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海外情報 畜産の情報 2021年11月号

米国における高級牛肉の生産動向と販売戦略

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 米国においても高級な高品質牛肉の需要の高まりを受けて、牛肉格付制度は見直され、消費者が望む価格に見合う品質の牛肉が提供されるようになった。また、米国アンガス協会をはじめとする肉用牛業界は高級牛肉の生産にも取り組んでいる。その中でも米国で最も名を知られ、根強い人気を誇る認定アンガスビーフは、ブランド牛肉として認定を受けるための厳しい品質の要件を満たす必要がある中、年々その認定率を高め、国内外への販売量を着実に増加させている。消費者の嗜好の多様化が進む中で、米国肉用牛業界は生産技術の向上に取り組むとともに、米国農務省のブランド牛肉プログラムの活用と海外におけるプロモーションにより、さらなる消費拡大に臨む。

1 はじめに

 わが国が進める和牛の輸出促進の取り組みにより、米国向けをはじめとして輸出量は年々増加している。特に米国への輸出量は2016年の245トンから20年には525トンへと倍以上に伸び、和牛は高級牛肉として高い評価を得ているといえる。「霜降り」と呼ばれる筋繊維に網の目のように入り込む脂肪による旨味、きめ細かい肉質による柔らかさ、そして「和牛香(わぎゅうこう)」と呼ばれる甘くコクのある特有の香りを持つ和牛は世界最高級の牛肉と称され、米国においても高級レストランや高級ステーキハウスでの取り扱いが増えている。和牛の米国進出は現地メディアでも取り上げられており、近年では家庭向けにインターネット販売もされるなど消費の裾野が広がっている。
 一方で、米国産高級牛肉の人気も根強い。米国肉用牛業界も遺伝情報を基にした肉用牛生産に取り組み、高品質で高級な牛肉を求める消費者から高い評価を受けている。米国内そして世界での高級牛肉の需要が高まる中で、和牛の輸出促進に取り組むために米国産高級牛肉の現状を知ることはわが国の肉用牛業界にとっても意義を有することから、米国産高級牛肉の生産、販売・輸出戦略、今後の展望について報告する。

2 米国の牛肉格付制度

 日本と同様、米国でも消費者は高品質な牛肉を求めている。米国の牛肉の1人当たり年間消費量は、1985〜93年の間に18.5%下落した。これは、当時、消費者が購入する牛肉の品質に一貫性がなく、牛肉が価格に見合っていないのではないかと疑問を抱くようになったことが原因とされている。これを受けて、米国の牛肉業界は安定的に高い品質の牛肉を提供するための取り組みを行い、米国農務省(USDA)は、既存の牛肉格付制度を刷新した。米国の食肉業界が実施した調査によると、消費者の食肉に対するニーズは、主に「脂肪交雑」と「柔らかさ」にあり、消費者はUSDAの「肉質等級」や「認証プログラム」の登録ブランドにより牛肉を選んでいる。米国の牛肉市場は70%以上をJBS社、タイソン社、カーギル社、ナショナル・ビーフ社という4社の大手パッカーが占め、それぞれが複数のブランド牛肉を持つが、小規模パッカーや生産者グループなども独自の牛肉ブランドを持っている。特に、近年は牛肉製品のブランド化が進み、現在では牛肉の90%以上が何らかのブランドとして販売されているといわれている。生産者やパッカーは高品質な牛肉を求める消費者の声に応え、牛肉の品質改善に取り組んできたのである。
 

(1)格付制度(肉質等級と歩留等級)

 米国の牛肉には、米国農務省食品安全検査局(USDA/FSIS)が実施する安全検査とは別に、任意で受けることが可能な格付評価があり、農業マーケティング局(USDA/AMS)が定める牛肉格付制度に基づいて評価が行われる。この評価には、柔らかさ、風味、ジューシーさを評価する「肉質等級」、食肉として使用可能な赤身の量を評価する「歩留等級」の2種類がある。
 「肉質等級」とは牛肉そのものの味わいを予測するものであり、牛の成熟度と脂肪交雑の入り方によって、八つのグレードに分類される(図1−1、1−2)。等級が高ければ高いほど、牛肉は柔らかく旨味を持ち、消費者に好まれる高品質な牛肉であるとされる。なお、それぞれのグレードはさらに細かい項目に分類され、後述するブランド牛肉プログラムの認定に用いられることになる。特に、この中でも「プライム」に位置付けられた牛肉は高値で取り引きされ、いわゆる高級牛肉として市場に出る。
 一方で、「歩留等級」は、その枝肉からどれだけの小売販売されるレベルの食肉を得られるか予測するものである。これは最終的に小売店で販売可能となる肉の量の割合を推計することによって、五つのグレードに分類される。




