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海外情報 畜産の情報 2022年1月号

台湾の豚肉関連製品の輸出拡大に向けた取り組み〜台湾中央畜産会による調査結果より〜

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財団法人台湾中央畜産会

【要約】

 台湾は、古くから豚肉生産が盛んで、以前は積極的な豚肉輸出が行われていたが、1997年の口蹄疫の発生により、豚肉輸出は大きな打撃を受けた。その後、20年余りにわたる対策が実り、2020年6月に国際獣疫事務局によって台湾本島などが口蹄疫ワクチン非接種清浄地域に認定されたことを受け、台湾の養豚産業が世界の市場で再び活躍できるよう取り組みが進められている。

1 はじめに

 台湾では、年間約82万トンの豚肉が生産されており、豚肉は鶏肉とともにテーブルミートとして、日常生活で欠かすことのできない食材となっている。1997年に口蹄疫が流行するまでは、国内消費のみならず豚肉輸出も盛んに行われていたが、口蹄疫の発生による輸出制限以降、輸出規模は大きく縮小した。しかしながら、2020年、長年の感染症対策が奏功し、国際獣疫事務局(OIE)により口蹄疫ワクチン非接種清浄地域に認定されたことを受け、台湾では豚肉関連産業が輸出に向けた取り組みを強化している。本稿では、台湾の財団法人台湾中央畜産会(以下「台湾中央畜産会」という)が、豚肉の輸出再開に向けて注力している企業の取り組みを取りまとめた調査報告について紹介する。
 なお、本稿中の為替相場は、1米ドル=115円(2021年11月末日TTS相場:114.77円)、1台湾ドル=4.1円(2021年11月末日参考相場:4.07円)(注1)を使用した。
 以下は、台湾中央畜産会機関紙「畜産報導」237号(2021年6月号)に掲載された記事から一部抜粋したものである。

(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の月末TTS相場および現地参考為替相場。

2  口蹄疫で豚肉輸出は急減も、再開に向けた準備を開始〜これまでの経緯と今後の対応〜

 台湾は、周囲を海に囲まれた島型の経済体であり、貿易は経済発展のための非常に重要な手段である。貿易による国際的な需給関係を通じ、さまざまな分野の生産品目の需給状況や経済構造をコントロールでき、収益性の向上を図ることも可能である。かつて、豚肉および関連製品は農畜産物の中では台湾の主要な貿易品目であり、輸出される農産物の中で数量、金額ともに大きなウエイトを占めていた。日本の農林水産省に相当する台湾の行政院農業委員会の「農業統計資料検索システム」(以下「検索システム」という)のデータによると、台湾の冷蔵・冷凍豚肉、豚肉調製品、豚肉の缶詰類、豚の内臓類などの豚肉関連製品(注2)の輸出量は、1989年には11万3000トン(輸出額5億1000万米ドル:586億5000万円)であったものが、その後の増加により、96年には27万7000トン(輸出額15億7000万米ドル:1805億5000万円)とピークに達した。この期間の年間平均輸出量は約21万3000トン、平均輸出額は10億7000万米ドル(1230億5000万円)となり、最大の輸出先であった日本向けの輸出量は累計で164万3000トン(輸出額83億7000万米ドル:9625億5000万円)に達した。日本向けに輸出された豚肉関連製品は冷凍肉が中心で豚肉関連製品輸出量の69.8%を占め、生鮮冷蔵肉が28.5%とこれに続いた。

(注2)以下、冷蔵・冷凍豚肉、豚肉調製品、豚肉の缶詰類、豚の内臓類を含めて豚肉関連製品とする。また、文中の図1および図2は、「検索システム」の農産物品種資料に基づき分類を行っている。冷蔵・冷凍豚肉は「豚・生鮮冷蔵肉」および「豚・冷凍肉」、豚肉調製品は「豚・調製肉」および「その他・調製肉」、豚肉の缶詰類は「豚・肉缶詰」、豚の内臓類は「家畜家禽内臓・豚」である。

