畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 飼料作における共同組織の展開と今後の課題 〜岡山県蒜山地域の苗代ロールベーラ組合を対象に〜

調査・報告 畜産の情報 2022年5月号

飼料作における共同組織の展開と今後の課題 〜岡山県蒜山地域の苗代ロールベーラ組合を対象に〜

印刷ページ
山陽学園大学 地域マネジメント学部 教授 横溝 功

【要約】

 わが国の純国内産粗飼料自給率は76%と、純国内産濃厚飼料自給率の12%と比較すると高い。今回、岡山県蒜山地域において、牧草を共同で収穫調製している共同組織を取り上げ、その歴史、組織、事業、経済効果について明らかにした。また、最後に、今後の課題と展開をまとめ、組合員3人の合議制がうまく機能していることを明らかにした。

1 はじめに

 スペインインフルエンザの世界的流行(パンデミック)以来、およそ100年目に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、われわれの生活を大きく変化させている。さまざまな商品やサービスの需要と供給に影響することで、価格は乱高下したり、需給がひっ迫したりする。例えば、不織布のマスクは、COVID-19発生直前には、国産が約2割、輸入が約8割であった。COVID-19によるマスクの需要曲線の上方シフト、輸入量の減少は、価格の高騰や品不足をもたらした。輸入量の減少は、今までマスクをする習慣がなかった欧米の人々をはじめ世界中でマスクを買い求めたことが大きな要因になっている。マスク不足の出来事は、いまだに記憶に生々しく残っている。特にマスクの場合、今や生活する上で必要不可欠な商品になっている。生活必需品の大半を輸入に依存することの危うさを、教訓として教えてくれたといえる。
 同じことが食料にもいえる。わが国のカロリーベース総合食料自給率は、令和2年度で37%である(農林水産省「食料需給表」)。供給熱量1人1日当たり2269キロカロリーに対して、国産供給熱量は同843キロカロリーにとどまっている。食料は人間が生きていく上で必要不可欠な商品である。マスクのように多くを輸入に依存することは、国民の食料安全保障を危ういものにする。
 さて、品目別供給熱量では、米の同475 キロカロリーに次ぐのが、畜産物(注1)の同408キロカロリーである。米の国産供給熱量は同467キロカロリーで98%と高い自給率であるが、畜産の場合、国産供給熱量は同64キロカロリーで16%と低い自給率にとどまっている。これは、周知の通り、輸入飼料部分を自給としてカウントしていないからである。ちなみに、2年度の純国内産飼料自給率は25%、純国内産粗飼料自給率は76%、純国内産濃厚飼料自給率は12%である(注2)
 CPTPP、EPAなどの自由貿易の下で、比較劣位にある農産物の自給率を高めることは至難の業といえるが、地道な取り組みは必要といえる。本稿では前述の純国内産粗飼料自給率(76%)に注目する。濃厚飼料と比べると自給率は高い。しかし、品質が安定していて、注文するだけで庭先まで届けてもらえる輸入の牧乾草に依存するのではなく、国産の粗飼料で代替する努力が、今後も必要なのである。本稿では、岡山県真庭市の蒜山地域に立地する飼料作の共同利用組織を取り上げ、共同飼料作の仕組みから得られる教訓を明らかにすることを目的とする。
(注1) 「肉類」「鶏卵」および「牛乳及び乳製品」の合計。
(注2) 農林水産省「食料需給表」―参考統計表「飼料需給表」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyukyu/index.html

2 苗代ロールベーラ組合の構成

 本稿で取り上げる飼料作の共同組織であり、任意団体の苗代なわしろロールベーラ組合(以下「組合」という)は、岡山県真庭市の旧川上村に立地する。蒜山ひるぜん地域は、真庭市の旧川上村、旧八束村、旧中和村、旧湯原町から構成されている。
 現在の組合は、酪農経営3戸で構成されている(表1)。長恒牧場が法人経営(有限会社)で、長恒充氏と大江健太郎氏が個人経営である(写真1〜3)。名字が同じ長恒であるので、両者を区分するために、以下では、法人経営を「長恒牧場」、個人経営を「長恒氏」と表記することにする。個人を特定する場合には、フルネームを用いることにする。
 