 

(2)肉質等級

 上述の通り、USDA肉質等級には八つのグレードがある。USDAの肉質等級を決定する検査官は、「アバンダント(豊か)」から「ディボイド(全くない)」までの10段階の脂肪交雑の度合いとAからEまでの枝肉の成熟度から評価を行うことにより、プライム、チョイス、セレクト、スタンダード、コマーシャル、ユーティリティ、カッター、キャナーの八つのグレードに分類する(図2)。検査官は、まず去勢牛、非去勢牛、未経産牛、経産牛といった牛の性別により、成熟度を大別する。
去勢牛:大多数が成熟度AあるいはBとなり、プライム、チョイス、セレクト、スタンダードの等級に分類される。
非去勢牛:大多数が成熟度AあるいはBとなり、プライム、チョイス、セレクト、スタンダード、ユーティリティの等級に分類される。
未経産牛:大多数が成熟度AあるいはBとなり、プライム、チョイス、セレクト、スタンダードの等級に分類される。
経産牛:通常は成熟度C、DまたはEとなり、コマーシャル、ユーティリティ、カッター、キャナーの等級に分類される。

 そして第二段階として、生理学的観点から、胸椎およびリブアイロール(以下「リブアイ」という)を確認し、軟骨組織の骨化、筋肉部の色と肌理(キメ)を指標として成熟度を決定する。おおむねの目安としては、9〜30カ月齢の牛がA、30〜42カ月齢の牛がB、42〜72カ月齢の牛がC、72〜96カ月齢の牛がD、96カ月齢以上の牛がEの成熟度になる。
・コラーゲンの結合状態:牛は加齢によりコラーゲンが密に結合し、食肉としては非常にかみにくく硬くなる。
軟骨組織の骨化:若い牛に見られる脊椎に沿ったボタン状の軟骨が加齢とともに骨化する。
筋肉部の色と肌理(きめ):若い牛は赤身部分の組織は肌理(きめ)が細かく、明るいピンク寄りの赤色だが、加齢とともに肌理(きめ)が粗くなり色が濃くなる。

 こうして成熟度の決定後、脂肪交雑をその量から評価して肉質等級を決定する。


 

 (3)歩留等級

 歩留等級とは、以下の四つの主要部を検査して、小売販売される規格まで成形が施された食肉(BCTRC:Boneless closely trimmed retail cuts)の歩留まりを予測するものである。BCTRCの割合を計算式に当てはめて計算して得られた結果により、五つの等級に分類される(図3−1、3−2)。
 ・リブアイの脂肪の厚さ
 ・KPH(腎臓・骨盤・心臓の脂肪)の割合
 ・リブアイの赤身部分の割合
 ・HCW(温と体の重量)




 

(4)肉質等級別の牛肉生産量

 USDAの公表データによると、牛肉の肉質等級別の生産量と全等級に占める割合は、プライム級が2015年度(前年10月〜当年9月。以下同じ)の9億3698万ポンド(42万5005トン、全体の5.1%)から、20年度には21億4952万ポンド(97万5007トン、同10.3%)まで2倍程度に増加している(表1、図4)。同じくチョイス級も、15年度の131億5953万ポンド(596万9063トン、同71.9%)から、20年度には155億5956万ポンド(707万4042トン、同74.5%)まで増加している。すなわち、20年度には肉質等級の上位2等級で等級全体の84.9%を占めるまでに至っている。高品質な牛肉に対する消費者の需要の高まりを背景に、その需要に応えるための生産者による生産技術の向上、肉用牛業界全体による肉用牛の遺伝的能力・品質の向上への努力が分かる。




 