 このような中で、97年3月に台湾で口蹄疫が発生し、輸出量の激減から台湾の豚肉関連製品輸出は大きな打撃を受けた。同年の豚肉関連製品の輸出量はわずか5万トン程度となり、前年比81.8%減と大きく落ち込んだ。最近(1998〜2019年)の豚肉関連製品の輸出状況を見ても、口蹄疫が完全に清浄化されていない状況の下、輸出量はわずか2000〜3600トンの間で推移していた。しかしながら、2020年6月、20年余りにわたる各産業の努力により、台湾はOIEによって、口蹄疫ワクチン非接種清浄地域に認定された。これにより、台湾の豚肉関連製品が国際市場で再度取引されるめどが立ったことから、台湾の豚肉関連産業では輸出に向けた準備が進められている。
 また、18年には中国で数十年ぶりにアフリカ豚熱が流行し、現在も完全終息には至っていない。近隣アジア諸国の多くも、アフリカ豚熱の流行で豚肉供給量が減少する中、輸入需要は高まりを見せており、国際的な豚肉需要の増大などから価格も上昇している。台湾の豚肉関連産業は、このような情勢を契機として、豚肉関連製品輸出の新たな局面にしたいと願っている。
 一方、20年の年初には中国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、世界的な感染拡大により世界の貿易、交通、物流、観光、さらには金融市場など各方面が極めて大きな影響を被った。台湾でも感染防止措置の徹底から、外食の頻度は下がり、観光需要も減少したことで台湾の豚肉消費市場は大きな影響を被った。20年2月の生体豚取引価格は、1キログラム当たり59台湾ドル(242円、前年同月比11.5%減)と前年同月をかなり大きく下回った。
 こうした状況の下、行政院農業委員会は、台湾の生体豚の取引頭数および豚肉生産量を調節し、養豚農家の収益安定を目的に、「2020年過剰な生体豚の消化と内外の多元的販促計画」を打ち出した。加えて、「深刻で特殊な感染性肺炎の防止・制御と救済振興特別条例」「深刻で特殊な感染性肺炎の影響を受けて運営が困難となった事業のための行政委員院農業委員会の救済振興方法」「深刻で特殊な感染性肺炎の拡大の影響を被った畜産業と事業運営の困難に対する救済・振興措置補助作業規範」などの規程に基づき、「台湾産豚肉および加工製品の対外販売奨励補助の要点」を策定し、輸出能力を有する業者を補助することで、新興市場の積極的な開拓や台湾産豚肉および加工製品の輸出促進を目指している。

3 さまざまな取り組みにより2020年の輸出量は顕著な増加〜豚肉関連製品の輸出現況〜

 検索システムのデータによると、2016〜19年の間、台湾の豚肉関連製品の輸出は低迷し、特に、19年の冷蔵・冷凍豚肉の輸出実績は過去10年で最低となる約45トンであった。しかし、台湾で口蹄疫が清浄化され、アフリカ豚熱の侵入予防措置が講じられたこと、さらには、輸出奨励措置などの政策が奏功したことで、20年の豚肉関連製品の輸出量は5322トン(前年比100.1%増)と倍増し、輸出額は2863万米ドル(同53.3%増、32億9245万円)と大幅に増加した。内訳を見ると、冷蔵・冷凍豚肉の輸出量は1664トン(同35倍)と急増し、20年の豚肉関連製品総輸出量の31.3%を占めた。豚肉調製品と豚肉の缶詰類は2856トン(同17.8%増)で総輸出量の53.7%を占め、内臓類は803トン(同320.9%増)で15.1%を占めた(図1)。また、輸出先別に見ると、冷蔵・冷凍豚肉はマカオ向けが97.8%と大部分を占め、豚肉調製品や豚肉の缶詰類、豚の内臓類は香港向けが79.3%、93.9%とそれぞれ大部分を占めた。
 2020年に台湾中央畜産会が実施した「台湾産豚肉および加工製品輸出奨励補助計画」は同年1月15日〜12月20日の期間で実施され、輸出奨励補助金は総額で5500万台湾ドル(2億2550万円)であった。補助対象となる輸出向け豚肉関連製品は台湾で生産される豚を原料とするもので、輸出品目、輸送方法、輸出先に応じて1キログラム当たり10〜80台湾ドル(41〜328円)が助成された。業者からは積極的な申請が行われ、20年の補助対象重量は計1769トンに達し、制度として良好な成果を収めた。
 この計画の輸出対象となった豚肉関連製品は大きく生鮮肉、加工品、豚の内臓類の3種類に分けられ、加工品はさらに加熱加工肉、中華風ソーセージ、洋風ソーセージ、台湾風肉団子、ポークフレーク、豚肉そぼろ、干し肉、豚足およびその他の製品などに分けられる。補助申請が最も多かったものは生鮮肉で、その重量は967トンと補助対象製品全体の54.6%を占めた。次いで、加工品の539トン(同30.5%)、内臓類の263トン(同14.9%)となった(図2)。輸出奨励補助の申請対象となった豚肉関連製品は、主に香港、日本、マカオ向けに輸出され、そのうち、加工品では香港向けは中華風ソーセージ(163トン、香港向け豚肉関連製品輸出量のうち40.8%)、肉団子(81トン、同20.2%)、ポークフレーク(47トン、同11.8%)が中心であり、日本向けは加熱加工肉(82トン、日本向け豚肉関連製品輸出量のうち59.3%)、中華風ソーセージ(24トン、同17.1%)、肉団子(12トン、同8.5%)が中心であった。
 畜産品は一般の工業製品とは異なり、輸出の際には衛生面で輸出先の条件を満たす必要があるほか、輸出入を行う前に双方の担当機関による検疫規定に係る協議や決定が必要となる。検疫過程においては各種申請や工場検査など多くの段階を経なければならず、経済的な問題以外にもさまざまな障壁が存在する場合があり、これらを一歩一歩クリアして初めて円滑な輸出入が可能となる。
 台湾中央畜産会では、21年初頭に輸出実績のある一部の加工業者を対象にオンラインによるヒアリングを行い、21年1〜4月の豚肉関連製品の輸出状況を取りまとめた。その概要を見ると、現在のところ豚肉関連製品では加工品が主に香港と日本向けに輸出されており、輸出割合は香港向けが38.0%、日本向けが34.9%であった。このほか、20年の奨励補助計画の実施時に申請されなかったシンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどが輸出先に加わっていた。また、21年1月5日付の中央通信社(台湾)の報道によると、フィリピンへの台湾産生鮮豚肉の試験的輸出が順調に行われたと発表されている。なお、本輸出に係る数量はわずかであり、フィリピン政府との間で台湾の生鮮豚肉の輸出手続きに関する正式合意に至ってはいないが、こうした動きは、豚肉関連製品の輸出拡大を目指す台湾の関連業者の意図が顕著に現れているといえる。




