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調査・報告 畜産の情報 2022年4月号

酪農家のための働き方改革〜カイゼンへの取り組みとカイゼンチェックリストの活用〜

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公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 越後 比佐代

【要約】

 公益財団法人日本生産性本部は、日本中央競馬会畜産振興事業として「酪農家の働き方改革実証調査」および「酪農家の働き方改革簡易診断解決ツール(カイゼンチェックリスト)開発」を実施した。酪農家の働き方改革と生産性向上を目的とし、5S+1Sやムダ取りといったカイゼン手法を用いて調査を行った。5Sとは「整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketsu)、しつけ(Shitsuke)」。1Sとは「安全(Safety)」。調査事例をヒントに、「簡易診断解決ツール」を大いに活用し、まずは、すぐに実行できて、成果が見える「小さなカイゼン」から始めてみることが大切である。

1 はじめに

 酪農における乳用牛飼養戸数は、毎年、年率4%程度の減少傾向で推移している。一方、飼養頭数は、年率2%程度の減少傾向で推移していたが、2018年に増加に転じて以降は2021年も増加傾向にある。これは酪農家の集約化・大規模化が進んでいることを示す。この現象に伴い酪農家におけるマネジメントや従業員の労務面に関する課題が生じ始めている。人手不足が深刻化する第一次産業において、多くの経営者が「カイゼン」の考え方を取り入れた「働き方改革」に取り組んでおり、「カイゼン」による生産性向上は喫緊の課題である。農林水産省の「営農類型別経営統計」によると、酪農業務従事者の1人当たり年間労働時間(2019年)は、年間2094時間、肉用牛が1689時間となっており、製造業のみならず、畜産の他業種と比較しても長時間である(表)。
 私たち公益財団法人日本生産性本部は、2019年4月より2021年3月まで「日本中央競馬会畜産振興事業」として「酪農家の働き方改革実証調査」および「酪農家の働き方改革簡易診断解決ツール(カイゼンチェックリスト)開発」を実施した。酪農家の働き方改革に資するため、カイゼン手法を用いて計10件の酪農家で調査を行った。

2 カイゼンとは

 近年、「働き方改革」や「カイゼン」という言葉を耳にする機会は増えてきたが、その意味や具体的な内容を知る機会は少ない。「カイゼン」とは、生産性の向上を目的に、工程や作業の中のムダや危険な要素を見つけ出し、費用をかけずにそれを見直す活動の総称である。メリットは、(1)大型投資を必要とせずに効果を得られるため、経済的な余裕が少なくても取り組みやすい点(2)機械化と比較して成否を検証できるまでの効果が出るサイクルが短く、取り組みを柔軟にカスタマイズできる点である。カイゼン活動の中に「5S+1S」と「ムダ取り」がある。5Sとは「整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketsu)、しつけ(Shitsuke)」。1Sとは「安全(Safety)」を意味し、それぞれの頭文字Sをとって「5S+1S」としている。「ムダ取り」とは収益性と生産性を高めるために徹底的に業務を効率化し、付加価値を生まないムダを排除することである。付加価値を生まないムダは「七つのムダ:(1)加工のムダ (2)在庫のムダ (3)造りすぎのムダ (4)手待ちのムダ (5)動作のムダ (6)運搬のムダ (7)不良・手直しのムダ」と定義される。ムダの徹底的な排除によるコスト低減の達成に向け、「現場に潜む七つのムダ」を見つける目を持って、カイゼン活動に取り組むことが大切である。

3 酪農家の働き方改革実証調査

(1) 概要
 農林水産省の「畜産・酪農をめぐる情勢」によると、労働負担軽減に対する国の施策の方向性は、(1)飼養方式の改善(2)機械化(3)外部化の3点である。これらを「対象(人・牛)」と「活用リソース(既存・新規)」を2軸とした図(ポジショニングマップ)で表すと図1のようになる。この結果、空白部分(星印箇所)“既存リソースを活用して人を対象”に、ヒトに着目したカイゼン活動を通じた労働時間削減のアプローチを構築するために、モデル酪農家において(1)マネジメント体制、働き方などに関する課題を可視化し、(2)解決手段として5Sなどによる現場カイゼンを用いた経営カイゼンの導入効果を測定した。

 
(2) 内容
 まずモデル酪農家の1日の作業の流れをタイムチャート(図2)で可視化し、全体に占める各作業の比率を分析した結果、搾乳が55%と最も比率の高い作業であった(図3)。占有比率の高い作業に優先的に取り組むと効果を出しやすいため、搾乳作業がカイゼン重点志向の対象となったが、網羅性を高めるため、5S+1Sとムダ取りについても取り組んだ。



