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海外情報 畜産の情報 2023年9月号

EUにおける昆虫の飼料利用の実態と展望

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調査情報部

【要約】

 EUでは昆虫の飼料利用については、タンパク質飼料の自給率向上、持続可能性への貢献、地域経済の振興といった面で注目されており、近年、多額の投資が行われている。また、昆虫の餌や昆虫養殖残さなどに関する規制の整備も進められている。これらの動きは、日本を含む世界各国における今後の昆虫の飼料利用に大きな影響を及ぼすと考えられることから、今後とも注視することが必要である。

1 はじめに

 EUは食料の純輸出地域であるが、畜産業に不可欠なタンパク質飼料、特に配合飼料原料となる大豆かすに代表されるタンパク質含有量が3〜5割の原料の多くを、輸入に頼っている(表1)。このため、欧州配合飼料生産者連盟(FEFAC)をはじめとする飼料業界は、長年にわたり欧州域内でのタンパク質飼料原料の供給力を強化することを求めていた。また、EUが掲げるFarm to Fork(F2F)戦略(注1)では、「欧州委員会は昆虫をはじめとする代替飼料原料の生産を振興し、森林破壊された土地で栽培された大豆などへの依存を減らすためにEU規則を精査する」とし、タンパク質飼料の自給率を高めるために、昆虫の飼料利用のための条件整備が進んでいる。
 本稿では、欧州の昆虫養殖企業などにより構成される「食用および飼料用昆虫に関する国際プラットフォーム」(以下「IPIFF(注2)」という)により2022年11月に行われた年次会議の内容に加え、23年6月に実施した欧州委員会やIPIFFからの聞き取り、その他各種資料などから、EUの昆虫の飼料利用の現状と今後の課題について報告する。
 なお、本稿中特に断りのない限り、為替レートは1ユーロ=156.85円(注3)を使用した。
 
(注1)欧州グリーン・ディールの一環であり、生産から消費までの食品システムを公正で健康的で環境に配慮したものにすることを目指し、自然、食料システム、生物多様性の新たなバランスを提示することを目的としている。『畜産の情報』2023年3月号「欧州グリーン・ディール下で進められる農業・畜産業に影響する各種政策」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002628.html)を参照されたい。
(注2)IPIFF(International Platform of Insects for Food and Feed)は、昆虫および昆虫由来製品の食用および家畜飼料用としての利用推進を目的としたEUの非営利団体。2023年7月時点で昆虫養殖者を主体に76社が会員となっている(EU域外の会社を含む)。
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年7月末TTS相場。
 

2 EUの昆虫の飼料利用の実態

 EU域内の昆虫の飼料利用の形態としては、家きん、豚、養殖魚の飼料原料に昆虫由来の動物性加工タンパク質(PAP:Processed animal protein)を加えて給餌することが一般的である。また、昆虫から脂質分を抽出し、それを家畜飼料に配合することもある。
 現在、EUで飼料として利用が認められている昆虫は、表2の通り8種類である。
 また、欧州の主要な昆虫養殖企業について専門誌(Labiotech誌)およびヨーロッパ動物協会(Eurogroup for Animals)がそれぞれ主要10社を取り上げている(表3)。
 ヨーロッパ動物協会のレポートでは、さらに昆虫養殖に関連する企業125社を飼料会社53社と食品会社72社に分け、それぞれの2022年10月時点での投資金額を比較している。これによると前者は12億ユーロ(1882億円)に上るのに対し、後者は6200万ユーロ(97億2470万円)と20倍近い規模の差が生じており、養殖される昆虫については、その多くが飼料向けとなっているとみられる。




3 EUの昆虫の飼料利用への期待

 前述の通り、F2F戦略では、昆虫をはじめとする代替飼料原料の生産の振興が掲げられている。また、2022年11月に開催されたIPIFFの年次会議でも、F2F戦略で掲げられた(1)30年までに小売・消費者段階における1人当たりの食品廃棄物の半減(2)化学肥料の使用量の20%削減(3)同年までに農地の25%を有機農業に転換−といった目標の達成に対して、昆虫養殖を拡大することで大きく寄与できると示されている。具体的には、昆虫に与える餌としての食品残さの利用や、昆虫養殖から発生する残さの有機肥料としての利用が期待されている(図)。
 また、IPIFFは、昆虫の飼料利用を振興することでEU域内のタンパク質飼料自給率の向上や飼料作物生産に使用する肥料原料の海外依存といった課題の解決に資することができる点も強調している。
 以下、昆虫の飼料利用へ期待される主なポイントについて説明する。

