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調査・報告 畜産の情報  2021年12月号

家畜動物のストレス計測技術開発に向けた黒毛和種の皮膚ガス分析について

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佐賀大学 農学部 准教授 上野 大介

【要約】

 黒毛和種の繁殖雌牛は飼育期間が長期にわたるため、ストレスによる空胎日数の長期化が問題となっている。これらストレス問題に対応するためにはストレスの計測が必須となるが、現在のところ簡便なストレス計測法は実用化されていない。本研究では黒毛和種の“皮膚ガス”を利用したストレス計測技術の開発に着手した。におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC-O)を用いた化学分析の結果、黒毛和種の皮膚ガスに特徴的なにおい物質として(E)-3-Octen-2-oneを同定した。また心拍変動解析によって牛のストレス状態を分析した結果、飼育条件により個体のストレスの感じ方が異なることが明らかとなった。内分泌系のストレスホルモンであるコルチゾールを用いたストレス分析を行う場合、ホルモンの季節的な変化や日内変動に加え、飼育条件を考慮する必要性が明らかとなった。今後、ストレスと関連する皮膚ガスを特定し、黒毛和種の皮膚ガスを用いたストレスセンサーの実用化につなげていくことが望まれる。

1 背景

 畜産分野では家畜動物の“ストレス管理”が問題となっている。特に近年の畜産施設の大規模化と労働力不足の流れの中で、多頭飼育されている家畜のストレス管理はますます困難になると予想される。そのような家畜動物のストレス管理するためには、ストレスの計測が必須の技術となる。現状でも家畜ストレスの測定は可能であるが、これまでの畜産動物のストレス測定は、行動解析や血中ストレスホルモンを分析するものであった。行動解析は長年の経験が必要であり、また血中ストレスホルモンは採血(侵襲的手法)や専門的な機材が必要となる。従って、従来のストレス計測は家畜動物にストレスを与えるものであり、また採血や分析に手間や費用もかかるため、普及法であるとは言い難いのが現状である。従って、簡易で安価なストレス判定技術はニーズは高いと予想される。ストレス計測のニーズは、世界に誇る日本の食材である黒毛和種についても例外ではない。なかでも黒毛和種の繁殖雌牛は、飼育期間が長期にわたるため(約10年)、さまざまなストレスによる空胎日数の長期化が問題となっている。和牛の繁殖では、分娩間隔の目標を380日としているが、全国的に平均で400日を超えているのが現状である。
 

 そこで本研究では、黒毛和種のストレス計測技術の開発に着目した。黒毛和種のストレスを簡易に計測・数値化することができれば、現状で家畜がどの程度ストレスを感じているか、また新しい飼育法でどの程度改善されたのかということを比較可能になる。すなわち、ストレスを低減させた結果として空胎期間を短縮させることも期待される。加えて、ストレスを数値化して管理することが可能となれば、海外輸出の際に障壁となるアニマルウエルフェアへの対応策にも利用できると期待される。
 本研究では簡便な黒毛和種のストレス計測技術の開発に際して、“皮膚ガス”の利用を計画した。すでにヒトにおいては皮膚ガスを利用したストレス判定技術としての利用が始まっているが、これまで国内および海外においても家畜を対象とした皮膚ガス成分の研究は皆無である。加えて、これまでの国内および海外におけるヒトの皮膚ガス成分の研究報告では、分析にガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)を利用するのが一般的であったが、多くの皮膚ガス成分は濃度が低く検出されていないことが、われわれの経験から明らかとなっている。本研究グループでは、分析機器より高感度である、ヒトの嗅覚を活用して化学物質を検出する新技術である“匂い嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC-O)”を活用する。ヒトの嗅覚を利用したGC-Oを家畜の皮膚ガス成分分析に活用する事例は国内および海外でも皆無であり、本技術によって幅広い匂い物質を検出することが可能となると期待される。
 黒毛和種のストレスに関連する皮膚ガス成分を特定することができれば、その成分を感知できる嗅覚センサーを利用することで、非侵襲的で、かつ従来法よりも簡易で安価なストレス計測技術を確立できると期待される。本研究では、“ストレス計測器”の開発に向け、黒毛和種のストレスに関連する皮膚ガス成分の特定とストレスとの関係生の解明を目的とした。

