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調査・報告 畜産の情報 2024年1月号

牛肉の脂質酸化リスクに出荷月齢は影響するか 〜和牛肉の輸出力強化のための早期出荷との関係〜

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国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 
暖地畜産研究領域
上級研究員 今成 麻衣
研 究 員 森 欣順
研 究 員 河内 大介
グループ長 細田 謙次

【要約】

 今後の和牛肉の輸出展開で拡大が見込まれる小売販売において、和牛肉の「脂質酸化リスク」と和牛の「出荷月齢」の関係を解明するため、早期出荷牛肉(26カ月齢)と慣行出荷牛肉(30カ月齢)について貯蔵試験を行い、脂質過酸化度、酸化臭強度評点およびメトミオグロビン割合を指標として脂質酸化リスクを評価し、脂肪酸組成、ミオグロビン含量などの脂質酸化関連要因を調査した。両者の各貯蔵日における脂質過酸化度、酸化臭強度評点、メトミオグロビン割合および脂質酸化関連要因を比較したが、すべての項目で差は認められなかった。これらの結果から、今回比較した出荷月齢においては、牛肉の脂質酸化リスクに対する出荷月齢の影響はないと示唆された。

1 背景と目的

 わが国の農林水産物、食品の総輸出額は令和4年で1兆4000億円を突破し、その中でも牛肉の輸出量は7454トンと前年比では5.4%減とやや減少したものの、2年比では53.8%増と大幅に拡大している。コロナ禍で外食産業が落ち込んだにもかかわらず、牛肉輸出量が増加したのは、海外の家庭で消費される「小売り」の販路開拓が進んだことによるとみられている。この動向を受け、海外での小売販売を見据えた商品開発を検討している業者も見受けられる。これらのことから、今後の和牛肉輸出においては、海外での「小売り」を想定した技術開発が重要な課題になると考えられる。
 海外での和牛肉の小売りを考える場合、品質上いくつかの課題が挙げられるが、その中でも、われわれは「脂質酸化リスク」に着目した。流通時の形状と包装から、外食向けよりも小売向け商品の方が脂質酸化が進みやすく、品質が劣化しやすい。つまり「脂質酸化リスク」が高い。牛肉の脂質酸化は、肉のカット断面で脂質と酸素が触れることで開始し、脂質酸化が進行すると酸化臭が発生し、赤身部分の色調が褐色化する。脂質酸化の進行には、脂肪酸組成や抗酸化物質、酸化促進物質といった牛肉自体に含まれる要因と、形状、包装、温度、照明といった流通過程の要因が関わる。このうち、形状と包装が外食向けと小売向けで異なるため、「脂質酸化リスク」に違いが生じる。形状としては、外食向けはカット断面積が比較的小さいブロック状であるのに対し、小売向けは、家庭で調理がしやすいようにスライスやミンチなどにカットされており、断面積が大きい。また、包装は、外食向けは真空包装が主であるのに対し、小売向けでは空気を含む簡易包装で流通することが多い。このように、小売向けの牛肉は、断面積が大きい上に、酸素に触れる状態で流通するため、脂質酸化リスクが高い。従って、和牛肉を小売りする場合は、「脂質酸化リスクをいかにして低減するか」が流通過程の品質管理上、極めて重要な課題となる。
 このように和牛肉の小売りを想定すると脂質酸化リスクに対する配慮が必要であるが、小売りされる和牛肉自体の脂質酸化リスクは何によって影響を受けるのだろうか。前述の通り、牛肉自体に含まれる脂質酸化に関連する要因は、脂肪酸組成やαートコフェロールなどの抗酸化物質、鉄や銅などの酸化促進物質があり、これらの量やバランスによって、牛肉自体の脂質酸化リスクが変化すると考えられる。これらの要因には、給与飼料が影響することは多くの報告で述べられているが、われわれは新たに「出荷月齢」が影響する可能性を考えた。それは過去の知見から、出荷月齢によって牛肉の脂肪酸組成とミオグロビン含量が変化することが示されているからである。脂肪酸組成は、その構造に二重結合を含まない飽和脂肪酸よりも二重結合を含む不飽和脂肪酸ほど酸化反応が生じやすい。
 また、鉄を含むミオグロビンは脂質酸化を促進する物質である。三橋ら(1988)は、出荷月齢の上昇に伴い、黒毛和種去勢牛の皮下脂肪や筋間脂肪でオレイン酸などの不飽和脂肪酸割合が増加し、融点が低下することを報告している。さらに、河野と長尾(2006)は、と畜月齢の上昇に伴い、牛肉中のミオグロビン含量が増加し、肉の赤色が濃くなることを明らかにしている。これらの報告のように、脂肪酸組成は脂肪の口溶けなどの食味の観点から、ミオグロビンは赤身部分の赤色の濃淡の観点から出荷月齢の影響が検討されている。しかしながら、出荷月齢と両成分の関連について「脂質酸化リスク」の観点から調査された事例はなかった。
 そして「出荷月齢」については、今後の和牛肉の輸出拡大を推進する上で早期化する可能性が考えられる。それは、輸出拡大に向けた和牛肉生産量の増加、つまりは和牛出荷頭数を増頭するためには、肥育期間短縮技術の導入が必要になると考えられるからである。現在、国内では和牛増産が求められているにもかかわらず、飼養戸数が減少している。この状況で、和牛を増産し、輸出用の和牛肉を供給するためには、生産効率を向上させ、一戸当たりの生産頭数を増加させる必要がある。このため、枝肉重量や品質を確保した上での肥育期間短縮技術は有効な手段であり、この技術導入が進むと、出荷月齢は早期化していくと考えられる。
 以上のことから、本調査研究では、今後の和牛肉の輸出展開において、肥育期間短縮技術によって生産される早期出荷牛肉が小売形態で流通することを想定し、早期出荷牛肉の小売販売時における脂質酸化リスクを明らかにすることを目的とした。検討では、出荷月齢の異なる牛肉について、まず、牛肉の小売流通形態における脂質酸化リスクと出荷月齢の影響解明を行い、次に、出荷月齢が牛肉の脂質酸化に関わる要因に及ぼす影響を確認した。