 

(1)タンパク質飼料の域内自給率の向上

 前述の通り、EUの飼料業界は、長年にわたり欧州域内でのタンパク質飼料原料の供給力を強化することを求めていた。さらに、ロシアのウクライナ侵攻後の2022年3月、フランスのベルサイユで開催されたEU首脳会議の声明で、EUの食料安全保障を向上させ、食料価格を引き下げる手段として、「EUにおける植物性タンパク質の生産拡大」が挙げられた。
 この首脳レベルで合意した政治宣言を受けて、欧州議会調査局が23年7月19日に農業委員会に提出した報告書によれば、欧州委員会は24年第1四半期(1〜3月)に包括的なEUタンパク質戦略を策定し、EUのタンパク質不足を解消するために、昆虫を含め利用可能なタンパク源を多様化させるとしている。
 このためIPIFFは、このEUタンパク質戦略に昆虫が組み込まれること、また、欧州委員会によって毎年公表される飼料用タンパク質の需給データとして昆虫が対象となるよう働きかけている(注4)
 
(注4)海外情報「欧州委員会がEUの飼料用たんぱく質需給データを発表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003417.html)を参照されたい。
 

(2)持続可能性への貢献

 飼料原料に用いられる魚粉は、雑食である豚や鶏、魚食性の養殖魚の飼料として重要な動物性タンパク源である。しかし、近年は原料となる天然資源のカタクチイワシの漁獲量の減少が懸念されており、昆虫による代替が期待されている。また、欧州委員会によれば、昆虫養殖は広い土地を必要とせず、さらに森林破壊を伴う可能性のある大豆かすやパーム油への依存度を下げることが可能とされている。
 その他、欧州委員会のプレゼン資料によれば、EUでは食品の5分の1が廃棄されているとされ、この食品残さを昆虫の餌とすることにより、廃棄量を削減できるだけではなく、廃棄物中の栄養分を再度食品生産チェーンに組み込むことができることも利点として挙げられている。
 さらに、昆虫の養殖過程で生じる昆虫養殖残さ(以下「フラス(注5)」という)は有機質肥料として圃場ほじょうに還元可能であり、肥料原料の海外依存率の軽減や、化学肥料の使用量削減、有機農業で利用できる肥料生産につながることも期待されている。すでに一部の国ではバイオガスの原料としてもフラスが利用されている。
 
(注5)餌の残り、昆虫の排せつ物、脱皮した殻、昆虫の死骸など。
 

(3)地域経済への貢献

 IPIFFによれば、昆虫養殖企業の多くは中小企業であり、食品向けおよび飼料向けの両方の昆虫養殖を行っているとしている。2020年の段階で15億ユーロ(2353億円)の投資が行われており、25年には30億ユーロ(4706億円)以上の投資が行われると見込まれている。
 また、EU域内での直接雇用は20年で1000人程度とされるが、30年には3万人程度に増加するとみられている。

4 法的な規制について

(1)昆虫の飼料利用に関する規制について

 大まかな枠組みとして、EUでは昆虫の養殖は農業活動とみなされ、EUの農業規則の適用範囲に含まれ、食品や飼料などのためにEUで養殖された昆虫は家畜と同様に「養殖動物」とみなされる。
 このため、昆虫に与える餌は飼料の扱いとなり、飼料に関連する各種規制(注6)の対象となる。例えば昆虫に与える餌の原料としては、非動物由来の製品または卵、乳製品、蜂蜜、非反すう動物からの血液製剤、ゼラチンおよびコラーゲンなどの一部の動物由来の製品のみが認められている。
 昆虫由来のPAPはペットフード、魚類・家きん類・豚などを対象とした飼料用途で使用可能であるが、昆虫が丸ごと乾燥または冷凍された状態のものは、ペットフードとしてのみ使用可能とされる。
 
(注6)昆虫の飼料利用の法的な規制については、農林水産省「令和4年度昆虫の輸出に係る規制調査委託事業【報告書】」(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sosyutu/attach/pdf/pdf/23042701_insect.pdf)を参照されたい。
 