 
(3) カイゼン事例
ア  搾乳(5S)
 パラレルパーラーの場合、牛の乳量(搾乳時間)の個体差に起因する牛の手待ちが発生する。搾乳作業において付加価値を生み出すのは、搾乳牛にミルカーが取り付けられ、搾乳されている時間だけである。この手待ちのムダのカイゼン案(1)搾乳時間の長い牛に優先的にミルカーを取り付け、その牛の搾乳終了を少しでも早くする(2)搾乳時間の長い牛を一つのグループにまとめる。これを「赤ベルト作戦」と名付け、作業員が「搾乳時間の長い牛」が一目で分かるように牛の脚に赤ベルトを巻き可視化を試みた(図4)。この赤ベルトと(1)の「優先的に取り付ける」方法を併用して、導入前と導入後の搾乳作業の所要時間(1頭目の開始から最後の1頭の終了まで)を比較した場合、搾乳牛の頭数が12パーセント増加したにもかかわらず搾乳の所要時間に大きな変化はなく、1頭当たりの搾乳時間では約8.1%の時間短縮を実現することができた。
 

イ  施設整理(5S)
 牧場の作業は多岐にわたるため、さまざまな道具を保管する必要がある。これら道具類には、季節ごとに必要になるもの、年に数回しか使用しないものもあり、時として保管場所が不明確となる。また、不要と思われる道具についても、責任者が不明瞭で放置されてしまうケースがあるように見受けられた(図5)。

 
ウ  牛舎清掃(5S)
 牛舎清掃の際、図6の黄矢印のように中央から左右に掃いていたため、掃いた後に、赤矢印のように左右端から中央まで何も作業を伴わずに戻るという作業が発生していた。いわゆる「空運搬」である。ふんの重さにもよるが、図7のように、右から左、左から右に一気に掃き出すことが理想である。これにより空運搬のムダを削減でき、作業時間を短縮できた。これらは小さな作業だが、この酪農家では、この作業を一日に14カ所で行っているため、この空運搬の削減の積み重ねにより、多くの時間を節約できた。



 
エ  コンセント・配電盤などの設備(1S)
 パーラーとその周辺、牛舎周辺は土やほこりが散乱しやすい環境である。図8のような箇所がすべての調査対象酪農家で見受けられた。とりわけコンセント回りの対応不備は火災などの大災害につながる危険性が高くなる。

 
 安全性を確保するため、定期的な清掃ルールを定め、チェックシートを作成する。
(1)責任者が定期的に巡回し、電源回りの清掃状況とコンセントの半差しをなくす
(2)使用していないコンセントはコンセントカバーを取り付けるなどの清掃やリスク回避の対応が必要である。
 図9のように配電盤がむき出しの状態では、配線コードの劣化によって雨水の浸入や結露が発生し、配線がショートして発火する恐れがある。一般的に、火災で一番多い原因は火の不始末、二番目が電気火災である。電気は目に見えないため、火の不始末以上に注意した予防が大切である。電気系統を防水加工の施された金属製の器具箱の中に収めるのが最善の策だが、アクリル板で全体を覆うだけでも水の浸入を防止できる。
 
 
オ  設備特有の改善点(ムダ取り)
 ロータリー型やロボット搾乳の設備において発生するムダとして、「設備が稼働していない状態」が挙げられる。図10はロータリーパーラーに搾乳牛がいないまま回転している状態である。ロボット搾乳においても、設備が稼働している限り搾乳作業(=酪農における生産活動)が行われる一方で、ロボットが稼働していない時間が見られるという状態があった。設備の稼働が生産活動に直結する場合、可能な限り設備を稼働させ、なおかつ空の状態での稼働を避けることが重要である。


カ  利用設備の技術的習熟に伴い発生する改善点
 前述の「可能な限り設備を稼働させることが重要」と述べたが、私たちが調査したロボット搾乳を行っている酪農家においては、運用管理に不安があり、ロボット搾乳の稼働は業務時間中のみとし、なおかつそのロボットの運用・管理を行えるのがごく一部の人員という状況であった。特定スキルを有する人しか対応できないという設備や作業がある場合、その人の代替が利かず過度の負担をかけてしまうほか、万が一の場合に稼働できないという状態に陥ることを避けるために、特定の作業者しか管理・運営できない作業を抽出し、教育訓練の計画策定・実施をすることが必要となる。