2 試料と方法

(1) 調査対象

 本研究では、佐賀大学アグリ創生教育研究センター(附属農場)で飼育している黒毛和種・繁殖雌牛(4齢)を対象とした(写真1)。繁殖雌牛は飼育期間が長期にわたるため(約10年)、さまざまなストレッサーにさらされる。中でも、ストレスによる空胎日数の長期化は繁殖農家にとって大きな問題であることから、ストレス管理に対する需要が高いことが挙げられる。将来的には子牛のストレス判定を視野に入れているが、萌芽的研究として実験の容易な繁殖牛を対象とした。繁殖牛の飼育管理は江原(佐賀大学 家畜行動学:分担)が担当した。本研究では繁殖牛のストレス管理(ストレス状態と平静状態のコントロール)が重要な技術となるが、江原は長年の飼育経験を持ち、飼育管理によって牛のストレスをコントロールする独自のノウハウを有している。

(2) 皮膚ガス成分の捕集

 黒毛和種の皮膚ガス成分の化学分析は上野(分析化学:代表)が担当した。皮膚ガス成分は固相吸着材(MonoTrap:RGPS:GLサイエンス,東京)を、穴あきテフロンシャーレに封入して捕集した(写真2)。まず黒毛和種の背部を剃毛し、MonoTrapを封入したテフロンシャーレを背部に密着させ、ベルトを使って固定し、1時間捕集した(写真3)。また畜舎雰囲気試料(操作ブランク)として、同様の操作をアルミトレー上で実施した。捕集後のMonoTrapは、その場で加熱脱着装置用の脱着管に移して真ちゅうキャップを取り付け、氷冷下で速やかに実験室に輸送した。輸送後の試料はマイナス20度で保管し、24時間以内に機器分析に供試した。
 
 

 

(3) パネル選定

 GC-O分析は、ヒトの嗅覚で捉えたにおいを言葉で表現する手法である。ヒトの嗅覚は個人差があることから官能評価の嗅ぎ手(パネル)の選定には十分な配慮が必要である。パネルの選定は環境省悪臭防止法に準拠し、5種基準臭(パネル選定用基準臭,第一薬品産業)を嗅ぎわける嗅覚試験に合格した20代の女性2名、30代男性1名(基礎疾患および喫煙歴なし)を採用した(写真4)。なお官能評価に際しては、嗅覚測定法安全管理マニュアルに準じて十分に安全を期した。また、実験に使用する試料は一般生活環境に存在するものであること、実験中も途中退席が可能であること、個人データが特定できるような解析は行わないことをパネルに十分に説明し了解を得た後に、当研究グループの管理の下で実施した。
 


 

