(1)肉質と評価
メキシコ産牛肉は、牛の品種が熱帯種や熱帯種と他種の交配種が多いことから、米国産などと比べて赤身率が高いとされる(写真1)。一方で、北部を中心にヨーロッパ種を中心とした穀物肥育が行われており、これらは米国産に近い脂肪交雑の入った肉質とされている(写真2)。また、豊富な労働力を背景に人件費が安く抑えられ、手先も器用であることから、輸出先が求める多様な規格への対応が可能となっている。
メキシコ農業農村開発省(SADER)は2021年、同国産牛肉の評価基準として牛肉の格付け制度を制定した。歩留と肉質に応じて、上から「プレミアム」「スプレマ」「セレクタ」「エシタンダー」の四つに分類するもので、米国の格付け制度に倣った内容となっている。ただし、現段階では本制度の利用者は限定的であるという。輸出企業ではすでに自社独自で米国の格付けに準拠した格付けを行うなどしており、普及には時間を要すると見込まれる。
(2)牛肉消費量の推移
国内の牛肉消費量は人口の増加に加え、1人当たり消費量も増加していることから拡大傾向にある。直近の動向を見ると、インフレにより低価格志向が強まっているものの、所得向上やウデ(スネ肉)などの低価格部位の販売拡大、ホテルやレストランでの観光需要から、2023年の牛肉消費量は212万トン(前年比5.6%増)とやや増加した。また、1人当たり年間牛肉消費量も16.4キログラム(同4.5%増)とやや増加した(図7)。
ただし、1人当たり牛肉消費量については地域差も大きいとされ、米国に近く、工業生産が盛んな北部では30キログラム近いのに対し、農村の多い南部では豚肉や鶏肉などの消費が多く、牛肉消費量は10キログラムにも満たないとされる。メキシコ全体としては、食肉消費量に占める牛肉、豚肉、鶏肉の割合は、それぞれ2割、3割、5割程度となっている。
24年の1人当たり牛肉消費量は、16.6キログラム(同1.2%増)とわずかな増加が見込まれている。
主な消費部位は低価格部位であるモモ、カタ、ウデや内臓肉であり、タコスの具材や家庭料理向けに用いられる。しかし、食生活の変化により日本向け輸出などに仕向けられていたバラ肉の需要も高まっている。また、ヒレやロースといったステーキ用の高価格部位の取り扱いも増加しており、外食店での取り扱いや中・高所得者層向けの高級小売店で販売されるほか、一般家庭でも休日のアサード(南米式バーベキュー)などで消費される。その他、カットや味付けが施されたready-to-cook製品(味付け加工製品)も増えている(写真3)。
牛肉の購入先については、精肉店での購入が半数以上を占めるとされる。一方、地元の生鮮市場であるウェットマーケットについては、メキシコ政府が衛生上の理由からTIF認証
(注8)を受けた製品をスーパーマーケットなどで購入するよう呼びかけていることなどもあり、都市部での利用者は減少傾向にある。
近年、メキシコでも環境問題への意識は高まりつつあるが、畜産分野における温室効果ガス(GHG)排出量の削減、アニマルウェルフェア(AW)といったテーマについては、消費者の関心は薄いとされる。ただし、食肉輸出企業では、輸出先の要望に応えるためにこうした取り組みを進めているほか、食品加工業を含む製造業でも、水や電気の利用量削減といった取り組みが行われている。
(注8)食肉製品の製造過程で安全衛生基準が満たされていることを保証するもので、メキシコ食品衛生安全品質管理局(SENASICA)が認証している。食肉輸出にはTIF認証が必要となることもあり、利用率は輸出需要にも影響される。2023年では同国の商業処理施設で処理・加工されている牛のうち54%が、TIF認証施設にてと畜されている。
(3)輸出および輸入
牛肉輸出量は、生産量の増加と旺盛な海外需要から2022年まで増加傾向で推移してきたが、23年は国内の需要増やペソ高による価格競争力の低下を背景に34万トン(前年比14.6%減)と減少した(図8)。
一方、国内消費の1割を占める輸入量は、国内の需要増から20年以降は増加傾向にある。また、24年1〜8月の実績を見ると、輸出量が前年同期比15.2%減、輸入量が同33.9%増と、輸出減、輸入増の傾向が強まっている。ただし、24年5月以降は円に対してペソが下落傾向にあるため
(注9)、今後の日本向け輸出については、為替の影響緩和が予測される。
23年の牛肉輸出量を輸出先別に見ると、全体の約9割を占める米国向けが中心である(図9)。続く日本、カナダに加え、韓国や、香港向け輸出を行っているほか、パナマ、コスタリカなどの中米向けも増加しつつある。
14年と比較すると、米国、日本向けが大きく増加しているほか、USMCAの締結国であるカナダ、また、韓国向けが伸長している。韓国とは自由貿易協定(FTA)を締結していないが、同国の旺盛な需要から、骨付きバラ肉やブリスケット(肩バラ肉)といった部位が高価格で輸出されている。
23年の牛肉輸入量を輸入先別に見ると、主な輸入先は米国、次いでカナダであるが、近年は米ドル高の影響などから、ニカラグア、ブラジル、豪州といった国からの輸入量も増加しており、14年と比べると、米国産の比率は85.6%から69.1%へと低下している(図10)。また、23年にメキシコ政府によるインフレ対策として食品への関税が一時的に免除(後述)されたことにより、ブラジルやアルゼンチンといったFTA未締結国からの輸入も増加している。23年はブラジルが4000トン、アルゼンチンは600トンであったが、24年は1〜8月実績で見ると、ブラジルからの輸入量が2万3000トン、アルゼンチンからは4000トンと、いずれも大幅に増加している。
輸入量最大の米国産牛肉については、バーベキュー向けのロインやリブから家庭用部位のモモやウデまで幅広く輸入されているが、USDAの格付けによる牛肉は輸入量全体の1割にも満たず、これらは米国系小売店や高級牛肉店での販売に限られているとされる。
(注9)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」によると、2024年5月の月中平均TTS相場が1メキシコペソ=10.31円であるのに対し、10月の同相場は同8.60円まで下落している。