畜産業では、肉や乳製品が主要な生産物とされるが、特に食肉産業の健全な発展には、副産物の有効活用も重要な役割を果たしている。生体重における食肉としての利用割合は40〜50%に過ぎず、皮、骨、脂肪、血液、内臓など多くの副産物が生じている(図1)1)。これらの副産物は、適切に活用されることで廃棄物の削減や資源循環の促進に貢献している。
図2は、畜産業で生産される肉・乳製品の利用と、食肉産業や皮革産業、レンダリング産業などでの副産物の活用について図解したものである。特に、皮はタンナー(製革業者)によって革へと加工され、靴やバッグなどの製品として利用されている。さらに、皮革製造工程で排出される床皮(皮の内側の層の部分)や廃棄物の一部は、コラーゲン・ゼラチンとして活用されている。一方、骨、脂肪、非食用の内臓などは、レンダリング業者によって油脂、飼料、肥料、ペットフードなどに加工される。このように、皮革関連産業およびその周辺産業は循環型社会の一端を担い、資源の有効活用に貢献している。
しかし近年、「革のために動物の命を奪っている」「革製品の使用をやめれば、アニマルウェルフェア(動物福祉)に貢献できる」「革は環境負荷が高い」といった主張がSNS(ソーシャルネットワークサービス)やメディアで広まり、消費者の認識に影響を与えている。この誤解の背景には、情報の一部のみが強調され、全体像が伝わっていないことが挙げられる。
特に、ヴィーガンレザーと呼ばれる代替素材のマーケティングにより、皮革・革製品が倫理的な問題や環境負荷の高いものと認識されがちである。しかし、多くのヴィーガンレザーは、石油由来の合成素材であり、生分解性(微生物の働きで分解される性質)が低く、製造・廃棄過程における化学物質の使用やマイクロプラスチックの発生などの環境負荷が懸念されている。一方、皮革は食肉産業の副産物を活用するもので、その有効活用は廃棄物の削減や環境負荷の軽減につながっている。
英国の皮革業界団体であるLeather UKが消費者を対象に行った調査(2022年)では2)、回答者の76%がヴィーガンレザーの実態を知らず、単に名称から「環境に優しい」と判断していたことが判明した。また、「革が食肉産業の副産物である」ことを認識していたのは、わずか24%であった。日本の消費者に対する調査(2022年、皮革産業連合会)では、革製品に対するポジティブ層が63%、ニュートラル層が31%であるが、「革が食肉の副産物である」との回答は38%にとどまった(図3)。
食肉はスーパーマーケットなどで簡単に手に入る一方で、畜産業(生産)や食肉産業(加工・流通)の現場を見る機会は少ない。そのため、畜産業、食肉産業、皮革関連産業の関係が理解されにくく、消費者の認識不足が問題となっている。