2 材料と方法

(1)試料調製

 市販濃厚飼料と稲わらを給与して肥育し、26カ月齢(早期出荷区)および30カ月齢(慣行出荷区)にと畜した黒毛和種去勢牛(各n=3)よりリブロース部分肉を採取した。リブロース部分肉はアルミ袋で真空包装し、と畜後14日目まで貯蔵温度2度で熟成させた。このリブロース部分肉からロース芯を採取し、空気との接触がない内部部分よりミンチ試料を調製し、次の分析に用いた。表1にはミンチ試料の概要として、供試牛の格付成績ならびにミンチ試料の一般成分を示した。

 

(2)牛肉の小売流通形態における脂質酸化リスクと出荷月齢の関係解明

ア.貯蔵試験:断面積が大きく、最も脂質酸化リスクが高いミンチの形状で実施した。ミンチ試料40グラムをビーカーに秤量し、微生物の影響を排除するために抗生物質のクロロテトラサイクリン塩酸塩を混和した(Mitsumotoら、1991)。ビーカーに封をし、貯蔵温度4度で含気および遮光条件下で貯蔵した。貯蔵0、3および7日目に脂質酸化リスクを評価する指標である脂質過酸化度、酸化臭強度評点およびメトミオグロビン割合を測定した。
イ.脂質過酸化度:Kikugawaら(1992)の方法に従い、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS値(注1))を測定した。
ウ.酸化臭強度評点:今成と柴(2022)の計算式に基づき、TBARS値から酸化臭強度評点を算出した。酸化臭強度評点は、さまざまなTBARS値を示す牛肉を分析型パネル6人に提示し、酸化臭の強弱を7段階評価(6:非常に強い、5:強い、4:やや強い、3:やや弱い、2:弱い、1:非常に弱い、0:なし)した際の平均値を示す。
エ.メトミオグロビン割合:ミンチ試料表面の分光反射率を測定し、Stewartら(1965)の方法により算出した。
 
