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話題 畜産の情報 2023年2月号

官民共同の理解醸成運動 「牛乳でスマイルプロジェクト」について

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農林水産省畜産局牛乳乳製品課 課長補佐 三原 亙

1 牛乳でスマイルプロジェクトとは?

 農林水産省と一般社団法人Jミルク(以下「Jミルク」という)が2022年6月に立ち上げたプロジェクトです。
 このプロジェクトは、酪農・乳業関係者のみならず、さまざまな企業・団体・自治体など官民から幅広い参加者に加わっていただき、共通ロゴマークにより一体感を持って、さらなる牛乳乳製品の消費拡大に取り組むものです(図1)。
 
図1 牛乳でスマイルプロジェクトのロゴ
                            資料:農林水産省作成
                               注:商標登録第6628760号
 
 また、本プロジェクトを通して、国民の健康的な食生活に貢献し、わが国における牛乳乳製品の安定供給など、社会をより良くするための取り組みにつながるよう、参加企業などとともに取り組んでいきます。
 これまで農林水産省では、参加者同士のコラボレーションを促すための「交流会」の開催や、22年冬の参加者の活動計画をとりまとめて公表するなどの活動をしました。
 Jミルクのホームページ(以下のQRコード)から簡単な申し込みをすれば、本プロジェクトのメンバーになることができます。メンバーへの参加資格は、自治体や法人(事業内容不問)、食に係る活動をする個人など、極めて幅広いのが特徴です。

 
 「Jミルク 牛乳でスマイルプロジェクト」
https://www.j-milk.jp/news/h4ogb40000009qbz.html

 メンバーになると、以下のメリットがあります。
(1)ロゴマークを無料で使える。
(2)他のメンバーと交流する「交流会」に参加できる。
(3)農林水産省のウェブサイトにメンバーとして掲載される。
 1月13日現在、266の企業などがメンバーに加入しています。
 メンバーの一覧は以下のQRコードからご覧ください。

 
 「農林水産省 牛乳でスマイルプロジェクトメンバーのご紹介」
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/gyunyu/lin/project_member.html
 

2 立ち上げの経緯

(1)21年の年末年始に生乳廃棄の懸念
 2021年12月、生乳生産量が乳業工場で受け入れできる数量を超えて生乳5000トンが廃棄される恐れがあるとの報道が出ました。当時は、岸田文雄総理大臣や金子原二郎農林水産大臣、野田聖子内閣府特命担当大臣などによる牛乳消費の呼びかけや、農林水産省公式YouTube「BUZZMAFF」での同省職員による牛乳消費への協力のお願いをしました。
 その結果、多くの民間企業や自治体、SNS上などでさまざまな取り組みがなされ、21年12月と22年1月の牛乳消費量は新型コロナウイルス感染症拡大前に比べて4%程度増加しました。この年末年始の牛乳を窮状から救おうという消費行動は、「応援消費」とも呼ばれました。
 加えて、酪農家による生乳の出荷抑制や乳業メーカーによる最大限の乳製品生産など、酪農・乳業関係者の努力も奏功し、生乳廃棄を回避することができました。

(2)見えてきた課題
 無事、生乳廃棄を回避することができましたが、課題も見えてきました。

課題1 「余った生乳をバターにすればいいのに」「他の食品などもコロナで大変なのになぜ国は牛乳ばかり消費の後押しをするのか」といった反発意見が多くある。

課題2 応援消費の取り組み同士を結び付けることができていない。

  課題1については、次のような酪農・乳業特有の事情を丁寧に伝えていくことが大切だと考えています。

・今般の廃棄の危機は、バター工場などをフル稼働しても生乳の受け入れキャパシティーを超える生乳が生産されてしまうのではないか という背景であったこと。

・農林水産省は花きなど他の品目の消費の後押しもしていますが、特に牛乳の消費を呼びかけたのは、牛乳の保存性が低いことや、牛は毎日搾乳しないと病気になるため短期的な生産量の調整が難しいことなど、酪農特有の事情が影響していること。

 課題2については、草の根の活動のように、皆さまがそれぞれの立場で活動される中で、共通のロゴマークがあると小売店などでPRしやすくなるという意見をいただきました。
 このため、課題1を解決するため、従来の報道を通じた情報発信だけでなく、酪農・乳業関係企業や、賛同する企業など、消費者に近い立場の方々から消費者に働きかけてもらうように改めるとともに、課題2を解決するため、農林水産省で共通のロゴマークを作成し、商標を取得しました。その際、牛乳を通じて笑顔になってほしいという気持ちを込めて「牛乳でスマイルプロジェクト」という名称にしました。
 

