendor Declarations)
 家畜の飼養管理状況や治療履歴などを証明する法的文書。ホルモン成長促進剤(HGP)の利用状況なども記録されており、サプライチェーンの各段階で家畜(肉)とともに移動する。

 また、ALFAが主導し、非営利団体であるAUS-MEATが運営する肥育部門の自主的な品質保証制度である全国肥育牛認定制度(NFAS)もある。これは穀物肥育牛肉市場では必須条件となっており、牛の管理状況が記録され、アニマルウェルフェア基準およびガイドラインの要求事項に準拠していることを保証している。また、本制度については、独立した第三者機関による監査を受けることになっている。
 このほか、これらのシステムを補完するものとして、以下の取り組みも行われている。
 

(エ) 全国家畜市場品質保証プログラム
 (NSQA:National Saleyard Quality Assurance Program)
 1996年に開発された各家畜市場における品質保証システムであり、AUS-MEATによって監査が行われている。
 

(オ) 豪州畜産加工業動物福祉認定制度
 (AAWCS:Australian Livestock Processing Industry Animal Welfare Accreditation System)
 2013年に設立された豪州の畜産加工業における自主的な制度で、食肉処理施設での家畜の搬入から適切な処理を行うまで、業界のベスト・プラクティスである動物福祉基準を順守していることを証明するプログラムであり、AUS-MEATによって監査が行われている。
 この他、生体牛輸出の際の家畜管理におけるアニマルウェルフェアを保証するプログラムもある。

(4) 民間企業

ア 豪JBS
 豪食肉加工業最大手のJBSは2021年6月、消費者の持続可能性に対する関心の高まりに対応し、持続可能な牧草肥育牛肉などの生産に関する「グレートサザン農場認証プログラム」を発表した。土壌、牧草地、植生、水、家畜、人、GHG管理の七つの柱で構成されており、独立した第三者の監査をクリアした製品には、認証ロゴ(図12)を付して販売される。
 


 

イ Flinders + Co.
 2010年に創業した同社では、2018年12月より、肉の生産における炭素排出を完全にオフセットにした、カーボンニュートラル100%をうたう商品を提供している。


コラム2 多民族国家における食の多様化

 シドニー中心部と北部に6店舗を展開する大手日本食チェーン(Masuya Group)を訪問して取材したところ、干ばつに起因する肉牛不足の影響により、豪州産牛肉の仕入れ値が昨年に比べて約5〜10%上昇しているとの話があった。同社の定松代表によると、その他の食材購入費や人件費上昇もあり、今年は商品価格を値上げして対応しているとのことであった。豪州産牛肉の高値は、年内は継続するだろうとの話を取引先の卸売業者から言われているようだ。
 また、定松氏の30年間の豪州でのビジネスを通じて、多様化する豪州の食のニーズの状況などについて、話を伺った。
 

 シドニーのオフィス街に位置する同社の旗艦店(Masuya Japanese Restaurant)では、日本産和牛や豪州産Wagyuの取り扱いがあり、すき焼き、鍋物、ステーキなどのメニューが地元オージー(豪州人の愛称)から好評を得ている。平均客単価100豪ドル(8300円、ドリンクを含まず)、うち牛肉を使う料理の売り上げ比率は、フード売り上げの10%弱程度を占める。和牛人気は2018年の豪州への和牛輸入解禁時から徐々に高まっており、このレストランでは、牛肉メニューが約15%以上売り上げを伸ばしているという。
 顧客層の構成は、大きく分類すると欧米系5割、アジア系(中華系など日本人以外)4.5割、日本人0.5割となっており、最近では特に中華系富裕層の客単価が顕著に高く、約180豪ドル(約1万5000円)以上となっている。この客層は、特に、日本産和牛のメニューに対して常に高い関心を寄せている。
 定松氏によると、それには、豪州という多民族国家が持つ食の多様性が影響しているとされる。欧米系には、ステーキやバーベキューで赤身肉の風味が味わえる食べ方が好まれる一方、アジア系には、薄切りにした霜降りの脂の旨味を味わうとともに、焼く、揚げる、煮るなどさまざまな調理方法でご飯のおかずとして食べることが好まれる。
 定松氏は、「各国のさまざまな食材が簡単に入手できるようになり、豪州人が海外旅行に行くことでリアルな現地の食や文化を体験し、自宅でもその国の食を再現してみたいという心理が食の多様化を発展させた一因だ。また、食の安全性、気候変動問題、動物福祉などの観点が世界的にも年々フォーカスされており、関心がある顧客が存在することも、われわれ外食チェーンは注視している。牛肉に関してはすき焼用としての仕入元であるDavid Blackmore(注)の牧場を5月に訪れ、生産者との意見交換を通じ、牛の飼養管理方法などを確認するなど、生産者との顔の見える関係を構築している。実際に農家に足を運び、納得できる品質の商品をお客さまへ提供することが、信頼感を得ることにつながると考えている」と語った。

(注) 1992年以降、和牛遺伝子を入手してWagyu生産を開始した豪州最大のWagyu生産農場。
 

 別に取材を行った店頭販売ならびにeコマースを運営する精肉卸売会社では、豪州牛肉の高値は、今後2年程度は継続するのではないかとの見方であった。また、「近年、以前はほとんど販売されなかったようなタンや内臓の需要が増えている。これらは韓国や日本の焼肉文化の広がりをはじめ、アジア料理の需要が高まってきたことが要因ではないか」との話があった。
 さまざまな文化が入り混じる豪州において、国民の嗜好と牛肉の消費方法は千差万別であり、刻々と変化するという特徴を有しているようだ。

4 おわりに

 MLAでは、気象状況、生産者の増頭意欲、価格動向、と畜頭数や枝肉重量、国内外の需要などを考慮し、牛肉需給予測を行っているが、今回の調査を通じ、豪州の牛群再構築が確実に進展している実態と、今後の良好な見通しについて確認することができた。
 また、地球温暖化対策として世界的にGHG排出削減に関する目標設定や取り組みが行われている中、家畜由来のメタンがしばしば取り沙汰されている。豪州肉用牛業界では、この課題に対処するため飼料添加物をはじめとする取り組みに注力しているほか、アニマルウェルフェアによる家畜の管理、トレーサビリティの運営など、消費者に信頼され続けるための取り組みを、関係機関がうまく連携しながら行っている状況も確認できた。
 2021年末以降、徐々に豪州産牛肉生産量が増加していくとの業界関係者の声もある。中国との関係における牛肉輸出状況も注視すべき点であるが、2022年後半の発効が期待されている英豪FTAをはじめ、今後の世界の輸出市場で、豪州産牛肉は持続可能な牛肉として存在感を増してくる可能性があると考えられる。
 
(赤松 大暢 (JETROシドニー))



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