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海外情報 EU 畜産の情報 2025年6月号

EU加盟国のアニマルウェルフェア関連規制について〜ドイツ、オランダ、デンマークにおける運用〜

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調査情報部

【要約】

  一部のEU加盟国では、アニマルウェルフェア(AW)の運用に関して、EUより厳しい基準を独自に設定している。例を挙げると、ドイツ、オランダ、デンマークなどのAW先進国では、EUで認められている採卵鶏のエンリッチドケージによる飼養について、禁止または禁止措置の導入を予定している。このような加盟国間の基準の差は、EU単一市場内における同一の競争条件の担保を阻害しているという指摘もあり、今後予定されているEUのAW関連規制の見直しが行われる背景の一つになっている。

1 はじめに

 EUでは、家畜など動物の取り扱いの基準を関連規制で定めている。現在適用されているこうしたアニマルウェルフェア(AW)関連規制は、制定または大幅な改正から約20年が経過しているため、欧州委員会は、2026年までに最新の科学的知見を踏まえて、飼養、と畜、表示ラベルに関する基準などの見直しの提案を行うとしている。さらに、25年2月に欧州委員会が公表した40年までのEU農業の方向性を示す「農業と食のビジョン」では、今後輸入品に対してもEUと同等のAW基準を求めていく、という方向性が示されており、AW関連規制の見直しに対する関心が高まっている状況にある。
 他方、EUのAWは、家畜の飼養などに関してEUが規制により定めた基準を各加盟国が国内法に反映する形で運用しているが、EUより厳しい基準を設けている加盟国もあり、その運用は複雑なものとなっている。
 このため本稿では、加盟国におけるAW関連規制の運用実態を把握するため、主要畜産物生産国でありAW先進国でもあるドイツ、オランダ、デンマークの3カ国について、それぞれのAW関連規制およびEU基準との相違点などを中心に報告する。
 なお本稿は、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が2025年度農林水産物・食品輸出支援プラットフォ−ム事業で作成した「EUにおけるアニマルウェルフェア関連法令の内容とデンマーク、フランス、ドイツおよびオランダにおけるその運用について」の一部を抜粋・加筆したものである。

2 EUにおけるAW関連規制の内容

 EUのAW関連規制は、世界有数の先進的なものとされている。2009年のリスボン条約(注1)では、欧州連合機能条約を改正し、動物を感受性のある生命存在として正式に認識することで、EUの農業や域内市場を含むすべての政策において、AWを考慮する義務を課した。
 
(注1)EUの機構制度改革を目的とし、同条約によりEUに単一の法人格が付与された。
 
 この枠組みに基づき、EUは畜産動物の保護に関する最低基準を保証するため、さまざまなAW関連規制を導入してきた。これらは、「指令」と「規則」という形式で制定されている。指令は加盟国によって国内法としての制定が求められるが、規則は各加盟国に直接適用され、別途、国内法での制定は不要となる。本稿で取り上げる家畜の飼養に関する指令およびと畜・殺処分に関する規則は、最低限の調和(Minimum Harmonization)の原則を適用しており、加盟国はEU基準を準拠する必要があるが、より厳しい基準の採用も可能である。ただし、加盟国間で異なる基準を有することを理由に、域内の輸出入を制限することは認められていない。EUの畜産物に関するAW関連規制は表1の通りである。
 


 
 以下に、家畜の飼養に関する指令およびと畜に関する規則の概要を紹介する。なお、各指令や規則の詳細な内容については、『畜産の情報』2025年3月号「EUのアニマルウェルフェア関連規制の現状と見直しの方向性」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_003614.html)をご参照ください。
 

(1)農業目的で飼養される動物の保護に関する指令

 食料・毛・皮などを目的に繁殖・飼養される動物(魚類・爬虫はちゅう類、両生類を含む)を対象とする。人員、点検、照明、飼養記録の管理、畜舎・機器などの飼養環境、移動の自由、飼料・飲水の給与、外科的処置、繁殖方法などの十分または適切な実施・確保と、管轄当局による検査の実施を求めている。畜種ごとの具体的な最低飼養基準は、次の(2)から(5)までの各指令で定められている。
 