(注1)脂質酸化によって生じるマロンジアルデヒドなどの物質量を表す指標。
 

(3)出荷月齢が牛肉の脂質酸化に関わる要因に及ぼす影響

ア.ミオグロビン含量:Carlezら(1995)の方法に従い、ミンチ試料抽出液中のミオグロビン濃度を求め、抽出に用いた試料重量を用いてミンチ試料1グラム当たりのミオグロビン含量を算出した。
イ.脂肪酸組成:凍結乾燥したミンチ試料について、Leeら(2012)の方法を参考に脂肪酸のメチルエステル化を行い、ガスクロマトグラフ(GC-2010plus、島津)で分析した。カラムはSP-2560(100m×0.25mmID、0.25μmfilm)を使用し、昇温プログラムは米内と嶝野(2019)の方法に従った。すべての試料で共通して検出されたピークの面積を積算した総面積に対し、各ピークの面積の割合を算出し、これを各脂肪酸の割合とした。
ウ.α-トコフェロールおよびカルノシン含量:一般社団法人日本食品分析センター(福岡)に委託し、常法で測定した。
 

(4)統計解析

 スチューデントのt検定により慣行出荷区と早期出荷区の差の検定を行った。

3 結果と考察

(1)牛肉の小売流通形態における脂質酸化リスクと出荷月齢の関係

 図1に貯蔵0、3および7日目における各区のTBARS値を示した。一般的に、食肉を酸素存在下で貯蔵すると、肉表面より脂質酸化が始まり、時間の経過に伴い脂質酸化が進行し、TBARS値が上昇する。本検討でも慣行出荷区および早期出荷区ともに、貯蔵日数の経過に伴い、TBARS値の上昇が見られた。各貯蔵日で両区を比較した場合、いずれの貯蔵日でも区間に統計的な差は認められなかった。これらの結果から、慣行出荷区と早期出荷区で脂質酸化の進行に差はないと示唆された。

 
 図2に各区の酸化臭強度評点を示した。脂質酸化によって生じる酸化臭は、食肉の腐敗や劣化した品質として認識される。今成と柴(2022)の報告より、牛肉のTBARS値と分析型官能評価で評点化した酸化臭の強度は相関が高く、両者の関係を示す回帰式を用いることで、分析型官能評価を実施しなくても酸化臭強度評点を算出し、酸化臭の強弱の状態を推定することができる。そこで、本調査で測定されたTBARS値から両区の酸化臭強度評点を算出し、各貯蔵日数で比較したが、いずれの貯蔵日でも区間に統計的な差は認められなかった。酸化臭強度評点に基づく酸化臭の状態としては、両区とも貯蔵0日目では1点前後であり、貯蔵開始時点は酸化臭が非常に弱い状態であると推測された。しかし、貯蔵3日目では3〜4点と酸化臭がやや弱い〜やや強い状態となり、さらに時間が経過した貯蔵7日目では、早期出荷区では5.97、慣行出荷区では最高点である6に達しており、両区ともに酸化臭が非常に強い状態であると推定された。この結果から、慣行出荷区と早期出荷区では各貯蔵日で酸化臭の強度に差はないものの、両区ともに貯蔵日数の進行に伴い、臭いの劣化が進行していると示唆された。

 
 図3に全ミオグロビンに占めるメトミオグロビン割合を示した。メトミオグロビン割合は、ミオグロビンの酸化による肉色の褐色化の程度を表す指標である。赤身部分の赤色色素であるミオグロビンには、いくつかの形態があり、形態によって色調が異なる。酸素に触れていない状態のデオキシミオグロビンは暗赤色であり、これが酸素と結合することで鮮赤色のオキシミオグロビンに変化し、さらにこれが酸化すると褐色であるメトミオグロビンに変化する。真空包装していない精肉の状態では、メトミオグロビン形成に伴う褐色化は色の劣化として認識され、全ミオグロビンに対するメトミオグロビンの割合が30〜40%になると消費者の購買意欲が低下すると報告されている(Greeneら、1971)。本調査で測定したメトミオグロビン割合は、慣行出荷区、早期出荷区ともに、貯蔵日数の経過に伴い上昇し、貯蔵7日目では40%程度形成されていた。各貯蔵日における区間の比較については、TBARS値ならびに酸化臭強度評点と同様に、いずれの貯蔵日においても統計的な差は認められなかった。この結果から、慣行出荷区と早期出荷区では、各貯蔵日でメトミオグロビン割合に違いはないものの、貯蔵日数の進行に伴い、褐色化が進行していると示唆された。
 