4 政府資源の提供で、養豚産業が再び国際的舞台で輝けるように〜輸出促進に係る行政の支援〜

 現在、台湾では行政院農業委員会が策定した「養豚産業百億基金計画」に基づき、台湾の豚肉自給率を9割以上に維持するとともに、養豚農家の収益が影響を受けないことを前提に、養豚産業や豚肉加工関連業者による積極的な輸出市場開拓を奨励し、輸出額を毎年20%以上引き上げることを目標に掲げた戦略的な輸出策を推進している。また、2021年も引き続き豚肉関連製品の輸出奨励補助計画を実施するとともに、種豚および肥育豚も補助対象となった。実施期間は21年2月1日〜11月30日を予定しており、国際的な経済・貿易状況、台湾の豚の生産・販売状況、経費使用状況などを考慮して、申請期間や予算を柔軟に調整するものとされている。台湾では古くから養豚産業が盛んであったことから、台湾の種豚などは暑さに対する耐性や肉質の面で、温帯気候で飼育された欧米の種豚よりも東南アジア諸国の環境に適している。世界的なアフリカ豚熱が終息した後に、東南アジアの国々が再び種豚の頭数回復を図る場合、台湾の種豚は高い競争力を有するものと期待され、政府や産業各界との協力により、台湾の養豚産業が国際市場で再び活躍できることを目指している。