(5)ブランド牛肉プログラム

 USDA/AMSはこれらの肉質等級と歩留等級といった等級分けのみならず、USDA発信の認証プログラムとして、「USDAテンダーネスプログラム」「プロセス検証プログラム」などを実施しており、これらのプログラムに認証されるとUSDAのラベルを使用することが可能になる(図5)。また、食肉販売促進の一環として、認定アンガスビーフ(CAB)や認定ヘレフォードビーフ(CHB)などのブランド牛肉のほか、ホルモン剤非投与牛肉や抗生剤非投与牛肉、給餌方法や動物福祉に配慮した牛肉などに対しても認証を実施している。


USDAテンダーネスプログラム
 USDA/AMSが業界と協力して開発したシステムによって、牛肉の柔らかさを評価する。牛肉のカット部位が一定の基準値を満たし、「柔らかい」または「非常に柔らかい」と評価された牛肉は、USDA認証製品として、ラベルを使用して広告、販売することが可能となる。2013年、カーギル社がUSDA/AMSから初のプログラム認証を受けたことでも知られる。
・プロセス検証プログラム
 牛肉の生産・処理加工プロセスの中で、給与飼料や牛の移動記録など、食肉事業者側から示された検証してほしい点をUSDA/AMSが評価する。ただし、検証してほしい点について、検証・監査が可能であることが条件となる。本プログラムは米国外の生産者や事業者も申請することが可能であり、アイルランド政府食糧庁(Bord Bia)が定める牧草給餌牛肉(飼料の80%に牧草を使用し、ホルモン剤の不使用、抗生剤の制限、年間6か月以上の放牧などを認証)が知られる。

 以上のような認証プログラムを活用して成功を収めているブランド牛肉の一つが、いわゆる高級牛肉として売り出されているCABである。CABは1978年に誕生したUSDA/AMS初の認証プログラムを経た牛肉として知られている。

3 アンガス種

 現在、米国で飼養されている肉用牛の品種のうち、最も飼養頭数の多い品種が「アンガス種」である。アンガス種は1873年にスコットランドから米国に渡ったのがはじまりとされており、高い繁殖能力や増体能力および疾病耐性で知られ、一般的なロングホーン種やショートホーン種と交配したときの能力も高く、肉用牛農家から人気を集めた。また、脂肪交雑が入りやすく、その肉は、消費者からは食感や風味を感じることができることから人気も高い。いわゆるアンガスビーフの多くは、アンガス種に他の品種を交配させた交雑種から生産される。USDAに登録されている67の牛肉ブランドのうち、実に50の牛肉ブランドがこのアンガス種に由来するものとされている(図6)。
 

 

(1)米国アンガス協会

 アンガス種の品種登録は米国アンガス協会が行っており、会員のアンガス種の血統情報を収集、記録している。また、米国アンガス協会の子会社であるアンガス・ジェネティクス社は、Genemaxという遺伝子検査製品を提供している。この製品は、肥育牛の肥育成績および肉質等級を予測するとともに、未経産牛の発育・繁殖から産子の離乳期までの純収益予測によって繁殖雌牛の能力を予測する。同協会によると、遺伝子情報を明確化することにより、アンガス種のマーケティングへの活用や、不利な遺伝子を有する牛の繁殖利用の制限が可能となるという。アンガス・ジェネティクス社は2021年7月、アンガス種の登録遺伝子の数が100万に達したと発表した。同社は、より早い時期に形質を予測することを目的として2010年に遺伝的評価を開始したが、遺伝子サンプルの収集を開始してから50万の遺伝子の収集に8年を要したのに対し、残りの50万の遺伝子の収集はわずか3年で達成したという。また、遺伝子検査と研究は、個体レベルでの遺伝的能力を予測することで産子の遺伝的形質を正確に予測し、アンガス種全体の品質と生産性に貢献している。
 