3 これまでの取り組みの成果

 牛乳でスマイルプロジェクトでは、これまでに交流会を2回開催した他、今冬の取り組み計画を参加メンバーから聞き取り、農林水産省で取りまとめて公表しました。

(1)第1回交流会(2022年8月)オンラインにて開催
 45団体64名が参加。講演や12名(団体)の参加者からそれぞれ発表が行われました。
 【講演】
 1.「酪農が果たす役割と生乳需給の現状」
  農林水産省畜産局牛乳乳製品課 課長補佐 三原 亙
 2.「牛乳乳製品の消費拡大に向けた調査報告とコンテンツ紹介」
  一般社団法人Jミルク コミュニケーショングループ 部長 林 雅典氏
 3.「日本の現役酪農家に聞く『日本の酪農経営 実態調査』」
  一般社団法人中央酪農会議 調査役  高垣 裕史氏
 4.「私、酪農が大好きです!」
  株式会社マドリン 代表取締役  角倉 円佳氏(酪農経営者)
 5.「応援消費の後の牛乳」
  慶応義塾大学商学部 教授 清水 聰氏

(2)第2回交流会(2022年11月)
 54団体98名が参加。参加者同士の交流に加え、講演や11名(団体)の参加者からの発表、11名(団体)の参加者による展示が行われました。
【講演】
  1.「YouTube視聴者と一緒に成長する国家公務員〜BUZZMAFFの挑戦〜」
   農林水産省大臣官房広報評価課広報戦略グループ 係員 白石 優生
  2.「ミルク料理の専門家が開発した『乳和食』とは」
   料理研究家・管理栄養士 小山 浩子氏
  3.「世界で評価される国産チーズについて」
   NPO法人チーズプロフェッショナル協会
   理事・事務総長 桝田 規夫氏

(3)今冬の取り組み計画   
  冬から春にかけ、気温が低いことや年末年始の旅行・帰省、長期休暇中は学校給食がないことなどにより、牛乳の消費量が少なくなる傾向があります(図2)(注1)
 このため、牛乳の安定的な生産・供給を維持するためにも、農林水産省は牛乳の摂取を推奨してまいります。なお、図3の通り日本人はカルシウムが不足しがちであり(注2)、寒い冬の時期にもカルシウム豊富な牛乳をあたたかい料理から安定的に摂取していただきたいと考えています。




 
(注1)年間平均に比べ、1カ月当たりコップ一杯(200ミリリットル、カルシウム227ミリグラム)程度少ない。
(注2)日本は火山国のため土壌が酸性で、ミネラルの含有量が欧米の半分程度と言われており、水やそこで育つ野菜に含まれるカルシウムの量も少なくなっています。このため、カルシウムは毎日の食事で意識的に摂らないとすぐに不足してしまいます。(Jミルク『カルシウム学』)
   
 今冬も、農林水産省や酪農・乳業業界をはじめとする牛乳でスマイルプロジェクトの参加メンバーは、牛乳を通じた健康的な食生活をサポートしてまいります。
 具体的には、農林水産省、Jミルク、一般社団法人中央酪農会議(以下「中央酪農会議」という)において表の通りの活動を行うとともに、

 (1)乳業メーカーによるヨーグルトやチーズなどの増量キャンペーンの実施
 (2)食品メーカーによる(@)生乳を豊富に使った飲料(抹茶オレなど)の発売(A)牛乳乳製品を買うと景品が当たるキャンペーンの実施 (B)牛乳を使ったレシピの提案―
 (3)IT企業による牛乳特集記事の配信、酪農家による「酪農家がおすすめする牛乳の飲み方、食べ方」の紹介
 (4)畜産関連企業による牛乳乳製品の大量購入
 (5)中学・高校などの生徒による牛乳を使ったレシピの開発や消費の呼びかけ―

      などを行います。取り組み計画の詳細は以下の二次元バーコードからご覧ください。

   
 「牛乳でスマイルプロジェクト 取り組み計画」
https://www.maff.go.jp/j/press/chikusan/c_gyunyu/attach/pdf/221129-3.pdf


 

4 今後の目指す姿

 生乳需給の緩和を発端として牛乳でスマイルプロジェクトを立ち上げ、消費拡大に取り組んでいるところですが、過去を振り返ると生乳需給は緩和とひっ迫を繰り返しています。
 今後、万一の事態に備えるため、今回の緩和が解消した後も、消費者の皆さまに牛乳を身近に感じていただくとともに、国内で酪農生産が行われることの意義に共感をしてもらい、生産者と一緒になって日本の酪農・乳業を応援したいと思ってもらえるよう、同プロジェクトの活動を地道に続けていくことが大切だと考えています。


(プロフィール)
島根県出身(雲南市大東町)
平成17年 農林水産省入省(消費・安全局総務課)の後、同局動物衛生課、(独)家畜改良センター、大臣官房情報課、生産局畜産部畜産振興課、米国ウィスコンシン大学マディソン校大学院(応用・農業経済学専攻)を経て
24年 大臣官房政策課 企画官
27年 生産局畜産部食肉鶏卵課 畜産専門官
28年 同畜産企画課 畜産専門官
29年 (独)農畜産業振興機構調査情報部国際調査G 調査員
31年4月 生産局畜産部牛乳乳製品課 課長補佐(需給班)
令和2年4月 同 課長補佐(貿易班)(現職)