(4) GC-O分析

 皮膚ガス成分の中でも、ヒトの嗅覚でにおい感知できる物質(以下「におい物質」という)の分離・検出にはGC-Oを使用した(写真5)。GC-Oの機器構成は、においかぎ装置(スニッフィングポート OP275:GLサイエンス)を水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフィー(GC-FID:GC2010 Plus:島津製作所,京都)に装備したものであり、GCカラムの出口側でキャリアガスを分岐し、一方をスニッフィングポートへ、他方をFIDへ接続した。VOCsを捕集したMonoTrapは簡易型加熱脱着装置(HandyTD:TD265:GLサイエンス,東京)を用いて注入した。GCカラムは、DB-5MS(長さ60m,内径0.32mm,膜厚0.5μm:Agilent J&W)、およびInertCap Pure-WAX(以後WAX:長さ60m,内径0.32mm,膜厚0.5μm)を用いた。GCの昇温条件は、45度(5min)→10度min-1→240度(15min)とし、キャリアガスはヘリウムを用いた。検出されたにおい物質の物質同定には、保持指標(RI)を用いたデータベース検索が必要となる。RIの算出に必要な混合アルカン溶液(C6〜C20:GLサイエンス,東京)は、試料分析の直前に分析した。“におい活性”(においを感知した保持時間、自由回答によるにおいの印象および3段階のにおいの強度)は音声認識ソフトウェア(Olfactory Voicegram:GLサイエンス)で記録した。パネルは、事前トレーニングとして標準試料を複数回分析し、良好な再現性が得られたパネル3名(20代の女性パネル2名、男性パネル1名)を採用した。
 物質同定には、異なる分離相を持つカラムで得られたRIが二つ以上必要となる。本研究ではDB-5MSカラム(微極性)、およびWAXカラム(強極性)を使用した。皮膚ガスからは多数の類似したにおい活性が感知されるため、そのままの試料を異なる分離相を持つカラムで分析しても、他のにおい活性が重複することで目的のにおい活性を見失ってしまう。そのため、本研究では、後述するGC分取システムを利用し、におい物質を精製・濃縮した分取画分をGC-O(WAX)分析に供試した。
 パネルによるGC-O分析は、予備実験と本実験に分けて実施した。予備実験では、黒毛和種から採取した皮膚ガスを対象とし、パネル3名が3回ずつGC-O分析を実施した。得られた全員の結果の中で、三分の二以上の割合で類似のにおいを感知できたものを“可能性のあるにおい活性”として採用した。本試験では、予備試験で訓練されたパネル(30代男性1名)が3回分析した。可能性のあるにおい活性を中心に評価し、得られた結果の中で三分の二以上の割合で感知されたにおい活性を物質同定に供試した。
 

(5) GC分取・GC-MS分析

  におい物質の物質同定には、マススペクトルを得る必要がある。マススペクトルはにおい物質の分子量や分子構造に関する多くの情報が含まれていることから、データベース検索に供試することによって物質を絞り込むことが可能となる。におい物質を含む揮発性の高い有機物質のマススペクトルは、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)を用いて取得するのが一般的である。一方で、GC-O分析によってヒト嗅覚で感知されたにおい物質は、そのままの濃度でGC-MS分析に供試しても明瞭なマススペクトルを得ることはほぼ不可能である。その理由として、ヒトの嗅覚が物質によっては極めて敏感であることが挙げられる。そこで本研究では、におい物質の同定のため、精製・濃縮を目的とした“GC分取システム”を利用した(写真6)。GC分取システムの概要としては、GC用フラクションコレクター(GC分取装置:VPS-2800,GLサイエンス,東京)をGC-FID(GC2010Plus:島津製作所,京都)に装備したものであり、試料はオートサンプラー付き加熱脱着装置(TurboMatrix650:Perkin Elmer)で注入した。GC-FIDには、DB-5MSカラム(長さ60m,内径0.32mm,膜厚0.5μm: Agilent J&W)を用い、昇温条件は100度(5min)→20度min-1→280度(6min)とした。GC用フラクションコレクターは、トランスファーラインおよび捕集管温度をそれぞれ280度および25度に設定し、カラム溶出物の90%を本装置に導入した。加熱脱着装置は、脱離温度およびトランファーライン温度をいずれも250度に設定した。試料のにおい物質を捕集した5〜50個のMonoTrapを加熱脱着装置を用いて繰り返しGC分取システムに注入(5〜15回注入)し、目的の画分をMonoTrap(RGPS)に分取・濃縮した。本システムで分画・濃縮したものを“分取画分”とした。
 GC分取システムで得られた分取画分は、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS:TQ8040:島津製作所,京都)を用いてマススペクトルを取得した。分取画分を捕集したMonoTrapはHandyTDを用いて注入した。GCカラムはGC-Oと同様のWAXカラムを用い、分析条件はGC-Oと同一とした。検出には電子衝撃イオン化法 (EI)によるスキャンモード(m/z 30-300)および化学イオン化法(CI)によるポジティブスキャンモード(m/z 100-300)を用いた。CI試薬ガスにはイソブタンを使用した。GC-Oと保持時間を比較するため、分析前に混合アルカン溶液(C6〜C20)を測定してRIを算出した。

