(1)生乳輸送における課題について
生乳需給における「地域のギャップ」と「季節のギャップ」の拡大は徐々に広がっており、酪農乳業界にとって大きな課題となっています。そのギャップを埋めるために、関係者がさまざまな対応を行っています。
なお、ひっ迫時にも緩和時にも、「ギャップ」を補完するために必要なのは、生乳を輸送する能力の確保です。ひっ迫時はもちろんのこと、緩和時には、全国各地の乳製品加工工場に輸送するために輸送能力の確保が必須となります。各指定団体を中心に輸送能力の強化を図っていますが、物理的な限度があることや自然災害などにより計画通り乳業工場に搬入できず、需給調整上の支障が実際に発生することがあります。また、ドライバーの安定的な確保が困難となっていることも、大きな課題となっています。「働き方改革関連法」により、ドライバーの時間外労働などの上限規制が適用される「物流の2024年問題」に加え、団塊世代が75歳以上となり社会全体の高齢化が加速する中で、深刻なドライバー不足が懸念される「25年問題」など、物流需給のひっ迫が社会課題となっています。
(2)新たに開始した「需給変動対策」
需給の変動は、酪農乳業の持続的な発展に大きな影響を及ぼします。この影響を最小限に抑え、安定的な産業の発展を下支えするため、Jミルクでは2025年度に「酪農乳業需給変動対策特別事業」を設立しました。国内の生産者・乳業者からの財源拠出により基金を造成し、国の指導などを受けつつ、乳製品の過剰在庫などへの対応を図り、酪農乳業の経営の安定を目指しています。
(3)統計調査で見る生産コストの現状
長引く燃油・資材の高騰や円相場の下落などの外的要因を背景に、生乳生産に係るコストは高止まりが続いています。
生乳生産費
(注4)を見ると、「牧草・放牧・採草費」および「流通飼料費」で構成される飼料費が、生産費全体の約56%と最も大きなウェイトを占めており、飼料価格の変動は酪農経営に大きな影響を与えます。2024年の全算入生産費は、過去最高を記録した23年との比較では3.7%減となりましたが、20年との比較では、流通飼料費が32.8%増、光熱水料および動力費が34.0%増、全算入生産費は17.8%増と高止まりが続いており、一方で副産物価額は36.6%安と低迷が続いています。なお、配合飼料価格が1キログラム(kg)当たり14.6円上昇すると、全国の平均的な規模の生産者で年間352万円もの配合飼料費が
増嵩する計算になります(図7)。
(注4)生乳生産費(全算入生産費)
農林水産省による統計調査。生乳生産費(生産コスト)の実態を明らかにし、加工原料乳生産者補給金算定の資料として利用されるほか、各種政策の実施状況の把握や効果の検証などの資料として利用される。
(4)コスト上昇による取引乳価引き上げと製品価格改定
生乳生産コストの上昇を受け、2022年11月、23年4月、8月、12月、25年6月、8月と生乳取引価格(乳価)が相次いで引き上げられたことに加え、乳業メーカー各社における製品の包材・資材や物流費などの経費高騰が重なったことで、牛乳乳製品の価格が改定されました。製品価格改定などの影響で、消費量は低調に推移しています(図8)。それでも、コストの増嵩分を価格に反映させなければ、生産者、乳業者ともに経営が立ち行かなくなります。消費者の価格改定への理解醸成や需要の維持・拡大は、喫緊の課題となっています。
(5)乳価改定前後の価格帯ごとの牛乳販売個数の変化
2025年8月の飲用牛乳等向け乳価改定以降、1リットル牛乳の小売価格は全国平均で約10円の値上げとなりました。牛乳の販売個数は190円台、210円台の価格帯の製品が大きく減少し、200円台、220円台の販売個数が増加しました。価格帯ごとの構成比は変化したものの、全体で見ると販売個数は前年から減少しています(図9)。
(6)バターと脱脂粉乳の需給アンバランスは継続
図3のミルクツリーで示した通り、さまざまな製品に姿を変えられる生乳(牛乳)ですが、その組成は水分(87.4%)
(注5)と乳固形分(12.6%)
(注5)に分かれます。乳固形分は、さらに乳脂肪分(3.8%)と無脂乳固形分(8.8%)に分かれており、需給の調整弁となるバターと脱脂粉乳は、この乳脂肪分と無脂乳固形分で構成されています。そのため、バターもしくは生クリームを製造すると、必然的に脱脂濃縮乳か脱脂粉乳が製造されることとなります(図10)。なお、仮に生乳100kgから製造されるバターは約3.8kg、脱脂粉乳は8.8kgとなり、バター1に対して脱脂粉乳はその約2倍製造されることとなります。
(注5)出典:日本食品標準成分表 八訂
2023年に新型コロナウイルス感染症の感染法上の分類が5類感染症へ移行されて以降、日常生活がコロナ禍前に戻ったことで、バターや生クリームの需要は堅調に推移しました。一方、脱脂粉乳や脱脂濃縮乳の需要は、低迷が続いています。この需要のアンバランスは、バターと脱脂粉乳の在庫量に反映されています。脱脂粉乳の在庫対策は20〜24年度の5年間で約155千トンに上り、25年度からは「酪農乳業需給変動対策特別事業」として、新たな枠組みの下で対策を実施して在庫を削減していくこととしています(図11)。牛乳や無脂乳固形分(脱脂濃縮乳、脱脂粉乳)の需要の低迷が脱脂粉乳在庫の積み増しにつながっており、この環境を早急に改善させるためにも、国産牛乳乳製品の需要拡大に向けた取り組みを、「牛乳でスマイルプロジェクト」の下で業界一体となって進めてまいります(図12)。