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話題 畜産の情報 2022年9月号

農作業で健康長寿〜農福連携がもたらすさまざまな社会的影響〜

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東海大学文理融合学部経営学科 教授 濱田 健司

1  はじめに

 農福連携とは、農業と福祉を連携させた取り組みであり、具体的には障害を有する人々が農業生産の現場で働くことを意味する(これを狭義の農福連携という)。ここでの主な目的は、労働力や担い手が不足する農業現場の課題を、より高い賃金で働く場を求めるという課題を抱える障害者が地域に出て解決することだ。
 つまり、農業サイドと福祉サイド双方の課題解決を図るというものである。従って、ここで期待されることは、労働力・担い手の確保と就労先あるいは就労訓練先を開拓し、マッチングしていくということになる。
 こうした農福連携の取り組みは、近年、急速な広がりを見せている。令和2年度末現在、農福連携に取り組む農業経営体数は2121(約108万経営体中)、就労継続支援A型事業所(注1)数は452(3633事業所中)、就労継続支援B型事業所数(以下「事業所」という)は1949(1万2524事業所中)であり、その他企業や農業協同組合なども取り組んでいる。

 (注1)就労継続支援事業所は、障害者が支援を受けながら就労や就労訓練を行う施設のこと。A型は雇用契約を結ぶ形態でB型は雇用契約を結ばない形態に分類される。
 
 特に障害者の就労を支援する事業所が、自ら所有もしくは借りた農地で農業生産を行っている。また、最近広がっているのが農業経営体から農作業を受託するものである。事業所は農業経営体と作業請負契約を結び、作業の一部を受託し、事業所の障害者とスタッフが作業を行うというものである。
 反対に、これは農業経営体が事業所に委託するものであることから、農業経営体の主たる取り組みとなっている。一部の農業経営体において障害者を直接雇用するところもあるが、雇用のためにはいくつかのハードルがあることから、作業委託の方が取り組みやすいと言える。

2 農福連携が社会にもたらす影響

 農福連携によって、農業サイドには労働力や担い手の確保になるだけでなく、次のような効果が認められている。(1)経営耕地面積の増加(2)農業所得の増加(3)農業経営体の農作業以外の作業に割り当てる時間の増加(4)作業の見直し─につながることだ。
 農福連携に取り組んだ農業経営体の農地面積が4年間で25%増加し、農業所得については5年間取り組んだ農業経営体のうち、実に78%が増加している。また、57%の農業経営体が営業などの農作業以外に割り当てる時間が増えた。さらに、42%の農業経営体は作業の見直しにより効率の向上につながったとしている(日本基金『平成30年度農業と福祉の連携による社会的効果に関するアンケート調査』)。
 福祉サイドにとっては、障害者の新たな職域の開拓の他、身体・精神の状況や障害の改善、さらには就労訓練や地域住民との交流などにつながったことが認められている。
 農業活動に取り組んだことによる障害者への効果について事業所の職員のうち、13%が身体障害の状況について、26%が知的障害または精神障害の状況について改善したと回答している(日本セルプセンター『農と福祉の連携についての調査研究報告書』(平成26年))。また、その他に48%が就労訓練につながった、38%が地域住民と交流が出来るようになった、33%がコミュニケーションの向上につながった、32%が障害者が自分に自信を持てるようになったということである。
 障害者が農業生産に従事することで、労働力や担い手が確保され、耕作放棄の予防になるだけでなく、農地面積を拡大することとなり、その結果、農業所得を増加させるまでに至っている。また、作業の流れ、作業の方法、道具の工夫、情報共有の工夫など障害者が働きやすい職場に改善することで、結果として誰もが働きやすい職場となり、作業効率の改善につながっている。障害者にとっても単に就労や就労訓練の場になっているだけでなく、地域に出ることで、地域の障害者に対する理解の促進、新たな出会いの創出、コミュニケーション力の向上にもつながっている。さらには障害の程度が改善するという効果までみられている。
 このように農福連携の取り組みは、農業活性化や農作業改善、障害者の障害などの改善、職域開拓や地域共生などを実現するものとなっている。