 

(2)出荷月齢が牛肉の脂質酸化に関わる要因に及ぼす影響

 各区の脂肪酸組成を表2に示した。すべての試料で共通して検出されたピークは41種類であり、うち30種類を同定し、11種類は未同定ピークとした。両区ともに最も割合が高いのはオレイン酸(C18:1cis9)であり、次いでパルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、パルミトレイン酸(C16:1cis9)、ミリスチン酸(C14:0)、リノール酸(C18:2n6)、シスバクセン酸(C18:1cis11)であり、これらで全体の90%を占めていた。各脂肪酸について、区間での統計解析を行ったが、すべての脂肪酸について有意差は認められなかった。脂肪酸はその構造に二重結合を有するか否かによって酸化の生じやすさが異なる。脂質酸化は脂肪酸に含まれる水素が引き抜かれ、脂質ラジカル(注2)が発生することで開始し、その後は脂質ラジカルと酸素が反応することで自動的に酸化が進行していく。脂肪酸を構成する水素のうち、二重結合に隣接する水素は炭素との結合力が弱く、ラジカル連鎖反応の開始点になりやすい傾向がある。従って、構造に二重結合を含まない飽和脂肪酸よりも二重結合を有する不飽和脂肪酸の方が、さらには二重結合を2カ所以上有する多価不飽和脂肪酸の方が、脂質酸化が生じやすい。
 
(注2)脂肪酸から水素原子が引き抜かれて生じる不対電子を持つ化合物。脂質ラジカルは酸素と反応し、脂質ペルオキシルラジカルとなる。さらに脂質ペルオキシルラジカルは他の脂質と反応し、脂質ペルオキシドとなるが、その際に新たな脂質ラジカルが生じるため反応が連鎖する。


 
 そこで、今回検出された脂肪酸を飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸に分類して比率を算出し、区間差を比較したが、これらについても区間で統計的な差は認められなかった。牛肉においては、加齢に伴い、脂肪組織の不飽和脂肪酸割合が高くなることが報告されている(三橋ら、1988)。このことから、本調査においても、慣行出荷区よりも早期出荷区の牛肉で飽和脂肪酸割合が高く、不飽和脂肪酸割合が低い可能性を考えたが、今回の調査結果では脂肪酸組成における出荷月齢の影響は認められなかった。
 各区のミオグロビン、α-トコフェロールおよびカルノシン含量を表3に示した。ミオグロビンは鉄を含むヘムタンパク質であり、鉄は脂質酸化を促進する。ミオグロビン含量は動物の加齢に伴って増加するため、経産牛などの月齢が高い牛の肉色が濃いのはミオグロビン含量の増加が原因である。しかしながら、本調査では慣行出荷区と早期出荷区では、両者のミオグロビン含量には差は認められず、出荷月齢に伴う変化は示されなかった。
 α-トコフェロールは、脂溶性ビタミンであり、抗酸化性や生体膜安定作用があるため、食肉の貯蔵中の脂質酸化や肉色の劣化、ドリップの抑制に寄与することが知られている。また、カルノシンは抗酸化作用をもつジペプチドであり、食肉製品に添加することで貯蔵中の色調劣化や脂質酸化を抑制することが知られている。結果は表3に示す通り、α-トコフェロール、カルノシンともに区間で差は認められなかった。