(2)採卵鶏の保護に関する最低基準の設定に関する指令

 採卵鶏の保護に関する最低基準の設定に関する指令(以下「採卵鶏指令」という)では、飼養形態を1)従来型バタリーケージ 2)改良型ケージ(エンリッチドケージ)(注2) 3)非ケージ−の三つに分類し、2012年からバタリーケージの使用を禁止している(第5条)。エンリッチドケージ、放し飼いや平飼いなどの非ケージ方式についても飼養密度などの要件が定められている(第4条、第6条)。
 そのほか、身体の一部の切断処置の禁止(ただしデビーク(注3)は条件付きで実施可)などが規定されている(付属書T)。
 
(注2)スペースが広く、止まり木などの施設を設置したケージ。
(注3)羽つつき防止のために行うくちばしの切断処置。
 

(3)肉用鶏の保護に関する最低基準の設定に関する指令

 肉用鶏の保護に関する最低基準の設定に関する指令(以下「肉用鶏指令」という)の主な目的は、鶏舎の過密状態を防ぐことであり、最大飼養密度を1平方メートル当たり33キログラム(肉用鶏生体重量換算)に制限している。ただし、死亡率の低減など所定の要件を満たす場合には、最大同42キログラムまで許可される(第3条)。さらに、この指令では肉用鶏の飼養管理者に対し、研修の受講および証明書の取得、または同等の経験の証明を義務付けている(第4条)。
 

(4)豚の保護に関する最低基準の設定に関する指令

 豚の保護に関する最低基準の設定に関する指令(以下「豚指令」という)は、特に繁殖雌豚および肥育豚の飼養環境の改善に重点を置いており、豚の自然な行動や健康を維持するための環境の確保を目的としている。
 本指令の中で特に重要な内容として、繁殖雌豚の繋留けいりゅうおよび特定の期間(交配後4週間から分娩予定の1週間前まで)の妊娠ストールの禁止がある。この期間、繁殖雌豚は群飼が義務付けられる(第3条)。また、AWに関する従事者の十分な研修受講と能力確保(第6条)、豚のエンリッチメント資材(注4)へのアクセスの確保なども義務付けられている。
 さらに、慣例的な断尾および歯切りも禁止されており、ほかの豚に障害が確認された場合に限り実施できる。去勢は、生後7日以降に外科的に実施する場合、麻酔および鎮痛措置の実施が義務付けられている(付属書T)。
加えて、EU域外から輸入される生体豚には、本指令で定める基準と同程度以上の取り扱いが求められる(第9条)。
 
(注4)豚の探索行動や遊戯行動といった正常な行動を促進するためのわらや木材、遊具など。
 

(5)子牛の保護に関する最低基準の設定に関する指令

 子牛の保護に関する最低基準の設定に関する指令(以下「子牛指令」という)は、子牛(生後6カ月までの牛)に適用され、主な目的は、子牛の適切な取り扱いと子牛の基本的な要求を満たすための環境の確保である。
 この指令では、子牛の繋留は禁止され(付属書T)、8週齢以降はグループでの飼養など(第3条)が義務付けられている。
 また、EU域外から輸入される子牛には、本指令で定める基準と同程度以上の取り扱いが求められる(第8条)。
 

(6)と畜・殺処分時の動物保護に関する規則

 と畜・殺処分時の動物保護に関する規則(以下「と畜規則」という)は、食料、毛、毛皮などの生産のために飼養される動物のと畜に関する基準を定めている。と畜の過程で回避可能な痛みなどを防ぐため、機械、電気およびガスなどによる気絶処置を義務付けている。ただし、宗教的に定められた儀式によりと畜を行う場合には、例外が認められている(第4条)。
 と畜については、と畜場のAWに配慮した1)レイアウトや装置の配置 2)従事者の作業(動物の取り扱い、放血方法など)基準 3)各と畜場に1人のAW担当者の配置−を義務付けている。また、EUに食肉を輸出する第三国の食肉処理施設に対し、本規則と同等の基準の順守を求めている。同等性を評価する際には、国際獣疫事務局(WOAH)の基準が考慮される。

3 ドイツのAW関連規制

(1)AWに関する国家法的枠組みの概要

 ドイツのAW関連規制は、1934年に施行された「AW法」にさかのぼる。同法は何度かの改正を経て、現在も適用されている。2002年にはドイツ連邦共和国基本法(以下「ドイツ基本法」という)に動物保護が国家の目的として明記され、AWがドイツ基本法上の原則となった。
 AW法などに基づき、「農業用動物および動物生産のために飼養されるその他の動物の保護に関する政令、以下「農用動物保護政令」という)」が2001年に施行され、各EU指令の国内法制化が図られた。ドイツ基本法で動物保護が国家の目的として明記されていることから、EU基準に比べてより厳格な規定を設ける傾向にある。
 