(2)フラスに関する規制について

 IPIFFによれば、1トンの昆虫のミール(注7)を生産するために、3トンのフラスが発生する。このため、フラスの有効活用は、欧州委員会が期待する化学肥料の削減および有機肥料の提供源の多様化のために重要な課題である。
 フラスは、2021年11月に欧州委員会の規則(2021/1925)によって有機肥料として承認された。同規則は、肥料としてのフラスの使用を許可し、フラスが満たすべき微生物学的基準や殺菌処理基準を定めている。この基準では、通常の有機肥料の要件と同様の70度、60分以上の熱処理をフラスに施すことを求めている。また、フラスの定義を「養殖昆虫の排せつ物、餌の残り、養殖昆虫の一部、死んだ卵の混合物で、養殖昆虫の死骸の含有量が体積の5%以下、重量で3%以下」としている。
 
(注7)昆虫を圧搾した後のかす類。

5 昆虫の数値的資料

 昆虫の養殖量などについて公式な統計などは存在しないものの、オランダの農協系金融機関ラボバンクが2021年に発表した推計では、世界全体の昆虫養殖量は、20年の1万トン(ミールベース)から、30年には50万トンに達するとしている。その内訳は、魚類向け20万トン(養殖量全体に占める割合40%)、ペットフード向け15万トン(同30%)、養鶏向け7万トン(同14%、内訳は肉用鶏5:採卵鶏2)、養豚向け3万トン(同6%)と見込んでいる。
 IPIFFによると、19年のEUの昆虫養殖量(ミールベース)は5000トン程度の規模とされている。IPIFFは、30年にEUで消費される食品のうち、昆虫飼料を使用した農家で生産される数量を以下の通りと見込んでいる。
 
・魚の10匹に1匹(少なく見積もっても20匹に1匹)
・卵の40個に1個(少なく見積もっても80個に1個)
・鶏肉の50食分に1食(少なく見積もっても100食分に1食)
・豚肉の100食分に1食(少なく見積もっても200食分に1食)

6 昆虫の飼料利用について、各界からの反応

 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、有機畜産への生産転換の支援のためには、欧州での有機タンパク質飼料の生産を増やすことが必要であるとし、特に単胃家畜は、大豆かすのようなタンパク質含有量の多い配合飼料原料の大幅な不足に直面しているとして、昆虫の飼料利用に期待を寄せている。
 また、FEFACは、動物飼料生産の一環として昆虫を取り入れることを奨励している。
 一方で、ヨーロッパ動物協会は、2023年3月に公表したレポートの中で昆虫養殖の可能性を認めつつ、飼料生産のための昆虫養殖が集約的畜産を強化し、環境、健康、アニマルウェルフェアに影響を及ぼすかが不明であるとし、懸念を示している。

7 昆虫の飼料利用の拡大のために解決すべき課題

(1)昆虫の飼料利用に関する制限

 欧州委員会保健衛生・食の安全総局(DG SANTE)に聞き取りの機会を得たが、開始直後に「まず理解してほしいことは」と切り出された。そして「BSEの過ちが繰り返されないよう、昆虫の飼料利用は慎重に適用範囲を広げてきた。魚類用飼料は2013年、豚や家きん用飼料は21年に解禁したが、反すう動物への適用は現状難しいと考えている。同様の理由で、昆虫に与える餌についても厳しく規制しており、一部の例外を除いて、昆虫には植物性の飼料しか与えることができない」と話し、無分別の食品残さを昆虫の飼料として利用することには否定的であった。
 このことから、さまざまな食材が含まれる家庭や外食産業からの食品残さを昆虫の飼料として利用することは現状では困難であり、食品工場などから発生する均一な植物性の食品残さが主な供給源となる状況にある。例えば、欧州域内の大手昆虫養殖企業の工場では、フライドポテト工場から出るジャガイモの廃棄物などを昆虫に与える餌として利用している。
 

