25年3月の若齢牛価格、わずかに下落傾向も安定して推移
豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)によると、肉牛生体取引価格の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格は、直近2025年3月26日時点で1キログラム当たり654豪セント(628円:1豪ドル=95.97円(注))と2月後半からわずかに下落しているものの安定して推移している(図1)。現地のエージェント(家畜商)やアナリストの分析によると、3月上旬に主要肉牛生産地域であるクイーンズランド(QLD)州およびニューサウスウェールズ(NSW)州北部を襲ったサイクロン「アルフレッド」の影響により、QLD州の主な食肉処理施設の稼働が一時的に停止し、牛の供給過多となったことから、瞬間的に価格下落の圧力が高まったとしている。
今後の見通しについては、QLD州を中心に大規模な降雨が予測されていることから、牧草肥育農家が出荷を控え、牛の供給は一時的に落ち着くとみられている。また、米国の関税措置の影響については、未だに不透明な部分はあるものの、複数の農業アナリストの予測では、米国向け牛肉の需要は底堅いことから、家畜市場価格に大きな影響を与えることは考えにくいとしている。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年3月末TTS相場。
成牛と畜頭数は上昇傾向、25年の牛肉生産量は過去最高を更新と予測
週間と畜頭数は、サイクロン「アルフレッド」の影響で2025年3月初めは若干落ち込んだものの、同月第3週の成牛と畜頭数は、14万9012頭となった(図2)。これは、サイクロンの影響による食肉処理施設の一時的な稼動停止を経て、と畜頭数が増加したものとみられ、干ばつによる牛群淘汰で特にと畜頭数が多かった19年12月以来の高水準となった。
MLAの見通しによると、25年は安定した牛の供給、世界的な輸出需要の高まりなどを背景に、と畜頭数は過去最高の牛肉生産量を記録した24年を超える854万頭(前年比2.8%増)に達すると予測している。一方で、労働力の制約により国内加工業者が需要を満たせない可能性を警告しており、冷凍貯蔵や物流の効率化に向けた投資が必要としている。
25年2月の牛肉輸出、米国向けが大幅増も関税措置の影響を懸念
豪州農林水産省(DAFF)によると、2025年2月の牛肉輸出量は、11万7502トン(前年同月比25.2%増)と大幅に増加した(表)。
輸出先別に見ると、米国向けは3万5092トン(同64.4%増)と大幅に増加しており、前年から豪州産牛肉への堅調な需要が続いている。4月2日に米国トランプ政権が発表した10%の追加関税の影響(注2)については、先行きの不透明さから新たな輸出取引の成約が停滞しているといった声も聞かれるが、現時点ではその影響は不確実である。MLAはホームページに専用のQ&Aページを開設しており、その中で「豪州産牛肉は米国市場で高い需要があり、追加関税に関わらず今後も主要な市場であり続けるだろう」と回答している。
また、中国向けも2万1373トン(同35.6%増)と大幅に増加しており、前年と比較して牛肉需要に回復の兆しがみられる。昨年末に中国が豪州の食肉処理加工施設に対して行っていた輸入一時停止措置がすべて解除されたことに加え、報道によると、中国の米国に対する報復関税(注3)を背景として、中国から豪州の輸出業者への問い合わせが急増していることから、今後は米国産牛肉の代替として中国向け輸出がさらに増加する可能性があるとしている。
(調査情報部 国際調査グループ)