鶏肉に関して通常のアンケートを行った1000人とスーパーマーケットに行った状況を想像してもらった上でアンケートを行った1000人で比較したところ、ほとんどの項目で2群に差が認められなかったが、回答者の偏りとして、居住地では山形県、神奈川県、島根県、職業において学生の割合、家族において大人一人家庭における子供の数、において回答者の割合にP<0.05で違いが認められた。また、本調査の意識の違いに関しては料理の部位を選択する人の割合に違いは認められたが、ほとんどの項目に有意な差がなく、有意差のあったものを5件法(注1)で数量化して平均値で検定を行ったところ、すべての項目において有意な差はなかった。スーパーマーケットの写真などなく文字のみのアンケートに回答した場合でも、写真を見た上で回答した場合でも、有意な違いがなかった。
(注1)アンケートでよく使われる方法で、1〜5の順序尺度(ordinal scale)で回答を得る方法。英語では Likert scale(リッカート尺度)と呼ぶ。例えばこの商品に満足していますか?という質問に対し、以下のような選択肢から答える方法。
1.全くそう思わない 2.あまりそう思わない 3.どちらともいえない 4.ややそう思う 5.とてもそう思う
鶏卵においても基本項目として、居住地では福井県、三重県において、また、写真ありの群では月に1〜3回卵を購入すると回答した人が、写真なしで回答した群よりも有意に多く、年収に関しても200万円未満の人が有意に多かった。ほかの項目に関しては2群に有意差はなかった。有意差のあった項目(肉を選ぶときの選択肢である肉の部位、価格、肉の色、料理の用途)を5件法で数量化して平均値で検定を行ったところ、すべての項目において有意な差はなかった。スーパーマーケットの写真などなく文字のみのアンケートに回答した場合でも、写真を見た上で回答した場合でも、鶏肉のアンケート同様に、回答に有意な差がなかった。
結果として、普通にアンケートに回答した場合でも、写真を見た上で回答した場合でも、回答された情報に統計的な差がないことが分かった。AWや鶏肉・鶏卵に関する消費行動に関しては、写真の有無により考えが大きく変わることはなく、写真ありと写真なしの両群の回答を一緒に考えても問題はないと言える。よって、本研究の統計処理は鶏肉の消費者2000人、卵の消費者2000人の結果として算出した。
<鶏肉に関するアンケート>
アンケートに回答した2000人の内訳は、男性1144人(57.2%)、女性845人(42.3%)、答えたくない11人(0.6%)であった。年代としては、50代と60代の回答者が多かった(図1)。職業は、正社員の会社員が748人(37.4%)と最も多かった(図2)。また、家族年収は200万円から400万円が500人(25%)と多く、1000万円以上の家庭は13.6%であった(図3)。
アンケート回答者の居住地はすべて都道府県で聞いているが、地域ごとにまとめると関東地方が最も多く、都道府県別では東京都が303人(15.2%)で最も多く、次いで大阪府の179人(9.0%)、神奈川県の176人(8.8%)、他100人以上の回答数が得られたのは埼玉県、千葉県、愛知県、兵庫県であった。一方、少数回答は5人(0.3%)の沖縄県と9人(0.5%)の福井県であった。回答者は、アンケートに回答する条件として1カ月に1回以上は鶏肉を購入していることとしたが、回答者の購入頻度は37.9%の人が週に1回程度鶏肉を購入しており、32.7%の人が月に2〜3回購入していた。
鶏肉を購入する際にどのようなことを重視するのか、価格、消費期限、産地などの項目について、「とても重視する」から「全く重視しない」までの五つの選択肢からそれぞれ一つずつ選んでもらった。価格、消費期限、産地、肉の色や見栄え、部位、料理の用途は選ぶ際に重要視する傾向があるが、鶏の飼育方法や生産農家の名前、さらに銘柄(ブランド)に関してはあまり気にしていないことがわかった(図4)。
鶏肉を購入する際の価値の置き方を聞いた上で、AWに関する知識を確認したところ、「聞いたことがない」、「全く知らない」と回答した人が2000人中1400人以上おり(70%以上)、残念ながら消費者には「アニマルウェルフェア」の言葉が浸透していないことが確認された(図5)。男女差をカイ二乗検定(注2)で統計処理をすると、男性の方が認知度が有意に高かった(p<0.001)が、男女ともにAWに関して「全く見聞きしたことはない」人が圧倒的に多かった。
(注2)カイ二乗検定は「観測されたデータ」と「期待されるデータ(理論上の分布)」の間に差があるかどうかを調べる統計的検定。
アンケート上に、AWとは何かを記載し、その考え方は大切かを聞いたところ、474人(23.7%)が「とても大切だと思う」と回答し、811人(40.6%)が「まあまあ大切なことだと思う」と回答している。587人(29.4%)が「どちらともいえない」、残りが「大切とは思わない」と回答した。
アンケート上でAWについて記載した上で、ブロイラーと地鶏の飼育の違いを記載し、改めて図4に示した内容と全く同じ質問をしたところ、回答に変化が見られた。価格や消費期限、産地などは同様に重要視されるが、鶏の飼育法に関しては重要視したいとした人がわずかに増えている。AWとそれを取り入れるために努力をしている生産者に関しては、情報を伝えることで意識が変化することが分かった(図6)。
価格について、「とても重視する」を1、「どちらともいえない」を3、「まったく重視しない」を5として購入時の意識を聞くと、価格を重要視する人の平均値は1.79±0.797であったが、動物福祉についての記載を読んだ後の同平均値は1.91±0.803になった。一元配置分散分析(注3)により、価格に対する意識は有意に変化した(p<0.001)。
また、飼育方法に関しては、重要度の平均値は3.14±0.968であったが、AWについての記載を読んだ後の同平均値は2.66±0.961となり、一元配置分散分析により、飼育方法に関してより重要性を見出す回答者が有意に増加した(p<0.001)。