(6) におい物質の同定

 2種類の分離相を持つカラムを装備したGC-O分析で得られたRIは、におい物質に特化したデータベースであるAroChemBase(アルファモスジャパン,東京)の検索に供試した。AroChemBaseは、におい物質のRIとにおいの印象が約10万種収録されている。本データベースには一つの化学物質に対して複数種の異なる分離相を持つカラムで計測されたRIが登録されていることから、それらを統合して検索する“クロスサーチ”の利用が可能である。本研究では一つの試料をDB-5MSおよびWAXカラムを用いたGC-Oで分析し、感知したにおい活性のRIをクロスサーチに供試した。
 上述の通り、目的としたにおい活性を再びGC分取システム(DB-5MS)で精製・濃縮し、それら分取画分をGC-MS(WAX)を用いたEIおよびCIモードのスキャン分析に供試した。GC-MS(EIスキャン)分析で得られたマススペクトルは、マススペクトルライブラリ(NIST14)を利用して物質を推定した。GC-MS(CIスキャン)分析ではプロトン付加分子[M+H]+が得られるため、分子量を推定することが可能である。EIマススペクトルのライブラリ検索でヒットした候補物質の中から、CIマススペクトルから推定した分子量を用いて絞り込みをかけた。GC-O分析で得られたクロスサーチ結果と、GC-MS分析で得られたマススペクトルライブラリ検索の結果が一致した物質について、標準物質を分析し比較した。標準物質として、3-Octen-2-one(富士フィルム和光純薬,東京)を購入し、GC-O(DB-5MSとWAX)およびGC-MS(WAX)で分析した。RI、マススペクトル、においの印象のすべてが一致したものを同定とした。

3 結果と考察

(1) GC-MS分析によるVOCsの検出

 黒毛和種から捕集した皮膚ガスをGC-MSで分析した。GC-MS分析によって得られたマスクロマトグラムには多数のピークが確認された。一方で、皮膚ガス捕集の際に同時に採取した畜舎雰囲気試料(操作ブランク)のマスクロマトグラムと比較したところ、すべてのピークが相殺されるという結果となった。黒毛和種の皮膚から放出されている揮発性有機化合物(VCOs)はGC-MSの検出感度と比較して少量であるか、または畜舎雰囲気におけるVOCsと同一物質であるという可能性が示された。結果として、GC-MS分析だけで黒毛和種の皮膚ガスを検出することは困難であると判断した。

(2) GC-O分析によるにおい活性の感知

 黒毛和種の皮膚ガスは、直接的なGC-MS分析で検出することが困難であるという結果が得られた。そこで本研究ではGC-Oの利用を検討した。GC-Oはヒトの嗅覚を利用し、においを持つVOCs(におい物質)を感知する。従って濃度が低くくGC-MSでは検出できない場合でも、GC-Oを利用することでヒト嗅覚によって検知することができると期待される。黒毛和種の皮膚ガスをGC-O(DB-5MS)分析に供試した際に得られた、FIDクロマトグラム(試料に含まれている揮発性物質を保持時間とピーク高さで図示したもの)とアロマグラム(ヒトの嗅覚で感知したにおい活性の保持時間を図示したもの)を図1に示した。本データは黒毛和種の皮膚ガスを分析した初めての報告である。操作ブランクと重複するにおい活性を除外したところ、8カ所から皮膚ガスに特徴的なにおい活性が感知された。一方で、FIDクロマトグラム上には、ヒトの嗅覚でにおい活性が感知された保持時間においてピークがほとんど検出されなかった。このことは、黒毛和種の皮膚ガスとして捕集されたVOCsの量はFIDの検出感度よりも少ないものの、ヒトの嗅覚は敏感であるため感知できたことが考えられる。感知された複数のにおい活性の中で、2カ所から比較的におい強度が強く、再現性の高いにおい活性が感知された。それらにおい活性のにおいの印象としては、「ゴム、生臭い(画分1)」「甘い、生臭い(画分2)」というものであった。本研究ではこれら2カ所のにおい活性を対象として、におい物質の同定を進めることとした。


