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話題/畜産の情報 2022年5月号

北海道オホーツク地域における 農作業安全に向けた取り組み

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オホーツク地区農作業安全運動推進本部

1 はじめに〜オホーツク地域の紹介〜

 オホーツク地域は北海道の北東部に位置し、オホーツク海と280キロメートルの海岸線で接しており、南北に80キロメートル、東西に200キロメートルの広がりがあります。面積は1万691平方キロメートル全道の12.8%、秋田県に匹敵する広さです(図1)。
 管内は自然的条件(気象・土壌)や経済的条件から大きく四つの地域に分けられ、南東部に位置する斜網しゃもう地域では大規模な畑作、中部に位置する北見地域では畑作・酪農のほか、日本一の生産量を誇るたまねぎなどの野菜生産、北西部に位置している東紋とうもんおよび西紋せいもん地域では、その冷涼な気候を生かし酪農と、それぞれの地域で特色のある農業が展開されています。
 令和2年の管内の乳用牛飼養戸数は809戸 と年々減少していますが、飼養頭数は11万 6736頭と近年増加しています。1戸当たりの 飼養頭数も拡大しており、元年の1戸当たり飼 養頭数は144.3頭と北海道全体の140.6頭をや や上回っています。飼養頭数の増加とともに生乳生産量は増加しており、2年度の管内の生乳 出荷量は60万3134トン(全道の14.5%)と なりました。
 


 

2 農作業事故ゼロキャンペーン

 農作業事故はひとたび発生すると農業経営に多大な影響を与えます。大切な担い手を失わないため、また地域農業の維持・発展を図るためにも、農作業事故の防止は非常に重要です。しかし、オホーツク管内では毎年400件前後の農作業事故が発生しており、農業従事者当たりの事故件数は北海道の平均を上回っている状況にあるなど、農作業安全に向けた取り組みが非常に重要となっていました(図2)。

 
 そこで、オホーツク地域では令和2年度から3カ年を「農作業事故ゼロ推進キャンペーン」の期間と位置付け、管内各産地での積極的な啓発活動を実施することとしました。管内の関係機関で組織する、オホーツク地域農作業安全運動推進本部(以下「地区本部」という)では、キャンペーンのキックオフイベントとして、2年8月に「オホーツク農作業安全フォーラム」を開催し、その中で「オホーツク農作業事故ゼロ宣言」の採択を行ったほか、このゼロ宣言を活用したポスターの作成、農作業安全宣言カードの管内全農家への配付を行いました(図3)。3年には管内の14農協の職員がラジオCMで農作業安全を呼びかけるなど、啓発活動を進めてきました。

 

3 オホーツク地域での家畜農作業安全に係る取り組み

前述の通り、オホーツク管内では年間約400件の農作業事故が発生している現状にありますが、そのうち約4割が畜産に起因するものとなっています。網走農業改良普及センター(以下「普及センター」という)が管内の事故の状況を調べたところ、毎年畜産農家の約7戸に1戸で家畜に由来する事故が発生しているという、非常に残念な事実が浮き彫りになりました。しかし、農作業事故に関する情報は、機械や耕種部門に関する資料が多い一方、家畜管理作業に特化した資料が乏しい状況となっていました。
 このような状況に鑑み、普及センターでは、平成30年から調査研究チームを立ち上げ、家畜農作業事故防止について、「一人でも多くの畜産農家が事故に遭わないこと」「事故は防げるという意識を醸成すること」を目標に3カ年の活動を行いました。

 (1)事例調査の実施
 普及センターでは、農作業安全に取り組む北海道内の農場3カ所の視察を行い、どのような取り組みがなされているかを調査しました。
 A農場では、「気性が荒い」、「すぐ人に寄って来る」などの牛を「注意牛」として表示する、牛の移動時にはマニュアルに沿って複数人で行うなど作業員の安全確保を行っています(写真1)。また、従業員休憩所内の自然に目に入るところに農作業安全に関する注意書きを掲示するなど、日ごろから農作業安全に努める雰囲気づくりが行われていました。

 
 B農場では、ミルクラインを地下に埋め込むなど配管が人に当たらないようにする、人の作業通路にもゴムマットを設置して滑らないようにするなど、農作業安全と作業の効率化が図られる作業環境が作られていました(写真2)。
 また、C農場では、「事故は誰にでも起こりうるものだが、起こったときにうやむやにせず、記録に残し、同じ失敗を繰り返さないようにする」ということを実践し、事故やヒヤリハットが起きたときにはヒヤリハット報告書を作成し、当事者がその内容を見つめ直すようにするとともに、役員がリスク評価をして農場全体に周知する仕組みとしていました。