4 総合考察

 本調査研究では、和牛肉の輸出展開で今後拡大が見込まれる和牛肉の小売販売について、小売形態で流通する際の「脂質酸化リスク」に着目した。さらに、輸出量の確保に向け、和牛の増産を図る上で有効な手段である肥育期間短縮技術を導入した場合に想定される「出荷月齢」の早期化が牛肉の脂質酸化リスクに影響を及ぼす可能性を考え、これを検討した。検討には、早期出荷区として平均26カ月齢、慣行出荷区として平均30カ月齢の黒毛和種のリブロースのミンチ試料の貯蔵試験を行い、各貯蔵日のTBARS値、酸化臭強度評点およびメトミオグロビン割合を指標として脂質酸化リスクを評価した。また、出荷月齢が影響する可能性が考えられた脂質酸化関連要因である脂肪酸組成とミオグロビン含量、牛肉に含まれる代表的な抗酸化成分であるα-トコフェロールとカルノシン含量を両区で比較した。その結果、今回比較した早期出荷区と慣行出荷区では、各貯蔵日のTBARS値に差はなく、脂質酸化によって生じる酸化臭の強さや、肉色の褐色化の程度にも差がないことが明らかとなった。また、脂質酸化関連要因である脂肪酸組成、ミオグロビン、α-トコフェロールおよびカルノシン含量にも差は認められなかった。これらの結果から、今回の検討においては、貯蔵中の牛肉の脂質酸化リスクに対する出荷月齢の影響はないと示唆された。
 本調査研究で「脂質酸化リスク」と「出荷月齢」が関連する可能性に着目したのは、出荷月齢によって脂質酸化関連要因である脂肪酸組成とミオグロビン含量が変化するという過去の知見に基づいている。そして、出荷月齢が早期化することで、脂肪酸組成は酸化が生じにくい飽和脂肪酸の割合が高くなり、酸化促進物質であるミオグロビン含量は減少し、牛肉の脂質酸化リスクが低くなるという仮説を立てた。しかし、得られた結果は仮説と異なり、今回比較した早期出荷区と慣行出荷区では牛肉の脂質酸化リスクに対する出荷月齢の影響は確認されなかった。その原因としては、今回比較した月齢は、脂肪酸組成やミオグロビンの生理的変化が顕著に示されるほどの月齢差ではなかった可能性が考えられる。過去の知見では、不飽和脂肪酸の増加は14カ月齢から28カ月齢の範囲で、ミオグロビン含量の増加は20カ月齢から35カ月齢の範囲で示されていた。本調査では、輸出拡大のための増頭手段としての肥育期間短縮技術で想定される範囲の26カ月齢と30カ月齢の比較であり、この範囲においては、脂肪酸組成やミオグロビン含量の変化はなく、脂質酸化リスクに対する出荷月齢の影響はないと推察された。
 本調査研究の主目的であった出荷月齢と牛肉の脂質酸化リスクの関連は確認できなかったものの、両区ともに貯蔵中の脂質酸化が進行していたことには注意する必要がある。例えば、牛ミンチ肉の貯蔵温度4度での保存における消費期限の目安(社団法人中央畜産会、2006)は3日間とされている。本調査の両区で示された貯蔵3日目のTBARS値は、貯蔵0日目より増加しており、酸化臭強度評点からは酸化臭強度がやや弱い〜やや強いと推測された。これらの結果は、貯蔵3日間で両区ともに脂質酸化が進行しており、消費期限内でも酸化臭が強く感じられ、品質が劣化していると判断される可能性があることを示している。
 牛肉自体に存在する脂質酸化関連要因のうちコントロールが可能な要因の一つにα-トコフェロールが挙げられる。三津本ら(1995)は、黒毛和種肥育牛にビタミンE剤1日当たり2500ミリグラムを4週間投与することで、牛肉中のα-トコフェロール含量を増加させ、貯蔵中の牛肉の脂質酸化とメトミオグロビン形成を抑制できることを示している。また、α-トコフェロールを多く含むイネ発酵粗飼料の給与によっても冷蔵保存中の牛肉の脂質酸化や変色が抑制される(山田ら、2012)。これらの報告のように、給与飼料によって牛肉自身の抗酸化性を高め、脂質酸化リスクを低減することは可能である。生産段階の他にも、加工段階、包装段階と多くの過程において、牛肉の脂質酸化リスクを低減するための技術が存在する。今後、和牛肉の輸出拡大を推進する上で重要である小売販売については、和牛肉の脂質酸化を防ぎ、品質を保った状態で海外の家庭に届けるために、生産から流通までのすべての過程において、脂質酸化リスクへの配慮をしながら進めていく必要があると考えられる。
 
【引用文献】
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