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調査・報告 専門調査  畜産の情報 2024年10月号

作業用ロボットを活用した家畜排せつ物の堆肥製造               〜株式会社太平牧場を事例として〜

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広島大学大学院 統合生命科学研究科 准教授 長命 洋佑

【要約】

 国際的な肥料価格の価格高騰により、輸入依存からの脱却に向けた家畜排せつ物の有効活用への期待が高まっている。本稿では、広島県内で作業用ロボットを活用し、家畜由来の排せつ物を堆肥化して販売を行っている株式会社太平牧場の革新的な取り組みを事例として取り上げる。作業負担の大きい堆肥化作業において、ロボットによって一連の作業を自動化することで省力化が図られている取り組みの実態を明らかにする。

1 はじめに

  世界的な穀物需要の増加やエネルギー価格の上昇に加え、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響により、化学肥料原料の国際価格が大幅に上昇し、肥料価格が急騰している(農林水産省2022a)。わが国は肥料原料の大半を輸入に依存しており、多大な影響を受けているが、国内に目を向けると、家畜排せつ物などの肥料原料が存在していることから、これらの有効活用方策を模索していくことが重要である。家畜排せつ物を適切に堆肥化し、農地に還元することは、家畜排せつ物に由来する温室効果ガスの排出抑制や化学肥料の使用量の低減に資するなど、持続的な農業生産を図る上でも特に重要であるとともに、耕種農家のニーズに合った高品質な堆肥の生産・流通を促進し、有効利用していく必要がある(農林水産省2022b)。
 本稿では、作業用ロボットを活用し、昨今の堆肥の情勢および家畜排せつ物の状況について整理した後、堆肥処理・製造を行っている株式会社太平牧場(以下「太平牧場」という)における取り組み、家畜排せつ物処理にかかる施設・ロボット等について紹介する
(調査は、2024年3月に実施)。

2 堆肥をめぐる情勢

 わが国では、主な化学肥料の原料である尿素、リン酸アンモニウム(リン安)、塩化カリウム(塩化カリ)のほぼ全量を輸入に依存している。農林水産省(2024)によると、2022(令和4)年の肥料年度(22年7月〜23年6月)では、尿素は輸入量の8割以上をマレーシア(73%)と中国(11%)に、リン安は8割以上を中国(62%)とモロッコ(16%)に、塩化カリは7割をカナダ(70%)に依存している。わが国の化学肥料(高度化成肥料)は、製造コストの約6割を原材料費が占めており、原料の多くを輸入に依存していることから、肥料価格は、化学肥料原料の国際価格や運送費の影響を大きく受ける構造となっている(農林水産省2024)。
 途上国を中心とした人口増加や経済発展に伴う食糧需要の高まりに加え、コロナ禍における物流の混乱のほか、21年の秋以降、中国が肥料原料の輸出検査を厳格化した影響などにより、需給のひっ迫度合いが高まっている。さらにロシアのウクライナ侵攻により、肥料原料や原油の有数の輸出国であるロシアやベラルーシからの輸入規制が世界的に広がり、肥料原料の需給はよりひっ迫している。これらの情勢を背景とし、化学肥料原料の国際価格が高騰し、国内の肥料原料の調達は不安定化している(中川2023)。
 こうした情勢下において、農林水産省は、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するため、中長期的な観点から戦略的に取り組む政策方針として、21年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、この中で、「50年までに輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減する」との目標を掲げ、有機物の循環利用や、施肥の効率化・スマート化を推進するとともに、「30年までに化学肥料の使用量を20%低減する」との中間目標を設定した(農林水産省2021)。
 そうした中、地域・未利用資源の一層の活用に向けた取り組みにおいて掲げられている目標(KPI)のなかで、化成肥料および家畜排せつ物が関連するものとして、次の事柄が明文化されている。それらは、(1)堆肥の高品質化(2)ペレット化(3)堆肥を用いた新たな肥料の生産(4)広域流通の推進による循環利用システムの構築(5)温室効果ガス排出量が少なく、省力的で低コストな家畜排せつ物処理施設の開発・普及(6)家畜排せつ物中の有用物質(窒素、リン等)の高効率な回収・活用技術の開発―である。また、(1)イノベーション等による持続的生産体制の構築により、高い生産性と両立する持続的生産体系への転換を図ることで、堆肥等の有機資源を活用した施肥体系の確立と現場実証や取り組みの拡大(2)土づくりの高度化に向けた生物性評価の確立―などが期待されている(農林水産省2021)。