 令和3年11月16日に、おかやま酪農業協同組合(以下「おからく」という)の蒜山事務所にて、(1)長恒牧場・代表取締役の長恒泰裕氏、(2)長恒充氏の女婿の松尾竜太氏、(3)大江健太郎氏の3名に、今回の詳細なヒアリング調査にご協力いただいた(写真4)。3名は、30歳代と若く、地域農業のリーダーでもある。
 なお、長恒泰裕氏の父親の泰治氏は、おからくの代表理事組合長であり、長恒充氏は、蒜山酪農農業協同組合(以下「蒜山酪農協」という)の代表理事組合長である。それぞれ常勤で、専門農協の運営に従事しているため、酪農経営や組合の運営は、彼らの息子や女婿が主に担当している。
 蒜山地域はジャージー種の飼養で有名であるが、組合員の中でジャージー種を飼養しているのは大江氏のみで、長恒牧場と長恒氏はホルスタイン種を飼養している。

 
 
  

  
 

3 苗代ロールベーラ組合の前史

 組合の歴史について見ていく。昭和48年に、大江健太郎氏の祖父の英昭氏ならびに父親の謹治氏と、近隣の大江尚志氏で、組合の前身である苗代飼料生産組合を開始した。同年の秋は、第四次中東線戦争が始まり、OPEC加盟の産油国が原油価格を大幅に引き上げ、イスラエル支持国に対して石油禁輸を実施した時期でもある。この時期を契機に、わが国の経済は、高度経済成長から安定経済成長に移行している。
 大江健太郎氏によると、当時、国や県の事業で牛舎を建設し、2戸の酪農経営において乳牛を増頭した。そのため、飼料の増産が必要になり、苗代飼料生産組合を立ち上げたとのことであった。なお、一般社団法人岡山県畜産協会の資料では、以下の通り記述されている(注3)

 「苗代飼料生産組合は、昭和53年、酪農経営における飼料作物の共同作業により、効率的な生産及び利用の促進並びに粗飼料流通の活性化を図る目的で、組合員10名をもって設立された。その後、入脱退があり、現在5名の組合員で成り立っている。
 従来の方法では牧草の収穫最盛期が多雨のために良質乾草の大量調製が困難な場合が多く、このような状況を解消するため、平成2年度に、天候の影響が少なく、不安定な天候下においてもわずかの晴れ間を利用した草の収穫調製が可能なロールベールサイレージ体系を導入し、省力で良質な粗飼料の生産・確保を図った。
 作付面積は5人の組合員の土地および村からの借地の約53ヘクタールである。飼料作物はチモシー主体の混播牧草とトウモロコシの栽培を実施している。トウモロコシはサイレージに、チモシー主体の混播牧草はロールベールサイレージと乾草に仕向けている」
 
 以上のことから、昭和48年に2戸の酪農経営による飼料生産の共同利用でスタートし、高額な飼料生産の機械を個人で所有することが難しいと判断した酪農家が徐々に共同利用に参加していったことが類推される。最盛期には、組合員が10名になり、現在、3名になっている。また、平成2年度には、現在のロールベールサイレージ体系が確立されていることが分かる。なお、現在、組合が栽培しているのはチモシーのみで、トウモロコシは栽培していない(写真5)。

(注3) 社団法人岡山県畜産会『平成10年度 新時代酪農ファーム確立調査事業 付属書』(平成11年3月)T1.(1)8)オ)飼料生産の共同利用
http://okayama.lin.gr.jp/tosyo/h10sinjidai/h10sinjidaiattached.pdf

