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話題 畜産の情報 2024年10月号

土佐あかうしらしい赤身肉の独自規格(TRB規格)について

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高知県 農業振興部畜産振興課 酪肉振興担当  主幹  鈴木 芽衣

1 「土佐あかうし」とは

 「土佐あかうし」は、地域団体商標に登録されたブランド名で「褐毛和種(あかげわしゅ)」という品種に属する高知県固有の和牛です。褐毛和種はさらに「褐毛和種・高知系」と「褐毛和種・熊本系」の2種類に分類され、「高知系」は特徴として「毛分け(けわけ)」が挙げられます。「毛分け」とは、眼瞼がんけん(目の周り)、鼻鏡びきょう(鼻先)、角、舌、尾房(しっぽの先)、蹄(足のつめ)などが黒色を呈している状態を指し、これらの部位が白色に近い「熊本系」とは区別されます(写真1、2)。褐色の被毛にアイラインのような黒いまつげを持つ土佐あかうしは、何よりかわいらしく、性質もおとなしく従順で、飼いやすい牛として耕作時の労働力として重宝される一方、肉用牛としても赤身特有のおいしさが特長です。
 昭和30年代には3万頭以上飼われていた土佐あかうしは、牛肉の輸入自由化や黒毛和種との価格差の広がりなどの影響によって平成26年には1595頭まで減少しました。県では、農協や生産者などの関係者と一体となって「土佐あかうし」の赤身のおいしさをアピールしたブランド化の取り組みを進めるとともに、さまざまな生産振興施策に取り組んだ結果、令和6年2月1日時点で2445頭とV字回復傾向で増頭が進んでいます。



2 TRB規格のはじまり

 2010年代前半ごろから「赤身肉ブーム」の時代が幕を開け、高級レストランや料亭向けの食材として強みがあると分析した流通戦略が功を奏し、幻の和牛となっていた「土佐あかうし」は需要が高まり、枝肉や子牛の取引価格、さらには生産者の所得を引き上げました。一方、新たに二つの課題にも直面しました。一つは土佐あかうしを応援してくださるシェフからの肉質への要望です。これは主に歩留まりの悪さ(可食部が少ないこと)や品質のバラツキに対するものでした。増頭が進む中で、肝心の土佐あかうしの「品質」が「赤身肉ニーズ」に追いついていなかったのです。
 もう一つは、赤身肉ブランドとしてPRしていく中、格付結果の低さにより市場取引では価格が低迷してしまうことです。格付けとは枝肉のランク付けであり、肉として食べられる部分の多さや肉質、特にサシの多さ(霜降り度合)によって評価判定を受けます。当然、市場においてもこの格付けが重要視されており、より高い格付けの枝肉が高い価格で取引されているというのが現状です。土佐あかうしは、黒毛和種に比べてサシが入りづらく、赤身の多い肉質が特徴であるため、肉質等級では2〜3等級が土佐あかうし全体の6割を占めていました(令和元年度時点)。そのため、枝肉の取引価格が安く、生産者の所得も上がらないという状態が長らく続いていました。
 県では、「応援してくださるお客様に喜んでいただける土佐あかうしを届けたい」という思いと「おいしい牛肉を作ってくださっている生産者を支援したい」という思いから、県や農協、生産者などの関係者から構成された土佐和牛ブランド推進協議会(以下「協議会」という)において、高知県独自の赤身肉を評価する仕組みを検討しました。
 これがTosa Rouge Beef(トサ ルージュ ビーフ)、略して「TRB」規格です(写真3)。サシが少ないと言われる、肉質等級が2〜3等級の土佐あかうしの中から「ロース芯の大きさ」「皮下脂肪の薄さ」に注目し、併せてロース芯の形や筋間脂肪、土佐あかうしらしい小サシの具合、出荷月齢などの規格補正を加え、その品質が標準より良いものを「R4」、さらに良いものを「R5」として再評価する取り組みを令和2年度からスタートさせました。

