中国では、生乳生産量の9割が飲用乳向けに仕向けられており、チーズ、バターといった高付加価値製品向けには残りの1割程度しか仕向けられていない。そのため、チーズやバターの国内生産量は非常に少ないという特徴を有している。この点を踏まえつつ、(1)では主な乳製品の需給動向などを確認する。
参考として、牛乳生産量の8割(生乳生産量全体の7割)が滅菌乳(常温保存牛乳)であり、低温殺菌乳
(注7)は2割(同2割)程度にとどまっている(写真1)。
(注7)中国の低温殺菌乳は60〜90度で殺菌されており、日本の低温殺菌乳(63〜65度殺菌)とは定義が異なる。本稿における「低温殺菌乳」は中国の定義に基づいて使用する。
また、飲用乳(常温保存牛乳)の輸入量は、中国国内の生乳生産量増加を受けて2021年以降は減少しているものの、直近の25年でもおよそ40万トンが輸入されている(図8、写真2)。業界団体である中国乳業協会によると、中国産の牛乳・乳製品は一般的に国民から「低級品」と認識される一方、輸入品は「高級品」と見なされており、このブランドイメージによって一定の需要が維持されているとしている。
ここ最近の輸入品の特徴として、乳糖不耐症の消費者が多いとされる中国において、A2βたんぱく質牛乳
(注8)の取り扱いが拡大している点が挙げられる。
(注8)牛乳中のたんぱく質の一種であるβ−カゼインの遺伝的変異により、消化にやさしいとされる。
(1)主要乳製品の需給動向
ア 全粉乳
全粉乳は、還元乳や乳飲料、製菓・製パンや加工向けなど、さまざまな用途で幅広く利用されており、消費量は近年、160万トン前後で推移している(図9)。また、全粉乳は余乳発生時の需給調整機能も担っており、2021年以降の生乳生産量増加による生乳価格の下落を受け、中国政府は補助金を措置して生乳を全粉乳に加工することで需給調整を図った。この結果、国内での全粉乳生産量が増加し、輸入量は減少している。さらに、第4章でも触れるが、25年9月に施行された国家基準「全国食品安全基準のうち牛乳(滅菌乳)」の改正により、「滅菌乳(常温保存牛乳)の生産には生乳のみを原料として使用することを許可し、還元乳の使用を禁止」とされた。これにより、実質的に全粉乳の使用は困難となり、今後の輸入量はより減少に向かう可能性が高い。
主な輸入先はニュージーランド(NZ)
(注9)であり、25年は輸入量全体の約9割を占めた(図10)。
(注9)2024年1月1日以降、NZからの全品目の乳製品の関税が撤廃されている。詳細については海外情報「中国向け乳製品、全品目の関税が撤廃(NZ)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003696.html)をご参照ください。
イ 脱脂粉乳
脱脂粉乳は、はっ酵乳や乳飲料、製菓・製パン向け、育児用調製粉乳原料など、さまざまな用途で利用されている。しかし、国内ではバターや生クリームの生産量が少なく、原料となる脱脂乳の供給が限られることで、国内需要を満たす生産には至らず、大部分を輸入に依存している(図11、写真3)。COVID−19拡大期の2021年には消費量が45万トンまで増加したが、その後は減少し、現在は25万トン程度で推移している。
主な輸入先はNZであり、25年は輸入量全体の7割を占め、これに次ぐ豪州(1割強)、フィンランド(1割弱)と合わせた3カ国で、およそ9割を占めた(図12)。
また、数量は少ないながらもヨーグルト自体の輸入も行われている。19年には主にドイツから3万トン超を輸入していたが、近年は国内生産量の増加などにより、最盛期の半分程度に落ち込んでいる(図13)。
ウ チーズ
国内で生産されるチーズは、主にピザやハンバーガーなど外食向けを中心としたプロセスチーズであり、この原料用としての輸入が多い。近年は外食向けに加え、製菓・製パンや飲料向けの需要も増加しており、消費量は40万トンに達している。このうち半分弱を輸入で賄っている(図14、写真4)。また、他店舗との差別化、食の多様化などからナチュラルチーズの消費も増える中で、国産ナチュラルチーズの生産も徐々に増加しつつある。
主な輸入先はNZであり、2025年は輸入量全体の6割強を占めた。これに次ぐ豪州と合わせた2カ国で、およそ8割を占めた(図15)。