4 苗代ロールベーラ組合の組合員の経営規模と生乳生産

 表1に戻ると、長恒牧場の基幹労働力3名、常時雇用1名の4名が、毎日の牧場での労働に従事していることになる。経産牛(搾乳牛と乾乳牛)飼養頭数は126頭と大規模である。令和3年2月1日現在の岡山県の乳用牛飼養戸数は216戸、経産牛飼養頭数は1万2400頭であるので、1戸当たりの経産牛飼養頭数は57.4頭である(農林水産省「畜産統計」)。長恒牧場の経産牛飼養頭数は、岡山県平均のそれの2倍以上であることが分かる。
 同県全体の成畜(2歳以上の未経産牛を含む)飼養頭数規模別の飼養戸数を見ると、100頭以上規模は18戸である。前述の乳用牛飼養戸数に対する割合は、8.3%に過ぎない。従って、長恒牧場は、岡山県の酪農経営では大規模階層ということになる。
 また、長恒氏および大江氏は、基幹労働力2名が、毎日の牧場での労働に従事している。経産牛飼養頭数は、それぞれ45頭、49頭と同県平均を下回っている。ただし、同県全体で成畜飼養頭数が50頭未満の経営体は155戸であり、全飼養戸数に対する割合は71.8%にもなる。なお、このうち30〜49頭規模層は65戸で、全飼養戸数の30.1%を占めている。それ故、両氏は岡山県では中よりやや大きい階層といえる。
 表2は、組合員の牛群検定の成績と、岡山県のそれを比較したものである。長恒牧場も長恒氏も、同県のホルスタイン種の平均値と比較すると、長恒氏の乳脂率を除いて上回っていることが分かる。特に、乳量に関しては、長恒牧場で約900キログラム、長恒氏で約500キログラム、それぞれ同県平均を上回っていることが分かる。
  大江氏も、同県のジャージー種の平均値と比較すると、乳脂率を除いて上回っていることが分かる。乳量に関しては、同県の平均を約300キログラム上回っていることが分かる。

5 苗代ロールベーラ組合の粗飼料調製

 組合で行っている共同作業は、牧草(チモシー)の(1)集草(2)梱包(3)運搬(4)ラッピング―である(写真6〜9)。それ以前の堆肥の散布、播種はしゅ、鎮圧、刈り取り・反転は、個人での作業になる。なお、チモシーは、寒冷地の多年生の牧草で、従来、5年に1回程度の更新で草量が維持された。しかし、最近では夏期の高温の影響もあり、夏枯れにより、数年に1回程度の更新が必要になっている。
 図1で、赤字で記した農機具が、組合で共同利用しているものである。なお、ツインレーキとロールベーラは2台所有している。それ以外の農機具は1台である。任意組合のため、5種類の農機具は、個人名義で所有している。最近になって購入した農機具は、ツインレーキ1台、ロールベーラ1台、ラッピングマシーン1台である。ツインレーキは令和2年、ロールベーラとラッピングマシーンは平成30年に、それぞれ補助事業を活用して導入した。
 


  
  



 (1)の集草で、「シングルレーキで寄せる」作業を行う三牧氏は和牛の繁殖経営で、組合の准組合員のような立場にある。また、長恒泰裕氏が、ツインレーキでウィンドロウ(注4) を作る。
 (2)の梱包は、大江健太郎氏がロールベーラで行う。
 (3)のロールの運搬では、組合員の家族やアルバイトが活躍する。
 (4)のラッピングは圃場ほじょうで行うのではなく、ロールを各農場に運搬した後に、松尾竜太氏が、ラッピングマシーンを利用して行う。

 (注4) 刈り取りされた牧草を、梱包しやすいように列状にしたもの。
 
 収穫されたロールの個数は、表3の通りである。ロールは1番草から3番草まで収穫される。令和2年には、全部で1255個のロールを収穫したことになる。ロールは、年によって変動はあるが、10アール当たり約2個収穫できる。ロールの大きさは、高さ120センチメートル、幅が150〜155センチメートルで、重さは水分含量によって異なるが1個当たり750〜950キログラムである。
 飼料作面積は、3戸の合計で89ヘクタールにもなる。前述の岡山県畜産協会の資料では、平成10年ごろの組合員5戸で53ヘクタールであったので、その当時より戸数は3戸に減少しているが、面積を約36ヘクタール増加させていることが分かる。
 なお、当該資料に「村からの借地」と記載されているが、旧川上村および旧八束村のことである。現在は真庭市と合併していることから、同市から土地を借りている。なお、この同市からの借入地の面積は3戸合計で34.2ヘクタールにのぼり、借入地全体の約42%を占める。大規模草地の借地料は、旧川上村が10アール当たり4000円、旧八束村が10アール当たり3000円である。
 