(2)コストの問題

 ラボバンクの試算によると、2021年5月時点で昆虫由来ミール(昆虫タンパク質)の生産コストは1トン当たり3500(54万8975円)〜5500ユーロ(86万2675円)と推計されており、同時点の魚粉の同1200ユーロ(18万8220円)〜2000ユーロ(31万3700円)、大豆ミールの同370ユーロ(5万8035円)と比較して高額である。
 欧州委員会への聞き取りでも、普及に際してコストの問題は大きく、昆虫に与える餌に食品残さの使用許可を求める業界の要望も、飼料コストの削減意図が大きいのではないかとの意見が聞かれた。
 各ミールの生産コストの差については、魚粉などの価格が近年上昇し続けていることに加え、今後の昆虫の品種改良や、より効率的な生産方法の確立および大規模な工場の建設により、昆虫ミールの生産コストをある程度低下させることが期待される。しかし、競争力保持を期待できるものの、魚粉および大豆ミールと価格差のある現状では、昆虫ミールの機能などの特性や、温室効果ガス排出量削減といった持続可能性での利点をふまえた差別化が必要と思われる。
 

(3)フラス規制の問題

 前述の通り、フラスは有機肥料として承認されたものの、その販売にはさらに2段階の手続きが必要である。まず、欧州議会およびEU理事会規則(2019/1009)では、昆虫を含む各種動物由来の製品について、必要な処理を行った後肥料製品として転換できるための基準(エンドポイント)を規定している。この規制の改定は欧州委員会によって2023年5月30日に承認されており、議会および理事会の反対がなければ8月末ごろ発効の予定である。その後、肥料としての特性と環境への影響評価が24年末をめどに実施されるため、フラスの有機肥料としての利用開始は25年以降と見込まれる。
 また、昆虫養殖業界はフラスを肥料として利用するため熱処理が要求される点を疑問視しており、家畜のふん尿のように熱処理を行うことなく、圃場への直接散布が可能になるよう規制緩和を求めている。
 

(4)貿易上の懸念

 2022年11月のIPIFFの年次会議では、WTOとの整合性がその他の懸念として挙げられていた。会議では欧州委員会の発表者から、フラスの輸入を制限するような規制はWTOのルールに違反する可能性が指摘された。そのため、EU域外からのフラスの輸入規制を行うことが難しくなると、域内で発生したフラスの販売・処理が難しくなるのではないかといった意見も聞かれた。
 これは飼料用タンパク源としての昆虫ミールなどの製品でも同様であり、EU側の求める厳しい条件を満たす必要はあるものの、昆虫由来の製品が域外国から輸入される可能性がある。
 また、現状はミツバチを除く昆虫の取引に関する国際的なルールがなく、国際的に同意された動物衛生上の手順もない。昆虫による人畜共通の感染症の媒介の否定はできず、昆虫の形態で国際的に流通させるためには、動物衛生上のリスクを洗い出し、国際獣疫事務局(WOAH)のような機関で議論を行い、コンセンサスを得ていく必要がある。

8 おわりに

 現時点でEUの飼料用の昆虫養殖は小規模にとどまっているものの、昆虫養殖企業は飼料メーカーから長期間の納入契約を締結し、大規模な昆虫養殖拠点の新設を進めており、今後も多額の投資が継続して行われることにより、生産規模は拡大していくものと思われる。欧州として不足している飼料用のタンパク質の供給源としての期待とともに、持続可能性の面でも貢献が期待される。
 一方で、昆虫養殖は畜産と同様に養殖動物の扱いとなり、昆虫に与える餌に関して制限があり、食品廃棄物すべてを利用できる状況には当面ならないことや、フラスの規制などもクリアする必要があるなど、当面の間は昆虫飼料の潜在的な力のすべてを発揮できる状況にはないことも事実である。
 昆虫養殖は中小企業による生産が多いことや、地域での食品加工工場で発生している食品残さなどの輸送コストがかかる各種バイオマス資源を、より付加価値が高く、かさばらないタンパク質や脂質に転換することが可能なため、畜産飼料の多くを輸入に頼る日本にとって、今後発展する可能性を持つ分野であるといえる。
 EUは昆虫に与える餌や、昆虫の種類、品質、飼料の製造方法、輸送方法や用途について、引き続きさまざまな条件を整備し、昆虫利用の拡大につなげていくとみられる。EUが取り組んでいる規制の見直しが、EUだけでなく、日本を含む世界各国の今後の昆虫の飼料利用に大きな影響を及ぼすと考えられることから、引き続き、EUの動向に注意を払う必要がある。
 
(平石 康久(JETROブリュッセル))