3 家畜排せつ物の発生状況

 家畜由来の排せつ物は、家畜の種類、体重、飼料(種類・摂取量)、飲水量、飼養形態、季節などにより変化するが、図1に示すようにわが国全体で1年間に発生する家畜排せつ物の量は、約8000万トン(2023年)であり、発生量の約8割が堆肥化などにより農業利用されている。排せつ物の発生量を畜種別に見ると、乳用牛が27%、肉用牛が約31%、豚が25%、鶏が約17%となっている(表)。
 また、家畜排せつ物は畜種や飼養形態によって性状が異なるため、その処理方法にも違いがある。山路(2024)は、畜種別の処理方法について、次の通り整理している。乳用牛の約7割はふん尿混合処理で、そのうち約6割が発酵処理、約3割が貯留後に圃場ほじょう還元やその他メタン発酵などが行われている。肉用牛は、約9割がふん尿混合処理であり、豚はふん尿分離が約8割、固形分は発酵処理を行い液分は浄化処理をしている。採卵鶏は約9割が発酵処理、その他焼却、乾燥、廃棄物処理などとなっており、ブロイラーは約5割が焼却、約4割が発酵処理などとなっている。
 耕地面積当たりの家畜排せつ物発生量について地域別の状況を見ると、図2に示すように耕地面積当たりの家畜排せつ物発生量は都道府県間で大きな格差がある。西日本の特徴を見ると、宮崎県や鹿児島県などの南九州、広島県や岡山県などの中国地域など、一部の畜産地域では、他地域に比べ相対的に耕地面積当たりの家畜排せつ物発生量が大きい。これらの地域では、家畜排せつ物を農地還元以外に利用する高度利用の促進、耕畜連携による地域を越えた広域利用の推進などの取り組みが重要といえよう。






4 太平牧場の経営概況

 太平牧場は、広島県の中東部に位置する人口約1万5000人(2024年6月末日現在)の世羅せら町にある。世羅町は、通称「世羅台地」と呼ばれる標高350〜450メートルの台地を形成し、瀬戸内海に流れる芦田あしだ川水系と、日本海に流れる江の川水系の分水嶺ぶんすいれいとなっている。気候は、年平均気温13度、年間降水量1300ミリメートルとなっており、昼夜の寒暖差も大きいことから、農産物の一大産地となっている。そうした豊かな自然に恵まれた世羅町において、太平牧場では、代表取締役の佐古淳子氏(以下「淳子氏」という)とその娘で取締役の佐古静栄しずえ氏(以下「静栄氏」という)が中心となり、牛の預託肥育および堆肥の製造販売のほか、ブドウ栽培やベーコン、ジャム、ハチミツなどの加工品をせら夢公園内にある夢高原市場で販売を行っている。
 現在、太平牧場がある場所は、1963年(昭和38年)に広島県のパイロット事業で開拓された農地である。淳子氏は1968年(43年)に京都府亀岡市から世羅町へ移住してきた。入植当時は現在のような牛の飼養は行っていなかったが、淳子氏のご主人は、身体が弱く東京で入院をしていた母親のために「本物の牛乳を飲ませて、元気になってもらいたい」との思いをもっており、酪農を志していた。しかし、ご主人の両親は鉄工所を経営していたため、自社で勤務することを望んでおり、酪農を行うことについては反対していた。そうした際、現在の牧場地で畜産業を営んでいた経営者が廃業することとなった。ご主人の両親は、「うまくいかなかった牧場を引き継ぎ、失敗すれば酪農を志す気持ちもなくなるだろう」という想いで、廃業した牧場をご主人の父親が買い取り、淳子氏夫妻がその牧場を譲り受け、酪農を開始したのが太平牧場の始まりである。開始当初は、搾乳牛50頭を飼養しており、近隣の酪農家、梨農家、お茶農家とともに出荷していた。1980年(55年)に酪農経営から黒毛和種の一貫経営に転換した。
 その後、1990年(平成2年)に黒毛和種の一貫経営から生後6カ月のホルスタイン種の雄子牛(去勢牛)を預かり、成牛に育てる育成・肥育の専門預託牧場として運営を行うようになった。当初は、明治乳業株式会社・神明畜産株式会社等の保有する農場から牛を預かり、委託事業として、ホルスタイン種の雄牛約300頭を肥育していた。その後、2022年(令和4年)ごろから、岡山県に本社があるファーマーズホールディングス株式会社(以下「ファーマーズ」という)との取引を開始した。現在はファーマーズから紹介された株式会社神戸畜産(以下「神戸畜産」という)と取引を行うこととなり、23年10月から黒毛和種の育成を開始し、現在に至っている。
 24年3月時点で100頭の黒毛和種を育成しているが、飼養しているホルスタイン種の肥育が終了し次第、空き牛舎には黒毛和種を入れる予定である。現在飼養している約200頭のホルスタイン種の肥育が終了したら、飼養する牛はすべて黒毛和種となる。黒毛和種は、離乳後2〜3カ月のもと牛を導入し8〜9カ月まで育成し、肥育農家に移動する。牛に給与する飼料に関しては、細かく指示があり、かつ個体に応じた給餌をする。月に1〜2回、神戸畜産の担当者が太平牧場を訪れ、牛舎の空き具合や導入する牛、管理している牛の状況などの確認が行われる。