(注3)一元配置分散分析とは、3群以上の平均の差を検定するための統計的方法。
もし、AWを考慮した飼育をすることで鶏肉の値段が上がった場合に購入できるかを問うたところ、価格が上がると買い控えする人は2000人中687人(34.4%)いるが、価格の変動の理由が分かれば、生産者を応援したい消費者もいることが今回明らかになった(図7)。
また、スーパーマーケットで鶏肉を購入する際にパッケージに鶏の飼育方法が記載されていた場合、購入の参考にするか問うたところ、「ややそう思う」、「とてもそう思う」と回答した人が942人(47.1%)であった(図8)。年収による考えの違いをグラフに著したが、AWの知識を得た前後の行動に大きな違いはなかった(図9)。
<卵に関するアンケート>
アンケートに回答した2000人の内訳は、男性1190人(59.5%)、女性807人(40.4%)、答えたくない3人(0.2%)であった。年代としては、50代と60代の回答者が多かった(図10)。職業は、正社員の会社員が725人(36.3%)と最も多かった(図11)。また、家族年収は、200万円から400万円が488人(24.4%)と多く、1000万円以上の家庭は13.0%であった(図12)。
アンケート回答者の居住地はすべて都道府県で聞いているが、地域ごとにまとめると関東地方が最も多く、都道府県別では東京都が311人(15.6%)で最も多く、次いで神奈川県の179人(9.0%)、大阪府の174人(8.7%)、100人以上の回答数が得られたのは埼玉県、千葉県、愛知県、兵庫県、北海道であった。少数回答は4人(0.2%)の島根県、5人(0.3%)の鳥取県と高知県、6人(0.3%)の沖縄県であった。回答者は、アンケートに回答する条件として月に1回以上は卵を購入していることとしたが、回答者の購入頻度は46.9%の人が週に1回程度卵を購入しており、30.7%の人が月に2〜3回、1.75%の人がほぼ毎日購入していた。
卵の販売価格(令和6年7月平均)については、「とても高いと思う」が416人(20.8%)、「やや高いと思う」が823人(41.2%)と両者で6割以上を占めた(図13)。
卵を購入する際に重要視する項目については、価格と消費期限が重要視される傾向が見られるが、鶏肉同様に、鶏の飼育方法や生産農家の名前、銘柄(ブランド)などに関してはあまり重要視されていなかった(図14)。
卵に関しての回答者にも、鶏肉のアンケート同様にAWに関する認知度を問うたところ、1077人(53.9%)が「全く見聞きしはことはない(本アンケートで初めて見聞きした)」と回答し、AWという言葉を「見聞きしたことはないと思う」と回答した人が277人(13.9%)いた。両者を合計すると、7割近くに及んだ(図15)。しかし、AWに関してアンケート上で説明することで、AWは「とても大切だと思う」が531人(26.6%)、「まあまあ大切なことだと思う」が826人(41.3%)と両者で7割近くを占め、「あまり大切なことだと思わない・全く大切なことだと思わない」と回答した90人(4.5%)を大きく超えた。この傾向は、鶏肉のアンケートと同様である。
AWの説明を行った上で、図14で示した内容と同じ質問をしたところ、図16のような結果となった。説明前の回答と同様に卵の価格は重要であるが、鶏の飼い方に関する興味が少し増加しているのが見える(図16)。
価格について、「とても重視する」を1、「どちらともいえない」を3、「まったく重視しない」を5として購入の時の意識を聞くと、価格を重要視する人の平均値は1.68±0.768だったが、AWについての記載を読んだ後の同平均値は1.85±0.801になった。一元配置分散分析により、価格に対する意識は有意に変化した(p<0.001)。
また、飼育方法に関しては、重要度の平均は「どちらともいえない」が多く、その値は3.28±1.029であったが、AWについての記載を読んだ後の飼育方法に関する価値の平均は、「やや重視する」、「とても重視する」を選ぶ人が多く2.67±1.034となり、一元配置分散分析により、飼育方法に関してより重要性を見出す回答者が有意に増加した(p<0.001)。
AWに興味があっても、卵の値段が上がってしまう場合に購入するかの質問に対しては、2000人の回答者数のうち764人(38.2%)がその時の平均的な価格(令和6年7月当時はLサイズ10個当たり税込260円)以上の値段になったら購入しないと回答しているが、300円なら購入したいと回答した人が446人(22.3%)おり、265円から300円までなら購入するとした回答者の計は1033人(51.7%)に及んだ。400円以上になってもよいと回答した人も、58人(2.9%)存在した。この結果から、6割程度の人は、生産者の努力に対して対価を支払うことは「可能」としている(図17)。
今後、卵を購入する際に、鶏の飼育方法の記載があれば参考にしたいと考える人は、2000人のうち927人(46.4%)であった。668人(33.4%)は「どちらともいえない」を選んでいる(図18)。飼育方法を記載して販売することで、AWや飼育方法に関する知識があれば、それを選択する消費者は増える可能性がある。
また、「平飼いたまご」はさまざまなスーパーマーケットでも見られるようになり、あえて購入している消費者も増えているので、アンケートで回答してもらった。実際には、「まったく見聞きしたことはない(本アンケートで初めて見聞きした)」および「見聞きしたことはないと思う」と回答した人が1093人(54.7%)という結果となり、AWという言葉や考え方とともに、平飼いなどの生産者の取り組みが消費者にあまり伝わっていないことが示唆された(図19)。
最後に年収によってその考えの違いをグラフに著したが、AWへの知識を得た前後の行動に大きな違いはない(図20)。