5 事例紹介〜豚肉関連製品の輸出拡大に向けて取り組む台湾企業〜

(1)加熱済豚肉製品を取り扱う企業
嘉一香チャーイーシャン食品〜

 嘉一香食品は、古くから豚肉関連製品の輸出経験と実績があり、台湾で最も輸出意欲の高い企業の一つといえる。2007年には同社の屏東ピンドン工場(写真1)がシンガポール政府の旧農業食品・獣医庁(AVA:食品の安全規制を行う行政機関で19年に食品庁(SFA)に再編)の検査に合格し、台湾でシンガポール向け加熱済豚肉製品輸出が可能な唯一の工場を所有する企業である。11年1月には中国の公的な検査機関である国家品質監督検査検疫総局の検査にも合格し、中国への豚肉加工品の輸出・販売も可能となった。また、同年6月には、日本の農林水産省の検査に合格し、加熱済豚肉製品の日本向け輸出が可能となった。さらに21年4月には、屏東工場に併設されると畜場が行政院農業委員会のHACCP認証を取得し、台湾で初のHACCP認証を取得したと畜場となった。これにより同社は、輸出規模拡大の機会を獲得する上で有利な状況が整った。
 同社の陳国訓チングォーシュン董事長(写真2)によれば、現在の台湾の豚飼育頭数からすれば、口蹄疫発生前の輸出量と同水準まで拡大することは不可能であるが、台湾や輸出先の食習慣需要に合わせて、前足、直腸、レバーおよびその周りの食肉、ソーセージ用ケーシングのように台湾で不足する部位を輸入する一方、台湾で供給過剰な部位は輸出するという需給調整は可能であるとしている。例えば、豚皮はフィリピン向けに、内臓類はベトナムに、スペアリブはシンガポールに、ロース肉やヒレ肉は日本市場といったように、部位に応じた輸出先を選択するものである。しかしながら、どの品目でも豚肉関連製品を輸出するためには、まず、双方の検疫または衛生条件に関する交渉が必要であり、交渉が終了して初めて、売買交渉、販売促進、販路拡大が可能となることを念頭に置いておかねばならないとしている。
 
 


 
 これらの準備が整ったことで、同社の加熱済豚肉製品などはすでに日本やシンガポールに向けて安定して販売することが可能となっている。日本向けの製品は豚骨スープや雌豚の胎盤が中心であり、シンガポール向けはソーセージ、叉焼(チャーシュー)、東坡肉(トンポーロー:豚の角煮風)などの製品があるほか、シンガポール向け輸出が許可された18社の缶詰製品業者に対する原料肉の供給も行っている。なお、18社のうちの一部の業者は、すでにシンガポール向けの缶詰製品出荷を行っている状況にある。
 生鮮豚肉についても、同社は輸出事業を継続しており、20年にマカオに向けて出荷したほか、今後は、アフリカ豚熱の流行が深刻なフィリピンやベトナム、華人の消費需要が見込まれるブルネイやマレーシア、さらには、すでに加熱済豚肉製品の輸出が認められているシンガポールや日本向けもターゲットとする市場としている。同董事長は、「台湾は養豚生産のコストが高いため、冷凍豚肉は価格面で競争力が弱く、欧米やブラジルに対抗することは困難である。しかし、東南アジア向けの冷蔵豚肉や内臓類の出荷では、輸送距離も短く、空輸でも海運でも輸送が可能であることから、新鮮さを重視するこれら東南アジアの消費者向けには優位性があり、この分野こそ台湾の輸出の強みである」と分析する。
 例として、ベトナムでは豚の内臓が非常に好まれており、台湾で働くベトナム人労働者は、休日の前には、と畜場に行き、新鮮な内臓や豚の血を購入し、自宅で調理することがある。ベトナム向け輸出では海運を利用しても7日はかからず、冷蔵で鮮度を保つことが可能である。空輸となれば運賃はやや割高となるが、新鮮な豚の腎臓などの製品の輸送には適している。
 また、フィリピンでは豚皮が広く消費されており、マニラの街角では小さな屋台で串刺しの揚げた豚皮を売っているのをよく見かける。外国人観光客にとっては珍しい光景であるが、豚皮の揚げ物はビールにもよく合い、フィリピンの消費者にとっては日常的な食べ物である。同社は20年以上前にフィリピン人が豚皮の揚げ物を好んで食べることを知り、豚皮の輸出を行っていた。今後、台湾とフィリピンとの間での検疫手続に関し大きな前進が見られれば、豚皮のフィリピン市場向け輸出も再び日の目を見ることになるかもしれない。実際に、同董事長は、「世界で食用に輸出される豚皮はフィリピンに向かう。フィリピンの豚皮に対する好性と驚くべき消費力がよく分かる」と述べている。
 以上のように生鮮豚皮は長年フィリピンに輸出されていたが、生鮮豚肉にも輸出の機会はある(フィリピンでは時々焼肉に用いられている)。フィリピンは現在、アフリカ豚熱の流行が深刻で、豚肉が不足している上、生体豚の価格も1キログラム当たり120台湾ドル(492円)まで跳ね上がっており、豚肉のフィリピン向け輸出にとっては絶好の機会となっている。
 さらにシンガポールと日本市場について同董事長は、「加熱済豚肉製品の輸出のみならず、生鮮豚肉についても、台湾政府は輸出相手を招いて工場訪問の機会を設けるなど積極的な取り組みを実施し、台湾が豚熱のワクチン非接種清浄地域認定を受けた場合、正式に輸出を開始できるように準備をすべき」と述べている(写真3、4、5)。また、「生鮮豚肉の輸出は、加熱済豚肉製品の輸出より難易度は高いが、(台湾は)すでに口蹄疫の非感染地域となっており、HACCP認証を取得したと畜工場も有するため、様子を見ているだけで輸出を行えず、進展がないのは惜しい」と悔しさをにじませた。さらに、「台湾は豚の育種、飼育、豚肉加工技術についても優れており、欧米にも劣ることはない。輸出が困難なのは品質が他に及ばないからではない。政府には相手政府側の検疫障壁を突破してもらいたい。それができて初めて企業の努力が可能となり、台湾の優れた豚肉を輸出販売できるようになる」とも述べている。