4 簡易診断解決ツール(カイゼンチェックリスト)とその活用法

(1) 簡易診断解決ツール(カイゼンチェックリスト)
 チェックリストとは、製造業で一般的に用いられる管理ツールの一つで、確認事項を効率的に網羅的に漏れなく確認するための手段の一つである。費用をかけずに実践できるよう人の動線や物の動きに焦点を当てているのが特徴となる。また、大型投資を必要とせず、効果が出るまでのサイクルが短く、取り組みを柔軟にカスタマイズできるなどの利点がある。
 私たちは多様性、異なる問題・課題に対応できるように酪農家を(1)パーラーの形態(2)牛舎の形態 (3)幼牛舎の形態 (4)TMR(配合飼料)―の内外作の4項目を各項目2〜4タイプに層別して網羅性を確保することに努めた(図11)。
 ツールはチェックリスト形式になっており、(1)搾乳 (2)餌作り (3)牛舎管理(4)幼牛舎 (5)5S (6)安全―の六つの作業に分類し、さらに設備ごとに全115項目に分類した。各項目の冒頭では写真や図を用いて作業の理想の状態や作業のポイントを解説している。また、チェックリストの使い勝手を高めるため、リスト完成後に酪農家を再訪し、当該リストの使い勝手・改善点・感想などをインタビューし、その意見を反映させることによって、チェックリストの使い勝手および網羅性の向上を図った。

 
(2) カイゼンチェックリストの活用方法
 牛舎管理のチェックリスト(図12)を例として説明する。冒頭に項目「ムダの無い作業を行っている」。続いてムダの無い作業の理想の状態。理想の状態に対し「やってはいけないこと」とその対策がある。評価方法は〇△×の3段階で、〇=「やってはいけないこと」の作業ではなく、理想の状態に近い手順で行っている。△=「やってはいけないこと」に近いことを行っている。×=「やってはいけないこと」に該当する作業を実施している。

 
(3) カイゼンチェックリストの活用者
 酪農家、普及・指導員、酪農関係のコンサルタントなどの酪農関係者であれば誰でも活用できる。酪農家の場合、管理者が活用するのはもちろんだが、管理者とは異なる目線の評価となり得るので、従業員が活用するのも一案である。ここで重要なのは、従業員の評価を全員で共有することである。なぜそのような評価をしたのかを探ることで、カイゼンへの糸口が見つかるかもしれない。このチェックリストは酪農家、普及・指導員など使用者が状況に応じて内容をカスタマイズし、使用者にあったリストを作成することが可能である。例えば、評価を〇△×ではなく1〜5の5段階評価にする。その酪農家独自の作業がある場合は、その作業を項目に追加することもできる。設備がパラレル、フリーストール、外注TMRであれば、その項目だけを抽出したチェックリストにすることも可能だ。
 モノと人なら効率化という考えで割り切れるが、酪農の現場では単なる作業効率だけでは測りきれないことが多くある。作業時間を短縮しても品質が落ちては意味がない。生き物を相手にしている以上、数値目標として時間的な効率化だけでなく、「この作業を実践することでこれだけの疾病件数の減少が見込める」といった基準も考えられる。そういった側面を排除することなく、チェックリストを活用して酪農家が自ら取り組む働き方改革を実現できると良いと考える。

5 カイゼンのための五つのヒント

 酪農業に限らずすべての業界において、労働人口減少による人員の多様化が進んでいる。これまでのように「仕事は先輩の背中を見て学ぶ」や「従業員はみな同等のレベルであることを前提とした教育や運営ルールを設ける」ということだけでは人員の多様化に対応することが難しくなるだろう。最後にそのような多様化に適用可能なカイゼンのための五つのヒントを紹介する。

(1) 見える化
 見える化とは、必要な情報を現場でリアルタイムに見えるようにすることで、誰もが異常や問題にすぐに気付き、迅速に問題を解決し、再発防止策を打てるような仕組みをつくることである(図13)。「見える化」のポイントは以下3点となる。
●必要な情報を必要な人が必要な場所で見えるようになっているか?
●生きた情報か(情報が古くないか)?
●分かりやすい見せ方になっているか?(グラフ化などの工夫)
 また、ITの活用は一つの手段となるが、すべてをITに依存するのではなく、入力者の手間も考慮して絞った情報入力からスタートし、実感を得ながら段階的にIT化を進めるのがポイントである(図14)。

 

