畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > コロナ禍における牛肉の消費減に対する取り組みについて 〜石垣牛がコロナ禍を乗り超えるために〜

調査・報告 職員 畜産の情報 2023年5月号

コロナ禍における牛肉の消費減に対する取り組みについて 〜石垣牛がコロナ禍を乗り超えるために〜

印刷ページ
那覇事務所  河西 真帆
調査情報部  伊藤 瑞基

【要約】

 石垣島の代表的なブランド牛である石垣牛は、これまで観光客やインバウンド消費が生産を下支えしてきた面があったものの、新型コロナウイルス感染症の拡大のあおりを受けて消費量やと畜頭数の減少、牛肉の販売価格の低迷という課題に直面した。そういった課題に対し、市内の官民の枠を超えてさまざまな組織が一体となり、ドライブスルー事業やクラウドファンディング、「お肉券」という市内限定商品券の配布を行いコロナ禍を乗り超えた。そして、今後は海外展開とと畜頭数の拡大を目指している。

1 はじめに

(1)沖縄県の農業の概況

 沖縄県は国内唯一の亜熱帯気候に属し、年間平均気温20度以上、年間降水量は2000ミリ以上とその恵まれた気候条件を生かした農業が長年行われている。令和3年の農業産出額は922億円で、この内訳を見ると、サトウキビなどの工芸農作物が232億円(25.2%)、肉用牛が209億(22.7%)、ゴーヤーやかぼちゃなどの野菜が119億円(12.9%)、豚が114億円(12.4%)となっている(図1)。中でも畜産部門全体の産出合計額は420億円と全体の45.6%を占め、県内における農業の基幹部門である一方、近年では、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という)の拡大による観光需要の停滞や世界的な飼料・燃料費の高騰などが生産拡大への課題となっている。

 

(2)石垣市の畜産の概況

 石垣島は沖縄本島の南西約400キロメートルに位置する八重山諸島(注1)の一つの島である(図2)。北部は県内最高峰の於茂登おもと山系が連なり、中部から南部にかけては主に平野部となっており、面積は222.25平方キロメートルと、本島、西表島に次ぎ県内で3番目に大きい面積を誇る。

 
 石垣市は沖縄県内で最も畜産が盛んな地域で、令和3年の県内の肉用牛による農業産出額209億円のうち、59億2000万円(28.3%)は石垣市から生産されている。同市の令和3年12月末時点での肉用牛飼養戸数は497戸、飼養頭数は2万3396頭となっている(図3)。飼養戸数については、生産者の高齢化が進むなど、ここ十数年は減少傾向で推移し、平成27年には500戸を割り込んでいる。また、1戸当たりの飼養頭数も44〜47頭でほぼ横ばいであることから、飼養頭数は2万3000頭前後と伸びに歯止めがかかっている。しかし、依然として石垣市の農業生産額における肉用牛生産額が占める割合は6割以上と高く、同市の重要産業として位置付けられている。
 石垣市内で肥育された牛は現在、「石垣牛」「やいま牛」「美崎牛」など地域や生産者ごとにさまざまなブランド牛が存在するが、本稿では同市で最も出荷頭数が多い石垣牛について紹介する。

(注1)南西諸島西部に位置し、石垣島、竹富島、小浜島、黒島、新城島(上地島、下地島)、西表島、由布島、鳩間島、波照間島などの石西礁湖周辺の島々と、これらから西に離れた日本最西端の与那国島の合計12の有人島および多くの無人島からなる島しょ群。

2 石垣牛の概略

 石垣牛がブランド牛として戦略的に販売されてきた歴史は比較的浅く、平成6年に肥育部会が設立され、14年に“石垣牛”の商標登録が行われた。現在、肥育部会には50の会員が存在している。
 石垣牛の定義は、(@)八重山郡内において生産、同郡内で20カ月以上肥育管理された黒毛和種の去勢または雌牛(未経産牛)であること(A)出荷月齢が去勢で24〜35カ月齢、雌で24〜40カ月齢の範囲内であること(B)公益社団法人日本格付協会の格付を有する枝肉で、4、5等級を「特選」、2、3等級を「銘産」と区別していること。これらの条件を満たした枝肉に対し、沖縄県農業協同組合(以下「JAおきなわ」という)が発行する「石垣牛」ラベルを表示している(図4)。
 また、肥育部会とは別にJA石垣牛銘柄推進委員会を設立し、JA石垣牛取扱認定店を定めている。
 そして、石垣牛は、島内の豊富な牧草を与えるほか、JAおきなわが販売する専用飼料を与えることが特徴である(写真1)。専用飼料は八重山地方の気候に合わせて、ビタミンが多い配合となっている。