 

(2)マカオ向け試験輸出を行う企業
栄騰ロントン農産〜

 2020年6月のOIEによる口蹄疫ワクチン非接種清浄地域の正式認定を受け、栄騰農産は同年7月、同社のブランド豚である「掛川完熟酵母豚」をマカオに向けて試験輸出した。1回目の輸出量はわずかであったが、同社の李敦仁リードゥンレン董事長(写真6)はこれを「砕氷」の旅であると考えている。台湾での口蹄疫発生以来、20年ぶりに生鮮豚肉が輸出されたことで、同社のみならず農政機関や台湾豚肉輸出の輝かしい歴史を見てきた食肉業者は、一堂にこの輸出を台湾の生鮮豚肉が国際市場に返り咲く前の第一歩だと感じている。
 同社は自社養豚場を所有しておらず、民間の養豚場と契約を結び、指定飼料と飼養方法を指示する形で養豚生産を行っている。豚は230日齢、生体重量125キログラムを超えるまで適切に飼育させた後、家畜取引市場を通さず、直接、外部のと畜場で処理し、と体を自社の加工場に搬入して分割・加工処理を行い、「掛川完熟酵母豚」のブランドで流通させている。この豚肉の特徴は、日本から輸入した酵母菌を用いた発酵で製造した飼料(写真7)を給餌しており、豚肉は独特のうまみを持つとされる。飼料の製造方法は日本で研究開発され、特許の登録をした技術を用いている。酵母菌の導入について美食家である同董事長は、2010年に東京を訪問した際、一番高価とされる掛川酵母豚肉を食してその味に驚嘆したことが、その理由だとしている。
 



 また、具体的な飼育方法については、飼料には人工化合物は用いずに、酵母菌と大豆、トウモロコシを混ぜて自然発酵させた飼料を豚に給餌した上で、飼育密度を低く維持し(一つの飼育スペースで15頭未満)、換気や適度な日照など、豚にとって良好な環境下で飼育している(写真8)。
 飼料が酵母菌による発酵を経たものであることから、比較的、生体豚の皮膚が健康的で、血液の循環もよく、精神的にも安定した豚の飼育が可能となっている。生産される豚肉は肉質が細やかで、滑らかな口当たりと新鮮で甘みのある味わいを持つ(写真9)。特に脂肪分布が均等であり、不飽和脂肪酸の含有量が一般の豚肉より高いなど、優れた品質が特長となっている。
 同社の豚肉は、台湾の高級飲食店のほか、電子商取引システム、デパートやスーパー、有機食品店などで販売されている。2020年7月から試験輸出が開始されたマカオ向けはすべて空輸であることから運輸コストは高いが、同董事長は、「冷蔵豚肉であって初めて有利な輸出が展開できると考えている。冷蔵豚肉は、距離が近く1時間で輸出可能なマカオで評価されており、品質に優れ、臭みもないため、カジノ内のレストランやその他の五つ星クラスのレストランやミシュランレベルの高級飲食店のシェフからも注目されることになるだろう。マカオ市場での主な競争相手はスペインのイベリコ豚となるが、イベリコ豚は冷凍輸入であるため、台湾は冷蔵豚肉の供給によって競争が可能であり、米国、カナダ、デンマーク、ブラジルといった低価格の豚肉とも競合せずに販売が可能である」と述べている。
 今後、マカオ以外への輸出について同董事長は、アフリカ豚熱やCOVID-19によって豚肉供給が不足している市場に進出する構想を持っており、相手国が台湾に来て工場調査を行い、検疫条件の協議を行うことになれば、輸出機会が生まれると考えている。