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畜産 25年11月号 調査・報告 飼料生産

温暖化の影響下における自給飼料の生産について

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雪印種苗株式会社 事業本部 トータルサポート室 佐藤 尚親

【要約】

 2023〜25年の3カ年における夏の平均気温は、平年値に近い14年に比べて、一つ南の地域ブロックの気温が北上していました。北日本の自給飼料生産では大きな影響を受けており、(1)夏枯れを少しでも防ぐ肥培管理、(2)越夏性の高い草種・品種の導入、(3)暖地型飼料作物を導入した生産体系にシフトしていくこと―により変化に対応していく必要があります。
 また、夏の高温の北上は、飼料用トウモロコシにおいては、品種の熟期の晩生化が進み単収の増加が期待される一方で、病虫害や強害雑草・蔓性雑草の北上や拡大も懸念され、情報収集や備えが必要になります。

1 はじめに


 気象庁が公表している「日本の夏(6〜8月)平均気温偏差の経年変化(1898〜2025年)」(注1)によると、2023〜25年の夏の気候は、観測史上最も平均気温の高い夏が3年続きました(図1)。
 
(注1)気象庁ウェブサイト https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html
 


 
 地域のブロックを「北海道根釧・天北地域」、「根釧・天北地域以外の北海道」、「東北北部」、「東北南部および北関東」、「南関東以西」に分けて、この3カ年の夏の平均気温を、図1の長期変化傾向(直線赤)の平年値に近かった2014年の夏と比べると、いずれの地域も、おおむね一つ南の地域ブロックの気温が北上した気候になっていました。
 夏の気候が高温化していく状況下で、「東北北部」におけるチモシーおよびオーチャードグラスの夏枯れの発生、「根釧・天北地域以外の北海道」におけるチモシーの夏枯れの発生のように、寒地型牧草の夏枯れも北上してきました。
 これを踏まえ、夏の気候の高温化に対応する牧草地の対応を以下に記しました。

2 夏の気候の高温化に対する寒地型牧草の対応

 

(1)刈取りや肥培管理に留意し、夏枯れや枯死を少しでも防ぐ

 寒地型牧草は、高温になると呼吸量が増加して貯蔵養分の消費が増え、牧草の再生時に光合成が見込めない期間が長くなると、貯蔵養分が枯渇して枯死に至ります1)
 刈取り高さが低いと、刈取り後の光合成が見込めない期間が長くなり、また、地際や貯蔵器官からの水分蒸散量が増加し、夏枯れが発生しやすくなります。刈取り後の草丈の高さは10センチ以上を確保しましょう。また、例えば岩手県では、高温期を回避したオーチャードグラスの刈取り管理法の優位性が報告されており、参考になります2)
 2025年の北海道十勝地域では、猛暑・干ばつ時期において刈取り後にスラリーやバイオガス消化液を散布した草地で、散布した液体が乾燥する時に「肥料焼け」現象が発生して、草地全面でチモシー枯死が発生し、ノビエが優占しました(写真1)。猛暑や干ばつが懸念される時期には、スラリーやバイオガス消化液の散布を控えましょう。
 


 

(2)越夏性の高い草種や品種の導入による夏枯れの軽減

 夏枯れが発生した牧草地の周囲では、追播ついはや更新などで牧草種子を播種はしゅすることになりますが、その際には耐暑性の高い草種・品種を選定して導入することをお勧めします。都府県では、早くから越夏性に優れている多年生寒地型イネ科牧草品種の検討が進められており、参考になります3)
 多年生寒地型イネ科牧草の越夏性については、トールフェスク(TF)>フェストロリウム(FL)、オーチャードグラス(OG)>ペレニアルライグラス(PR)>チモシー(TY)の順に優れるといわれています。TFは寒地型牧草の中で最も越夏性に優れ、「ウシブエ※」や「テトンU」などの品種が普及しています4)。FLは高栄養・耐湿性に優れ、越夏性が高い品種としては「那系1号※」が普及しています。OGは比較的耐暑性がありますが、品種によって差が大きい面もあります。品種改良が進んでおり、最近では「まきばゆうか※※」や「きよは※※」などで耐暑性が向上しています。PRでは「夏ごしペレ※」など、一部品種は耐暑性に優れますが、全体的には中程度です。TYは高標高地以外では猛暑による夏枯れのリスクが高く、今後の栽培には注意が必要です。しかしながら、FLと混播こんぱすることで、TY単播たんぱに比べてTYの夏枯れ症状が軽減されたという報告もあります(写真2)5)
 