6 苗代ロールベーラ組合の会計管理

 組合の会計は長恒充氏が担当していたが、令和元年に同氏が蒜山酪農協の代表理事組合長に就任したことを契機に、長恒泰裕氏に交代した。
 まず、組合の収入から見ていくことにする。各組合員は、自家で用いるロール1個に対して2300円を組合に支払う。ただし、小さいロールが出来た場合は、1700円を支払う。表3から、令和2年のロールの個数はトータルで1255個であったので、約289万円の収入になる。
  次に、支出について見ていくことにする。出役の報酬は、和牛繁殖農家の三牧氏に対して、1日当たり1万5000円を支払う。アルバイトに対しては、同9000円を支払う。なお、組合員の場合、基本的に2人出役することを想定しており、3人目が出役した場合には同5000円を支払う。すなわち、専門農協の代表理事組合長を務める長恒泰治氏と長恒充氏は、土日に出役しており、これが3人目の出役に該当する。また、ロールベーラをけん引するトラクターは個人所有のため、ロール1個当たり200円をトラクター使用料として所有者の長恒氏と大江氏に支払っており、令和2年の総額は約25万円になる。
 長恒泰裕氏によると、以上の設定で、収支のバランスが取れているとのことであった。また、組合の収支を記帳するのではなく、預金通帳に収支を印字することで管理がなされている。それ故、会計担当の負担が大きく軽減される仕組みになっている。また、図1の(2)梱包、(3)運搬、(4)ラッピングの個数を毎日、整合させている。
 前述のように、当該組合の収入が約289万円、支出も約289万円とすると、約25万円のトラクター使用料を控除した約264万円が、三牧氏、アルバイト、3人目の出役に対する報酬ならびに共同の農機具のリース料ということになる。
 ロールの重量は750〜900キログラムであるが、平均800キログラムとすると、組合員がロール1個に対して2300円を組合に支払うので、1キログラム当たりでは約2.9円ということになる。
 なお、ロール(2番草以降)は蒜山地域で売買もされている。すなわち、市場価格が存在しているのである。全国酪農業協同組合連合会(以下「全酪連」という)の瀧本慎也氏によると、現物価格で1キログラム当たり10円とのことであった。ロールの販売に係る手数料を考慮せず、市場価格=製造原価と仮定すると、組合では、製造原価の約29%を収支管理していることになる。

7 ロールの経済評価

 次に粗飼料(ロール)を自給する経済効果について考察する。表4の通りである。計算に当たっては、全酪連の瀧本慎也氏から全面的なご協力をいただいた。組合員の3戸は、粗飼料として自給のロール以外に輸入乾草を給与しており、長恒牧場がオーツヘイ・アルファルファ、長恒氏がアルファルファ、大江氏がスーダン・オーツヘイ・アルファルファをそれぞれ利用している。

 
 ロールと輸入乾草の乾物給与量から、粗飼料自給率(A)を計算したところ、長恒牧場が約43%、長恒氏が約83%、大江氏が約39%であった。なお、ロールの現物価格は、前述の通り1キログラム当たり10円と仮定し、含水率が40%であるので、10円を0.6で除して乾物価格16.7円と算出している。輸入乾草についても、同様の計算により算出している。
 搾乳牛1日1頭当たり輸入乾草削減効果(B)は、長恒牧場が約240円、長恒氏が約530円、大江氏が約200円であった。(B)の値に、表1の搾乳牛飼養頭数と365(日)を乗じたものが、年間1経営当たり輸入乾草削減効果(C)である。長恒牧場で約900万円、長恒氏で約700万円、大江氏で約300万円の経済効果があり、3戸の合計では1900万円にも上ることが分かる。
 本稿の冒頭でも述べたように、輸入乾草は、確かに品質が安定しており、注文すると庭先まで届けてもらえる。飼料作の労働負担を軽減できることから、酪農経営にとって、輸入乾草を利用するメリットは大きい。わが国の純国内産粗飼料自給率が76%にとどまっている理由でもある。
 しかし、輸入乾草に100%依存するのではなく、自給飼料の割合を高めることによって、(C)のようなコストの削減につなげることができるのである。ただし、この組合のように、乳牛の飼養管理に影響しない、効率的な粗飼料生産のシステム構築が求められるのである。また、90ヘクタール近くにも上る飼料作面積の活用によって、高額な収穫調製機械の導入に伴う固定費を削減することも肝要である。
 なお、図2は、組合員が利用している輸入乾草のうち、スーダンとアルファルファの1キログラム当たりの価格推移を見たものである。データの表示期間(平成25年4月〜令和3年12月)の平均価格はスーダン52.0円、アルファルファ64.2円であり、標準偏差はスーダン2.96円、アルファルファ3.89円である。変動係数(標準偏差÷平均価格)は、スーダン5.7%、アルファルファ6.1%である。注目すべき点は、両者が連動した価格推移を見せており、令和2年12月からいずれも上昇傾向にあることである。
 なお、全酪連によると、全米最大のコンテナ取扱数量を誇るロサンゼルス港およびロングビーチ港における沖合でのコンテナ本船の滞船や、ターミナルへのコンテナ搬出入を待つトラックの混雑はいまだ解消せず、日本への商品の輸送が遅延している(注5)。日本向けにアルファルファやチモシーが多く輸出されている北米西岸航路(PNW航路)でも状況は悪化しているとのことであった。このことが、輸入乾草の安定供給とフレイトに大きな影響を及ぼしている。
 また、輸入乾草の日本での庭先価格に影響するのが為替レートである。すなわち、円安になると輸入乾草の庭先価格を上昇させることになる。
 今後、輸入乾草の価格がどのように推移するか将来を見通すことは難しいが、現状のように価格が高騰している状況では、粗飼料の自給割合を高めることは、酪農経営にとって重要な戦略といえる。
(注5) 全国酪農業協同組合連合会「輸入粗飼料情勢」(https://www.zenrakuren.or.jp/members/shiryo/yunyu/