5 太平牧場における堆肥製造

 家畜ふん尿は肥料成分を多く含んでおり、土壌改良効果も期待される有機質資源であるが、未処理のものは、搬送、貯蔵、施用などの作業性が悪く、悪臭やハエなどの発生、病原菌や寄生虫の卵が含まれるなど、環境および衛生上の問題がある。
 太平牧場では、写真1に示すように、牛舎から離れたところにコンクリートの枠で区切られた堆肥場があり、訪れた際には、悪臭はせず、ハエなどの発生も見られなかった。
 堆肥化処理の作業としては、区切られたブロックの敷地に家畜ふん尿を搬入し、時々切り替えを行う。切り替えにより空気を循環させるとともに、堆肥場で生息してきた菌の活力で発酵を促進させることで、堆肥の温度を上昇させていく。堆肥の熟成具合により、場所を移動させながら、切り替え、空気の送り込みなどを行い、菌と酵母など微生物の力を活用し、半年ほどかけて発酵を行い、完熟堆肥を作っていく。堆肥の運搬や切り返しなどに関しては、写真2に示すようにホイールローダーで行っている。



 
 
 太平牧場での堆肥製造における特徴は、作業用ロボットを導入していることである。堆肥処理や製造は力仕事であり、特に女性にとっては負担の大きい作業であるため、畜産農家におけるふん尿処理作業の省力化は経営課題の一つとなっている。
 ロボットを導入するきっかけとなったのは、インターンシップに来た広島大学の2人の女子大生が大変そうな堆肥処理(特に、堆肥袋の持ち上げ)作業を見た際に、「積み下ろしをするようなロボットを導入してはどうか?」と淳子氏に提案したことであった。
 太平牧場では、堆肥製造にかかる作業用ロボットとして、(1)発酵堆肥を自動的に袋詰めしてくれるロボット(2)袋詰めをした堆肥の袋を積みそろえてくれるロボット(3)出荷用に堆肥袋にシートを巻いて梱包こんぽうしてくれるロボット―の計3台を導入している。(1)(2)のロボットに関しては、平成21年度に農林水産省の畜産環境総合整備統合補助事業を活用し、当時の財団法人広島県農林振興センターを通じて導入し、その2年後に、(3)のロボットを導入した。こうした作業用ロボット導入により、夜通し手作業で袋詰めを行っていた作業から解放され、現在では24時間ロボットがフル稼働している。
 これら3台のロボットの具体的な働きについては、次の通りである。
 まず、発酵堆肥を自動的に袋詰めしてくれるロボットについては、写真3のように、準備された堆肥袋を吸引し袋を持ち上げ、袋を吊るし、ベルトコンベアから運ばれてくる発酵堆肥を袋詰めし、計量され、袋が閉じられる。太平牧場では、40リットルと30リットルの二つの容量の堆肥袋がある。

 
 次いで、堆肥を積み上げるロボット(フジエース:不二輸送機工業株式会社製)である。先ほどの工程で袋詰めされた堆肥は整形機を通り、袋の形を整えられ、フィードコンベアまで運ばれる。その後、ロボットのアームが堆肥袋をつかみ、90度回転させ、袋が崩れないように袋の方向が整えられ、積み上げられていく(写真4、図3)。ロボットの動作範囲は旋回・手首ともに330度となっている。
 