(2)アンガス種の生産動向

 米国における肉用牛の生産構造を大別すると、繁殖段階(繁殖農家)と肥育段階(育成農家および肥育農家)になる。一般的に、米国内で生産される肉用牛は、繁殖農家で90〜205日間、出生時体重65ポンド(約29.5キログラム)から離乳時体重550ポンド(約249.5キログラム)まで育てられる。その後、一部の肉用牛は育成農家で肥育開始前の飼養段階を経て、フィードロットと呼ばれる肥育場を持つ肥育農家で100〜230日間、体重を1300ポンド(約589.7キログラム)にまで増体させてと畜場に出荷される。
 一方で、アンガス種から産出された子牛は繁殖農家で120〜210日間、離乳時体重400〜700ポンド(約181.4〜317.5キログラム)になるまで育てられる。通常、離乳した子牛は育成農家に移動し、120〜360日間、800〜1100ポンド(約362.9〜499.0キログラム)になるまで、牧草や穀物飼料を給与されて過ごす。そして、フィードロットに移動し、120〜360日間、1100〜1400ポンド(約499.0〜635.0キログラム)になるまで、増体と脂肪付加に必要な高エネルギーの穀物飼料を給与されて肥育期を過ごしたのちに、月齢16〜24カ月でと畜場へと出荷されることになる。
 米国アンガス協会が公表した2020年度の年次報告書によると、同年度の同協会へのアンガス種の登録頭数は30万5531頭であり、その10%以上をモンタナ州が占めた(表2−1、2−2、図7)。





 
 

(3)アンガスビーフ

 前述の通り、現在、USDA/AMSが認定しているプログラムには67のプログラムがあるが、そのうち、50のプログラムがアンガス種に由来したものである。この中には後述の人気牛肉ブランド「認定アンガスビーフ(CAB)」が含まれる。また、その他にも、以下のような人気を誇る牛肉ブランドがある。
ブラック・アンガスビーフ
 1997年に認定されたスイフト社(現JBS社傘下)の牛肉ブランドである。このブランドには、脂肪交雑のスコアによって、USDA肉質等級が異なる「プライム/チョイス」と「チョイス/セレクト」の2種類の製品がある。なお、同社は現在、11のプログラムを製造・販売している。
ハートレー・ランチ・アンガス
 1995年に認定された牛肉ブランドである。このブランドにも「プライム/チョイス」と「チョイス/セレクト」の2種類の製品が製造されている。
プレミアム・シグネチャー・アンガスビーフ
 2012年に認定されたカーギル社の牛肉ブランドである。

4 認定アンガスビーフ(CAB)

 CABは、USDAが認定した最初のプログラムであり、最大かつ最も有名な牛肉ブランドである。1978年、米国アンガス協会が世界初の高級牛肉ブランドを立ち上げるべく、風味、柔らかさ、ジューシーさを合わせ持つための品種要件と10個の枝肉基準を設定した。この高品質な基準により、消費者の信頼を得て他の牛肉と一線を画す牛肉ブランドを確立させたのである。
 

(1)品種要件

 CABとして認められるためには、まず品種の要件を満たす必要がある。具体的には、牛の毛色の51%以上が黒色であること、あるいは、アンガス種の血統を50%以上持ち、米国アンガス協会が定めた「アンガスソース(注)」に登録されていることのいずれかの要件を満たしていなければならない。

(注) アンガス種の血統を50%以上持っていること、出生情報と月齢が明確であること、生産システムが認証済みであることといった米国アンガス協会が定めた要件を満たすUSDAのプロセス認証プログラムのこと。
 