 

3 新型コロナ拡大の影響

(1)観光客の減少による変化

 温暖で美しいサンゴ礁の海が広がる石垣島は、日本でも指折りのリゾート地であり、外資系高級ホテルも点在することから、国内外問わず観光客が多く、新型コロナ流行期(以下「コロナ禍」という)前である平成31年(令和元年)の石垣市への観光客数は、市の人口をはるかに上回る年間147万人を突破し、活気にあふれていた(図5)。このため、生産・流通サイドでは、「石垣島に来なければ食べられない」という希少性、イベント性を生かした地産地消型のビジネスモデルを志向し、石垣牛のほとんどは市内の飲食店で観光客向けに消費されてきた。

 
 しかし、新型コロナ拡大が始まった令和2年には観光客数が64万人と半分以下まで落ち込み、市内の多くの飲食店が休業、閉業に追い込まれたことから、島内で石垣牛がほとんど消費されなくなってしまった。また、肥育部会では出荷調整を行ったものの、と畜後も買い手がつかない状況がしばらく続き、同年5月時点にはと畜場に出荷できず地域内に滞留している出荷適齢期の牛の総数が211頭(導入後肥育期間600日で計算)にまで膨れ上がった。
 これにより生産現場では、飼育密度(1頭当たりの牛床面積)が高まり、肥育牛の増体や肉質への影響、疾病の発生リスクの上昇が避けられず、また、飼料費などの生産費がかさんで経営が圧迫されるという深刻な問題に直面し、滞留牛が月齢を重ねることで石垣牛の定義のうち、出荷月齢の条件を満たさない牛が出てくる恐れも生じた。

(2)新型コロナ拡大の影響

 観光客の減少に伴い石垣牛の需要が減り、コロナ禍以前(平成31年1月〜令和元年12月)は1キログラム当たり2555円だった平均枝肉価格が、令和2年5月には同1835円まで下落した(図6)。石垣牛の一般的な生産コストは1頭平均75万円ほどとされることから、生産者の手取りはコロナ禍以前と比べ3分の1程度まで大幅に落ち込む事態となった。石垣島の生産者は一貫経営が多いとはいえ、飼料の輸送コストが沖縄本島や県外よりかさむため、コロナ禍で販売価格が落ち込んだことは大きな影響だった。

4 JAおきなわ八重山地区畜産振興センターの取り組み

 JAおきなわ八重山地区畜産振興センター(以下「畜産振興センター」という)では、こうした状況を打開するため、市内における需要の掘り起こしを目的とした取り組み(ドライブスルー事業)と、「顔の見える関係」を堅持しつつ、全国に石垣牛のおいしさを届ける取り組み(クラウドファンディング)を展開し、一定の成果を上げている。

(1)ドライブスルー事業

 ドライブスルー事業は通称名として呼ばれている取り組みであり、新型コロナ拡大防止の観点から、3密(密閉・密集・密接)を避け、消費者(客)が車に乗ったまま商品を受け取ることができる、ファストフード店などで採用されているようなドライブスルー方式での販売方法・形態である(写真2)。

