農林水産省が令和6年7月30日に公表した「令和5年農業物価指数―令和2年基準―」について、概要を以下の通り報告する。
農業物価指数とは、農業における投入・産出の物価変動を表すもので、農産物価格指数と農業生産資材価格指数を用いて作成されている。農産物価格指数は、農家が販売する農産物の生産者価格に関する指数であり、農業生産資材価格指数は農家が購入する農業生産資材価格に関する指数である。なお、これらすべての指数は、基準年の令和2年を100とした数値となっている。
5年の農産物価格指数(総合価格指数(以下「総合」という))は、鶏卵、野菜などの価格が上昇したことにより、前年に比べ6.3%上昇の108.6となった(図1)。農業生産資材価格指数(総合)は、畜産用動物などの価格が低下したものの、飼料、肥料などの価格が上昇したことにより、前年に比べ4.0%上昇の121.3となった。過去10年間の推移を見ると、いずれも上昇傾向にあり、農産物価格指数(総合)、農業生産資材価格指数(総合)ともに、基準年の2年以降、100を上回って推移し、その中でも農業生産資材価格指数(総合)の上昇傾向の方が強く、3年の両指数の差は5.9ポイントであったが、4年は14.4ポイント、5年は12.7ポイントとなった。
【農産物価格指数】畜産物は前年比7.7%上昇
農産物価格指数(注1)のうち畜産物を見ると、5年は、子牛の価格が低下した一方、鶏卵の価格が高病原性鳥インフルエンザ(以下「HPAI」という)や飼料価格高騰の影響で出荷量が減少したことなどから上昇したことにより、前年比7.7%上昇の113.4となった(図2、3)。
(注1) 農産物価格指数(総合)の算出に用いる類別のウエートは、全体を100とした場合、米は15.72、いもは2.74、野菜は24.64、果実は9.66、花きは3.52、畜産物は39.05などとなっている。
畜産物の農産物価格指数のうち肉用牛を見ると、5年は、物価の上昇による消費者の生活防衛意識の高まりなどの影響により、品種によっては100を下回る月があったものの、年平均では、去勢肥育和牛は同4.2%低下の103.5、めす肥育和牛は同7.3%低下の102.2、乳用肥育交雑種は同3.5%低下の102.4、乳おす肥育ホルスタイン種は同2.1%低下の105.0となった(図4)。
肥育用乳子牛および和子牛を見ると、5年は、前年からの下落傾向が継続し、全品種がすべての月で100を下回っており、年平均では、肥育用乳用おす(ホルスタイン種)は同23.3%低下の72.9、肥育用乳用(交雑種)は同5.1%低下の81.4、和子牛(おす)は同13.3%低下の85.3、和子牛(めす)は同17.3%低下の79.5となった(図5)。
肉豚を見ると、5年は、高騰する輸入品の代替需要に加え、比較的高価な牛肉からの需要のシフトなどを背景に、ほとんどの月で100を上回っており、年平均では、同3.4%上昇の111.2となった(図6)。
ブロイラーを見ると、5年は、継続した堅調な需要により、すべての月で100を上回っており、年平均では、同5.8%上昇の109.6となった。
鶏卵を見ると、5年は、前年10月以降に発生したHPAIにより採卵鶏の殺処分が飼養羽数の1割強に上ったことなどの影響から、すべての月で100を大幅に上回っており、年平均では、同39.0%上昇の178.9となった。
生乳は昨年から10.0ポイント上昇して、109.9となり、年次平均としては初めて100を超えた(図7)。これは令和4年11月および令和5年8月に飲用乳価の値上げが行われたことが要因であり、令和5年は年間を通じて100を超えて推移し、9月以降は110を超える結果となった。
【農業生産資材価格指数】飼料は前年比5.6%上昇
農業生産資材価格指数(総合)(注2)のうち畜産用動物を見ると、5年は、牛枝肉価格の低下や飼料価格の高騰による子牛購買意欲の低下などにより、前年比8.2%低下の88.3となった(図8)。一方、飼料は、輸入原料価格の上昇による配合飼料価格の上昇などにより、同5.6%上昇の145.7となった。
(注2)農業生産資材価格指数(総合)の算出に用いる類別のウエートは、全体を100とした場合、畜産用動物は11.31、肥料は7.76、飼料は22.96、光熱動力は8.50、農機具は13.26、賃借料および料金は6.27などとなっている。
飼料の農業生産資材価格指数のうち配合飼料を見ると、5年は、直近では、需給ひっ迫の懸念が後退し、米国や南米の需給などの動向を受けて、トウモロコシ価格の下落傾向がみられるものの、国際情勢や為替相場の影響が継続しており、年平均では、同5.2%上昇の145.7となった(図9)。
品目別に見ると、いずれもすべての月で100を大幅に上回っており、年平均では、成鶏用は同5.0%上昇の141.9、ブロイラー用(後期)は同7.1%上昇の152.5、幼豚育成用は同4.1%上昇の147.1、若豚育成用は同3.2%上昇の147.5、乳用牛飼育用は同4.6%上昇の142.9、肉用牛肥育用は同6.4%上昇の144.1となった。
なお、経営コストに占める飼料費の割合は高く、4年では、繁殖牛(子牛生産)は43%、肥育牛は38%、肥育豚は67%、ブロイラー経営は57%、生乳は北海道で46%、都府県で54%、採卵経営は58%となっている(注3)。
(注3)資料:農林水産省「飼料をめぐる情勢(令和6年8月)」
繁殖牛(子牛生産)は子牛1頭当たり、肥育牛および肥育豚は1頭当たり、生乳は生乳100キログラム(実搾乳量)当たり、養鶏(ブロイラー経営、採卵経営)は1経営体当たり。
(畜産振興部 小森 香穂、酪農乳業部 橋 沙織)