(2)CAB認定に必要な10の枝肉基準

 枝肉基準は四つの観点から定められている。牛肉に風味、柔らかさ、ジューシーさをもたらすために重要な「脂肪交雑」、柔らかさ、肉色、肌理(きめ)、しまりに影響する「成熟度」、ばらつきを制限し、調理しやすさを生む「均一化されたサイズ」、そして、ムラが無く均一で見栄えのする料理に必要な「良質な外観と柔らかさ」の四つである。また、これらの基準はUSDAのプライム、チョイスおよびセレクト級の基準よりも厳しく設定されており、高品質で安全な牛肉であることを謳っている。10の基準は以下の通りである。
ア)度あるいはそれ以上の脂肪交雑
(USDA等級ではプライムおよびチョイス上位3分の1以上の水準)
イ)「中」もしくは「細かい」脂肪交雑の肌理(きめ)
(USDA等級には規格なし)
ウ)と畜時の月齢が30カ月未満の成熟度「A」
(USDA等級では30〜42カ月齢の成熟度「B」を含む)
エ)リブアイ面積が10〜16平方インチ(約65〜103平方センチメートル)
(USDA等級には規格なし)
オ)1050ポンド(約476.3キログラム)以下の温と体枝肉重量
(USDA等級には規格なし)
カ)外側脂肪厚1インチ(約2.5センチメートル)未満
(USDA等級には規格なし)
キ)優れた外観の筋肉の選別で乳用牛の影響を制限
(USDA等級には規格なし)
ク)毛細血管の破裂がなく、優れた外観を保証
(USDA等級ではわずかなレベルを許容)
ケ)ダークカッター(濃い色の赤身肉)を排除し、均一な外観と風味を保証
(USDA等級では低い等級に格付け)
コ)柔らかさのばらつきを大きくするブラーマン種の影響を回避するため、頸部のこぶが2インチ(約5cm)超の枝肉を排除
(USDA等級には規格なし)

 以上の基準を満たす枝肉にUSDA/AMSから証明書が発行されるが、CABと認定されるアンガス種は、10頭中3頭程度といわれている。
 

(3)CABの年間販売量

 米国アンガス協会によると、2020年度のCABの年間販売量は11億7500万ポンド(53万3000トン)となった。内訳としては小売部門が前年比12.3%増の6億200万ポンド(27万3063トン)、外食部門が同23.6%減の3億2400万ポンド(14万6964トン)、輸出部門が同22.4%減の1億6100万ポンド(7万3028トン)、その他が同8.6%増の8800万ポンド(3万9916トン)であった(図8−1、8−2)。年間販売量は2004〜19年の間は連続して増加し、この間、約2.4倍の量にまで達したが、20年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、前年度比6.0%減と16年ぶりに減少に転じた。それでも需要は好調で、年間販売量は、5年連続で10億ポンド(約45万3600トン)を超えた。また、同協会によると、20年度にはアンガス種全体で1540万頭の販売があり、うち554万頭がブランド認定され、認定率は35.9%に達しており、高品質・高級牛肉を求める消費者需要に応える形で生産者が努力した結果だとした。



5 アンガスビーフの販売戦略

 CABのブランド戦略は、牛肉が格付けされ、ブランド認定されてから消費者に届くまでのサプライチェーンを管理することである。ブランド認定を受けることができる食肉処理・加工施設は米国内に33カ所ある。この33カ所の施設で米国の肥育牛の実に85%以上の処理・加工が行われており、ブランド認定を受けられなかった枝肉の流通・販売経路も確保されている。CABは食肉処理・加工施設から米国内外の市場への流通に当たって、製品の品質維持のための一定の基準を設けており、製品を扱う流通業者、卸売業者、輸出業者はこの基準に従わなければならない。さらにCABのブランドを取り扱うことができるレストランや小売店までも認可している。こうして、認可された各段階の業者を通じて、米国を含め52カ国で消費されている。
 

(1)米国アンガス協会と販売促進活動

 米国アンガス協会は、品種の普及とマーケティング、遺伝的改良などを支援するためにさまざまなツールやサービスを準備している。
・アンガス財団
 1980年に設立された米国アンガス協会の関連団体。教育、研究に関するプログラムに資金を提供し、支援する非営利団体。
アンガス・ジェネティクス社(前述)
 2007年に設立された米国アンガス協会の子会社で、アンガス種の遺伝的評価を支援。技術開発や肉用牛農家への遺伝子検査機器の提供、成績予測のフィードバックなど、生産者のニーズに合わせた遺伝子評価サービスを提供することで肉用牛業界を支持。
アンガス・メディア
 米国の高級・高品質牛肉生産者向けのコンテンツに特化した総合マーケティング企業。広く知られる業界紙「Angus Journal」や生産者向けの情報誌「Angus Beef Bulletin」を発行。
・全米ジュニアアンガス協会:
1956年に設立されたアンガス種を飼養する若者への支援を目的とした組織。生産技術の向上に向けて、現在、約6000人の会員が活動中。
米国アンガスサポート組織
 米国アンガス協会や全米ジュニアアンガス協会と連携し、若者向け教育プログラムを通じた人材育成、プロモーションプログラムを通じたアンガス種の普及活動に取り組む組織。アンガス種の福祉の観点からも活動。