種類別輸入量を見ると、ナチュラルチーズが約半数を占め、次いでおろしチーズおよび粉チーズ、プロセスチーズの順となっている(図16、写真5)。
エ バター
バターは、製菓・製パン、外食などを中心に需要が拡大しており、ここ数年の消費量は25万トン弱で推移している。しかし、国内生産のみでは需要を賄うことが難しく、輸入量は増加傾向にあり、年間15万トン程度まで拡大している(図17)。
主な輸入先はNZであり、2025年は輸入量全体の8割強を占めた(図18、写真6)。
このほか、バターと同様に生クリームも製菓・製パン向けを中心に需要が高まっている。バターに比べて加工度が低いため国内生産が増加しており、近年の輸入量は25万トン前後で推移している(図19、写真7)。
オ ホエイ
ホエイは大部分が養豚飼料向けであり、一部が育児用調製粉乳など食品向けに使用されている。2018年に中国でアフリカ豚熱(ASF)が発生し豚飼養頭数が大幅に減少したため、19年には消費量が大幅に落ち込んだ。しかし、その後、豚飼養頭数の急激な回復、また、食用需要として、近年の世界的なたんぱく質需要を背景に中国国内での食品原料利用も高まっている。この結果、ここ数年の消費量は70万トンを超えて推移している。ただし国内生産量が少ないため、需給の大部分を輸入に依存している(図20、写真8)。
主な輸入先は米国であり、25年は4割強を占めた。次いで、ベラルーシ、ポーランド、オランダ、フランスがそれぞれ1割弱で、これら5カ国で全体の7割強を占めていた(図21)。
また、育児用調製粉乳自体の輸入量も多く、19年には欧州およびNZから35万トンを輸入しているが、近年は中国国内での生産量増加などにより、20万トン程度で推移している(図22)。
(2)乳製品需給の特徴と今後の見通し
(1)で述べたように、中国では全粉乳が余乳発生時の需給調整機能も担っている。これは、もともと生乳生産量が限られ、牛乳・乳製品の消費も極めて少なかった中で、比較的消費者になじみがあった飲用乳を主体に供給を進めてきた経緯があり、還元乳原料として全粉乳の利用価値が高かったことに由来する。伊利や蒙牛乳業といった大手乳業会社では、現在でも飲用乳を中心とした製品供給が行われている。
この結果、飲用乳向け主体の生乳供給体制が構築され、チーズやバターなどの乳製品生産は限定的であった。しかし、食の多様化の進展に伴いこれらの需要が高まったことで、輸入量は大幅に増加している(写真9)。
では、国内の生産体制はどのように進んでいるのか。現地乳業関係者によると、国内のチーズやバターの生産は増加基調とされている。これは主に、地方政府が主体となり、経営基盤の
脆弱な地元中小乳業会社を支援するため、大手と比較して価格競争力を持ちにくい飲用乳の製造から、チーズやバター製造への転換を指導する事例が増えているためである。これら製品は主に業務用として販売されており、近年は品質も向上している。特にバターについては、輸入品と比べても見劣りしない品質水準に達するものもあるとされる。
このような動きは需給調整機能の強化に寄与するが、短期的な乳価の押し上げにつながるかは不透明である。これは、国内原料乳の約5割が、伊利と蒙牛乳業の2大乳業会社による買い付けであり、両社が原料乳の価格決定権を握っていることによる。また、現在、飲用乳の販売低迷から両社の業績は落ち込んでいるとされ、乳価は引き続き低水準を維持するとみられている。このため、現在の安価な乳価水準が維持されれば、バターについては輸入品に対して一定の競争力を有することになる。
一方、チーズは一定量を製造・販売するための設備や技術などの水準が高いことから、国内よりも輸入に依存する傾向が依然として強い。しかし、国内需要の増加と安価な乳価水準を踏まえれば、今後の国産チーズ生産の拡大余地は大きい。
また、製菓・製パンを中心にチーズやバターの需要が高まる中で、これらの製造時に発生する脱脂粉乳やホエイは、いずれも輸入依存度が高いものであり、これらを加工する施設への設備投資も並行して進めば、輸入量は減少に転じ、余剰感のある生乳需給の改善にも寄与する可能性がある。
次章では、現地調査などを通じて把握した中国政府および業界の方針、ならびに乳業会社の意向について紹介する。