 
 この取り組みは、畜産振興センターの担当者・生産者同士の雑談の中から生まれたアイデアであったと言うが、と畜頭数の維持・回復の方策を検討する中で真剣な議論に発展し、実現に至ったものである。
 初回の実施に当たっては、地元の新聞を活用しながら開催告知し、石垣市の畜産課、JAおきなわ、肥育部会などが協力し、ステーキ用や焼肉用などにカットした石垣牛の牛肉1万円相当の詰め合わせセット(1キログラム)を5000円で販売することを決めた。販売日となった令和2年5月2日、市内の販売所では600セットを用意したが、開始後30分も経たないうちに完売する大盛況ぶりであった。その後、好評につき要望に応える形で同年9月に2回目の販売会が行われた。初回に販売所周辺で道路の渋滞を引き起こしてしまった反省を踏まえ整理券制、販売期間を5日間にするなどの対策を講じたが、わずか2日で1200セットすべてが完売となった。
 ドライブスルー事業では、1回目は1頭分、2回目は6頭半分に相当する量の牛肉を販売したにすぎず、と畜頭数を大幅に引き上げる効果はほとんど見込めなかったものの、地元の消費者に石垣牛のおいしさを改めて知ってもらう良い機会になったほか、生産者が直接消費者の反応を感じ取るまたとない機会となり、やりがいや自信を取り戻すことにもつながったものと思われ、数値だけでは測りきれない充実感や手応えを感じる結果となった。

(2)クラウドファンディング

 石垣牛同様、コロナ禍で飛騨牛の出荷が滞っていた飛騨農業協同組合(岐阜県)では、令和2年4月29日〜5月10日にかけて実施したクラウドファンディングにおいて、わずか2週間の間に1億1000万円を超える支援金が集まり、大きな注目を集めた(注2)。このニュースを見た畜産振興センターの担当者は、すぐに同組合の担当者に相談を持ち掛け、そこで受けたアドバイスなどを基に企画を練り上げ、石垣牛の出荷の滞留を解消する資金として1000万円の支援金を集めるという目標を掲げて同年5月29日からクラウドファンディングを開始した。
 6月21日に募集を締め切った結果、1000人を超える人々から目標金額を大きく上回る総額1789万4338円の支援が寄せられ、成功を収めるとともに、その支援金を基に石垣牛の定義から外れそうな月齢の高い牛10頭ほどを無事に出荷することができた。
 また、今回の取り組みを通じて副次的な効果もあったと畜産振興センターの担当者は感じている。支援者の地域別の内訳を見ると、北海道が24人、東北地方が13人、関東地方が502人、中部地方が107人、近畿地方が166人、中国地方が21人、四国地方が10人、九州地方が62人、沖縄県が236人で県外の消費者が79%を占めている(図7)。このことから、石垣島に愛着を持っているまたは石垣島を応援している人々が県外に大勢いることがうかがえたほか、ターゲットとしている対象にしっかりとアプローチできていると言え、今後の販路開拓およびコロナ禍後の県外からの来客回復に期待が持てるものとなった。

 
 さらに、今回のクラウドファンディングは支援する金額に応じて返礼品が用意されており、例えば、1口当たり2万2000円を支援した者には石垣牛の肉1.7キログラムの詰め合わせセットが送られる仕組みとなっている(図8)。この返礼品の商品開発などは、地元の複数の業者と協力しながら進めたことにより、支援金の一部が地域にも還元され、コロナ禍で売り上げが低迷する地元の食肉関連産業の支援に一役買っている。
 なお、支援金の内訳を見ると、1口当たり1万2000円に615件(54%)、同1万7000円に279件(24%)、同2万2000円に247件(22%)の支援を集めた。

(注2)『畜産の情報』2022年4月号「ピンチをチャンスに〜コロナ禍に挑む飛騨牛復興プロジェクト〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002064.html)を参照されたい。

5 行政による支援

 行政も、コロナ禍で難題に直面している地元の畜産業界を支援するため、さまざまな取り組みを行った。以下では、その代表的な取り組みを紹介する。

(1)お肉券の給付

 石垣市では、新型コロナで低迷する地元産の畜産物の消費を拡大することを目的としつつ、コロナ禍の最前線の現場で懸命に対応している医療・福祉従事者の気分を少しでも和らげ、この苦難を乗り切ってもらおうと、市内の医療・福祉施設で働く職員などを対象に市内の精肉店などで石垣牛を含む地元産の畜産物と引き換えることができる5000円分(1000円×5枚)の「お肉券」を給付した
(図9)。
 最終的に、2万2543枚のお肉券が使用され、地元の畜産業界に約2000万円の経済効果をもたらした。