(2)採卵鶏指令の国内法制化

  採卵鶏指令は、農用動物保護政令の第12条から第15条により国内法制化されている。EU基準より厳格なものとして、1)エンリッチドケージによる飼養施設の新設が既に禁止されていること 2)2026年以降は、既存のエンリッチドケージでの飼養も認められなくなる(なお、特別な場合には28年まで引き続き飼養が認められる)ことが挙げられる。
 

(3)肉用鶏指令の国内法制化

 肉用鶏指令は、農用動物保護政令の第16条から第20条により国内法制化されている。EU基準に比べて厳格なものとして、以下の例が挙げられる。
・肉用鶏指令では、最大飼養密度を1平方メートル当たり33キログラムに制限しているが、同指令付属書Uの条件を満たした場合には同39キログラムまで、また、同指令付属書Xの条件を満たした場合には同42キログラムまで緩和できる。一方ドイツでは、同指令付属書Uの条件は飼養密度にかかわらず順守すべき事項であり、また、同42キログラムまで緩和する措置の適用は認められていない(第18条、第19条)。
・飼養施設に関する要件として、2009年以降に建設された鶏舎には、床面積の3%に相当する自然光を確保するための開口部の設置が義務付けられ、かつ照明のちらつきが禁止されている(第18条)。
 

(4)豚指令の国内法制化

 豚指令は、農用動物保護政令の第21条から第30条により国内法制化されている。EU基準に比べて厳格な要件としては、1)2029年以降、繁殖エリアにおける繁殖雌豚のストール飼養の禁止 2)36年以降、分娩エリアにおける母豚のクレート飼養は子豚の出産前後5日間までに制限−が挙げられる(第30条)。
 

(5)子牛指令の国内法制化

 子牛指令は、農用動物保護政令の第5条から第11条により国内法制化されている。EU基準に比べて厳格な要件としては、子牛が横臥おうがする場所について、子牛指令では「健康に悪影響を与えないよう」とのみ規定されているが、ドイツでは熱放散の適切な管理も義務付けている(第6条)。また、畜舎内の温度や湿度などについて、子牛指令では定められていない具体的な数値基準を設けている(第6条)。
 

(6)と畜規則の国内法制化

 と畜規則に付随する国内法の規定は、「と畜規則の実施に関する規則」に含まれている。
 ドイツ国内では、EU指令で認められていると畜時の二酸化炭素による気絶処理に関して議論がある。ドイツAW法学会や連邦動物衛生研究所であるフリードリヒ・レフラー研究所は、二酸化炭素による気絶処置が、法的には適合しているものの、無意識状態に至る前に呼吸困難や粘膜の刺激といった苦痛を感じることがあるとして、AW上の問題点を指摘している。

4 オランダのAW規制

(1)AWに関する国家法的枠組みの概要

 オランダはAWに対して関心が高い国の一つである。2002年以降、「動物のための党(Party for the Animals)」という国政政党が存在しており、下院および上院に議席を持ち、欧州議会にも25年2月時点で1議席を有している。また、同国には「動物警察(animal police)」が設置され、専用の電話番号を通じて連絡が可能となっている。
 同国の「動物法(the Animal Act)」は、動物に対する人間の行動に関する規則および、動物または動物由来製品が人間やほかの動物に及ぼすリスクの管理の基本原則を定めている。
 動物法の施行とともに、14年に「動物飼養者に関する政令、以下「動物飼養者政令」という」が施行され、EU指令の国内法制化が図られている。
 

(2)採卵鶏指令の国内法制化

 採卵鶏指令は、動物飼養者政令の第2.66条から第2.76条により国内法制化されている。原則として、採卵鶏はケージではなく非ケージ方式で飼養されるべきとされている(2.68条、2.70条)。ただし、現在、この原則には例外が存在しており、それが「コロニーケージ(colony housing)」である。コロニーケージは、採卵鶏指令で承認されているエンリッチドケージと比較すると、1羽当たり面積、ケージの総面積、敷料で覆われた面積などについてより厳格な基準が適用されている(2.71条)。エンリッチドケージは、2021年1月1日までの移行期間をもって使用が禁止された。
 