8 今後の課題と展開

 組合は、昭和48年の2戸の酪農経営における設立から半世紀近くが経過しようとしている。最盛期には10戸の酪農経営が参加していた。現在は、若い3名の酪農家が組合員となって、飼料作の共同組織を展開している。このような取り組みが、近隣の地域に新たな共同組織を生み出す契機になっている。これは正しく、地域への波及効果といえる。
 さらに、現在89ヘクタールの飼料作面積であるが、令和4年に新たに0.6ヘクタールが追加される。組合の活動は、地域の土地資源の有効利用につながり、耕作放棄地の抑制にもつながっている。
 今後の課題として、夏期の高温の問題が挙げられる。従来、チモシーの2番草はお盆前に刈り取りを行っていたが、3年は、猛暑と長雨の影響により8月29日と30日に刈り取った。
 ただし、2番草の刈り取る時期を遅らせたことによって、3番草の収量を維持できた。もし、従来通りお盆前に2番草を収穫していたら、チモシーの生育に悪影響をもたらし、3番草だけではなく、翌年の1番草にまで影響することになったとのことである。
 チモシーを刈り取る時期、具体的にはその高さをコントロールすることが、収量維持のために肝要であることが分かった。ヒアリング調査では、3戸が集まる強みは、話し合いによって、刈り取りのタイミングを見極めることができることにあると強調されていた。
 従来、苗代地区には酪農経営が多く、個々の農家間のつながりが強かった。その土壌の上に、苗代ロールベーラ組合が展開してきたといえる。現在の組合員は、年齢が30歳代と若く、地域のリーダーの役割も期待されている。彼らは、共同組織が長く続く仕組みとして、毎日の作業後のミーティングを挙げていた。その中身に、以下の項目が含まれている。
 (1)その日の作業の反省
 (2)ロールの個数の確認
 (3)翌日の作業の開始時間を合わせる

9 おわりに

 以上から、苗代ロールベーラ組合の優れた運営の仕組みを要約すると、第1に、粗飼料生産の全工程を共同化するのではなく、規模の経済が働く、収穫・調製作業に絞っている点が挙げられる。第2に、そのために会計計算を簡素化でき、会計担当の負担を極限にまで減らしていることが挙げられる。第3に、組合員のコミュニケーションが、相互の信頼関係の構築につながっていることが挙げられる。
 最後に、粗飼料の収穫調製作業は、天気との勝負でもある。図1のような作業を効率よく行うためには、全員の行動を誰かがコントロールしなければならない。若い3名の組合員が、おのおのの考えをよく理解し、収穫調製作業では司令塔としての役割を果たしていることが、大きなポイントといえる。3名の合議制がうまく機能しているといえるのである。

謝 辞
 本稿を作成するに当たり、有限会社長恒牧場・代表取締役の長恒泰裕様、松尾竜太様、
大江健太郎様、おかやま酪農業協同組合・津山支所・蒜山事務所所長の山本恭子様、一般社団法人岡山県畜産協会・経営支援部・調査役の池見亮様、全国酪農業協同組合連合会・大阪支所・中四国事務所の瀧本慎也様には、多大なご協力を賜りました。ここに深甚なる謝意を表します。