 
(2) マニュアル化
ア  メリットおよびデメリット
 前項の「見える化」で述べたように、従業員が多様化している環境では、作業の手順やルールを定めるマニュアル化がカイゼンの一つの手段として有効であり、熟練者、若手従業員、経営者(あるいは管理者)それぞれにとって、メリットを生み出す(図15)。
 一方、デメリットは、マニュアル作成の手間である。日々の業務に追われることが多い。熟練者の動きを映像に撮り、それを見ながらみんなで議論することから始めるのも一つの手段である。


 
イ  作成のポイント
 作業の手順やルールを詳細に記述したマニュアルは、誰でも同じ作業ができるようにすることを目的としている。そのため、経験の浅い従業員でも熟練者と同じように作業ができるように分かりやすく作成する必要がある。特に、その作業における留意点・注意点は、具体的にはっきりと記述することが大切である。作業マニュアル以外に、事故防止と安全についてのマニュアルも重要なため、ぜひ職場でそろえていただきたい。マニュアルは、カイゼンなどで作業が効率化された場合、それを順次反映して改訂することが重要である。

(3) 作業分担(シフト)
 酪農業は従業員が快適で働きやすい職場環境の整備が、従業員の確保と定着につながる鍵となる。長時間労働を減らし、休暇を取りやすい仕組みをつくることで従業員に満足をもたらし、チームワークや業務品質の向上(牛のストレス低減も含む)も実現できると考える。図16のように作業分担をしつつ従業員が計画的に休暇を取得できるようにするためには、それぞれの従業員ができるだけ多くの作業をできることが前提である。一つの作業に固執することなく、いろいろな作業を覚えてもらうことで、この仕組みの確立が可能となる。


(4) 提案制度とPDCAサイクル
 アプリや「カイゼン提案ボックス」を利用して、現場を一番よく知る従業員からカイゼンの提案を得ることは大切である。特に新しく入った従業員は新鮮な目でさまざまなことに気付いた場合でも、経営者や先輩従業員に直接言いにくいことがあるかもしれない。コミュニケーションツールを利用して、気付いたことを発信してもらう場を作り、発信された提案については、必ず経営者がコメントをし、従業員全員で議論・検討するよう心掛ける。このような提案制度の効果は、従業員のモチベーション向上にとどまらず、日ごろの作業に対する「気付き」を強化して、カイゼン点を掘り下げられるというメリットがある。
 また、カイゼン活動を行う際、PDCAサイクル(図17)の活用を勧めている。PDCAは、英語の「Plan, Do, Check, Act」の頭文字をとったものである。
(1)Plan「計画」:まず、カイゼン計画を立て、カイゼン施策を考える
(2)Do「実行」:次に、策定したカイゼン計画を実施する
(3)Check「評価」:カイゼン活動の進捗しんちょく状況をモニタリングし、終了後には結果を評価する
(4)Act「改善」:問題点があった場合は原因分析をし、次のカイゼン計画・カイゼン施策を考える
 このように繰り返しPDCAサイクルを行うことにより、カイゼンがどんどん進み、生産性向上、品質向上など、目指す経営目標に徐々に近づいていく。


(5) 経営者のリーダーシップと従業員のモチベーション
 カイゼンを推進するためには、経営者のリーダーシップが欠かせない。「カイゼンは経営課題の柱の一つ」と位置付けて、経営者が率先して従業員と一緒に進めることが極めて重要である。ここで二つのポイントを挙げる。

●ビジョンの共有:経営者が従業員にはっきりと牧場の方向性と姿勢を示すことが肝要である。これがリーダーシップにつながり、従業員のモチベーション向上にも影響する。
●経営者主導のパトロール:カイゼン活動を継続するカイゼン手法の根幹に「トップ主導のパトロール」と呼ばれる活動がある。経営トップは以下の点に注意することが大切である。

(1)「聞き流し」「聞きっ放し」にしないで必ず何らかの答えを与える
(2)「つまらないことを」などと軽視せず、訴えていることを理解する姿勢が重要
(3)小さなことをこまめに、できるだけその場で解決し、必要に応じて関係者を即時に現場へ召集し、問題への対処を指示する
(4)メモ帳を肌身離さず持ち歩き、思いついたことがあった場合にはすかさずメモする癖をつける
(5)記入したメモをポストイットで模造紙に貼り付けるなど見える化する

 カイゼン活動は、はじめに大きなカイゼンに取り組むのではなく、すぐに実行できて、すぐに成果が見える「小さなカイゼン」から始めることが大切である。特に重要なのは「カイゼン取り組みの見える化」である。

 なお、ここで紹介した「簡易診断解決ツール」を無償で提供している。ご希望の方は日本生産性本部経営開発センターまでご連絡下さい。