 

(3)暖地型飼料作物を導入した生産体系にシフト

 ここ数年、一つ南の地域ブロックの夏の気温が北上した気候になっていることを前述しました。このような猛暑が今後も長く続くようであれば、気候に合わせて、一つ南の地域ブロックの自給飼料生産体系を導入していく検討が必要と考えます。南の地域ブロックほど、短い生育期間で早く生育する飼料作物を年に複数回作付けする体系にシフトし、土地生産性の向上と気象災害のリスクヘッジをする傾向にあります(図2)。


3 牧草地の夏枯れ対応の実際

 2023年の東北北部では、大規模な夏枯れが発生したため、被害程度を三つの区分に分類して対応をしました6)








 
 
 裸地が増える程度の軽度の夏枯れ(夏枯れタイプA:写真3)であれば、牧草の追播や秋の草地更新で対応できます。しかし、草地が全面的に枯死した場合(夏枯れタイプB:写真4)や、イヌビエやメヒシバ、エノコログサなどのC4植物(注2)の雑草に優占されてしまった場合(夏枯れタイプC:写真5)では、拙速に春や夏に牧草播種をしても再び夏に牧草の幼苗が夏枯れで枯死するか、イヌビエなどの雑草に優占されてしまいます。ライムギやイタリアンライグラスなどを冬作として秋に播種して作付けしたり、翌春に初期生育が早いエン麦やイタリアンライグラス、初夏にソルガム類やミレット類で雑草を抑制した後に、牧草地に戻す対応を勧めています。
 北日本における、被害状況に合わせた牧草地の夏枯れ対応を図3に示します。
 
(注2)CO2濃縮機構という機能を獲得し、高温で強光な環境でも育つ植物


 

4 飼料用トウモロコシにおける環境対応

 夏の気候が高温化する条件下で、従来通りの熟期品種を栽培すると登熟スピードが速くなり、過熟によるでん粉消化率の低下や、病害に罹患りかんしやすくなります。そのため北日本の多くの地域で、収量の確保と病害や過熟を避けるため、従来栽培していた品種の熟期帯よりも相対熟度(RM)で10日程度、晩生の品種にシフトする傾向が認められます。
 登熟の加速は同時に、植物体の老化による病害抵抗性・免疫力の低下を伴い、根腐病による倒伏やフザリウム系病害の罹患によるカビ毒などが懸念されます。また従来、西日本を中心に発生していた南方さび病が東北でも発生するようになりました(写真6)。
 さらに、アワノメイガやツマジロクサヨトウの発生が東北においても数年連続で報告されており(写真7)、あらかじめ農薬やドローンによる散布の準備が必要になってきています。





 

5 難防除雑草対応

 牧草および飼料用トウモロコシのほ場では、ガガイモ、アレチウリなどのつる性雑草やワルナスビ、ハルガヤなどの難防除雑草、温暖化によると考えられるC4植物のノビエ、エノコログサ、チカラシバなどのイネ科雑草やカヤツリグサ科の雑草の侵入が拡大しています。
 除草剤による対応などはそれぞれ提案されていますが7)、単発の化学的防除では決定的な防除には至っていません。収穫時期の検討と除草剤による体系的な防除や、初期生育が早い暖地型飼料作物などによる生育抑制と除草剤による体系的な防除などの工夫が必要と考えられます8)9)。また、カヤツリグサは滞水地に繁茂することが多く、排水性の改善についても検討が必要となってきます。

6 北日本における暖地型飼料作物の栽培

 猛暑による牧草の夏枯れが3カ年連続で発生した東北地域では、特に牧草を主とする自給粗飼料の不足が発生した地域もありました。遠方から高額な牧草ロールパックを大量に購入する経営も見られましたが、運賃の値上がりが著しく、経営を大きく圧迫しています。
 牧草ロールなどの購入を節減するために、急な牧草の枯死の埋め合わせや、面積当たりの収量(単収)を増やすことが有効です。
 具体的な方法の一つとして、暖地型牧草・飼料作物の導入が挙げられます。近年、北海道においても夏の気候の高温化に対応するため、ソルガム類の栽培が増えてきました。2025年では、北はオホーツクの紋別市、東は野付郡別海町まで栽培が確認されています。北海道においては、平均気温が15℃以上になる6月中旬〜7月上旬以降に播種を遅らせて、雑草防除対策を十分に行い9)、乳牛の粗飼料として十分な栄養価と、調製しやすい乾物率にまで水分を下げることができる早生品種「雪印ハイブリッドソルゴー(品種FS1261)」を主に普及させることで、安定した高収量・高栄養の自給飼料生産が可能になってきました(写真8、表)10)
 