 

(3) におい物質の同定

 黒毛和種から捕集した皮膚ガスを対象としたGC-O分析の結果、特有のにおい活性(2カ所)が感知された。これらにおい物質を対照として、物質同定に取り組んだ。
 第1ステップとして、2カ所のにおい活性を分取画分1および2として、GC分取システムを用いて精製・濃縮した。それら分取画分を、異なる分離相を持つカラムを装備したGC-O(WAX)分析に供試した。分析の結果、画分1からは1カ所(におい活性1-1)、画分2からは類似のにおい活性が3カ所(におい活性2-1〜2-3)が感知された。2種類のカラムを用いたGC-O(DB-5MSおよびWAX)分析で得られた二つのRIおよびにおいの印象を、AroChemBaseクロスサーチに供試した。本解析によってヒットしたものを候補としてリストアップした。
 第2ステップとして、分取画分1〜2を対象としたGC-MSマススペクトルの取得を行った。GC-MS(WAX)クロマトグラム上で、GC-O(WAX)分析で得られたRIに見られるピークのマススペクトルをライブラリ検索に供試し、シミラリティーが70以上の物質をリストアップした。さらにそれら候補物質の中から、CIマススペクトル上のプロトン付加分子[M+H]+から推定した分子量と一致する物質に絞り込んだ。
 第3ステップとして、これらデータから推定された物質の標準物質を購入し、RI、においの印象およびマススペクトルを比較した。
 第4ステップとしてこれら結果をまとめ、物質同定を判定した。画分1におけるにおい活性1-1は、RI、においの印象、マススペクトルのすべてがの標準物質と一致したことから、(E)-3-Octen-2-oneと同定とした(図2)。画分2におけるにおい活性2-1〜2-3は、各種データベースの検索結果が一致しなかったことから不明となった。
 本研究で同定された(E)-3-Octen-2-oneは、ヒトの皮膚ガスの成分として報告されている物質であり、脂質分解物であることが知られている。黒毛和種の皮膚ガスとして検出されたことに矛盾はないと判断された。
 

4 まとめ

 本研究では、黒毛和種の簡易ストレス評価に向けて、ストレスと関連する皮膚ガスの分析に取り組んだ。化学分析の結果、一般的な手法であるGC-MS分析では皮膚ガスを検出できなかった。一方で、ヒトの嗅覚を活用するGC-O分析を利用することで、皮膚ガス中の特徴的なにおい物質を同定した。また、黒毛和種繁殖牛のストレス評価の基盤情報として、心拍変動解析によるストレス状態の変化を分析した。その結果、牛の飼育条件がストレスの感じ方に大きく影響するため、唾液中コルチゾールを用いたストレス分析では、群編成の考慮が必要であることが明らかとなった。
 今後、黒毛和種に特徴的な皮膚ガスとしてより多くの物質を特定し、それら物質に絞った高感度ターゲット分析法を開発することを計画している。皮膚ガスの高感度分析が可能となれば、皮膚ガスと唾液中コルチゾールを定期的に分析し、ストレスに関連する皮膚ガス中のにおい物質を特定できると期待される。ストレスに関連するにおい物質が特定できれば、それら物質に反応する「においセンサー」を検索し、黒毛和種のにおいを用いたストレスセンサーの実用化につながる。
 においを用いたストレスセンサーは、非侵襲的かつ迅速・簡便であることが特徴である.本技術が確立でき、現場型の簡易ストレス計測器をインターネットに接続(IoT化)することができれば、黒毛和種のストレス状況をスマートフォンで常時監視することか可能となる(写真7)。将来的な大規模施設における労働力不足に対応するためのスマート農業化は、今後の畜産業の発展を考える上で必須の技術であると言える。将来的に本技術を高度化させることで、黒毛和種にとどまらず、多様な畜産動物のストレス管理を効率化させ、生産者の省労力化に貢献できると期待される。