3 TRB規格を開始して得られた成果と見えてきた課題

 TRB規格の開始から約2年が経過したころには、格付けが「A2」「A3」でありながら、TRB規格で再格付けされた土佐あかうしの枝肉価格は、黒毛和種(A4等級以上が9割を占める)の枝肉平均価格とほぼ同額で推移するようになりました。これにより、土佐あかうしの生産者の所得確保にもつながっており一定の成果も出てきました。一方、さまざまな課題も見えてきました。
 まずは、TRB規格に合致する枝肉が想定よりも少なかったことです。同規格が認知され、枝肉の購買者からの需要は高まっていましたが、基準を満たす牛が当初の計画の約半分ほどしか出荷されませんでした。また、これまでTRB判定として高く取引された枝肉であっても、品質に納得いただけないものや、逆に良い肉質の枝肉であってもロース芯が小さかったり、皮下脂肪が厚かったりしたため現行の規格ではTRB規格を満たさないといったこともありました。これを受けて協議会では、これら課題を踏まえTRB規格の見直しに取り組みました。

4 TRB規格の見直し

 協議会を中心として、関係団体や行政が協議を繰り返し、新基準のTRB規格(以下「新TRB規格」という)が令和4年度からスタートしました。新TRB規格では、新たに歩留基準値やバラの厚さについても判定要件に加えたほか、2段階の評価方式(注)をとるようにしました(図1)。1次判定では13項目、2次判定では11項目の2段階判定方式を用いて「土佐あかうしらしい赤身肉」を再評価しています。これらの項目について一定基準をみたす枝肉は、良いものを「R4」、より良いものを「R5」として評価を行います。新TRB規格の導入によって、肉質を保証すると同時に流通側のニーズに応じた赤身肉を供給することができるようになったと考えています。
 新TRB規格の導入により、格付頭数に占めるTRB規格枝肉の割合が上昇しました(表)。また、土佐あかうし全体の枝肉価格も、令和4年度には8年ぶりに本県産の黒毛和種を超えるものとなりました(図2)。
高価格で取引される土佐あかうしが増えることは、生産者の所得向上に直結するだけでなく、育成〜肥育技術の向上も誘引し、さらには「よりおいしい土佐あかうし」の生産拡大へとつながっていくと考えています。

(注)新TRB規格の詳細については、高知県ウェブサイト(https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/trb02/)をご参照ください。





5 「土佐あかうし」今後の展望

 牛肉の流通を取り巻く状況を見ると、国内では産地間ブランド競争が激しく、各県、各地域でさまざまな改良や工夫を加えた和牛(ほとんどが黒毛和種)の肉が市場に並んでいます。また、米国産や豪州産など、安価な値段で赤身肉をうたった牛肉が小売店や飲食店などでも多く見られます。さらに、最近は環境問題やアニマルウェルフェアの観点から、大豆などを使った代替肉も出てきている状況です。
 高知県内だけで改良され、生産されている土佐あかうしは、生産頭数は回復傾向にあるものの、まだまだ「幻の和牛」です。しかし、その肉質や改良の歴史においても唯一無二の存在であり、そのおいしさも高く評価されています。土佐あかうしの持つポテンシャルは底知れず、このように競合する食肉などがひしめき合う困難な状況下でも独自のマーケットポジションを確立し、さらに飛躍していけると確信しています。今後も高知県では生産者をはじめ、関係団体や流通業者と一体となって土佐あかうしのおいしさを全国に広めていく取り組みを行っていきたいと考えています。読者の皆さま、ぜひ一度、土佐あかうしを召し上がってください。

※高知市内で土佐あかうしを食べられるお店の情報は、「地肉・地卵の食べ歩きマップ」でご覧いただけます。

 
 
【プロフィール】
鈴木 芽衣(すずき めい)
高知県出身。
獣医師になることを志し宮崎大学で勉強していた中で、畜産に出会い興味を持つ。
卒業後、帰郷して高知県に入庁。
入庁後、畜産試験場で土佐あかうしの受精卵生産業務を担当し、令和6年4月より本庁へ異動して肉用牛振興業務を担当。高知県の畜産業をさらに盛り上げていくために日々まい進中。