 
 牧草をロールパックで収穫する作業体系の方でも、播種後50日程度で収穫できるスーダングラス・スーダン型ソルガムを、夏枯れが発生する7〜8月に栽培することで夏期間の牧草乾物収量を確保することができます(写真9、10)9)
 




 
 北日本におけるソルガム類の栽培では、2連作目から連作障害が確認されています。また、「いや地現象」や窒素施用量に伴う硝酸態含量など、明確なコントロール方法が確立されていませんので、最初の導入は小規模な試作から始めるのが良いでしょう。
 連作障害や「いや地現象」の懸念でソルゴーが使えない場合は、代わりにパールミレット「ネマレット(品種ADR300)」を導入することで、比較的栽培条件が悪い環境でも、牧草乾物収量を確保することができます9)11)。「ネマレット(品種ADR300)」もロールパックでの収穫調製が可能で、北海道および東北地方北部においても、夏期間において極めて早く生育しました。ノビエなどが優占した夏枯れ草地の対応にとどまらず、急きょ牧草が不足し、年内に何とかしたいときに、1番草収穫直後の経年草地に「ネマレット(品種ADR300)」を作溝追播することで、1番草収量以上の2番草収量を期待できます(写真11)。


 

7 おわりに

 夏の気候の高温化に対応する方法として、既存草種を維持するための肥培管理への留意から、草種・品種の選定の変化に取り組む必要性について述べました。それでも、夏の気象環境の変化が厳しい場合は、北日本においても暖地型牧草・飼料作物の導入や、以前から関東以西で行われてきた二毛作・二期作などの生産体系の検討が必要になると考えています。
 雪印種苗株式会社では、北海道を除く寒地(東北)・高冷地〜西南暖地向きの「地域別作付け体系例」について、「雪印種苗の牧草・飼料作物 総合カタログ 都府県版(https://my.ebook5.net/snowseed/bokuso-catalog-tofuken/)」に記載があります。
 ぜひ、参考にしていただけますと幸いです。
 
【参考文献】
1)西村 格、「牧草の再生に及ぼす温度と光の影響について」北海道草地研究会報第2号:P35-43(1968)
2)岩手県農業研究センター、「高温期を回避したオーチャードグラスの刈取管理法」令和4年度試験研究成果書(2023)
3)内山 和宏、「多年生・寒地型イネ科牧草品種の特性とその選定、栽培利用について(都府県編)」畜産技術(2019)
4)谷津 英樹、「寒地型牧草の草種選定および栽培のポイント(東北地方および都府県高冷地向け)」牧草と園芸第73巻第2号(2025)
5)横山 寛、「北海道向けフェストロリウム新品種ノースフェストの特性紹介」牧草と園芸第72巻第2号(2024)
6)佐藤 尚親、「北日本の猛暑環境下における牧草飼料作物の障害と対応」牧草と園芸第72巻第2号(2024)
7)農研機構畜産研究部門、「みどりの食料システム戦略「持続的な畜産物生産」を目指した国産飼料資源の生産利用の拡大―飼料用トウモロコシの安定生産に向けた雑草対策―」令和6年度自給飼料研究会資料(2024)
8)(一社)日本草地畜産種子協会、「スーダングラスを栽培して強害雑草ワルナスビを防除する」(2016)
https://souchi.lin.gr.jp/skill/pdf/weed-control_warunasubi.pdf
9)佐藤 尚親・澁谷 周・栗林 潤、「北海道および東北地方北部における暖地型飼料作物の導入事例」牧草と園芸第73巻第2号(2025)
10)菅野 あゆみ・丸林 陽介、「北海道における飼料用ソルガム(ソルゴー型ソルガム)の栽培について」牧草と園芸第73巻第2号(2025)
11)雪印種苗株式会社、「パールミレット「ネマレット 品種名ADR300」北海道販売について」雪たねニュースNo.416号(2024)
 
※ 海外持出禁止(農林水産大臣公示有)
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