家畜ふん尿は肥料成分を多く含んでおり、土壌改良効果も期待される有機質資源であるが、未処理のものは、搬送、貯蔵、施用などの作業性が悪く、悪臭やハエなどの発生、病原菌や寄生虫の卵が含まれるなど、環境および衛生上の問題がある。
太平牧場では、写真1に示すように、牛舎から離れたところにコンクリートの枠で区切られた堆肥場があり、訪れた際には、悪臭はせず、ハエなどの発生も見られなかった。
堆肥化処理の作業としては、区切られたブロックの敷地に家畜ふん尿を搬入し、時々切り替えを行う。切り替えにより空気を循環させるとともに、堆肥場で生息してきた菌の活力で発酵を促進させることで、堆肥の温度を上昇させていく。堆肥の熟成具合により、場所を移動させながら、切り替え、空気の送り込みなどを行い、菌と酵母など微生物の力を活用し、半年ほどかけて発酵を行い、完熟堆肥を作っていく。堆肥の運搬や切り返しなどに関しては、写真2に示すようにホイールローダーで行っている。
太平牧場での堆肥製造における特徴は、作業用ロボットを導入していることである。堆肥処理や製造は力仕事であり、特に女性にとっては負担の大きい作業であるため、畜産農家におけるふん尿処理作業の省力化は経営課題の一つとなっている。
ロボットを導入するきっかけとなったのは、インターンシップに来た広島大学の2人の女子大生が大変そうな堆肥処理(特に、堆肥袋の持ち上げ)作業を見た際に、「積み下ろしをするようなロボットを導入してはどうか?」と淳子氏に提案したことであった。
太平牧場では、堆肥製造にかかる作業用ロボットとして、(1)発酵堆肥を自動的に袋詰めしてくれるロボット(2)袋詰めをした堆肥の袋を積みそろえてくれるロボット(3)出荷用に堆肥袋にシートを巻いて梱包してくれるロボット―の計3台を導入している。(1)(2)のロボットに関しては、平成21年度に農林水産省の畜産環境総合整備統合補助事業を活用し、当時の財団法人広島県農林振興センターを通じて導入し、その2年後に、(3)のロボットを導入した。こうした作業用ロボット導入により、夜通し手作業で袋詰めを行っていた作業から解放され、現在では24時間ロボットがフル稼働している。
これら3台のロボットの具体的な働きについては、次の通りである。
まず、発酵堆肥を自動的に袋詰めしてくれるロボットについては、写真3のように、準備された堆肥袋を吸引し袋を持ち上げ、袋を吊るし、ベルトコンベアから運ばれてくる発酵堆肥を袋詰めし、計量され、袋が閉じられる。太平牧場では、40リットルと30リットルの二つの容量の堆肥袋がある。
次いで、堆肥を積み上げるロボット(フジエース:不二輸送機工業株式会社製)である。先ほどの工程で袋詰めされた堆肥は整形機を通り、袋の形を整えられ、フィードコンベアまで運ばれる。その後、ロボットのアームが堆肥袋をつかみ、90度回転させ、袋が崩れないように袋の方向が整えられ、積み上げられていく(写真4、図3)。ロボットの動作範囲は旋回・手首ともに330度となっている。
最後に、積みあげられた堆肥(写真5左)は、フォークリフトで出荷するために堆肥袋にシートを巻いてくれるロボット(写真5右)へ移動させ、梱包が行われる。
また、ロボットは24時間稼働可能であるが、安全性を担保するためにセンサーが設置されている。写真6に示すように、例えば、猫などの小動物が侵入し、ロボット周辺に設置されているセンサーが感知すると、アラームが発動しロボットが停止する仕組みとなっている。その他、ロボット自体に不具合が生じ、エラーが発生することがあり、その際には作業が中断されることとなる。ただし、ロボット導入当時より作業を担ってきた静栄氏は、大きな故障以外は、自身で修理することができるため、メーカーの担当者を呼ぶことはほとんどないとのことである。それだけでなく、新たに担当となった同メーカーの社員は、分からないことがあれば、静栄氏にロボットのことについて聞きに来るそうである。
こうして製造された堆肥は、現在、主に広島県を中心に展開するホームセンターのユーホー(22店舗)で販売されている。ロボットを導入する前の手作業の時は、近隣の大規模農家のところへ4トントラックで堆肥を運搬(年間100〜200トン)していた。ロボット導入後はこれらをやめて袋で販売するようになった。2023年は年間20万袋以上を販売する人気商品となっている。特に、2月から4月にかけては春・夏野菜を、また、8月から9月は秋・冬野菜を栽培するために圃場に堆肥を施用したい畑作農家からの需要が高まるため、2月から5月にかけては、堆肥製造がピークを迎えるとのことである。太平牧場では、製造している堆肥は4種類あり、40リットルの袋入りで250〜400円、30リットルの袋入りは250円ほどで販売されている(写真7)。内容は堆肥に加えて、おが粉、バーク、もみがらなどのタイプにより配合が異なっている。なお、太平牧場における預託事業と堆肥販売の売上比率は、およそ1対6となっており、堆肥製造・販売が同牧場の収益の中心となっている。
ちなみに、なぜ、ここまでの人気商品となったのかというと、「ホームセンターでの堆肥販売を注意深く観察していく中で、売れ行きの良い場所と売れ行きの良くない場所があることに気づき、売れ行きの良い場所に自社の堆肥を置いてもらえるように粘り強く交渉を行ったため」と淳子氏はその秘訣を語っている。