(1)北海道の動向
2022年現在、新生子牛を受託して妊娠期(一部は哺育期、育成期)まで飼育し、初産の前に酪農家に戻すという哺育・育成センターは88戸を数え、預託頭数4万1000頭、利用農家数は958戸となっている。農林水産省「2020年農林業センサス」によると、道内の酪農家数は5543戸となっており、哺育・育成センターの利用率は17.3%となっている。酪農家、乳用牛、哺育・育成センターのいずれも道東に集中しており、とりわけ十勝総合振興局管内は、酪農家数では1200戸と道内の酪農家数の21.6%、乳用牛飼養頭数は23万4400頭と乳用牛総飼養頭数(同81万699頭)の28.9%、哺育・育成センター数では24戸と、根室振興局管内の30戸に次いで多く、全道の27.3%を占めている(図1)。それ故、同管内に焦点を当てて見てみよう。
(2)十勝の哺育・育成センターと「十勝哺育育成牛受託協議会」の活動
十勝総合振興局産業振興部農務課の「哺育育成部門の外部化実施状況調査」によると、同管内では、2022年時点で24戸の哺育・育成センターが10市町に存立し、最も古いものは02年からあり、毎年1〜2戸の割合で設立されている。
10年代中期以降、酪農の規模拡大を背景に、哺育・育成過程の分業化が急速に進行した。それは、豊頃町で哺育・育成センターを経営するA氏(注3)が「酪農家は規模拡大に伴う労働力の不足から、哺育時点での疾病が増加し、育成牛の飼養管理がおろそかになっている。これらの対策のために、哺育・育成牛預託組織の必要性が高まり、十勝管内の受託組織全体が情報交換などを通して、技術向上や経営効率化などを図ることが重要である。」と提言したことが契機になった(注4)。
十勝農業改良普及センターは、この要望に呼応して哺育・育成センターの運営支援に乗り出した。関係機関と連携して、哺育・育成を受託する哺育・育成センター7者を正会員に据え(注5)、薬品や農業資材などの取引先を賛助会員(注6)として加えて、15年に「十勝哺育育成牛受託協議会」を設立した。各種研修会や学習会を開催するとともに、農業改良普及員が巡回して会員の経営や技術に関する各種の相談に乗り、地域総ぐるみの活動(注4)を展開している。協議会設立時の正会員は7者であったが、2者が脱会、4者が新たに参加し、現在9者に拡大している。
これら9者(A〜I)の哺育・育成センターのうち、Aセンターは預託する搾乳経営の希望により受託頭数の40%程度の種付けを行い、60%を10〜12カ月齢の育成牛として農家に戻している。また、Bセンターの受託期間は10カ月で、10〜12カ月齢で育成牛を戻し、種付けはすべて農協の施設で行っている。残りの7者(C〜Iセンター)は、原則として生後3〜5日の雌子牛を受け入れ、哺育、育成、受胎確認後、初産の1〜2カ月前まで預かっている。さらに、生乳生産調整時には、生体価格に敏感に反応して和牛生産の要請も強まるため、D、H、Iの3者は常時受精卵移植を行っている。
ここで、経営の大規模化による労働力不足から哺育段階の疾病が増加し、育成牛の飼養管理が劣悪化しているという問題に警鐘を鳴らした豊頃町Aセンターの「安全で健康」な育成牛づくりの取り組みについて見てみよう。
(注4)佐藤勝之「「十勝ほ育育成牛受託協議会」の発足と、飼養技術研さんで安全で安心な育成牛の提供へ」『農家の友』第67巻第6号、2015年6月号、pp.82〜84。
(注5)豊頃町のA、清水町のB、中札内村のC、浦幌町のD、広尾町のEの各センターのほかに現在は協議会から脱会している広尾町の1センターと陸別町の1センターの併せて7センターである。
(注6)佐藤勝之「広域組織への支援事例からみた普及手法 : 「十勝ほ育育成牛受託協議会」発足と運営の支援から」第1分科会「地域づくり:労働力確保に向けた生産システムの確立」(1)『農業普及研究』No.42, p.47。