  

 
 最後に、積みあげられた堆肥(写真5左)は、フォークリフトで出荷するために堆肥袋にシートを巻いてくれるロボット(写真5右)へ移動させ、梱包が行われる。
 
また、ロボットは24時間稼働可能であるが、安全性を担保するためにセンサーが設置されている。写真6に示すように、例えば、猫などの小動物が侵入し、ロボット周辺に設置されているセンサーが感知すると、アラームが発動しロボットが停止する仕組みとなっている。その他、ロボット自体に不具合が生じ、エラーが発生することがあり、その際には作業が中断されることとなる。ただし、ロボット導入当時より作業を担ってきた静栄氏は、大きな故障以外は、自身で修理することができるため、メーカーの担当者を呼ぶことはほとんどないとのことである。それだけでなく、新たに担当となった同メーカーの社員は、分からないことがあれば、静栄氏にロボットのことについて聞きに来るそうである。



 
 こうして製造された堆肥は、現在、主に広島県を中心に展開するホームセンターのユーホー(22店舗)で販売されている。ロボットを導入する前の手作業の時は、近隣の大規模農家のところへ4トントラックで堆肥を運搬(年間100〜200トン)していた。ロボット導入後はこれらをやめて袋で販売するようになった。2023年は年間20万袋以上を販売する人気商品となっている。特に、2月から4月にかけては春・夏野菜を、また、8月から9月は秋・冬野菜を栽培するために圃場に堆肥を施用したい畑作農家からの需要が高まるため、2月から5月にかけては、堆肥製造がピークを迎えるとのことである。太平牧場では、製造している堆肥は4種類あり、40リットルの袋入りで250〜400円、30リットルの袋入りは250円ほどで販売されている(写真7)。内容は堆肥に加えて、おが粉、バーク、もみがらなどのタイプにより配合が異なっている。なお、太平牧場における預託事業と堆肥販売の売上比率は、およそ1対6となっており、堆肥製造・販売が同牧場の収益の中心となっている。

 
 ちなみに、なぜ、ここまでの人気商品となったのかというと、「ホームセンターでの堆肥販売を注意深く観察していく中で、売れ行きの良い場所と売れ行きの良くない場所があることに気づき、売れ行きの良い場所に自社の堆肥を置いてもらえるように粘り強く交渉を行ったため」と淳子氏はその秘訣を語っている。

6 おわりに

 本稿では、太平牧場における作業用ロボットを活用した堆肥製造の実態について見てきた。太平牧場では、発酵堆肥を自動的に袋詰めしてくれるロボット、堆肥の袋を積みそろえてくれるロボット、出荷用に堆肥袋にシートを巻き梱包してくれるロボットを導入することで、作業負担が大きい堆肥製造作業において、省力化が図られていた。
 「みどりの食料システム戦略」の中でも「2050年までに輸入燃料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減する」との目標を掲げられており、有機物の循環利用は重要な柱の一つとなっていることをかんがみると、本稿で取り上げた太平牧場の取り組みは、モデルケースとなっていくであろう。今後、太平牧場で実施されていたように、一部の作業段階で作業用ロボットを活用することで、堆肥処理・製造の省力化が可能となる。こうした取り組みが各地に展開されていき、貴重な有機質資源である家畜由来のふん尿の利用が促進され、資源循環型の生産システムが構築されることが期待される。
 
【謝辞】
 今回の調査に当たり、株式会社太平牧場の代表取締役の佐古淳子氏、取締役の佐古静栄氏、広島大学大学院統合生命科学研究科の細野賢治教授には多大なるご協力を賜りました。この場を借りて皆さまに感謝の意を申し上げます。

 
参考・引用文献
中川純一(2023)「化学肥料の価格高騰に伴い、今こそ国内資源肥料の利用拡大へ」
農林水産省(2021)「みどりの食料システム戦略」
農林水産省(2022a)「肥料価格高騰対策事業」
農林水産省(2022b)「家畜排せつ物に由来する堆肥の有効利用について」
農林水産省(2024)「家畜環境をめぐる情勢」
山路敬「家畜排せつ物の利活用の促進について」『畜産コンサルタント』60(7):12-15.