(2)ヒヤリハット事例の収集とその対策
 事例調査から見えてきた対策の手がかりとして、事故事例や危険箇所の共有がありますが、一体、どのような危険が農場内にあるのかを明らかにしていくため、管内の農業者からヒヤリハットや実際に事故につながった事例のアンケートを実施しました。
 その結果、
・牛がぶつかってきた。牛に飛ばされてストールに顔面を強打した。
・ロープで牛を固定しているときに引っぱられていった。
・パーラーの搾乳終了後の掃除のときに太いホースを踏み倒し、足の甲を骨折した。
など、多くのヒヤリハットや、実際にけがをしてしまった事例が分かりました。
 こういった事故の情報を知ることは事故を防ぐことの第一歩となりますが、農場のどこに事故の危険性があるかは、それぞれの農場・畜舎の造りや作業手順でも異なり、自らが考えていくことが非常に重要となります。そこで、普及センターでは、農作業事故の防止に向けた「対策トレーニングシート」を作成しました(図4)。

 
このトレーニングシートは家族や従業員が話し合いながら、農場内や農作業での危険箇所を見つけ、その原因を探り、対策を考えて、それを行動に移していくことができるように作成されており、管内の各畜産農家での活用を呼びかけています。

 (3)事故防止に向けた作業環境づくり
 事例調査からは、事故を防止していくためには、意識の向上と合わせて、事故を防止する作業環境づくりの必要性も明らかとなっており、またトレーニングシート活用の目的は、農作業安全に向けた取り組みを実践していくこととなっています。普及センターでは、各農場段階の安全対策の実践を促していくために、具体的な実践事例や、事故防止に活用可能なグッズの紹介を行っており、以下、その一例を示します。
【事例1】パーラー内のハシゴが滑りやすくて危険。
対策: 滑り止めテープを巻き付けました!(写真3)
【事例2】つなぎ牛舎で牛の横に入り作業したら隣の牛に蹴られ骨折。
→ 対策:  牛頭を保定し作業スペースを確保しました!(写真4)

 


 
 
 
【安全グッズ1】
 チェストアーマー(バイク用として市販されている、胸部専用の保護プロテクター。牛に挟まれた・ぶつけられた時の胸部保護対策。写真5上)
【安全グッズ2】
 手甲ガード・足甲ガード、骨折防止のためのプロテクター。脱着が容易で軽量(写真5下)。
 


 
 
(4)啓発資料の作成・公開
 これまでに紹介した、事例調査結果や対策の事例の詳細なものは、令和3年3月に「家畜労働安全のすすめ」として取りまとめました(図5、6)。この家畜労働安全のすすめについては、先に作成していたトレーニングシートと合わせて、各種研修会などでその説明を行うほか、地区本部も協力し、管内の全畜産農家に配付するなど、その活用を促す取り組みを行っています。また、これらの資料は普及センターのホームページで公開(https://www.okhotsk.pref.hokkaido.lg.jp/ss/nkc/kankoukatikubousi.html)しています。
 




 

4 おわりに 〜農作業安全の取り組みの普及に向けて〜

 普及センターでは、これまでまとめてきた農作業安全に向けた取り組みについて、外部コンサルタントの意見を取り入れて、農作業安全に取り組んでいたホクレン訓子府実証農場で実践してもらいました(写真6)。
  その結果、「面倒でも安全が最優先。ケガをしないことが重要」「農場内や作業時の安全に対して意識するようになりました」といった意見をいただくなど、従業員が安心して作業に取り組めるようになったことが明らかになるとともに、労災ゼロが続くなど、目に見えた効果が続いています。


 
 これからは、管内の畜産農家に農作業安全に向けた具体的な取り組みを普及させていくことが重要となっています。普及センターではそのために、「家畜労働安全のすすめ」で紹介している農作業安全グッズを購入し、今後は各種研修会で展示・紹介することで、管内の農業者への普及を図ることとしています。
 オホーツク地域の令和3年度上半期の畜産分野の事故件数は87件とまだまだ多いですが、前年同期の92件からわずかではありますが、減少しました。今後、この件数をより減少させていけるよう、これまでの成果の普及をさらに進めていき、安全なオホーツク地区の農業を目指して、引き続き取り組んでいきたいと思います。