3 高齢者と農福連携

 農福連携の「福」の広がりとして、高齢者の農福連携への取り組みが今後期待されている(図1)。
 

 
 わが国は急速に高齢化が進み、現在、65歳以上の人口は3621万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.9%となっている(2022年版『高齢社会白書』)。22年後には3900万人を超えると予想されている。こうした中で、心身に慢性的な疾患や障害などを有し、介護を必要とする高齢者は690万人以上となり、今後もますます増加していくと言える。
 特に中山間地域や一部の都市地域などにおいては、少子高齢化や過疎化によって、高齢者の生活そして地域の維持が困難な状況になっている。そうした中で、高齢者が自分らしい人生を最後まで送ることができるようにすること、同時に地域の維持あるいは活性化が求められている。また、これまで高齢者は、介護や医療サービスなどを受ける対象と位置付けられてきたが、今後はそれらのサービスを受けながらも家庭や地域に役割を持ち、貢献することが期待される。
 こうした中で高齢者の「農業活動」、広義の農福連携の一つである「高齢者の農福連携」への取り組みが期待されている。
 この「農業活動」は三つに分類される。(1)農産物の生産により生活をしていくための「農業」(2)農産物を生産し対価を得るが、健康づくり・生きがいづくり・社会参加などが目的となる「ゆるやか農業」(3)農産物を生産し、健康づくり・生きがいづくり・社会参加・リハビリテーション・レクリエーションなどが目的となる「農的活動」─がある(報酬を得ても良い)。
 今後は高齢者による「ゆるやか農業」と「農的活動」の取り組みが重要となる。生活の収入を得ることを目的とした農業ではなく、趣味や生きがいづくりなどとして農業を行ったり、あるいは農業を通じてレクリエーションやリハビリテーションなどにつなげるというものである。
 この「ゆるやか農業」と「農的活動」には四つのパターンがある(濱田健司「高齢者の農福連携に関する取り組み実態および類型化」『共済総合研究』(第81号2020年9月)(表)。
 (1)リタイヤした元農業者やリタイヤしようとしている農業者が一部の作業を手伝ってもらったり、農業法人などで雇用してもらい個人で行うより気楽に農作業に従事するという「リタイヤ農業者型農業」(2)農業未経験者や農業に主として従事していなかった定年退職者・帰農者などが就農する「定年退職者型農業」(3)介護予防・日常生活支援総合事業(注2)における農的活動(・ゆるやか農業)に利用者などが参加する「介護予防型農的活動」(4)介護サービス事業の利用者などが介護サービスの中で農的活動(・ゆるやか農業)を実施する「介護サービス型農的活動」─がある(図2)。

(注2) 高齢者が要介護状態にならないように市町村・地域で要支援者や高齢者に対して計画的に提供される、介護予防や生活支援の事業のこと。
 
 つまり、高齢者の農福連携はレクリエーション・リハビリテーション・健康づくり・生きがいづくり・介護予防を実現し、高齢者が役割を果たすことを目指すものである。




4  これからの期待と普及

 障害者の農福連携は、農業生産だけでなく加工・販売などの六次産業化、つまり「農福商工連携」の取り組みが期待される。さらには畜産現場での取り組みも期待される。なぜなら、養鶏については一部で行われているが、牛や豚や馬などの飼育の現場での取り組みはまだまだ少ないことから、障害者が飼育現場でのヘルパーなどの労働力や担い手の不足の課題解決に関わることで、就労や就労訓練そしてアニマルセラピーなどの機会創出につなげることが出来るからである。
 これにより障害者はより多くの働く機会を見出し、障害者がより地域の中へ入っていくこととなる。またより高い賃金確保につなげていくことも可能となる。従って、既存の農福連携の全国への普及だけでなく、農福商工連携や畜産分野での取り組みの普及さらには、これらの分野において一般就労=雇用を目指すことが期待される。
 高齢者の農福連携の普及については、「高齢者の農福連携」「ゆるやか農業」「農的活動」の周知、さらには前述した四つのパターンについての事例を増やすための意識啓発が求められる。
 障害者にとって、農福連携が心身や障害の改善、地域交流促進などの効果があるということは高齢者にとっても同様である。さらには生活困窮者や生活保護受給者、元受刑者などにも同様の効果が期待される。これからはこうした人々が社会参画することで、地域の経済や社会を支えることも可能となろう。今後、狭義の農福連携から「福」を広げた広義の農福連携への広がりに期待したい。

(プロフィール)
1969年生まれ
東海大学文理融合学部経営学科教授。東京農業大学大学院修了。博士(農業経済学)。全国農福連携推進協議会会長(現・一般社団法人日本農福連携協会顧問)、国土交通省国土審議会特別委員、農林水産省農林水産政策研究所客員研究員、一般社団法人JA共済総合研究所客員研究員、農福連携等応援コンソーシアム有識者、ノウフク・アワード審査委員などを務める。
 農林水産省、厚生労働省、法務省を橋渡しするなど農福連携の最前線で活躍。日本各地で講演・アドレスし、農福連携の先を見据え、新たな「里マチ」づくりへと結びつく農福商工連携、農福+α連携、農生業(のうせいぎょう)の可能性を求めて奮闘中。障害者のほか生活困窮者、引きこもり、高齢者、出所・出院者などの人々が抱える問題解決にも取り組み、現場と政策をつなぎ、多様な「いのち」が役割を果たし共生・共育する「五方良し」の社会システムの構築を目指している。