 (2)沖縄県畜産振興公社

 公益財団法人沖縄県畜産振興公社では、コロナ禍で打撃を受けた県産和牛の販売促進を図るべく、(@)県産和牛応援共同購入支援事業(A)広告宣伝費の助成−といった取り組みが行われた。(@)では官公庁や企業向けに県産和牛の共同購入を実施し、石垣牛を含めた県産和牛は12団体140キログラムが販売された。また、(A)では前述のドライブスルー事業の告知にかかった費用(ラジオ告知、新聞広告、雑誌広告)を5割負担し、肥育部会の費用負担軽減が行われた。

6 海外展開

 令和4年、と畜場である八重山食肉センター(以下「食肉センター」という)は石垣市の商工振興課と連携し、香港の消費者へ意識調査アンケートを行い、石垣牛の認知度や日本産牛肉の需要について調査を行った。その結果、石垣牛の認知度は全体の87.6%で、そのうち石垣牛を知っていて食べたことがある人は全体の28.1%、石垣牛を知っているが食べたことがない人が全体の59.5%となった。実際に口にしたことのある消費者は少ないものの、石垣牛の認知度や注目度は高く、今後の消費が期待できると担当者は見込んでいる。
 なお、食肉センターは令和3年にHACCP認証を取得しており、これにより一定の衛生基準を満たしたことから、タイとマカオへの食肉の輸出が可能となった。輸出は、カット方法が日本と異なる点や人材育成について課題はあるものの、前述のアンケート結果も踏まえて前向きに検討され、5年3月7日には、石垣牛170.4キログラムがタイに向けて出荷された。
 生産者や食肉センターとしては、「石垣島に来なければ食べられない」という当初からの地産地消への思いを大切にし、石垣市内への供給割合は全体の8割を維持したい考えだ。一方で、コロナ禍を経て石垣市内だけでなく、市外・県外への出荷、海外展開に取り組んでいく必要性も感じており、新たな販路を確保し、リスク分散を行っていきたいとも考えている。いずれそれは県外や海外での知名度アップにつながり、観光客が石垣島を訪れた際に石垣牛を食べてもらうきっかけにもなるのではないかと期待している。

7 おわりに

 新型コロナで大きな影響を被ってきた石垣牛だが、令和4年ごろから徐々に外国人を含む観光客の姿が戻り始めている。市内の飲食店やホテルも活気を取り戻しつつあり、と畜頭数が2年ぶりに増加に転じた(図10)。しかし、石垣牛の出荷が滞留した影響で新たに子牛を導入することを断念した生産者が多かったことから、今後は急速な需要の回復に出荷・供給が追い付かなくなることが懸念される。このため、行政支援として子牛の導入を行った生産者に対し飼料購入費の一部を補助したり、県産の種雄牛を父牛とする子牛の導入経費を補助したりしているほか、これまで石垣牛生産の補完的機能を担ってきたJAおきなわが運営する肥育施設の生産・飼養能力を強化しようとする動きも見られ、石垣牛の生産は出荷調整から増頭にシフトし、ゆくゆくはと畜頭数1000頭達成を目指している。
 加えて、石垣牛の牛肉の流通・販売についても、観光客をターゲットとした地産地消のビジネスモデルを軸としながらも、それだけに頼らない販売方法を模索している。肥育部会や流通協議会のみならず、石垣市、食肉センター、JAなど、地域が一体となって石垣牛の魅力を発信し、消費拡大に取り組んでいる。いずれ全国各地や海外でその味を楽しめる日が訪れるかもしれないが、ぜひ石垣島に直接足を運んでみてはいかがだろうか。

 
謝 辞
 今回、取材にご協力いただいたJA石垣牛肥育部会 上江洲安生会長、JAおきなわ八重山地区畜産振興センター 和田亮平課長、新垣亮太氏、株式会社八重山食肉センター 幸喜俊明部長、石垣市畜産課 大浜信宏氏、公益財団法人沖縄県畜産振興公社 本若隆班長、玉城政弥氏に御礼申し上げます。