 米国アンガス協会は、これらの組織のほか、肉用牛関係団体や輸出関係団体と連携しながら、インターネットやSNSなどあらゆるツールを駆使して、広く国内外に宣伝、普及活動を行ってきた。
 

(2)米国における牛肉の消費動向

 米国の1人当たり牛肉消費量は、近年は若干回復しつつあるものの、30年前と比較すると大きく減少している。米国農務省経済調査局(USDA/ERS)によると、米国の1人当たりの年間牛肉消費量は1985年には79.2ポンド(35.9キログラム)であったが、その後減少傾向で推移し、2015年には54.0ポンド(24.5キログラム)と過去最低となった(図9)。消費量の減少は、消費者の健康志向による牛肉摂取量の抑制、価格の上昇など、多くの要因が関与していると推察される。
 一方で、牛肉を消費する際には、より高品質な牛肉を求めるようになってきており、これがアンガスビーフの人気を高めている大きな理由となっている。


(3)小売店・外食産業戦略
 CABをはじめとするアンガスブランドは、高級牛肉として差別化された地位を確立・維持している。カンザス州立大学の研究によると、CABは2008年の景気後退時にも安定して消費されており、2002〜11年にかけて、CABの消費者の需要は108%増加したのに対し、USDAチョイス級以上の牛肉の需要は51%しか増加しなかったと報告された。消費者がブランド牛肉から連想する牛肉の品質が一因となって、主に高所得者と子供のいる家庭を中心に、ブランド牛肉の需要がUSDAチョイス級の牛肉の需要を上回っていると言われている。
 米国の肉用牛業界ではこのような消費者需要を踏まえて、前述のブランド牛肉プログラムを活用し、小売店では消費者の購買意欲を高めるため、明確で分かりやすいアンガスビーフのラベルやパッケージを表示している。また、レストランでもメニューにアンガスビーフを表示することで選択の意欲を高めている。このような店頭などでの表示は、米国アンガス協会やCABなどのさまざまな業界団体が実施する消費者への地道な普及活動によって支えられている。
 

(4)輸出戦略

 アンガスビーフの輸出には、米国食肉輸出連合会(USMEF)が大きく貢献している。米国アンガス協会もアンガスビーフの輸出にはUSMEFと緊密に連携することが不可欠だと語る。USMEFは米国の食肉製品(牛肉、豚肉、羊肉)の国際的な普及のために、米国の食肉関連企業と関係団体が設立した団体であり、国外の顧客に向けて広く米国産食肉を紹介している。会員として、肉用牛生産者、穀物生産者、食肉パッカー、加工業者、輸出業者、農業関係団体など、食肉関係者が網羅的に名を連ねている。USMEFによると、海外事務所としてわが国を含む東アジアを中心に17事務所が設置され、小売店やレストランにおけるセミナー、展示会、実演会などの販売促進活動を企画・開催しているほか、インターネットやSNS、情報誌を活用した宣伝活動、栄養価や安全性に関する情報提供や料理教室・シンポジウム開催などの消費者向けの活動、米国内の情報の海外への発信や海外で収集した情報の米国内への発信、輸出入業者向けのコンサルティングなど幅広く活動している。
 注目すべきは、USMEFの職員の4分の3以上は海外で勤務し、約70人が言語、文化、市場現況を理解する現地採用職員であり、その国の特色、需要や流行を把握した上でプロモーション活動を行い、その国における業界や関係者との関係を構築している点である。近年、牛肉の需要が強まり、牛肉の輸入量を伸ばしている中国において、米国アンガス協会はUSMEFと協力し、中国の輸入業者との関係を深めるためにアメリカンスタイルのバーベキューを行うレセプションを開き、他国産牛肉との違いをアピールするなど、アンガスビーフの販売促進活動を強化している。これらの活動は、パッカー、輸出業者、海外の輸入販売代理店なしでは実現できない。米国アンガス協会はCABの販売において、2017年には、カナダ、コロンビア、エジプト、日本、韓国、メキシコ、アラブ首長国連邦で、新たに10社の輸入販売代理店と8社の小売店との提携に成功した。これに加えて、ハラール市場向けのCAB製品の輸出にも力を入れており、今後の輸出量増加に期待が寄せられている。