(3)肉用鶏指令の国内法制化

 肉用鶏指令は、動物飼養者政令の第2.48条から第2.65条により国内法制化されている。肉用鶏指令では、同指令付属書Xに定められる死亡率などの条件を満たした場合には最大飼養密度を1平方メートル当たり42キログラムまで緩和することができるが、同政令では、肉用鶏指令では規定されていない趾蹠しせき皮膚炎(Footpad dermatitis)(注5)の発生状況も、緩和するための要件に設定されている(2.63条)。
 
(注5)接触性皮膚炎であり、鶏舎の換気不足に起因する敷料の高湿潤度などの飼養環境の悪化が本病の誘因となることから、当該皮膚炎の発生程度がAWの指標の1つとして利用されることがある。
 

(4)豚指令の国内法制化

 豚指令は、動物飼養者政令の第2.11条から第2.27条により国内法制化されている。同政令では、一度形成された群れに対して新たな豚の追加を禁止している(2.13条、豚指令では「できる限り避ける」との記述にとどまっている)。これは、すでに形成された群れの内での闘争の発生や闘争に伴うストレスの発生などを防ぐためである。また、豚1頭当たりの最低面積要件について、豚指令に比べてより厳格化されており、豚を飼養する床が全面すのこ床で構成されることを禁止し、すき間のない部分が全床面積の少なくとも40%を占めることを義務付けている(2.17条、2.18条)。
 

(5)子牛指令の国内法制化

 子牛指令は、動物飼養者政令の第2.29条から第2.46条により国内法制化されている。子牛指令の一部の要素が具体化・厳格化されており、給餌槽へのアクセスは1頭当たり40センチメートル以上とされている(2.38条)ほか、子牛が横臥できるスペースに関して、子牛指令では設定されていない素材や具体的な面積要件が設けられている(2.36条)。
 

(6)と畜規則の国内法制化

 と畜規則で規定されている内容は、前述の動物法および動物飼養者政令に基づき実施されている。
 動物飼養者政令には、と畜規則と同一の規定が含まれているが、重複を避けるため、と畜規則に基づいて規制される動物の殺処分および関連活動には適用されない。すなわち、動物飼養者政令ではと畜規則に比べてより広範な動物にも適用されることとなる。

5 デンマークのAW関連規制

(1)AWに関する国家法的枠組みの概要

 デンマークでは、1857年から動物保護に関する立法が行われてきた。初期の法令は主に動物虐待を無意識に目撃することから人々を守ることを目的としたが、1916年に最初の実際的なAW法が採択されて以来、動物の保護が焦点となっている。
 同国のAW法(The Animal Welfare Act)は、動物保護の基盤を形成し、動物の取り扱いに関して、1)動物への不必要な痛み、苦しみ、ストレス付与の禁止 2)動物の適切な飼養および管理 3)動物の身体的または心理的な虐待は違法−の原則を定めている。
 同国のAWに関する法令は、EUの定める基準に比べてより厳しい基準として国内法に反映されている。
 

(2)採卵鶏指令の国内法制化

 採卵鶏指令は、「産卵鶏、ひな、親鶏などの飼養に関する最低要件における法令第818号」により国内法制化されている。
 採卵鶏指令では、エンリッチドケージの使用は認められているが、デンマークでは、いかなるケージであっても飼養が禁止されている(第3条)。ただし、既存の生産者には2035年まで移行の猶予が与えられている。
 ケージの禁止は、デンマークのAW関連団体のロビー活動によるものと言える。この法令が採択される前には、5万人以上がケージ卵の販売停止を求める請願に署名していた。法令は23年に発効したが、AW団体からは、現存する生産者への12年間の移行猶予期間が長すぎるなどの批判がある。一方、食料・農業・水産省は、この移行期間は必要なものとしている。
 現在、デンマークにはケージ卵の生産者が7者あり、国内で生産される卵の約5分の1を占めている。ほとんどのスーパーマーケットではすでにケージ卵の販売を停止しているが、業務用では一部利用されているとみられる。
 

(3)肉用鶏指令の国内法制化とその主な内容

 肉用鶏指令は、「ブロイラー飼養およびブロイラー生産のための孵化卵生産並びにブロイラー飼養者の訓練における最低要件に関する法令第1747号」により国内法制化されている。
 肉用鶏指令では、認可された繁殖方法に関する要件は含まれていないが、同法令には繁殖方法に関する規定があり、特に「鶏に痛み、けが、苦しみ、ストレス、持続的な害、または重大な不便を引き起こす可能性のある自然または人工の繁殖方法は使用してはならない」としている(第20条)。
 

