EUのAW関連規制は、世界有数の先進的なものとされている。2009年のリスボン条約(注1)では、欧州連合機能条約を改正し、動物を感受性のある生命存在として正式に認識することで、EUの農業や域内市場を含むすべての政策において、AWを考慮する義務を課した。
(注1)EUの機構制度改革を目的とし、同条約によりEUに単一の法人格が付与された。
この枠組みに基づき、EUは畜産動物の保護に関する最低基準を保証するため、さまざまなAW関連規制を導入してきた。これらは、「指令」と「規則」という形式で制定されている。指令は加盟国によって国内法としての制定が求められるが、規則は各加盟国に直接適用され、別途、国内法での制定は不要となる。本稿で取り上げる家畜の飼養に関する指令およびと畜・殺処分に関する規則は、最低限の調和(Minimum Harmonization)の原則を適用しており、加盟国はEU基準を準拠する必要があるが、より厳しい基準の採用も可能である。ただし、加盟国間で異なる基準を有することを理由に、域内の輸出入を制限することは認められていない。EUの畜産物に関するAW関連規制は表1の通りである。
(1)農業目的で飼養される動物の保護に関する指令
食料・毛・皮などを目的に繁殖・飼養される動物(魚類・爬虫類、両生類を含む)を対象とする。人員、点検、照明、飼養記録の管理、畜舎・機器などの飼養環境、移動の自由、飼料・飲水の給与、外科的処置、繁殖方法などの十分または適切な実施・確保と、管轄当局による検査の実施を求めている。畜種ごとの具体的な最低飼養基準は、次の(2)から(5)までの各指令で定められている。
(2)採卵鶏の保護に関する最低基準の設定に関する指令
採卵鶏の保護に関する最低基準の設定に関する指令(以下「採卵鶏指令」という)では、飼養形態を1)従来型バタリーケージ 2)改良型ケージ(エンリッチドケージ)(注2) 3)非ケージ−の三つに分類し、2012年からバタリーケージの使用を禁止している(第5条)。エンリッチドケージ、放し飼いや平飼いなどの非ケージ方式についても飼養密度などの要件が定められている(第4条、第6条)。
そのほか、身体の一部の切断処置の禁止(ただしデビーク(注3)は条件付きで実施可)などが規定されている(付属書T)。
(注2)スペースが広く、止まり木などの施設を設置したケージ。
(注3)羽つつき防止のために行うくちばしの切断処置。
(3)肉用鶏の保護に関する最低基準の設定に関する指令
肉用鶏の保護に関する最低基準の設定に関する指令(以下「肉用鶏指令」という)の主な目的は、鶏舎の過密状態を防ぐことであり、最大飼養密度を1平方メートル当たり33キログラム(肉用鶏生体重量換算)に制限している。ただし、死亡率の低減など所定の要件を満たす場合には、最大同42キログラムまで許可される(第3条)。さらに、この指令では肉用鶏の飼養管理者に対し、研修の受講および証明書の取得、または同等の経験の証明を義務付けている(第4条)。
(4)豚の保護に関する最低基準の設定に関する指令
豚の保護に関する最低基準の設定に関する指令(以下「豚指令」という)は、特に繁殖雌豚および肥育豚の飼養環境の改善に重点を置いており、豚の自然な行動や健康を維持するための環境の確保を目的としている。
本指令の中で特に重要な内容として、繁殖雌豚の繋留および特定の期間(交配後4週間から分娩予定の1週間前まで)の妊娠ストールの禁止がある。この期間、繁殖雌豚は群飼が義務付けられる(第3条)。また、AWに関する従事者の十分な研修受講と能力確保(第6条)、豚のエンリッチメント資材(注4)へのアクセスの確保なども義務付けられている。
さらに、慣例的な断尾および歯切りも禁止されており、ほかの豚に障害が確認された場合に限り実施できる。去勢は、生後7日以降に外科的に実施する場合、麻酔および鎮痛措置の実施が義務付けられている(付属書T)。
加えて、EU域外から輸入される生体豚には、本指令で定める基準と同程度以上の取り扱いが求められる(第9条)。
(注4)豚の探索行動や遊戯行動といった正常な行動を促進するためのわらや木材、遊具など。
(5)子牛の保護に関する最低基準の設定に関する指令
子牛の保護に関する最低基準の設定に関する指令(以下「子牛指令」という)は、子牛(生後6カ月までの牛)に適用され、主な目的は、子牛の適切な取り扱いと子牛の基本的な要求を満たすための環境の確保である。
この指令では、子牛の繋留は禁止され(付属書T)、8週齢以降はグループでの飼養など(第3条)が義務付けられている。
また、EU域外から輸入される子牛には、本指令で定める基準と同程度以上の取り扱いが求められる(第8条)。
(6)と畜・殺処分時の動物保護に関する規則
と畜・殺処分時の動物保護に関する規則(以下「と畜規則」という)は、食料、毛、毛皮などの生産のために飼養される動物のと畜に関する基準を定めている。と畜の過程で回避可能な痛みなどを防ぐため、機械、電気およびガスなどによる気絶処置を義務付けている。ただし、宗教的に定められた儀式によりと畜を行う場合には、例外が認められている(第4条)。
と畜については、と畜場のAWに配慮した1)レイアウトや装置の配置 2)従事者の作業(動物の取り扱い、放血方法など)基準 3)各と畜場に1人のAW担当者の配置−を義務付けている。また、EUに食肉を輸出する第三国の食肉処理施設に対し、本規則と同等の基準の順守を求めている。同等性を評価する際には、国際獣疫事務局(WOAH)の基準が考慮される。