コラム SNSを活用した販売促進活動

 Instagram、Twitter、LINEなどソーシャルネットワークサービス(SNS)やYouTubeなどの動画配信サービスは情報発信のツールとして幅広く活用されている。特に、COVID-19の感染拡大を受け、家庭における食肉需要が強まったこともあり、SNSによる情報発信やeコマース、サブスクリプションサービスに注目が集まった。牛肉業界においても例外ではない。米国食肉輸出連合会(USMEF)はあらゆるサービスを活用して広報活動を行っており、日本国内向けにも数多く発信している。米国産牛肉、豚肉、羊肉に関する需給動向や政府の発表を受けた情報提供から米国産食肉製品のプレゼント付きの消費者キャンペーン、米国産食肉を活用したレシピまで幅広い層に向けられており、事業者や消費者を楽しませている。

 一方で、和牛の輸出促進を目的として、JFOODOにおいても、米国ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコにおいて「JFOODO日本和牛店舗キャンペーン」(2021年10月1日〜12月31日)を開催するに当たって、公式ウェブサイトをリニューアルした。本ウェブサイトでは本キャンペーンに参加する70店舗以上を紹介するほか、写真や動画を使ってレストランだけでなく家庭でも食べられる和牛の魅力を発信している。中でも「和牛サンド」は見ているだけで食欲がそそられる。また、9月にはインスタグラムとフェイスブック「House of Japanese Wagyu」(アカウント:wagyuofjapan)で画像・記事の投稿を再開した。昨年度に開設された本アカウントは和牛の輸出促進活動の一端を担い、海外向けに発信されている。投稿画像を見ると、和牛のマーブリング(脂肪交雑)は美しく、和牛を使った料理は和の食材が調和した逸品がそろっている。主に米国の消費者向けのアカウントではあるが、本アカウントをフォローして自分なりの方法で和牛を応援してみてはいかがだろうか。








6 今後の展望

 このように、アンガスビーフ業界はこの数十年間で目覚ましい成長を遂げてきた。米国アンガス協会を始めとする業界団体や専門家は、国内外での牛肉需要が高まり、販路が構築されていく中で、今後は生産技術に磨きをかけていくとしている。特に、生産者が最小限のコストで付加価値を与えることができ、今後は管理ツールとしても活用が期待される遺伝子技術の維持と向上が重要とした。米国アンガス協会は遺伝子学者を講師に招いてセミナーを開催するなど、肉用牛生産者の教育に力を入れている。また、同協会は2015年、次世代の教育を目的として、新たな教育プログラム「Future Angus Stockmen」を立ち上げた。本プログラムは、アンガス種の生産に興味を持つ大学生などの若者を対象としており、遺伝子技術を取り入れた経営戦略やリーダーシップの学習機会を提供するとともに、生産者同士のネットワーク構築の場を設けている。
 他方で消費者の動向を注視し、敏感に対応することが成長に必要不可欠であるとしている。消費者の嗜好の傾向は今後も変化を続けるため、品質の高さのみならず透明性を求め、「どこで」、「誰が」牛肉を生産しているか、また、「どのように」生産されているかまで、明確にすることを求めている。特に、21年9月に開催された国連食料システムサミットでも議論の中心となった「持続可能な農業」の重要性が増している。その他にも、牧草飼育(グラスフェッド)、オーガニック、遺伝子組換え飼料不使用、抗生剤使用制限、成長ホルモン不使用など消費者の嗜好は多様化している。米国アンガス協会は、これらの消費者の嗜好の変化にも対応する考えである。CABは、新たなブランド牛肉プログラムとして、CABナチュラルを売り出している。CABナチュラルは、通常のCABの要件のほか、抗生剤不使用、ホルモン剤不使用、植物由来飼料のみの給与、生産過程を保証するシステムの確保といった要件を満たした牛肉である。このように、ブランド牛肉プログラムの活用によって消費者の需要に対応することで、米国産高級牛肉は今後も国内外市場で存在感を増していくだろう。

(岡田 卓也(JETROニューヨーク))