(4)豚指令の国内法制化とその主な内容

 豚指令は、「豚の飼養における最低要件に関する法令第1742号」により国内法制化がなされている。
 EU最低基準に比べて厳しいものとしては、断尾の要件が挙げられる。豚指令では、断尾は尾がみの防止に必要な場合は許可されており、さらに生後7日以降に行われる場合は、獣医によって麻酔・鎮痛措置下で実施されることが求められる。デンマークでは、断尾を豚の生後2日から4日以内に行う場合、尾がみが発生したことを証明する書面が必要である。生後4日以降に行う場合は、獣医学的な理由がある場合にのみ認められ、獣医によって麻酔・鎮痛措置下で実施される必要がある(第46条、第47条)。
 ただし、原則断尾は禁止されているが、デンマークでは依然として95%以上の豚が前述の例外規定に基づき断尾されている。そのため、断尾禁止の実施に関して、デンマーク政府は2024年に新たな補助金制度の実施を公表した。この制度では、断尾を行わない豚の生産者が、断尾を行う豚生産者が支払う課徴金を原資として、補助金を受け取ることができる。デンマーク政府はこの制度により、実施から3年の間、断尾が行われない豚の頭数が毎年2倍になると見込んでいる。
 

(5)子牛指令の国内法制化とその主な内容

 子牛指令は、「牛の飼養における最低要件に関する法令第1317号」により国内法制化がなされている。同法令には、農用動物として飼養されるすべての牛に関する最低要件が定められており、子牛に関しても当該法令中に規定されている。規定内容は子牛指令と同程度の水準となっている。
 

(6)と畜規則の国内法制化とその主な内容

 デンマークでは「動物のと畜・殺処分に関する法令第817号」として施行されている。
 と畜規則では、気絶要件は、宗教儀式で定められた特別な方法でと畜される動物には適用されないとされている。これに対して、同法令では、宗教儀式に基づくと畜であっても、事前に気絶措置を施す必要がある(第11条)。さらに、宗教儀式に基づいてと畜できるのは、牛、羊、ヤギ、肉用鶏のみである(第12条、第13条)。デンマークでの気絶措置なしでのと畜禁止は、2014年に発効した。この禁止措置は、宗教団体からの反対にもかかわらず、AW団体による強力なロビー活動により導入された。

6 おわりに―EUのAW規制見直しをめぐる動向−

 ここまで見てきたように、加盟国でAW関連規制の運用が異なっている部分も多い(表2)。このことが、EU単一市場という面において同一の競争条件の担保を阻害しているとの指摘もあり、EUのAW関連規制の見直しが行われる背景の一つになっている。
 



 
 AW関連規制の見直しについては、2025年4月、AWを所管する「保健・アニマルウェルフェア」担当欧州委員のヴァールヘイ氏が、ケージの段階的廃止を検討する旨を言及した。同委員は、25年に検討を行い、26年にその内容を明らかにすると述べている。ケージの廃止に関しては、21年に欧州市民イニシアチブ(ECI:European Citizens’ Initiative(注6))を利用した「End of the Cage Age(ケージ時代の終わり)」として欧州委員会に立法提案され、これを受けて欧州委員会は、「将来的にケージを段階的に廃止する法案を提出する」とした過去の経緯がある。ケージの廃止は現在、本稿で紹介した事例では、ドイツ、オランダ、デンマークなどで採卵鶏について実施(移行期間設定中を含む)されている例や、ドイツでの将来的な繁殖雌豚のストール禁止などの事例がある。しかし、広範囲で実施されれば畜産業への影響は大きいと見込まれるため、具体的にどのような内容で提案されるのか、今後の動向が注視される。
 また、25年2月に欧州委員会が公表した「農業と食のビジョン」では、将来世代への世代交代と農業部門の魅力を高めることを主眼に、輸入産品に対するEUにおける農薬やAWの基準の輸入品への適用の厳格化によってEU農業の競争力強化や公平な競争条件を確保する、という方針が示された。これは、EU基準を第三国からの輸入産品にも課すいわゆる「ミラー条項」として、EU向け農林水産物や食品の輸出に影響を及ぼす可能性がある。差し当たっては、EU基準の適用による影響評価が行われることとなっており、この動向をEUのAW関連規制の見直しと併せて注視したい。
 
(注6)最低7カ国の加盟国から計100万人以上の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる制度。
 
 
(前田 昌宏(JETROブリュッセル))